K1300GT K1200GT(新型) K1300S
K1200S K1300R K1200R
K1200GT(初代) K1200RS(後期型) K1200RS(前期型)
K1200LT(前期型) K1600GTL
F800S/ST F800R
F650GS(新型) F650GS/ダカール(旧型) F650CS Scarver
S1000RR

K1600GTL
事実上の前モデルであるK1200LTと比べると、フロントスウルがやや小振りになったため威圧的なボリューム感は
LTより薄れているだが、実際の寸法はさほど変化がないし脱着可能になった専用パニアを装着した状態では
(パニアの金型を新規で起こしているが、これを使うのは本当にGTLとGTの2車だけだろうか?)リヤ回りのボリュームは
LTを上回る巨体である(但し、リヤの幅はR1200RTやK1300GTとそう違わない)。
アンダーカウルはLTのようなフルカバードではなくR1200RTのようにエンジンをある程度見せることを前提とした
デザインになっているため、高級感が減ったという意見もあるし私も事実その通りだと思うが、
それよりもK1300GTの後継と位置づけられるK1600GTとカウルを共用化する必然性もあってのことだとはいえ
この車格にして視覚的な重ったるい印象が余り感じられないという長所の方を個人的にはプッシュしておきたい。
細部に目をやると、細かい部分の質感アップに多少なりとも配慮した様子が伺える。メーターパネル周辺は
多少なりとも視界に入るビスを減らすよう考えられているし、プラチナメタリックマットなる偉そうな名前の色で
(判りやすく言えば、マグネシウムっぽい黄色がかった耐熱シルバーだ)塗られたエンジンは
基本設計をK1300の4気筒と同じくするだけあって外から見えるボルトの数もかなり多いのだが、
配色がいいためボルトはK1300系ほど安っぽさを主張しない。
フレームの立体モールドのような凹凸はアルミではなく断熱と傷つき防止用のプラスチック製カバーなのだが、
こういうデザインは機能上の要求とデザインをうまく溶け込ませたものとして高く評価したい。
ハンドル周辺の太いハーネスをタイラップで留めてハンドルに這わせてあるのは何とかならんかったのかと思うが
運転中に視界に入らないよう配慮はされているしハンドル自体もなかなか凝った構造をしている。
また鍛造のブレーキレバーやピロボールを採用したシフトのリンクロッドにK1200LTから流用したと思われる
大型のペダルなども相応のコストがかかった作りになっており、HPシリーズを除けば久しぶりに
「ほう・・・高額車だけに外観も結構頑張ったなBMW」と感想が漏れた。
ブレーキ/クラッチのフルードのリザーバータンクは一見R1200GSなどと共通パーツのようだがフローティングマウントされていた
Rシリーズとは異なりハンドルユニットにしっかりと剛体結合されている。振動対策が不要との判断だろうが、
この辺りはエンジンの性質の違いを明確に感じる部分だ。
ただし、LTは左右に張り出した翼のような突起物が転倒しても車体へのダメージを最小限に抑える設計だったが
このGTLでは残念ながらそうした配慮は忘れ去られてしまったようで、ブレーキペダルが曲がると刺さりそうな位置にある
ウォーターポンプやどう考えても立ちゴケでは破損必至のフォグライト(オプションのように見えるが標準装備品)、
見た目には立派で容量も充分にありそうだが転倒ですかなりダメージを受けそうな形状のマフラーなど、
転倒による被害のリスクはLTより増えたと言わざるを得ない。
足つきが良くなって重量が30キロほどダイエットに成功したとはいえ、本格的にバランスを崩したらどうせ支えられないのだし、
多分モデルライフ終了まで付きまとう問題になるだろうから
転倒対策は開発の段階でもう少し設計を詰めておくべきだったと思う。
また、K1300GTより幅広だがR1200RTよりは狭いという微妙な幅のカウリングのレイアウトの兼ね合いか、
LTやRTにあったタンク上部の小物入れはアンダーカウルの左右、ちょうど6の字のエンブレムが輝くミッションの高さに移動している。
乗車中の操作は大いにやりにくくなったと評さざるを得ないが、ハンドル右のスイッチと標準で付いてくるかなり格好いいキーホルダーの
ワイヤレスリモコン(リモコンはキー本体につくタイプではない)でパニア/トップケースもろとも集中ロックができるようになったのは
大いなる福音だ。なお右側の小物入れはウレタンで覆われた中からオーディオのコネクタが生えており(標準でミニプラグとUSB、
12000円のアダプターを追加すればiPodにも対応)実質的にオーディオの収納スペースとなっている。ただし、場所的にどう考えても
エンジンの熱を受けそうだし、冷却ファンが回ると熱風をもろに受けるため、あくまで推測だが夏場などに中に入れたUSBなどが大丈夫なのか、
個人的には少々不安ではある。

シートは見た目の印象に反して決してフカフカではなく意外とコシの強さがあるもので(張りの強い表皮が多分その印象に
一役買っている)その奥の方でもう一段と強い反発感があるからクッション材を二重構造にしてあるものだ。
RTやK1200/1300GTも同様の形状だが、それらに比べるとウレタンは幾分柔かめに設えられている。
(たぶん座面が広く、面圧を分散できるため)座り心地はなかなか良好でクッション性も確保されているが、シート高を下げた代償か
シート全体がやや上下に薄く、クッション性はあってもストローク自体は大したことがない。この点だけは今一歩と感じた。
なお多分GTと共通品と思われる高さ調整式の前後分割セパレートシートもオプションで購入可能だが、
(ローシートとハイシートがあり、シート高はそれぞれ78/80cmと81/83cm)
カタログの文章には「走行時や停車時、駐車のための操車時の、快適性と安全性が向上します」と書いてある。
これだけ見ていると、標準のシートには足つき以外にいいところが何もないように思えるのだが?
(おそらく、シートだけGTのものにしてもハンドルとステップがGTと違うのでポジションのバランスが崩れると思う)

またがってみると、足つきはシートも車体も相応の幅があるため75cmという数値の割には・・・と思ったのも事実だが
絶対的にはかなり良く、身長177cmの私の場合両足がべったりついて膝の曲がりにも余裕がある。
ただし、安心感が高いのは事実だがシート高を下げすぎたきらいがあり膝の曲がりはやや窮屈で、シート・ペダル・ハンドルの位置関係が
些かちぐはぐな感じを受ける。大柄な外国人がこの姿勢(シート高は全世界共通の標準設定)をどう感じるかは微妙な所だと思うのだが、
ゴールドウイングの姿勢を一回りコンパクトにして着座位置を落としたようなポジションはとっつきの良さに関する限りなかなかのものだ。
ただし、シートと着座位置が低く目線も相応に低いのに対して特大サイズのカウルが目の前に屹立し更にメーターバイザーが
そこから上に飛び出して入るため、前方視界は良いとは言いかねる。
標準体型の成人男性ならさほど問題はないだろうが、小柄な方にはかなり辛いのではないだろうか。
その辺り車体設計は基本的にはK1300GTより一回り大きな(着座位置の高い)ヨーロピアンツアラーなのに
そこにアメリカンツアラーっぽいポジションを無理やり落とし込んだような印象を感じてしまう。
なお足つき性の良さにかなり救われてはいるが取り回しは激烈に重く、人力での取り回しはできれば遠慮したいところだ。
バックギアが省略されたのはやはり残念と言わざるを得ない。

さてエンジンをかけると、二輪では世界初の多機能カラー液晶パネル(既に後続が出ているが、発表はBMWが先だ)に
いかにもな”6”という数字をはじめ色々と表示がされ、意外と元気のいい音で900回転と低めのアイドリングが始まった。
音量はK1200RSと同程度、音質はK1300GTとよく似ていて、排気音はともかく横置きKに特有のあの金属同士を擦り合わせているような
ギュンギュンいう癇に障る音も残念ながらほぼそのままだ。
K1200Sの頃に比べたら音量は格段に静かになっているのだが個人的にはあの音がどうにも大嫌いで
乗っていてのリラックス感を邪魔することおびただしい。
排気音は悪くないしエンジンの軽量化に血道を上げた開発チームの努力も大いに買うが、
それにしてもメカニカルノイズの遮音対策だけはもう少し何とかならなかったものか?
振動は皆無ではないが相当に抑えられており、横置きKの振動の尖った部分を一回り消し込んだと考えると判りやすい。
左右2本出しのサイレンサーの排気口は主にデザイン上の理由から6つに分かれているが、実際には片側3つ縦に並んだ穴は上下2つが
塞がれており、有効に機能しているのは左右1つずつだけとなる。LTではダミーの排気口を設けて実際はサイレンサーの途中から
真下に排気するという無駄に凝った構造を取っていたが、これを遊びと取るか無駄なディテールと取るかは判断の分かれるところだろう。
なお、純正オプションのアクラポビッチのマフラーは純正マフラーとは逆で、片側3つのうち真ん中だけを塞いで上下2つから排気する。
しかし排気口は中でつながっており、ふさがっている真ん中の穴もアクラポビッチのサソリマーク部分は抜いてあり、
排気がそこから漏れるような簡単な塞ぎ方なので、正確なところは不明だが多分日本国内の騒音規制に合わせたのではないかと思われる。
また、オルタネーター容量は580WとK1200/1300系と共通で数値上は充分なのだが歴代のBMWツアラーには劣り、
R1200GSADVがDOHC化を機に700Wにスープアップされたことを考えると些かの不安を感じなくもない。
ヘッドライトはHIDが標準となり他のライトはLED化された(ウインカー等の被視認性は非常に高い)とはいえ
基本的に現行BMWバイク中の電力消費王なことは間違いないはずなので、これは今後の情報を待ちたいと思う。

さてこの状態で操作系をチェック。基本的にはR1200RTとそう変わらないのだが、
大きな違いはエンジンの出力特性を切り替える右側のMODEボタンと左側のMENUボタンである。
MODEボタンはS1000RRと殆ど同じでどうということはないが問題なのはMENUボタンで、
4輪のIdriveよろしく複数の設定項目をグリップ左側のダイヤルで操作するわけだが
このMENUで設定できる項目はESA、オーディオ、外気温表示、日付表示、DTCなどのセットアップに
オイルレベルの表示(!)5段階調整可能になったグリップヒーターとシートヒーター、何故か装備されている
ストップウォッチ機能等異様に多岐に亘っており(お気に入り登録してのショートカット操作まで可能)
門外漢にも直感的にわかりやすい事は認めるが試乗でその全てを確認するのは無理だった。
また、メニューの選択は基本的にツリー構造になっているため一つの操作を完了するには慣れてもある程度の時間が必要で、
最低限のスイッチ数に最大限の機能を集約し、またスイッチに視線を遣ることを嫌ったであろう努力と思想は
個人的にも大いに買うのだが、その分モニターを注視する必要が生じており
概して四輪より運転に集中力を必要とする二輪の場合スイッチ操作は最短の時間で済ませるに越した事はなく、
残念ながら現状では瞬間的な設定には向かない、つまり安全面で些かの疑念ありと評さざるを得ない。
左スイッチボックスのメニューボタンを押してメニュー画面を呼び出し、ダイヤルを回してさせてグリップヒーターの
設定画面を呼び出してからダイヤルを左に引いて決定し、更にダイヤルを回して温度を決定するのに、
お気に入りに設定していなければ慣れても1秒位は必要だろうか?従来のスイッチならコンマ5秒もあれば充分だろう。
あともう一つ気に入らないのは設定画面で選択可能な表示言語はドイツ語・英語・スペイン語などはきちんと
選択できるのに日本語の表示機能がないことで、これについては大いに異を唱えておきたい。
海外の操作表を見せてもらうとタイヤの空気圧表示までメニューに存在しており、日本の法規では電波法にひっかかるためNGだから
日本用にその部分をメニューから削除したというのは認めるのだが、だったら日本語表記も付け加えるべきだろう。
かつてのLTでは二輪の7シリーズを標榜していたが、四輪のBMWでは7どころか3シリーズでもとっくに表示は
日本語対応になっている。LTの時に初期型はラジオが日本の周波数に会わず装備されているけれど使えなかったという
前科のあるBMWのことだからこの点はいずれ改良されてくるだろうと予想しているが、
現時点ではこの高価格車にしてそれはちょっとないのではないかと思う。日本市場ナメんな!

なお標準装備のパニアケースとトップケースは容量も充分で、トップケースはガス圧により半自動で開くようになった上に、
パニアとトップに車体各部の物入れまで前述の通り集中ロックが可能である。これは実に便利で、
人によってはこれだけでLTから買い替えを決意してもおかしくないかも知れない。
またオーディオだが、前述の通り遂にiPodに対応し、サイドカウル下部の蓋つき収納スペースから生えているコネクタにつないでおけば
後はハンドル左側のコントローラーとサイドカウル左側のボタンですべてを制御できるようになった。
設計年度が違うから当然といえば当然だが、片側のパニアのスペースを3割ほど潰して6連装CDチェンジャーを置いていたLTとは
さすがに隔世の感がある。ただし、いかにもハイマウントストップランプがつきそうな外見(だが、純正オプション扱いで、標準装備ではない)の
トップケースには照明はつくもののオーディオの装備はなく、LTにあったリヤスピーカーは省略されてしまった。
(フロントはRTの2スピーカーに対して、ツイーターが独立した4スピーカーと流石のところを見せている)
そのためか試聴した知人によると音質はLTより低下したそうなのだが、自分では試していないので参考意見としてご理解をいただきたい。

あと純正オプションのナビは専用のスペースにピタリと嵌り、簡単に取り外しができるように配慮されている。
それ自体は結構なことなのだが逆に言えば純正ナビ以外はほぼ選べないうえ、二輪のナビには四輪の1DIN規格のように
(これももともとドイツ由来のものだ)きちんとした寸法規格がないので、将来的にナビの外形寸法が変化した時には
(画面はいずれ大型化すると思う)古い四輪の純正ナビのようにいつかメーカーから見限られる時がやってくると
覚悟しておかねばなるまい。まあ、このGTLが新車で手に入るうちは心配無用だろうが。
なお世界初の自動光軸調整ヘッドライトは日中は作動しないため、残念ながらその威力は体感できなかった。

クラッチの重さはR1200系と同程度でK1300GTよりも大幅に軽く、実質的なエンジンパワーはK1300Sより遥かに上という事を考えたら
相当に軽いと言っていい。完全な電子制御スロットルのためスロットルケーブルが存在せず、従って非常に軽いスロットルを捻って
回転を1200回転ほどに合わせてやると、巨体は驚くほど簡単に発進した(ちなみにアイドリング発進はできなかった。エンストした時は
多気筒エンジンの恩恵か車体にほとんどショックを与えずストンと止まるので、エンスト立ち転けの心配は軽微だ)。
発進してすぐに気付くのはシフトタッチが抜群に軽いことで、個人的にはもう少し節度感があった方が好みであり、
途中の引っかかるような感じにも不満はあるものの、その辺を差し引いてもこれまでの横Kでは考えられなかったほど
スムーズにシフトが入る。K1200Sが出てからもう8年になるが、この改善の度合いには脱帽せざるを得ない。
初期型のK1200Rに乗っていた身としては「最初からこのミッションで出せや」と愚痴の一つもこぼしたくなるくらいの出来映えだ。
ただし、おそらくはドライブシャフトが発生源だと思われるがスロットルのオンオフで初期のK1200S/Rに見られたような
カチャカチャいうショックが音が小さくなったとはいえ非常に頻繁に発生するのは大いにいただけない。
K1300系にMCした時にドライブシャフトのダンパーを改良して劇的な改善を見たのだが、この点に関しては残念ながら
先祖返りしてしまったと言わざるを得ない。乗車中の高級感にまともに影響する部分なので、早急な改善を望みたい。

スロットルレスポンスは鋭くはないが鈍いわけでもなく、MODEがROADの場合R1150系と同程度だ。
性格を考えても積極的にスポーツライディングに勤しむバイクではなく、スロットルの反応速度は気負わずゆったり構えて走る時に
ちょうどいい具合に狙って合わせてある。この辺りの設定はさすがに手馴れたものだと感じた。
個人的には振り回すにはやや物足りないものを感じたので反応が一回りシャープになるDINAMICが一番自分に合っていると感じたが
(体感できる違いはあるが、決して激変するほどの変化はない)、通常はROADで充分だろう。
一方RAINにするとはっきりとスロットルの反応が鈍くなりパワーも絞られて眠たい特性に変貌するため、DTCで不要なスライドを
抑えてくれるとはいえ、疲れてスロットル操作が雑になった時や逆にスロットルを開け開けで景気良く走りたい時には
あると便利なモードではないかと思う。
乗り心地は当然ESAUのモードによって異なるのだが、実はどのモードでも意外に硬い。車重が効いているのか
サスペンションの作動性は新車ということを考えなくても非常に優秀で段差などを乗り越えても直接的なショックは見事に押さえ込んでいるが、
(ESAをCONFORTにした時の話。NORMALとSPORTでは多少の鋭い突き上げが発生する)思ったよりストロークがなく
昔のWPのように短いストロークで確実に減衰を終えて大きな車体の姿勢変化を抑えるような設定になっている
(奥でしっかり踏ん張るシートもその印象を助長している)。
この感覚はどこかで・・・と思っていたら、体験した中では以前試乗した四輪の5シリーズに近い事に気が付いた。
(総合的な乗り心地では5シリーズに負けるわけだが)。ESAをSPORTにすればK1300Rの通常状態くらいまで硬くなり
CONFORTにすればK1200SのCONFORTくらいの柔かさになるが、短いストロークでサスが仕事を終えるという
基本的な特性は変わらない(無論、快適性は比較に挙げた2車よりずっと上だ)。
もっとも、運動性能とトレードオフの関係にある事は容易に想像できるのだが個人的にはもっとストロークを長く取って
サスを大きく動かしてやる方が好みではある。このバイクは車体が重くてホイールベースがかなり長いにも関わらず
ピッチングはそれなりにあるので、それを是正する意味でももう少し快適性優先に躾けても良いのではないかと思うのだ。

さて街中を車の流れに乗って走っていると、やはり前方視界が少々気になる。
低い着座位置から前方に衝立のようにそびえるカウルとメーターは実用上問題になるほどではないが車体の直前が見えないため
多少の慣れは必要で(大型カウル装備のバイクにはある程度共通する要素だが、RTよりも見づらいということだ)、
この感覚はずっと以前に試乗したR1200CLに通じるものがある。また、身長177cmの私の場合これまでのBMWでは
スクリーンを高い位置にセットしても視線は常にスクリーンの上端より上にあって従ってスクリーン越しの視界は
ほぼ無視できたのだが、このGTLではそういうわけにはいかずスクリーンの高さを中程度にした辺りからは
前方視界の確保はスクリーン越しに行うのが基本となる。当然スクリーンの位置によっては上端が視界の中心部あたりに入って
鬱陶しくなるし、スクリーン自体もやや複雑な形状にカーブしているためスクリーン越しの視界の歪みは
(昔のK100RTなどに比べたら天地の開きがあり、形状の割に視界の歪みが小さい事は認めるものの)それなりにあって
常に歪んだスクリーン越しに前方を注視するのは視神経も疲れるだろうし気分も余りよろしくない。
また、雨中も走る機会があったが雨の中歪むスクーリン越しを一番上まで立てての視界はどうしても違和感があり、
この状態でワインディングを飛ばす気にはなれなかった
視界の歪みはデザインや防風性とトレードオフにされたのだろうが、四輪だったら許されないレベルなのだから
あと一歩の努力を期待したいところだ(GT用の低いスクリーンも試してみたい気はする)。また、スクリーンを立てた状態での防風性は
外観の印象通りほぼ完璧・・・では実はなく、カウリングが覆う部分はRTも凌ぐかというほどの防風性を誇り
100キロちょっとまで出した限りでは(オーナーの方に話を伺ったところ150キロ以上でも)背中が煽られる事もないのだが、
RTと異なりカウルの左右への張り出しはそれほど大きくないためかスクリーンの角度にもよるが腕には主に上腕部を中心に意外に風が当たる。
個人的には無風状態を作れる方を優先したいので、ネガティブな要素と評価したい。
またサイドカウル上端にある可動式のデフレクターは片方を閉じ、片方を開けて走ってみたのだが効果絶大で
(全開か全閉のみで、いわゆる中間位置での固定はできない)、
昔の車の三角窓ベンチレーションに近いくらいの威力がある。これがあるから2行上で「無風状態を優先」と書けたわけだが、
あえてケチをつけさせてもらえばこのパーツはサイドカウルの支持剛性が高くないため慣れないと動かすのに不安があることと
位置関係の問題から走行中の開閉は困難なため走り出してしまったら特に右側は開閉がほぼできない。
せっかくの有効な機構なのだから、この部品は断然、電動にして走行中も無段階調整可能にすべきだろう。
なお走行中は左の脛がある程度熱くなることと、自分では体験しなかったが経験者の話としてファンが回ると右足の脛が
かなり熱くなることを快適性の上でネガティブな要素として挙げておきたい。

しばらく遅い車の流れに乗っている限りでは、このエンジンは出色のトルクの出方を誇る・・・というより、
判りやすく言ってしまえばほぼクルマの出力特性と考えて差し支えなく、多少の上り坂程度であれば4速900回転で
粛々と走っていき、そこから軽くスロットルを開ければ何のストレスもなく加速していく。意地悪く試してみたところ
4速なら市街地の交差点を普通に回ることが可能で、6速だとアイドリング900回転ではさすがにギクシャクするが走れなくはなく、
1000回転も回せば遅いがまあ実用に耐える(この状態で30キロ程度)。
この時のエンジンの回転フィールはかなり上質で、多分に感覚的な話となるが振動の少なさではK1300系より一枚上手で、
振動の感じは(ここでは振動は硬質でない方がいい、という価値基準で書いている)K1300GTよりも一回りマイルドだが
K1200RSほどではない、といったところだ。どちらにしても相当にスムーズで、BMWとしてかつてないほどの怪力だ。
もっとも、数字だけで考えたら1500ccのカローラよりやや排気量が大きくパワーのある出力特性の似たエンジンを
カローラより1トン程軽い車体に積んでいるのだから数字から計算すればこの位の事はできて当然、という考え方もできなくはない。
また信号待ちなどで減速する際のエンジンブレーキの効き方がなんとも絶妙で、普通にブレーキをかけて減速するかのように
スムーズに速度が落ちる。実のところ6気筒の有難味を一番感じたのはこのエンジンブレーキで、これには正直唸らされた。
ともあれ右手一つで膨大なトルクをコントロールして大きな車体を滑るように走らせる感覚は四輪で大排気量の高級車を
運転する感覚に近く、乗り心地や割と存在感のある排気音なども合わせて考えると
「ああつまり、BMWは高級スポーツセダンの二輪版をやりたかったんだな」と走りながら納得していた。

さて、前が開いたのでスロットルを大きく開けてやると、当然だがかなりの勢いの加速をする。
体感上はK1300GTと同程度の加速力だが、このバイクは防風性が高く車体の安定感が高いせいか速度感が異常に無いので
スピードメーターには常に気を配ることが必要だ。
その状態で軽い車線変更などを試みると、重い事は重いのだが車体の反応が遅れる感じは小さい。
車体の重心が非常にいい位置にある感じで、ステップに荷重をかけたり腰の僅かな動きをするだけで
この巨体が意外に敏捷に向きを変えるのは慣れるとちょっとした快感だ。
ただし、基本的にバンク角に依存して自然にハンドルの舵角をバランスさせて曲がることが前提のバイクなので
普通に走っている分には絶対的な安定感を頼りにかなりのところまでペースを上げていけるが
(この性格はR1200GSアドベンチャーに近い)、曲げ方をバンク角依存ではなく前輪の舵角優先に変えてやるとまた別の一面があって
根本的に車体が大きく、前後方向にスペースを取るデュオレバーを同じく前後に長くなる前傾エンジンと組み合わせたうえ
更にハンドルを大きく手前に引いてあるので着座位置から前輪までの距離が非常に遠いという構造上
自分よりずっと前で舵が切れている感覚がはっきりと判る。
つまり普通のバイクより旋回の中心が前にあって大回りをするということなのだが、加えてフロントにもかなりの荷重が
かかっているためハンドルをこじるような乗り方をすると反応がどうしても今一歩遅れるうえに車体のバランスが崩れすぎる嫌いがある。
しかし腰を軽くずらして前ブレーキのリリースで舵をつけると今度は意外とシャープに曲がれたりしてこれはこれで感心させられたが、
結局のところ、スポーツバイクのように色んなワザを駆使して曲げるのではなく、シートにどっかり座って徹底したリーンウィズで
前後をバランスさせて曲がるのがこのバイクのキャラクターに最も合っている印象だった。
また、190タイヤに320cmのシングルディスクを4ポッドキャリパーで締め上げるリヤブレーキの効きは非常に良く、
デュオレバーの性能もあってブレーキング時の安定感・安心感は絶品であり、絶対的な荷重がかかっているためか
リヤのグリップ感が抜群に良いためDTCを頼りにスロットルを景気良く開けて旋回力を引き出してやるのもまた楽しい。。
限界に近い走りは試せなかったが、100キロ程度までの速度域で走っている分には旋回性能は充分にあり、
車重を考えたら倒しこみもかなり軽快でリーンスピードも速く、スポーツ走行をする分にはK1200LTなど問題にならないだろう。

ただし、運動性能は車格を考えたら抜群に高いのだが、あくまで”車格を考えたら”という但し書きはつく。走る・曲がる・止まるの
能力のうち、走ると止まるはともかくとして曲がるについては絶対的能力ではやはりK1300GT以下と評さざるを得ない。
なおESAUのモードを変えれば運動性能も多少変化するが、変化の度合いははっきりわかるとは言っても
K1200Sほど劇的な違いがあるわけではなく、その分CONFORTで振り回そうがSPORTで街中を走ろうが決定的な不都合はない。
変化を体感できる有難味は薄れたが実践的な使い分けはやりやすくなったので、個人的にはこれはこれでいいと思う。

さて、まとめ。試乗した時には「すごいものを作ったなあ・・・」と正直に感心した。エンジンはメカニカルノイズが気になる点と
転倒時の予想被害額を除けば高級ツアラーのエンジンとしておよそ非の打ち所がなく、有り余るトルクで重量級の車体を
滑るように走らせる感覚は確かにBMWの中でも傑出している。快適性も極めて高く、装備品も充実。
パニアケースが標準装備なことを考えるとR1200RTプレミアムラインとの価格差もそれほど大きくはないうえに
運動性能も図体の大きさを考えたら非常に高く、私が高く評価するK1300GTから比べても総合力では一枚上手。
価格の高さを除けばK1200LTから随分と進歩した物凄く良くできたツアラーである事は疑いない。
個人的にはどうせマイナーチェンジで熟成が進むだろうからあと1年くらいは待った方がいいのではないかと思うが、
この乗車感覚にやられてしまったら買ってもたぶん後悔しないのではないか。

ただし、個人的にどうにも気に入らなかったのがこのバイクの成り立ちだ。周知の通り本国ではK1300GTの後継車として
K1600GTが存在しており、その豪華版としてこのGTLを旧K1200LTの後継車に仕立て上げたという成り立ちなわけだが、
その作り分けは正直に言えば、甘い。K1600GTにはもちろん乗っていないから推測を交えて書くが、
大きく手前に引いたハンドル、低く前に出たステップ、低いシートなどのポジションと前方視界などはどうにもチグハグで、
簡単に取り外せるパニアケースやトップケース、妙にスポーティーな外観デザインに加えてバックギア、電動センタースタンド、
リヤシートのスピーカーにリヤの電源ソケットなどのLT時代から廃止された装備品などを考えても
開発のベースは明らかにベーシックモデル?たるGTの方にあって、GTLはK1200RSをベースにちょちょいと作った
初代K1200GTほどではないにしてもGTをベースに豪華装備を与えてポジションを変更することで
比較的お手軽に開発した車両という印象が拭えない。
総合力でLTを上回っているのは間違いないが各部項目を見ていけば最初から豪華ツアラーとして専用設計されたLTに比べて
運動性能は圧勝できるが快適性の作り込みでは今一歩と感じる部分もあり、LTの正常進化版と考えるとどうも中途半端さを感じてしまう。
そういう意味でLT(ラグジャリーツーリング)ではなく、やはりGTL(グランツーリスモ・ラグジャリー)なバイクなのだろう。
従って車両の立ち位置もゴールドウイングとまともにぶつかったLTとは少々異なり、
性格的にゴールドウイングとカワサキ1400GTRの中間くらいに位置すると思われる。

間違いなく良くできたバイクだからRSやSTよりもRTのバランスを善しとするメジャー層の顧客が
このGTLを買うのを止める気にはならないどころか諸手を挙げて賛成できるのだが、未だにRSモデルを愛して止まないような
走りにある程度こだわりたいマイノリティとしては、試乗してこの豪華・安楽なGTLが欲しくなったというよりは
「GTLがこれだけいいなら、(多少装備品が落ちても)ベースになったGTはさぞいい走りをするだろうな」と
かえって隣の芝生が青く思えてしまったというのが正直な感想ではある。

K1300GT
あちこちで言われていることだが、従来型のK1200GTと比べると外見上の変化は
サイドカウルに追加されたエアアウトレットだけと本当に少ない。
かつてR1100RSがR1150RSに移行した時と比べてもどちらが・・・というくらいで、
K1300SとRではおそらく1200時代のデザイン上の不評を買って変更されたと思われる、
実に素っ気ないデザインのサイレンサーすらこのGTではそのままだ。
従って外見に感する評価は1200の頃と変わるところがないのだが、
好意的に考えれば現在のデザインとカウルのプロテクション性能への自信の表れと受け取れなくもない。
どちらにしても、各部に使用されているいかにも安っぽそうなネジはもうちょっとどうにかならないものかと思うが。

そういった意味で、またがった時に感じる最大の変化はやはり左側にウインカースイッチが集約された
新型のスイッチということになるのだろう。代を重ねるごとにコストダウンが進んで安っぽくなっているのは
正直言って興醒めするが、できるだけユニット全体を小型化しようとした努力の跡は伺えるし、
電子デバイスの進化に伴ってスイッチが増え、スイッチボックスの中でのボタンスペースの奪い合いも
発生したはずだからその中でスイッチの数を少しでも減らしたかったのだろうという想像もつく。
また、そのウインカーはストロークが極端に短い上に 親指で押して右方向/親指で引いて左方向 という
操作に合わせて左右でスイッチの断面形状を非対称にしており、依然としてグリップから手を離さずに
操作できるように配慮してあるのは理解できる(実際に操作しても、操作性は極めてよい)。
ただしそれらのことを認めた上で書くが、誰が何と言おうとこのタイプのウインカースイッチの最優先目的が
コストダウンと左右別体式ウインカーに慣れない他社ユーザーにすり寄ったためであることは大書しておく。
事実、コストの制約が厳しく他社からの乗り換え層を狙っているF800Rや、S1000RR
(開発費はともかく、実車を見る限り製造コストはかなり削っている)ではこの新型スイッチを採用しているではないか。
このシステムについては結局慣れが全てなので(慣れれば別体の方が操作しやすいと私は信じる)
慣れることができない方が現実に居る以上はBMWがスイッチを選択式にでもしない限り
永遠に万人が納得する回答は出ないのだが、個人的にはEVOブレーキなどと同様に
開発側がいいと信じて採用したものであれば、それを磨き続けていってもらいたいと思う。
スイッチ自体が車両全体の価値に与える影響は正直言ってわずかなものだが、
プレミアムを標榜するメーカーとしての姿勢が「ポリシーを修正してもいいから数を売りたい」では、
個人的には些か不甲斐ないと考えるのだ。
なお、このスイッチはセルボタンおよびキルスイッチも新しくなり(個人的には前の方が良かったが、慣れる範囲)
細かいところではグリップヒーターやシートヒーターのスイッチも新しくなっている。
実はこれらのヒーター類もスイッチが新しくなったことを機にCAN−BUSシステムに統合されており、
エンジン始動前には自動的に導通を遮断してバッテリーへの負担を軽減するなどの地道な改良も行われている。
BMWの純正バッテリーはゲル状タイプのMFバッテリーになってからというもの突然死の多さに不評を買っているが
(実際、バッテリーの改良も進められていると聞いた)それはそれとしてもこういう方向の改善は歓迎である。
なお、ディマースイッチの形状は個人的にはいただけない。ローが標準で手前に引くとパッシング、
右方向に押し込むとハイビームになるというものだが、パッシングはともかくハイビームの操作は
従来型よりかなりやりにくくなってしまった。

メーター周りについてはK1200GTとまったく同じなので省略。シートの着座感はK1200GTより良いように感じたが、
形状は同じはずなのでここでの憶測は差し控えたい。エンジンはアイドリング回転でこそK1200GTと変わらないが
軽くアクセルを開けた時の反応が一回りルーズになっている。
クラッチはタッチこそあまり変わらないが一回り軽くなっており、発進もお陰で少しだけ楽になった。
さてスタートしてからだが、乗り心地はESAを試してみたところ全般的に1200の頃より少しだけ引き締まった印象だ。
初期の衝撃を上手に吸収するところは同じだが、1200ではそこからの減衰が全体に弱めで揺り返しが起こりやすく、
結果としてコンフォートではややフワフワに過ぎて路面状況によってはかえって疲れの原因になると感じていたのが
この新しい1300ではコンフォートでも振動を一発で収縮して車体の安定を保っている。
その分ノーマル・スポーツと切り替えた時の差は1200ほど劇的に変わるとは感じられなかったが、
長時間の乗車の際にはこれは差が出てくるポイントだと思われる。
また、ESAが新型になってスプリングレートも可変式になっているはずだが、試乗した限りでは
それほど大きな違いを感じ取ることはできなかった(静止してまたがって揺すれば多分判ると思う)。
車両の性格から考えても、このバイクでガチガチの乗り心地を期待する乗り手がいるとは思えないから
快適性を損なわない範囲で実際の運動性が変化すればそれはそれで問題はないはずで、
従ってK1200Sなどでは「コンフォートは柔らかすぎ、スポーツではハードすぎ」だったことから考えると
より実践的な方向に改良が進んだと評価しておきたい。

白馬での試乗は今年(2009年)から殺到する多数の試乗希望者に対応するためルートが短縮された影響で
ワインディング部分が削られてしまったため、車両を振り回しての試乗ができなかったのが何とも残念だったのだが、
その範囲で走らせた限りではどちらにしても走行安定性に関する限り1200より一枚半くらいは上手で
安定感だけなら普通の純正サスが高価な社外品になったくらいの違いがある。
また、スロットルのツキが1200時代より明らかにマイルドになっており、縦置き時代ほどではないにしろ
右手の操作に神経を使う必要がなく、気軽にスロットルを開けられるような特性になっていた。
また振動もほぼ全域で減っており、(相変わらず多少硬質な回り方ではあるものの)振動の少なさでは
自信をもって縦置き時代を超えたと言っておきたい。パワーについては向上しているはずだが、
先導車つきの試乗の範囲ではスロットルを半分も開ける機会はなく、
低速域でのトルクが一回り厚くなったことを感じるにとどまった。
更にミッション・ドライブシャフトの改良は大きく、以前「(K1200SやRに比べて)かなりショックが低減された」と書いた
K1200GTより一回りシフトショックが減っており、引っかかるような感じもなくスムーズさも大きく向上している。
難を言えば停車時のシフトショックは相変わらず残っていることと(湿式多板クラッチの場合やむを得ない部分はある)
多少ストロークが長いのが気になるのでこれをもう少し詰めてくれれば文句なしだったのだが、
BMWは昔からストロークが長かったことを考えたら十分許容範囲だろうか。
内蔵のダンパーを改良した新型ドライブシャフトの効果は絶大で、改良が進められて年々小さくなっていたとはいえ
かなり気になるものだったスロットルのオン/オフで駆動系がガチャガチャと品のない音とショックを発生していたのが
ほとんど気にならないレベルにまで低減されている。もちろん低い速度でトップギアに入れてパーシャル巡航し、
そこからスロットルをラフに操作する・・・というような意地悪な運転をすれば相応のショックは出るが、
これはどんなシャフトドライブのBMWでも同じこと。絶対的には駆動系からの不快なショックが
縦置きのK1200時代よりも低減されたと評価できる。
なおブレーキシステムに大きな変化はない、ということはスペック上K1200SやRと特に違いはないはずだが、
サーボモーターを持たないシステムとはにわかに信じがたいほど効き具合は強力で、
特にリヤブレーキの効きは抜群であり速度調整用ではなく減速用として十分信用に足る。
コントロールさえできればブレーキは効く方がいいに決まっている訳で、このブレーキにはかなり好印象を持った。

また、どういうわけかK1200GTではかなり気になった足下からの温風が今回はそれほど気にならない水準に
留まっていた。試乗後に車体に触れてみると温度自体は特に下がっている印象はなかったし
遮熱板にパッキンを追加した様子もみられなかったら、あくまで推測だがサイドカウルに新設された
エアアウトレットがカウル内部の熱気を排出して足元から漏れる熱気を軽減しているのではないだろうか。

さて、まとめ。外見通りのK1200GTの正常進化発展版・・・だが、実際に乗ってみると進化の度合いは相当に大きく、
R1100RがR1150Rになった時ほどの違いがある(1100GSが1150になった時ほどではない)。
要するに私がK1200GTの試乗記で苦言を呈した部分がポジション以外はほとんど全て改良されており、
徹底的に欠点を潰す方向で改良を加えていった結果、乗り味も運動性能も長足の進歩を遂げている。
その出来栄えは「K1200GTは、ひょっとして世界規模のβ版テストだったのか!?」と思わせるほどのもので、
新たな提案こそ殆どないため趣味性や色気といった要素は相変わらず希薄だが、
運動性にも多分優れた高速ツアラー(ワインディングでの試乗ができなかったのはかえすがえすも残念)としては
文句なしの一台に仕上がっている。中古の下取り価格と追い金を考えると
「現行1200GTオーナーはこれに乗り換えるべし」とまではさすがに言えないが、
2009年9月現在例のウインカーがどうしても我慢できない方以外は、中古のK1200GTを買われるのであれば
車両価格の差を考慮しても新車のK1300GTを買うべきと強くお勧めする。

K1200GT(新型)
K1200RSがベースだった先代と比べると車体は明らかに長く、高くなっているが
直線基調のスタイルは一部に煩雑さも目につくものの、総じて車両の性格相応に品よくまとまっている。
特徴的なライト周辺の造形は個人的にはあまり好きではないが、ヘッドライトの下の方を隠してやれば
デザインラインに旧来のRSモデルを引用しているのは明らかで、
その辺もBMWの経験値豊富なベテランにアピールする要素かもしれない。

またがると、このバイクの印象は人によっていろいろと違って感じられるだろう。
一見して興醒めするのが自動車のようなアナログメーターで、視認性は非常に高く表示される情報量にも不満はないが、
軽自動車どころか発展途上国の大衆車なみに安っぽいハウジングの質感の低さは販売価格240万円超のバイクとしては
個人的には許し難いものがある。その周囲のカウルトリムにしろ安っぽいボルト類にしろかつてのBMWからすると
およそ目を覆わんばかりの安っぽさで、
「デザインチームはもう少し高級の何たるかを知っている優秀な人材を引っ張ってくるべきではないか?」と感じた。
(デザイン部門のボスは四輪と同じくクリス・バングルである)
しかしカウルのチリの良さは向上しているし簡単に高さと前後位置を4段階に調整可能なハンドルバーが
グリップ部分別体式の防振マウントになっていたり、オプションのオンボードコンピュータを装着すると
外気温をセンサーが判定して最適なグリップヒーターの温度を自動調整する機構など、
相変わらずお金をかけるところにはしっかりとコストをかけてあるのは評価できる。
また、旧来のBMW同様の握りやすい樽型グリップを採用しているのは高く評価しておきたい。
しかしほとんど直立ポジションの割に妙に前傾の強いシートやツアラーとしては意外にきつめの膝の屈曲角度、
ニーグリップ時のホールド性がいまひとつのタンクにシートを最高位置、ハンドルを最低位置にすると
軽い前傾ポジションにできたり、ステップにはバンクセンサーがついていたりすることを考えていくと、
「BMWの本音はツアラーが作りたいのかスポーツバイクが作りたかったのかどちらだろう???」と思ってしまった。

エンジンをかけると、昨年までK1200Rに乗っていた身には「おお、この感じ!」という
横置きK1200系独特の感覚がよみがえってきた。
排気音は全体的に静粛になっているものの(フルカウルでエンジンからの遮音性が上がった為か?)
音質はまぎれもなくギャーギャーと神経を良くも悪くも落ち着かせないK1200SやRと同じもの。
ミッションはストロークは相変わらずかなり長いままだがスムーズさが大幅に向上しており、
最新型のR1200GSには及ばないがそれ以外の現行R1200系並みのスムーズさでシフトができる。
しかしニュートラルからローに入れるとガチャンとショックがあるのは低減されたとはいえ基本的に同じで、
技術的には相当難しいだろうができれば縦置き時代のようにノンショックで・・・とは思った。
クラッチはSやRより軽くなっており、同じく軽いスロットルをひねってやると先代より多少軽くなったとはいえ
それでも走行状態で282キロもある巨体を苦も無く発進させられる。
ピークパワーを削って実用域のトルクに振った恩恵か、湿式クラッチがアバウトな操作を許容することもあって
発進自体はこれまで乗った縦横置きすべてのKの中でももっとも簡単だ。
そこからスロットルを開けていった時のスピードの伸びは先代よりも一枚上手だが圧倒的な差ではなく、
普通の使い方での加速力や体感できるパワー感はより軽量でギヤ比が同じSにはやはり及ばない(もちろん、Rにも)。

また、初期のSやRで顕著だったスロットルのオンオフに伴うシャフトのスナッチがこのGTではかなり低減されており、
乗り味がスムーズになるとともにスロットル操作に神経を遣うことが明らかに減っている。
乗り心地は非常によく、直接的なショックは見事に遮断されている。ただしESAがコンフォート又はノーマルの状態では
サスの減衰が不足して特に後ろがややフワつく傾向があり、総じて快適ではあるが接地感には欠ける感じで
ESAをスポーツにしても路面の状況は掴みづらい。
ただしシートの出来はツアラーとして考えると悪く(リヤシートは決して悪くないと思う)、前に座ると足つきを考えたのか
幅が狭すぎて長距離走行には適さないし、後ろに腰を引いても座面の前傾がきつすぎて長距離ではたぶん疲れる上に
シートストッパーを兼ねる後ろとの段差部分と座面の違和感がありすぎてツアラーの座り心地としては落第だ。
結局真ん中に普通に着座するのが一番よかったのだが、その状態だと沈み込みが大きいので
座面の前傾もあって疲労が少ないかどうかはやや疑問に思える。
エンジンの回転数は6速100キロ走行時に3600回転とまあ一般的なもので、この状態でのエンジンのマナーは
ほぼ模範的。ただし、あまり負荷のかからない回転域だけにここから速度維持のためにパーシャル状態のスロットルを
少しだけ開けたり閉じたりすると駆動系に小さいながらもはっきりしたショックが発生する場合がある。
この辺はK1200S以来少しずつ改良されている部分だが、乗り味に影響するだけに更なる改良を望んでおきたい。
防風性だが、80キロ程度まで出してみた範囲では意外と風が当たり、
相変わらず非常に便利な電動式のスクリーンを立てても体に感じる風は決して無風ではない。
(速度を上げると変わるという雑誌記事もあるが、そこまでの速度域は試せていない)
下半身へのプロテクションはほぼ完璧に近いがグリップ部分にもR1100/1150RS以上に風が当たり、
この辺はやはりRTではなく、このバイクはGTなのだと感じた部分だ。
またエアマネジメント上の欠点として、両足の暑さは指摘しておかねばなるまい。
いかにも空気抵抗の少なそうな張りのある面構成のサイドカウルには排熱を放出するエアアウトレットがなく、
タンクとサイドカウルの隙間はクラッチカバーの上までトリムパーツできっちり覆われているために
熱のほとんどは覆いのないクラッチカバーの下からまとめて排出されるのだが、狭い範囲に熱が集中するためか
両足の踝から下はRシリーズでもここまでは熱くないぞという程の暑さになる(特に右側が暑い)。
こんな欠点は発売前の段階ですぐ対処できたと思うのだが、なぜそのままにしておいたのか理解に苦しむところだ。

ブレーキはいつものむにょっとした抵抗感のあるタッチで、操作感は気に入らないがストッピングパワー自体は
例によって問答無用の強力さを誇る。デュオレバーの剛性感とブレーキ中でもフロントの接地感が損なわれないのは
やはり素晴らしいとしか言いようがない。
またミラーの視認性は抜群の一言。もう少し鏡面が大きければほとんどパーフェクトだろうが、
視野の広さ、振動によるブレの少なさ、車体や腕で視界を邪魔されることの少なさなど
単純な視認性に関する限りはおそらく現行BMW中最高だろう。

というところで、「このバイクはグランツーリスモなのかそれとも単なるツアラーなのか?」という疑念を抱きながらワインディングへ。
ESAをスポーツモードに切り替えて車体を一気に倒しこむと・・・車体が思ったように倒れてくれない。
バンク中の安定感はそれなりにあるのだがコーナーである程度攻める走りをするとESAをスポーツモードにしても
サスの減衰力(特に後ろ)が不足気味で、どうも車体がフワついて限界のバンク角が分りにくい上に
車体からのインフォメーションが不明瞭なので安心してスロットルを開けていけない。
(ESAをコンフォートやノーマルにすると私には減衰力が完全に不足する)
車体そのものの剛性感は非常に高く、スロットルの反応が穏やかになったエンジンをK1200SやRより
一気にガバッと開けていく走りもできるのだが、この足周りでは公道で攻め込む気にはちょっとなれない。
結果として、普通に乗っているだけではバイク任せの部分が強く、そう大したペースでもないのに
バイクに乗せられている感がえらく強いものになってしまっている。
それでは退屈なのでいろいろな乗り方を試してみたところ、このバイクは操作法によっては旋回性能が
それなりに変わる・・・というより、昔のR1100RSなどのようにある程度以上のペースで走るには
乗り手が積極的な操作をすることを前提にしていると思える節があり、結果的には腰を落としてのハングオフが
一番車体を安定させられたのだがシートの幅が根本的に狭いのでその状態では体の収まりが良くないし、
この足回りの性能から考えるとそもそもそういう性格のバイクではないようにも思う。
また、イン側に十分に荷重をかけた状態でフロントブレーキを放してやるとハンドルがゆっくりと切れ込み、
それから一瞬おいて車体がのっそりとバンクしていく。このステアリングレスポンスはR1200RT
(私のハンドリングの評価は決して高くない)よりもさらに鈍く躾けられており、バンクしてからの曲がり方は弱くないものの
基本的なハンドリング特性としてスポーティーな走りに向いているとは言いかねるものだ。
ちなみに試乗コースは1年前にメガモトを試乗したコースとほぼ同じだったのだが、一年前には初めて乗ったメガモトで
先導車のR1200Rを鼻歌交じりで追走できたのが今回のGTではほぼ同等のペースで走る先導車のR1200GSに
ついていくのがやっとで、「これ以上ペースアップされたら、慣れない今のままではすぐに引き離されるな・・・」
と思いながらのワインディング走行だった。

さて、まとめ。とてもよくできたパワーのある「ツアラー」というのが率直な感想。
走り、止まるの性能は旧型をまず寄せ付けないレベルにあり、旧型の巌のような安定感こそ薄れたが
軽快感を伴ったふんわりとした疾走感はBMWの本格ツアラーとしてさすがの水準にある。
特に、あの喧しくて正直言って品のない音と回り方をしていた現行Kのショートストロークエンジンを
よくここまで扱いやすいフラットトルクな特性に躾けたなということと
スムーズさを格段に増したミッションにガタを減らしたシャフトドライブなどパワートレーン全般の
洗練度が格段に高まったことには改良の成果として素直に感心するしかない。
装備品もなかなか充実しているし、ポジションは楽になったしダウンマフラーが装備されて左右ともフルサイズパニアが
装着可能になり、トップケースが装着可能になったことで積載力もアップし(オプション設定の)ESAと合わせて
タンデム走行への適合性も大きく向上した。専用設計の車体を与えただけのことはあり、
RSをベースに手直ししただけの旧型とはさすがに違うと言うしかない。

・・・と、個々の評価をしていくとこのバイクはとてもいい点数がつくのだが、
一台のバイクとして考えるといろいろと問題点が噴出する。
パワートレーンはベースになったK1200SやRより大幅に洗練度を増したとはいえ、
静かなスーパースポーツのような排気音は上品なツアラーとしては元気が良すぎるし
(かなり軽減されたとはいえ)スロットルのオンオフでやはりショックを発生するシャフトドライブなど、
ツアラーとしての上質な乗り味という点では依然、縦置きKシリーズの水準には達していない。
(改良点も数多く、総合評価なら間違いなく旧モデルより良くなってはいる)
それよりも最大の難点はESAをもってしても補えないほどコンフォート方向に振り過ぎたサスペンションで
ことハンドリングに関する限りは「あれだけ素性のいい車体を、よくもこんな風に味付けしたものだ」というしかない。
素性は抜群にいいから腕さえあればある程度のペースで走れはするものの、
その時の印象は”鈍重な車体を有り余るパワーで走らせている”と言ったところで、
個人的にはスポーツライディングの楽しさからは程遠いと感じるものだ。
旧型の時にはBMWBIKES誌の永山編集長が「K1200GTをセダンとするなら、RSはクーペ」と
実に共感できる喩えをしておられたが、その表現を借りれば新しいGTはパワーのあるミニバンである。
つまり、よりK1200RTに近づいた・・・と言えるのだが、走りの楽しさではR1200RTに明らかに劣るし
装備品でもR1200RTと比べると全体的には見劣りする(特にオーディオが備わらないのは大きな減点)。
しかし、妙に前傾姿勢に対応したポジション設定やRTより明らかに高速向きな形状のカウリングなど
BMWとしては快適さと同時にスポーツ性を求める顧客(要するに、従来RSを支持していた客層だ)にも
対応したかったようなポイントが散見される上にそれが車両全体の調和を乱す方向に作用していて、
全体として設計段階で考えられたであろうコンセプトと実際の車両が空中分解した、
煮詰めの甘さが目につく結果となってしまっている。
前述したように車体の基本設計は文句ないだけに将来的に改良されて大化けする可能性はあるし、
現状でも「スポーツ性は要らないから速くて快適なツアラーが欲しい」という(結構多数派な)方々には
お勧めするのを躊躇わないバイクであることは間違いない。
しかし、四輪の世界では昔からあるGTというジャンルを多少なりとも知る身としては、
GTという名前を聞いて想像するのはBMWなら6シリーズか5シリーズの排気量の大きなモデルで、
ポルシェなら昔の928や現行なら911ターボであって断じてX5やカイエンではないのだ。
これがK1200RTという名前でオーディオを搭載していれば(BMWBIKESの記事と内容が似通ってしまうが)
私としても文句はないのだが、現状では残念ながら
「GTを名乗るにはスポーツ性が不足、RTとして考えたら中途半端にスポーティー」と言うしかない。
ましてや、本格派GTを作らせたら四輪では世界的定評があったBMW自らが「GT」を名乗って出した新型車としては
「名前に偽りあり、もっとGTという呼称を大事にするべきだ!」と思えて大いに不満だ。
せめて、操っていての面白さがもっとあればこのバイクの評価は大いに好転するのだが、
(ESAなしを選んで社外サスを徹底的にセッティングしてシートを改良すれば凄いバイクになる可能性は大いにあると思う)
現時点では「いいバイクだが、好きにはなれない」というのが偽らざる感想だ。

K1300S
外観についてはK1200Sと酷似しているのだが、アッパーカウル下に増設されたラムエアのインテークにデザインの変わった
マフラーとサイドカウルなど、バイクに少し知識のある人なら識別は容易だ。
モデルチェンジをしても外見はあまり変えない(ということは旧モデルが古臭く見えにくいため中古車市場では歓迎される)やり方は
ちょっと前のドイツ製四輪車の常套手段だが、このK1300Sは内容的にはモデルチェンジというよりビッグマイナーチェンジだから
(この四輪独特の和製英語にも違和感は感じるが)あまり変えられなかったのか、メインフレームから下の外装パーツは
ほとんど一新しているのに意図的に変えなかったのか、判断に困るところだ(たぶん後者)。
個人的にはやや抑揚が無さ過ぎると感じていたK1200Sよりも造形的に見所が増えて、好ましいと思う。
なお防風性については体感できるほどの変化は感じられなかった。

またがってみると、新しくなったトップブリッジ(正式にはインタラプトフォークブリッジと言うそうだが)のためか、
ハンドルはK1200Sと比べて心なしか手前に引かれ、上体が起きたように感じる。それ以外にはメーターパネルが変更されて
2010年モデル以降は多機能ディスプレイの表示が見づらくなったり、ウインカースイッチが左右分割式から一般的なものに
変更されたりといった程度だが、これについては既にK1200GTの項目などで述べているので割愛。
グリップ性が良くない上に濡れるとかなり滑りやすいステップはK1200Sからのキャリーオーバーで、
これだけは何とかして欲しかったと思う(一応F800S/ST用が純正流用できるが、かなり高価)。

エンジンをかけると、その瞬間からK1200Sとの違いは明らかになる。
K1200Sではいかにも高性能を発揮する機会を待ち構えているぜと言わんばかりに
アイドリングでは元気が良すぎる印象があった排気音はジェントルに抑制され、
幾分ラフだった回転はたぶん低回転域での燃焼がずっと安定したのか回転のばらつきも少なく粛々と回る。
絶対的には結構な音量だが、K1200Sよりバイクに興味のない人から反感を買わないエンジン音なことは間違いない。
それから、初期型のK1200Sと比べると別物のように軽くなったクラッチを操作し、
シフトチェンジが大幅にスムーズになったギアを1速に入れてスタート。
K1200Sと比べるとトルクの厚みは大差ではないが体感できる程度に増している上に
スロットル操作に対するエンジンのツキが一回りは緩く設定されており、更に新しいダンパーを備えたドライブシャフトが
意図的なスロットルの煽りにも巧みにトルク変動を吸収して駆動系のスナッチを消しているために
中速〜低速走行時の走行が実にスムーズになり、神経を遣わされることも格段に減った。

そこからスロットルを一気に開けるとK1200Sより一瞬遅れてからパワーが盛り上がり、例によって抜群の加速を見せる。
その状態での振動の減少も明らかで、K1200Sの頃からこのエンジンはK100系の縦置きエンジンよりも低振動だったが
(振動が硬質で高周波だったため印象では損をしていたが)K1200系ほどではないにしろ全体的に振動に角が取れ、
あまりカンに障るものではなくなったために印象としても随分柔かい回り方をするようになった。
このエンジンのキャラクター変更は長距離ツーリングでの疲労減少にもかなり効くだろうが、
K1200Sほど高回転まで回りたがって乗り手を急かせる特性に躾けられているわけではないので、
操っての楽しみそれ自体を求める向きには痛し痒しだろう。実際、エンジンを回して走る楽しさはやや低下したと言わざるを得ない。

試乗車のサスペンションはESAUが装備されていたが、もともと柔らか目の設定だったK1200Sと比べても
更に減衰力が弱めになったようで、最高速300キロをほぼ可能とする超高性能車ということを考えれば乗り心地は抜群に良い。
当然ESAをコンフォートに設定するとその傾向は更に強まるのだが、
さすがにその状態ではコーナリング時にわずかに減衰力不足を感じることがあった。
比較的ソリッドな動きが特徴だったK1200Rに対してK1200Sは高剛性の車体の下で柔かいサスが忙しく動いて
無茶な走りをしてもライダーの関与しないところでどうにかしてしまうという性格付けだったが、この流れはK1300になっても
ほぼ踏襲されており、車体の下でサスが驚異的に忙しく仕事をしている感覚はより強く感じるようになった。
ただし、サスが柔らか目になったことと無縁ではないだろうが車体の安定感はそのかなりの部分を243Kgもある
質量に依存している感じがありK1200Sと比べると良くも悪くも重量車然としたゆったりした乗り味になったため、
振り回した時に車体の重さをネガティブなものとして感じる機会がK1200Sより増えたのも事実である。
また、K1200の時にはSとRでフロント周りのパーツにそれぞれ専用品を使用することで
フロント回りのジオメトリーを変えて明らかに異なったハンドリングを実現させていたのが今回のK1300では
フロント周りのパーツがSとRで共用となり、サスペンションユニットのセッティングだけでハンドリングの性格付けを行っている。
部品の共用化でコストを下げつつそれぞれに独自のキャラクターを与えた・・・と言えば聞こえはいいが、
1200の頃に比べるとSとRのハンドリングの違いがかなり小さくなり、ハンドリングの個性は随分と弱まっている。
リーンスピードが遅くなり前輪の舵の入りも多少鈍くされた変更はより万人向けに安定感が増して扱いやすくはなったが
同時に操り甲斐が減ってしまってもいるわけで(好みはあるが)、前輪から倒れこむばかりにぐんぐん曲がってくれた
K1200Sのハンドリングをかつて絶賛した私には素直に喜べない部分だ。もちろん、ブレーキ性能にはいつも通りまったく不満はない。

さて、まとめ。より万人向けに熟成されたK1200Sの進化版だ。外観の変化は小さなものだがその中身たるや
駆動系を中心に大幅に手が入れられており、全体的な洗練の度合いはK1200Sとは比較にならないほど向上している。
K1200Sの頃には性能は凄いのだが乗って感じられる機械としての洗練性はやや希薄・・・というより、
はっきり言えば価格の割に荒々しくて安っぽい感覚が常につきまとっていたのだが、
このMCで遂に縦置き時代の重厚な感覚が戻ってきたかと思えるほどにその改善の度合いは大きい。
エンジンは扱いやすくなって実際のパワーも向上し、乗り心地も向上し、ASCなど電子制御も一段と進歩・・・と、
機械としての完成度で考えれば断然、K1200Sよりもこちらが優れており、
より広い層にその良さを理解しもらえるバイクへと 着実な進化を遂げている 。
但し、これは致し方ないことではあるが腕自慢が飛ばした時に得られる走りの楽しみはK1200Sよりも低下している。
エンジンのキャラクターはマイルドになり、動力源としては優秀になったが存在感は薄れてエンジンとの対話はあまり楽しめないし
足回りの設定にしても(絶対性能はさておき)車体から積極的に旋回性を引き出そうとする味付けとは言いがたく、
スポーツ性はある程度のところで抑えたまま、GTとしての性能をより高めた方向のセッティングだ。
これを不満に思われる向きもあると思うが、そういう層に対してはK1200Sの中古をお勧めする。
BMWが今回のMCで目指したのは、機構的改良は勿論だが性格的にはK1200RSのスポーツツアラー路線への回帰であり、
実際のところ前期型K1200RS(後期型K1200RSやGTではない)の正常発展型と考えるとイメージ的にもほぼピタリと嵌る。
K1200Sに乗換えて「性能は凄いけど、前乗っていたK1200RSから比べるとスポーツに振りすぎてちょっと・・・」と
釈然としないものを感じていた層には、多分強力にアピールすること間違い無しのバイク。
基本がK1200Sだけにスクリーンの低さやパニアの容量の小ささなどユーテリティ面では限界を感じるのも事実だが、
こういうスポーツツアラー風バイクを作らせたらさすがにBMWは極めて上手だ。
Kシリーズ/Rシリーズを問わず、現行のBMWバイクの中で昔の「RS」に性格的に一番近いのはこれなので、
「最近のBMWはスポーツに振り過ぎ、オンロードしか走らないからGSは要らないしRTではスポーツ魂を満足させてくれない」
などと思っておられる方には、現在のところ最善の選択肢になると思う。

K1200S
一見して低く長い車体は写真の印象ほどコンパクトではなく、CBRと隼のちょうど中間くらいのボリューム感がある。
前後に長い前傾エンジンに前後に長いデュオレバーを組み合わせているためかホイールベースは非常に長く
細かい部分まで見ていくと間延びした印象も受けるのだが、全体としてそれを感じないのはデザイン部門の力量だろう。
しかしアプリリアのようなシルエットをしたアッパーカウルとタンクのデザインにホンダで見たようなヘッドライトの形など、
細部を見ていくとディテールの細部にデジャビュを感じてしまう部分もまあ、それなりにはある。
各部の作りだが、最近のBMWに共通するコストのかかったところとコストダウンした部分が非常にはっきりした印象を受ける。
複雑なデュオレバーやオプションのESAなどはコストのかかった部分の筆頭格だが、
質感に欠けるエンジンの黒い塗装やカウル内のしょぼい外見、カウルの内側にむき出しのコンピューターユニットなどは
露骨にコストダウンされている部分だろう。
生産技術にも詳しい友人に言わせると「この質感は大体国産の400ccクラスと同程度ですかねえ」なのだが、
私としては心情的にもせめて600ccクラスと同格あたりではないかと擁護しておきたい。
もっとも、値段が半分のCBRに見た目の高級感で歴然と負けているというのは
高級車に必要不可欠な所有欲という観点からは明らかなマイナス。
BMWももっと日本車のいいところを学んでもらいたい。

またがってみると、前傾姿勢は外見から想像するより遥かに楽である。
膝の曲がりはそこそこあるがそれにしてもR1100Sと同程度で、前傾の度合いはそれより一回り緩い。
ポジションだけで考えるなら、この手のバイクの中では楽な方の最右翼に位置するだろう。

また足付きはシート高を考えればかなり良好。幅の狭く座面部分のシートベースの強度がやや弱いシートの出来は
個人的には気に入らないが、普段の取り回しの良さには確実に貢献している。
なおハイシートの場合はシート高が3センチ上がる分、前傾も強まってR1100Sと同じくらいの前傾で
膝が随分楽になる。前傾は好みが分かれるだろうが乗り心地はこちらの方が確実にいいし
膝の曲がりにしても具合がいいので、足付きに問題がなく(高さの分正直に悪化する)
スポーツ志向の方にはこちらをお薦めする。
但し、ある程度飛ばした場合でも運動性の違いはそれほど判別できなかったので、
あまり飛ばされない向きには高価なエクストラコストを払ってまでハイシートにする必要はないかも知れない。

ハンドルは性格を考えると垂れ角がやや弱く、幅も少し広めなもの。
ホイールベースが長い割にはシートとハンドルの距離が近く、
コンパクトでありながら窮屈にならないなかなかよく考えられたポジションで
前傾ポジションに慣れた人ならロングツーリングも楽勝だろう。
ちなみにハンドルはデュオレバーのため最近のBMWの中では極端に切れが悪く、
一昔前のドゥカティほどではないものの停車時のUターンなどでは苦労する。もっとも、ハンドルをフルロックまで切っても
親指がタンクに挟まれたりしないのはイタリアとは違うドイツ人ならではの造り込みと一応褒めておきたい。

車体がK1200RSより大幅に軽量化されたこともあって、総じて取り回しはK1200RSよりも随分楽になった。
ハンドルの切れ角が減ったのはマイナスだが、軽くなった車体がそれを補って余りあるだろう。
左右に揺らしてみるとそれなりの質量感はあるのだが、基本的には走行状態248キロという車重以上に軽快な印象で
より軽量なR1150Rあたりと比べても重量車を意識することは少ない。
難点を挙げるなら先のハンドル切れ角の少なさと、遂にモーターのミューミューいう作動音からほぼ解放された
EVOブレーキにはブレーキを握ってから油圧がかかるまでの僅かなタイムラグが相変わらずあるのだが、
今回のデュオレバーではブレーキでフロントサスがある程度ストロークする設計になっているため
取り回しの時に下手にブレーキをかけると一瞬遅れてからフロントが沈んだり浮き上がったりする点だ。
慣れで解決する範囲だと思うが、車体の安定にも関わることなので最初は慎重な扱いをお薦めする。

エンジン音はK1200RSより重低音の効いた、いかにも排圧がかかった高性能エンジンといった感じの乾いた音だ。
アイドリング時にはおよそ音の色気に乏しいK1200RSと違い、こちらはきっちり高性能エンジンであることを主張してくる。
ただし、騒音規制などもありアイドリング時の絶対的なボリュームはそう大差はない。
また軽くブリッピングをくれてやったときのスロットルの反応の良さとピックアップの鋭さはK1200RSの比ではなく、
レプリカのよう・・・とはいかないが完全にスポーツバイクの水準にある。
質量や機構的損失をほとんど感じさせないかのようにいかにも軽々と回る様は、
さすがにBMWが20年ぶりに完全新設計した水冷直列4気筒エンジンだ。
ただし明らかにアイドリング時の回転がばらつく傾向があり、K1200RSのように上品に粛々と回る感じではない。
エンジンを高回転型に振った代償で低回転時の燃焼が均一にいっていないのだろうが
(そのくらいしか原因が思いつかない)これは明らかに退歩と言わざるを得ない部分だろう。

ついでにオプション装備のESAを調整。とはいっても、丸いボタンを押せば順にノーマル→スポーツ→コンフォート→ノーマルと
フロントの伸び側減衰とリヤの伸び・圧側減衰が予めセッティングされた状態に切り替わるだけなので話は簡単。
リヤのプリロード調整にしても停車時に同じボタンを長押しするだけで、あとはボタンを押していけば
液晶ディスプレイにヘルメットマークが表示されるだけなのでまごつくことはない。
走行中には一度押しても現在のモードが表示されるだけで変更にはもう一度ボタンを押さないといけない点といい
(おそらく安全設計のため)シンプルかつ極めてわかりやすく、よくできたインターフェースだと高く評価しておきたい。
ちなみに変更される減衰力はボタン一回につきオーリンズでダンパーの調整を2クリック弱ほど変えるくらい。
走行中ならボタンを押してから0.5秒ほどのタイムラグの後で音も無く作動感が変化する。
このくらい変わると乗り心地も変わるし(基本的には柔らかいが)倒し込みにも違いが出てくる。
これは確かに便利で面白いシステムだが、もし壊れた場合にどうなるのか少々気になる部分ではある。

さて、発進。油圧クラッチはかなり重く長時間握り続けるには結構な握力が要求されるもので
個人的にはレバー比を変更してクラッチを軽くしたいと思う水準のものだが、
R1150系に比べたらクラッチ自体の節度はよくつながるタイミングも比較的わかりやすい。
この辺は大排気量車用の湿式多板クラッチの経験が浅いメーカーにしてはなかなか上手な設定だと思えた。
ただし、前述したようにスロットルの反応がこれまでのBMWでは考えられないほど良いため
これまでのBMWと同じ感覚で大きめにスロットルを開けてしまうと突如として跳ね上がるタコメーターの針に驚くことになる。
もっとも、湿式クラッチだからその辺については乾式よりも鷹揚だと思われるし
スロットル開度にしても慣れれば問題ない範囲だろう。私はすぐに慣れてしまったし、問題ない範囲だと思う。
体感上の低速トルクや粘りは体感上K1200RSよりも無いのだが、車体が軽いせいか特に痛痒は感じない。
1200ccの排気量があるとはいえ、高回転高出力型のエンジンにしてこのマナーの良さは立派というべきだろう。
同時に試乗した友人からはこの速度ではハンドルがやや重くステアリングダンパーが効きすぎではないかという意見もあったが、
個人的には特に気にならなかった。
エンジンの横置き化に伴って完全新設計されたミッションのシフト感覚は新車のせいもあってか引っかかり感こそないが
全体にやや重く、妙にストロークが長いこともあって悪くはないが及第点かな・・・という印象。
基本的なタッチはEVOミッションに似ているのだがあれほどスムーズなわけではなかった。
素早いシフトにはある程度対応するが、日本車のように素早くできるわけではない。
また停車時にローに入れたときのガッチャンという大きなショックと音は国産では当たり前だが
BMWのKやRではこれまでになかったもので、改めて体験すると高級感を損なうことおびただしい。
Fシリーズで横置きミッションの経験も積んでいることだし、評価を甘めにする必要もあるまいが
ミッションの出来については縦置き時代の方がずっと良かったというのが正直な感想だ。

混雑した市街地を走っていて驚くのは、なんと言ってもデュオレバーの抜群の作動性だ。
もともとこのバイクは停車中に前輪ブレーキをかけて車体を上下にストロークさせてもサスと車体がちゃんと動く!という
只者ではない特性を持っているのだが、この作動性の良さはテレレバーにオーリンズ等を入れたときを遥かに凌駕し
テレレバー+ペンスキーの状態にストックの状態にしてほとんど匹敵する。
ただしペンスキーほどのフラットライド感はなく、鋭い上下動をゆったりと振幅の大きな動きに引き伸ばしているような
独特の作動感覚はオーリンズやWPとも違い、経験した中ではハイパープロに近い印象だ。
サス自体が全体的に柔らかめな設定になっていることもあるが、ESAのモードをいろいろ切り替えても
リーンスピードや乗り手の入力に対する反応速度などは正直に変化するのだが
いかにも足がよく動いていますといった感じの基本的なところは変わらず、角の取れた乗り心地は抜群の一言。
(SPORTモードはややリヤからの突き上げが強い印象を受けたが、許容範囲だろう)
勿論実際の減衰力は充分に設定されていて、大入力に対しても簡単に腰砕けになったりフワついたりすることはない。
ちなみにESAなしの場合はNORMAL状態での固定となるが、この状態でも特に不具合はない。
ただしフロントサスは減衰力もプリロードも調整できないセッティング完全固定品になるので、
これだけはなんとかしてほしかったと思う。
なお停車時に下ろした右足はクラッチカバーに容易に接触する。
前傾エンジンのためクラッチ位置が相対的に後ろにあるためだが、標準装備のカバーはヒートガードとして必須の装備だ。
あと気になった点の筆頭はリヤブレーキの効きが甘いこと。小回り時の姿勢制御用程度にしか効かない。
(この点は改良が施されたと聞くが、私は改良前の車輌しか乗っていない)
フロントが強烈に効くので不満は小さいとはいえ、やはりリヤももっと効いて欲しいところだ。
また、40キロ以下でスロットルオフにすると出る駆動系の過大なスナッチは早急に何とかしてもらいたい。
新車同然の一台を除きそれ以外で乗った6台のK1200S/Rですべてこの症状が出ていたが、
これではせっかくの車体も興醒めである。

前が空いたのでペースを上げてみる。低速ではよく粘り充分なパワーはあるもののあまり上品な回り方をしない
新しいエンジンだが(マナーは縦置きの方がずっと良い)、さすがに加速力はK1200RSより優に一回り以上強力で、
おもむろにスロットルを開ければ金属的なギャギャーと喧しいエンジン音を伴いながらとんでもない勢いで加速する。
(後で自分のK1200RSで同じ場所を適当に加速した時、「遅い!」とフラストレーションを感じたのに驚いた)
その状態での速度感はK1200RS/GTよりはあるがBMWの伝統通り絶対的にはそれほどでもなく、
実際の速度はライダーの認識する速度感覚よりも常に高いところにある。
この状態での直進性や車体の安定感は模範的で、文句のつけようがない。
上体への防風性は軽く前傾している限り(スクリーンを下げた状態での)前期型K1200RSより上で
後期型のK1200RSよりは下。小さなスクリーンの整流性は見た目以上に優秀で、
肩の高さまでの風圧を効果的にカットしてくれる。また風の巻き込みが少ないのも評価を上げるポイントだ。
但し、タンデムライダーまでその恩恵に与れるかは不明。下半身の防風性はパンツの裾辺りに乱流が発生するようだが
それを除けば見た目よりずっと優秀で、かなり風洞実験で形状を煮詰められたであろうことが判る。
勿論、K1200RSよりは劣るわけだが。なおエンジンからの熱気はサイドカウルの隙間から結構排出されてくる。
(多分負圧を利用して排出していると思うが)これについてはK1200RSほど精緻にマネジメントされた印象はなく、
何となくアバウトな放熱という印象を受けた。
なお、昆虫の触覚のように飛び出たミラーは鏡面はそれほど広くはないものの視認性は充分で、
高速走行時でもブレは少なく視界は良好である。

そこからそのままコーナーに突入。基本的にはBMW一連の低重心設計で軽さと安定感が同居した感覚なのだが、
”非常に長いホイールベース”や”デュオレバー”という新機軸が加わったこのバイクのコーナリングは
それだけでは終わらない驚異的な能力を備えている。
バンクは軽快だかそのスピードは車輌の性格を考えればまあまあで、
遅くはないがそれほど素早い倒し込みができるわけではない。
また旋回力もビューエルのように唯一無二のジオメトリーにモノを言わせて強烈に曲がっていく感じではない。
ひたすら安定した状態で前後のバランスしたニュートラルな旋回力をバンク角で稼ぐタイプなのだが、
フロントのデュオレバーは路面がうねろうがギャップがあろうが凄まじい作動性とグリップ感を示し
それこそフルバンクに近い状態で路面の穴ボコを通過しようと車体の安定感はほとんど崩れない。
テレレバーより作動時のフリクションロスを10%低減したというデュオレバーの作動性の高さを実感できるが、
(テレレバーはフォーク内にオイルシールを持たないため、テレスコよりもともとフリクションが少ない)
こういう走りを見せ付けられるとそういった細部の性能差が如何に効いてくるかが理解できる。
またピックアップの良くなったエンジンはその状態でも右手の動きに(乗りにくくない程度に)間髪入れず反応し、
充分なトラクションを感じるリヤは作動感が高いまま充分な路面情報を伝えてくるので
テレレバーのBMWが怖くてスロットルを緩めてしまうような速度域でも安心してスロットルを開けていける。

またデュオレバーのフロントとEVOブレーキの組み合わせは間違いなく最高水準にあり、
雑誌の表現を借りれば「地面にめり込むような」強烈なブレーキングが誰にでも可能である。
この時のサスペンションの剛性感と作動感はテレレバーでも体験できなかった高レベルにあり、
テレレバーでも結局はたわんでいるのだということを否が応でも認識させられる。
一度フロントがロックするまで急制動をかけてみたが、その時にも一瞬フロントが滑ったのみで
その後は何事もなく止まってしまった。この時にも安定感は微塵も崩れず不安感も感じなかったが
このブレーキ性能があるというだけで実際にも精神的にも絶大なアドバンテージである。
事実コーナー入り口でブレーキを多少遅らせようがこのバイクにはどうということはなく、
デュオレバーの威力もあって(フルブレーキはさすがに無理だが)ある程度までのブレーキングなら
バンクしてからフロントブレーキを使っての減速やライン取りの修正までを自在にこなしてしまう。
その分フロントタイヤには相当な負担がかかっているはずだが、
フロントタイヤが限界に近い様子を感じ取りながらも乗り手に恐怖感はなく、
絶大な安心感を頼りに構わずスロットルを開けて加速できるというおよそ呆れるほどの懐の広さを誇る。
従って絶対速度も遅いはずがなく、試乗車では自分のバイク以上に飛ばさない(飛ばせない)私も
いきなり乗ってそのまま乗り慣れた自分のR1100RSとほぼ同等のスピードで下り坂を走れてしまった。
(慣れれば当然、R1100RSより遥かに速いだろう)
これは今までには一度もなかったことで、つまり今まで試乗してコーナーをある程度攻めたバイクの中で
コーナリングが最も速かったということである。
付け加えておくとコーナリングにおけるK1200RSとの最大の差は下りのタイトコーナーで、
フロント回りの質量感が一人乗りとタンデムしているくらいに違う上にフロントからの旋回力が段違いなので
仮に二台で競争した場合、多少の腕の差があっても低速コーナー主体のダウンヒルならまず圧勝を請け負える。

もちろん不満もないわけではなく、シートベースの剛性不足はリーンインで走ろうとすると腰と太股を乗せた部分が
たわんで荷重をかけにくくなるし、このこともあってシートとタンクのホールドが今ひとつで
深いバンク角では体を保持するのが意外に大変なため、腰を落としたのに荷重があまりかからない状態に陥りやすい。
またミッションタッチの悪さはこういう場面での楽しさを削ぐし、
デュオレバーのフロントブレーキをかけてフロントが沈む設定も個人的には意味が無いと思え納得がいかない。
違和感を感じるライダーに配慮したのだろうが性能的なメリットが残念ながら見当たらないので、
(コーナリングに特にプラスの変化を覚えないし、ブレーキングでは体が前のめりになりやすい)
ここは唯我独尊を貫いてもらいたかったところだ。
あと、個人的な好みで言うとコーナリング時のリヤ周りの自由度がやや小さいのがネックで、
K1200RS以上のコントロール幅があるとはいえスポーツバイクとしてはもっとスロットルで曲がる楽しさを求めたい。

またESAの電動調節機構は9割以上のライダーに歓迎されるだろうが、サスの調整を自分でできるライダーにとっては
いくら有用な機構とは言っても所詮はメーカーの万人向けお仕着せセッティングであって、
自分の乗り方の好みに合った細かい設定までができるわけではない。
(自分でセッティングしたデータを保存しておき、ボタン一発で呼び出せるようになれば評価は随分変わる)
これを選ぶとより高性能な社外品サスへの交換がほぼ不可能になることや
現在のところESAのサスユニットがオーバーホール不可能であることも私の評価を下げる要因で、
もし自分でこのバイクを買うとなったら(9割のライダーにはESA付きを勧めるが、と断った上で)
迷わずESA無しを選んで浮いた差額を社外サス購入費用の足しにする。

さて、まとめ。スポーツバイクの格好をした猛速のGTだというのが正直な感想。
サーキットならともかく、一般公道でこれほどの速さと安心感を両立したバイクには他にちょっと思い当たらない。
またコーナリング性能に於いても素晴らしいものがあり、これだけの性能を一切破綻させず
ライダーにとって尖ったところがないよう実用性も加味してまとめあげた設計の優秀さとパッケージングの妙は
速く走るためのバイクとしては素直に感心するしかないのだが、
スポーツバイクとして考えた場合には楽しさより乗せられている感を強く感じてしまうため
結果として速さの割にコーナリングの達成感や楽しさが薄く、単純な操っていての楽しさだけで論じるなら
日本ではほぼ同時に発売されたR1200STの方が明らかに上である。
しかしBMWがこのバイクに与えた位置づけは”スポーツ”であるし、積載性や快適性はGT(グランドツーリング)
というほどの水準にはない。その辺の中途半端さが良くも悪くもBMWらしい部分だと思うが、
実質的には新規の顧客を取り込もうという意図がありありのこれまでのBMWになかったジャンルのバイクで、
個人的にはその位置づけにどうしても好きになりきれない部分があるのも事実。
あと、価格は明らかに割高。いろいろな電子制御機構を装備しているから直接の比較は無理としても、
国産のリッター級スーパースポーツと比べてパワーでやや劣り足回りでは勝つものの質感が同等で
価格が約100万円高というのはユーロ高などを考慮しても些かBMWに支払うブランド料が高すぎる。
(この批判は日本の販売網ではなく、ドイツ本社に向けている)
K100以来BMWのもたらす所有感はモデルを重ねる毎に低下しているが
最近の質感の低下は些か目に余るものがあり、性能優先フィール二の次のエンジンの質感もあって
このバイクでは苦言を呈したくなるまでになっている。

・・・というような気に入らない部分もあるが、それらを全て理解した上で許せるという向きには
文句なしにお薦めできる極めて完成度の高いバイク。
新しいKシリーズの驚異的な運動性能は従来のKシリーズをまったく寄せ付けない水準にあり、
気分のいい速度で走らせている限り価格分の満足感は保証されたも同然だ。
ただし、あまりにも簡単に速度が出てしまうため大型二輪初心者の方には購入は一考をお願いしたい。
物理的な取り回しさえクリアできれば誰でも乗れる間口の広さがBMWの特徴と思っていたが、
このバイクとK1200Rだけはハイスピードのリスクを判っている方以外には危険な
初心者お断りのバイクだと(実際ハイスピードで走れてしまうだけに)敢えて言わせていただく。

K1300R
素人目にはK1200Rと酷似している車体だが、詳しく見れば外装パーツは結構な部分が新造されており
旧型を知る者であれば間近で眺めた時の印象は少なからず異なる。簡単に言えばよりゴツくなり、
マッシブさと押し出しの強さが増したということになるのだろうが、同時にMCしたK1300SやGTと異なり
機能面とは関係ない部分のパーツだけを変更しており、単に旧型との差別化とマーケティング戦略の都合で
変えたように思えるのは正直言って気に入らない部分だ。デザインそのものはK1200Rより良くなっていると思うが、
質実剛健や形は機能に付随するといったデザイン理論はBMWの中では滅びつつあるのかと思うと
個人的にはやはり寂しさを禁じ得ない。外観と品質について述べるべき点は殆どないのだが、
デュオレバーのロアコントロールアームがスチールからアルミになったことはやはり書いておくべきだろう。
はっきり言えばその程度で運動性能に大きな変化があるとは思えず、軽量化による変化もサスのセッティング次第で
なんとでもカバーできる程度だと思うが、それでも性能的にはやはり有利なわけで
そういう細かい部分も改良を重ねていくという姿勢はやはり大切だと思うのだ。
また、マフラー形状に変化はないようだが、サイレンサーは別冊MC誌で
「二世代くらい前の日本製アフターマーケットパーツみたいな形」と評された円筒形サイレンサーとは決別し
5角形のショートタイプという、個人的にはK75以来久しぶりのデザインコンシャスと思える形状になっている。
K1200時代よりサイレンサーの容量が減っているから騒音対策には当然不利なはずだが、
1200のままでは通らないと言われた日本の騒音規制をきっちりパスしつつ、
本国仕様とパワー差なしの日本国内仕様をリリースしてきたことには素直に感心する。
この辺りの開発姿勢は是非国内メーカーにも見習ってもらいたい所だ。

またがった時の印象はK1200Rとまったく同じなので省略。新型になったハンドルスイッチについては
K1300GTの項を参照されたい。細かいことを言えばメーターパネルからK1200Rのロゴが消えたり
メーターの指針がこれまでHPシリーズ専用だったブルーに変更されたりしているが、どちらにしろ些細なことだ。
また、試乗車はプレミアムラインだったのでASCが装着されていたが、試乗中にこれが作動するような場面は
なかったので作動感についてはコメントできないことをご了承願いたい。(システムの是非については後述する)

エンジンは1200時代より多少静かになったかなと思うが、基本的な音質は変わっていない。
つまり、いかにも排圧がかかった感じの高音をアイドリング時から響かせるあの感じだ。
スロットルを軽く開けてみると、K1300GTよりは鋭いがK1200Rよりは穏やかになったかと思うくらいの
ちょうどいい塩梅でエンジンの回転が跳ね上がる。1200時代よりも多少軽くなったクラッチを握り
大幅にショックが減ったギヤを1速に入れると、トルクにものを言わせる感じで車重を感じさせずに
楽々と発進する感覚はK1200Rとまったく変わらない。
ただし、そこからの加速感は少々異なる。ミッションの改良によりシフトアップがスムーズになったことは前述の通りだが
スロットルオフ時の回転落ちが1200時代より多少緩やかに躾けられているようで、
それらの相乗効果でK1200Rでは電光石火のシフトか敏感なスロットルをミリ単位でコントロールして
回転を合わせてやらないとスムーズなシフトが難しかったのが
このK1300ではある程度ルーズなシフトも許容するように変化している。
ただし、スロットルの開度があまり大きくない低速域ではギヤシフトアシストはあまりうまく働いてくれないようで
短い試乗の中でいろいろ試した限りでは回転数の変動幅がHP2スポーツより大きいためか
あれに搭載されていたものより扱いにくい印象だった。

また、スロットルを大きく開けた時の反応は1200時代より明らかに鈍く、
50キロ程度の巡航から4速ワイドオープンなどという使い方をするとスロットル操作から
実際に加速を始めるまでのタイムラグが1200に比べて大きくなったのがはっきりとわかる。
そこからの加速力が尋常ではないのは従来通りだが、隊列を組んでの試乗ではそれ以上のことは試せなかった。
またミッションとドライブシャフトの改良の効果はK1300GTでも非常に大きかったが、
このK1300Rでは元のK1200Rのショックがかなり過大だっただけに正に絶大という程の変化となっており
(絶対的なスナッチの大きさはGTと同じ程度)スムーズな運転のために右手の操作に神経を使う必要が
ほとんどなくなり、乗っていての上質感も格段に向上している。

足回りについてはK1200Rと多少の方向性の変化がある。ESAを試した限りではK1200Rよりも
はっきりと乗り心地優先の設定になっているのだが(K1200Sに多少ダンピングを効かせたような感じ)、
サスが引き締まっている感覚はK1200Rよりもむしろあり、初期のガツンとくる硬さを取り去って
奥の方でしっかり減衰を効かせている印象だ。その分K1200Rと比べて軽快感が薄れた感じは否めないが、
乗っていての快適性は確実に向上している上に後輪からの安定感も多少増しており、試乗ペースで試した限りでは
前輪から積極的に切れ込んで旋回力を生もうとする傾向がやや薄まり、曲がり方はより素直になった。
もちろん、絶対的な旋回性能とデュオレバー特有の圧倒的な安定感は申し分ないの一言だ。

さて、まとめ。かなり大人びた、K1200Rの進化版だ。絶対性能を引き上げつつも
機械としての洗練の度合いを大幅に増す方向で各部が変更されており、
K1200Rでややガキっぽく感じられた部分が影を潜め、大人っぽい上質な方向にシフトしている。
パワートレーンの洗練の度合い、乗っていての快適性や上質感はK1200Rを大きく引き離しており
性能自体も(おそらく)向上しているのだから高級バイクを愛する者としては言う事はない。
そういう意味でのBMWらしさは確実に増しており、個人的にも
「1200時代にこの完成度だったら、たぶんK1200Rは手放さずに大事に持っていただろうな」と思った程だ。
ただしその分荒削りな部分や神経質な部分、機械が存在感をダイレクトに主張してくる部分も失われたため
刹那的な楽しさはやや薄れたと感じられなくもないが、
価格に対しての満足感の度合いが確実に向上したのは間違いのないところだろう。

では中古のK1200Rと比べたらどうか?という点だが、まず新車同士での比較では例のスイッチがどうしても嫌か
荒っぽくて神経質で乗り心地が悪く乗っていて疲れる方がいい、という変態さん以外には圧倒的に新型を薦める。
これを踏まえた上で書くと、絶対的な速さはK1300Rの方が速くなっているのだろうが、
1200の時点でも速さは申し分のない領域に達していたから絶対性能の違いについては
正直言って一般ユーザーにはほぼカタログを眺めて自己満足という領域の話になり、
その点だけなら1200でも十分以上でお釣りがくる。足回りの洗練性は価格差で前後に社外サスでも奢ってやれば
十分に差を埋められるだろうし、防風性や積載性は同等だから駆動系のガチャガチャいうのさえ我慢できれば
(後期モデルを選べば歴然とした差はあれどかなり改善されるはずだ)価格の安さで
アクティブラインやハイラインのK1300Rよりも中古の1200Rをあえて選ぶという手も相応の説得力があると思う。
ただし、個人的には扱いやすさが大きく向上したことでその性能を引き出すための間口が広がったことに
今回のMCの本当の価値があると考える。
BMWジャパンの詳しい方から話を聞いたところでは私が試乗で扱いにくいと感じたギヤシフトアシストは
元来フルスロットルかそれに近い領域で加速中に真価を発揮するシステムで、
(K1200Rで全開にすると3速で170キロ、4速で190キロを超えることは元オーナーとして付記しておくが)
これとASCを組み合わせてやれば、K1300Rはコーナーの出口でいきなり全開にして
(タイヤが滑らない範囲で最大限のパワーを出せるよう、ASCが自動的に制御してくれる)クラッチを握らず
シフトレバーをかき上げるだけで、ほぼパワーの途切れがないまま人間では殆ど不可能な
超高速のシフトアップを連続的に行ってコーナーを立ち上がっていくという、スーパースポーツ好きとしては
想像しただけで口の端から涎が出そうな走りが誰にでも!可能になるということなのだ。
これはK1200Rではどう頑張っても到達不可能な領域なのだが、
その走りを実現するためには一番高価なプレミアムラインを選ばねばならず、高性能だが相変わらずOH不可の
ESAU(これが一長一短だという評価はK1200Rの頃から変わっていない)もセットについてくる。
バイクとしての出来が申し分ないことは太鼓判を押してもいいが、その神髄に触れるためには
一番高いグレードを選ばねばならないというのはもう少し一考してもらいたかったと思う。
その点と価格さえ納得ができれば文句なしの真の意味で”スーパー”なスポーツネイキッドだ。

K1200R
基本的にK1200Sと共通の車体は、よく見ると外装のほとんどが専用設計でかなり力の入ったモデルだとわかる。
デザインの良し悪しについての論評は避けるが、個人的にはどうもオリジナリティに欠けると感じるK1200Sより
少なくともデザインチームの主張がはっきり伝わるデザインで好印象である。
K1200Sだと実に安っぽく思えたメインフレームから延びるシートレールの処理や細部のディテールも
このバイクではカウルがなく必然的にゴツゴツしたラインに見えることを上手に利用して違和感なくまとまっており、
相変わらず価格相応の高級感があるとは言い難いがK1200Sほど見た目がしょぼい印象はない。
商品の製造原価(車でもバイクでも、実際には驚くほど安い)より高級そうに見せることは高額商品では当たり前のことで、
この辺はBMWのデザインチームの勝利と思いたいところだ。

またがってみると、メーターはR1200GSの流用品で(文字盤などは当然異なる)従って小さな回転計が正面に来て
スピードメーターは左横に追いやられている。別にどうということはないのだが
大きな速度計が正面に来ていたK1200Sと比べると速度計より回転計が視界に入りやすいわけで、
これはよりスポーツ走行に振った性格を反映しているようで妙に気になった。
なお、新設されたフレームスライダーは違和感なく車体に溶け込んで入るものの本当に効くのかどうか微妙な位置にあり
ノンカウルのこのバイクでは一個だけでは果たして大丈夫なのかどうか個人的にははなはだ不安である。
勿論無いよりはましだろうが、フレーム以外の部品もとんでもなく高価なBMWのことだから
転倒時の効果について過大な期待は控えた方が良いと思われる。

またがった感じは下半身の印象は当然K1200Sに近いのだが、上体の印象は大きく異なる。
まず、シートはK1200Sより座面がフラットで硬度が高く(試乗車はローシートだった)、
膝の曲がりも心なしか緩い印象を受けた。シートは滑りにくくタンデム部分との明確な段差が
シートストッパーとして機能する上に座面の剛性が不足する感じもなく、この辺はSからの改良の後が伺える部分である。
対して上半身だが、ハンドルがバー一本分ほど上に移動し幅が広がったため、広く垂れ角の少ないポジションは
前傾の度合いを含めて実はR1100RSのハンドルを一番開いた状態に近いものになる。
ネイキッドバイクとしてはかなりの前傾ポジションだが、後述するようにこのバイクはツーリングバイクではないので
性格を考えたらこれで問題なしである。また、開き気味のハンドルのため巡航中は自然と
両腕を真っ直ぐ伸ばして前傾した上体を支えるような姿勢になり、
風圧さえ気にしなければ高速巡航も意外に楽ではないかと思われる。
また、タンデムシートの居住性はせいぜい並のレベルと推定。グラブバーの形状は適切だが座面が狭い上に
シートの前後で高さに差がありすぎ、快適性は高くないと思われる。
なおミラーはR1200STと共通で、相変わらず視線移動が大きいものの視認性は良好だった。

試乗車がマフラーを交換してあったので正確な判断はできないが、ノーマルマフラーの車輌を間近で見た経験からすると
エンジン音については基本的にK1200Sと同じ。但し、アイドリング時の回転のばらつきや金属的なノイズは
マフラーを交換した分を差し引いてもK1200Sよりスムーズで静かになっており、
これまたSから改良が進んだことを伺わせる。Sもいずれこうなることを期待したいものだ。
(BMWの常として、そういう改良をきっちり実施していくことについてはこのメーカーを疑っていない)
一方、ミッションのタッチについては残念ながらSからの改善点を見出せない。とっとと進化させて欲しいものである。

さて、走り出すとSとの違いは明確になった。エンジンを少々低速側に振ってファイナルを3%ほど低めたに過ぎないのだが、
(同じくマフラーを交換したSとも乗り比べてみた結果として)それだけでSの低速トルクがか細く感じられるほど
強力なダッシュ力を発進直後〜100キロ超の速度域まで満遍なく発揮する。
これほどの違いが出るとはまったくの予想外で大いに驚いたのだが、
その分飛ばした時にはK1200Sに比べてややギヤが低すぎると感じられた。
ただ、いずれにしても日本国内で峠〜サーキットをかっ飛ばすにはこちらの方が実戦的である。
なお、防風性については試乗車に社外スクリーンが装着してあったためノーコメントとさせていただく。
(ちなみに、そのスクリーンの防風性はなかなか良かった)下半身の防風性は外見相応といったところだ。
なお、クラッチはK1200Sより一回り軽くなった。これは実質的な改良として高く評価しておきたい。

それから道が曲がったところでコーナリングをいろいろ試してみる。これまたK1200Sと似て非なるもので、
結論から言うとこちらが速さで少し勝り、楽しさでは確実に一枚上手になる。
まず、ブレーキングは互角。このバイクのシートは以前乗ったアプリリアRSVミレのように尻の部分に妙に強い反発があって
お陰で見た目の割に面圧が安定して分散せず座り心地もいまいちなのだが、
とにもかくにも広い座面とバーハンドルに近いハンドル形状が功を奏してハードブレーキングでも
R1100Sのように体が前に飛んでいってしまうようなことはない。
普通はブレーキング時にハンドルに力を入れてしまうとサスの作動を阻害してブレーキが効かなくなるのでNGなのだが、
デュオレバーを備えるこのバイクでは直進であれば腕に目一杯力を入れて体を支えても
(基本的にやらない方がいいとは思うが)印象に残るほどのフロントサスとブレーキへの悪影響が無いのである。

そこからの倒し込みだが、上体が起きているせいか何故かK1200Sよりロール軸の低さを強く感じられるもので、
フロントカウルがなくなりフロント荷重が減ったこととキャスターが立ったこととの相乗効果で
結果としてフロントの舵角の付き方がK1200Sより強くなり、K1200Sよりもバンク角に依存しない
コーナリングが可能になっている。また、エンジン特性の変更などもあってかバンクした状態での
トラクションもK1200Sより強く、結果としてスロットルで曲がる要素も強まり
基本的には相変わらずバンク角依存型ながらもK1200Sより乗り手の介在する余地が遥かに大きな
軽快かつスポーティなコーナリング特性に変貌を遂げている。
また、前輪に舵角をつけてから後輪に荷重をかけてスロットルを開けたときの後輪の安定感は特筆すべきものがあり、
乗っていての安心感もほぼ互角。実際にはスロットルを開けられる時期も量もほぼ同程度だから
スピードに大差は出ないが、加速力に優れる分多少なりともこちらが有利である。
またバンク角主体の走りを試してみてもK1200Sに何ら劣るところを見出せず
結構なバンク角でも安定しきったまま相当なペースが可能で、これまた申し分ない特性だった。
敢えてケチをつけるところとしては下半身の荷重移動に対してこのバイクはどういうわけかSより反応が鈍く、
リーンインを充分に許容するハンドリングでありながら腰を落としてからの動きが同じことをやっても
Sより旋回力が変化せず、肩透かしを食ったような気分になることがままあった程度だ。

試乗車はESAなしだったのでESA付きの標準状態とはサスの設定も性能も同じはずだが、
サスのセッティングはSに比べるとはっきりと硬めでSのSPORTとNORMALの中間よりSPORT寄りといったところだった。
なお、シートは足を下ろしたときに太股と当たる部分の形状が悪くMVアグスタF4並に停車中に太股が痛くなる。
ハイシートは試してないので未確認だが、機会があれば試してみたいものだ。

なお市街地でのマナーは基本的に良好。3速1000回転でも緩い坂を楽に登ることが可能なほど
トルクバンドが広いエンジンと比較的立った上体の組み合わせはSよりも街中での適合性を格段に高めている。
ただし、車体の絶対的な長さがかなりあるのと相変わらずハンドルの切れ角が少ないので
ストリートでキングを気取るには取り回し的に考えて少々無理がある。
また、K1200Sで気になった40キロ以下でのスロットルオフに伴う駆動系の過大なスナッチは
相変わらず改善されておらず、これについても早急な改善をお願いしたい。

さて、まとめ。要するにBMWの作ったストリートファイターだ。BMWのネイキッドといってもその性格は
R1100RやR1150Rの延長上にはなく、むしろドカのモンスターやビューエルのXB12、
トライアンフのスピードトリプルやMVアグスタのブルターレといった辺りが直接のライバルになる。
一番イメージ的に近いのは以前ホンダが作ったX−11だろうか。
実用域ではK1200Sさえ凌駕する強力な加速で(7000以上で一気に吹ける感じは試乗した限りではなかったが)
総じて公道ではほとんど無敵に近いと思えるほどの速さを誇り、スポーツ性と乗っての楽しさもK1200S以上。
しかも街乗りからツーリングまである程度こなせる懐の広さがあり、Sより明らかに尖った特性ながらも
決して単に速いだけのジャーマン・ハードコアではない。
そういう観点から考えると、日本の国情にはK1200Sより向いているバイクだと言える。
機械としての完成度は相当に高いところにあり、ネイキッドバイクで速く走りたい人にとっては
現在のところ多分世界の頂点に位置する存在だろう。
また、その速さ故に大型二輪初心者には才能のある方以外は
判子を押す前にちょっとご一考いただきたいという点もK1200Sに準じる。

しかしK1200Sでも感じたのだがこれはBMWにこれまでシンパシーを感じなかった人にアピールするバイクで、
速さはそこそこだがスポーツツアラーの保守本流といった旧来のBMWに愛着を持つ人向きのバイクではない。
従来のBMWを兎に近い足をもつ亀とすれば、これは亀の真似事もできなくはない兎である。
あと、絶対的な運動性能は文句のつけようが無いが速く走っていないとあまりワクワクしないのは
血筋と言えば血筋だろうが、ここまでハイパフォーマンス志向のバイクに躾けたのなら
できれば速さ以外にも乗っていて楽しい要素をもっと盛り込んで欲しかった。
腕が同じなら上記したライバル車に速さで負けるとはまず思えないが、
走っている時の楽しさでこれに勝てるバイクは探すのにあまり苦労しない。
その出来のよさを認めるだけに、中速〜低速での楽しさがもっとあれば!というのは何とも残念である。
その点と価格さえ除けば公道用の超高性能スポーツバイクとして文句なしの一台だ。

K1200RS(前期型)
エンジン音は旧型のKシリーズに良く似た乾いた音で、良くも悪くも四輪的な感じだ。しかし軽くブリッピングすると
何とそれに合わせて足元のアスファルトが振動して足が震える。さすがはリッターオーバーマルチ。
シートの高さを高いほうの80センチにしてもらってからセンタースタンドを下ろす。フルタンク285キロの巨体は
意外に軽々と押さえることができた。私のRS(フルタンク239キロ)と感覚的にはほとんど変わらない。
低重心設計の恩恵を実感するが、私のRSもそうなのだからここらへんが設計年度が新しい分改良が進んでいるのだろう。

またがる。おお、足つきが悪い!身長176センチの私が両足爪先立ちプラスアルファの状態。
私のR1100RSならシート高80センチなら両足べた着きOKだ。
感覚的にはK1200LTのシート高77センチの状態とほぼ同じ・・・って、分かる人がどれだけいるんだろう。
セルを回すとチョークレバーを持たないエンジンは暖気が済んでいたせいか呆気なくかかった。
振動はR系ほどではないにせよ結構あるが、問題無く走り出す。段差を斜めに乗り越えた時のハンドルの
取られ具合はR1100RSより大きく、普通のビッグバイク並だ。しかしそれでも姿勢が乱されないことには感心する。
いい気になって加速すると車体の振動が瞬時に消えて、R系より格段に強力な加速がはじまった。
しかし目前は赤信号。すぐさま試すことになったブレンボのブレーキの効きはR1100RSと同程度だ。
ブレーキシステムが同じR1100Sと比べると体重差の分不利なはずだが体感的には同じ位効くような気がする。

すり抜けをして信号の前に出ると、極低速での安定性がやたらと高いのに気がついた。
隼やブラックバードほどではないにしろ前傾は結構きついのだが、スロットルオンで右に傾く癖がない分
すり抜けはむしろR1100RSより楽である。更に、ポジションが気に入らないのも実感した。
私の好みではハンドルは広すぎて腕で体重を支えるときに余計な力を使ってしまう。
上体の前傾を自然な感じにもっていくと尻がシートのくぼみから前にはみ出てしまい、どうも具合が良くない。
ワインディングを攻めるか短期間の試乗ならいいだろうが自分で所有して町に出たりはしたくないポジションのバイクである。

信号が変わったので発進。国産ビッグバイクなら大抵可能なアイドリング発進はこの車ではつらい。
でももともとそういうことを考えていないからいいか。油圧クラッチはBMWとしては比較的重いが、
苦痛に感じるようなものではなかった。少なくとも国産車の同クラスよりは格段に軽い。
乗り心地はやや堅めだが不快なショックを一切伝えてこないもので、抜群に良い。特に細かい突き上げが
皆無なのは賞賛に値する。もちろんクラウンより良くセルシオよりは下だと私が断言するK1200LTほどではない。
しかしR1100RSはおろかK100LTよりも良く、私が乗った中では2番目に乗り心地の良いバイクだった。

信号を左折すると呆気なくスムーズに倒れこみクルリと回った。何なのだ、これは。
感覚的にはスズキのインパルスに近いくらいの軽やかさで、安定感は比較にもならない。
このへんのいかにも出来が良さそうな感覚は私のRSよりも確実に一枚上手だ。前が少し空いたので
2速のまま加速する。体感する振動はほぼ皆無のままスピードだけは怖いくらいの勢いで上昇する。
これといったドラマは無いままあっという間に2速7000まで回って100キロを超えた。ハンドルの振動もほぼ皆無。
K1200系に共通のハンドルバランサーを持たない設計はBMWの自信の表れだろうが、確かにそれだけのことはある。
ついでに、旧型のKシリーズと違ってエンジンの熱があまり来ないのも特筆に価する。
カウルの横からうまく熱気が逃げているようだ。旧型Kの夏の灼熱地獄は有名だったが、隔世の観がある。

あっという間に次の交差点が来たので減速して左折。ミッションのタッチはかなりいいがニュートラルで
止まりやすいのが少々気になる。試乗車だけの癖であることを願いたい。ウインドシールドを立ててまた加速。
立てると相応に防風性が増すようだ。それでもR1100RSよりは劣る。このバイクは下半身のプロテクションは
完璧に近いが、その割に上体には結構な風が来る。で、大体下半身のプロテクションはあまり気にならないものだ。
雨が降ったらどう感じるかわからないが。

調子に乗っていたら次の左折ポイントを直進してしまった。一つ先の信号でUターンするが、車重が信じられないほど
扱いやすい。ハンドルの切れ角も充分だ。その先が控えめなコークスクリュー状になっているので
気分良くレーンチェンジと高速切り返しを試す。またしても呆気ないほどスムーズにクリアしてしまった。
バンク角のコントロールが本当に自由自在で、そこからバンク角に応じた旋回力を発揮してくれるので、
高速ワインディングではほぼ無敵だろうと思われる。ここらへんの性能は縦置きクランクのネガが顔を出して
邪魔をするR1100RSより確実に優れている。更に急なレーンチェンジを続けて試すが全く破綻を見せない。
素晴らしいの一言だ。

感想としては、予想以上にスポーティーだということ、そのために快適性が(特にポジション)いささか
犠牲になっていたということ、それでもR1100RSの足回りを更に洗練させて新幹線のような動力性能と
スムーズさを与えたバイクという感じのバイクで素晴らしく良くできているということ。
また乗って車両全体の高性能に感心する度合いはR1100RS以上だが、
個人的に感じる面白さでは空冷ツインのR1100RSの方が勝っていること、そんなところだった。

K1200RS(後期型)
実は以前にも一度試乗していたのですが、その時にはどうも感心しませんでした。エンジンは硬質な振動が
増えているし、乗り心地は硬くなって快適性が低下しているし、倒しこみは自分の動きに合わず、
ワンテンポ遅れる感じ。「ポジションが楽になってカウルのプロテクションが良くなったのは認めるけど、
あとEVOブレーキを除けば従来型の方が良かったんじゃないか?」というのがその時の正直な感想です。
でもいろいろ話を聞いてみるとそう感じたのはどうやら私だけらしいので、
もう一度確かめるべく別のディーラーで乗ってきました。
さて。
改めてまたがってみると、ポジションが随分と快適性に振られたことをすぐに実感することになった。
ハンドルは従来オプションだったハンドルアップのブラケットが標準でつくようになっただけだが、
ステップ位置の変化は著しい。従来はシートを高いほうにしても膝の曲がり角が窮屈に感じていたが、
この新型ではそんなことはない。簡単に言ってしまうとK1100RSのハンドル幅を一回り広げたようなポジションだ。
従来のK100RSとK1の中間くらいのポジションはスポーティーに走るには具合が良いだろうが
快適性には難があったと思うので、この変更を個人的には歓迎したい。
エンジンは基本的に変わっていない。ということは大きな変化があるはずもなく、低回転からやたらとフラットで
分厚いトルク特性と非常にスムーズかつ低振動な回転フィールも健在だ。
前回試乗した車両では回しても振動が消えなかったのが気になっていたのだが、
今回は従来型と変わらない低振動で改めて感心した。さすがはBMWだけのことはある。
前回乗った車両との個体差なのか、ミッションのタッチもとてもいい。
ブレーキは例のEVOブレーキだが、R1150RSとこのK1200RSはサーボの作動具合が変更され、
レバーを握りこんでから実際にサーボが作動するまでにタイムラグが設けられ、作動する時にも
カックンブレーキではなく自然な感じで制動力が増すようになっている。個人的にはR1150RやRTのような
軽い入力で爆発的に効く方がより新しいシステムを操っている感覚があって好みなのだが、
誰にでも馴染み易いのは間違い無くこのRSの方だ。また微妙なブレーキのコントロールがやりやすくなったことで
RTなどより低速時のコントロールが随分やりやすくなっており、すり抜けなどが意外と楽なのも相変わらずだった。
信号待ちの時にいろいろなタイミングでブレーキをかけてみたが、ブレーキをかける強さやスピードによって
サーボが作動するまでのタイムラグを微妙に制御しているようで、かけ方によってサーボが作動するまでの時間に
多少の変動があるようだった。ゆっくり握りこむと遅れて効き、パニックブレーキのつもりで全力で握ると
即座に効いてくれる。細かいところだが重要な変更だと思う。
また足つき性はシートが低い位置だとわりと良く、身長176cmの私だと両足が楽々べた付きだった。
試しに左右にも揺すってみたが、この状態だと重量感はR1100RSよりは多少重いかなという程度だ。
従来型では高速道路ではともかく市街地では正直言って扱う気にならなかったが、快適性の増した新型なら
そんなことはなく、街乗り下駄バイクとしての使用にも充分耐えるだろう。ただし盗難やいたずらは心配だが。
交差点の先頭から軽くスロットルをワイドオープンした時のスムーズかつ急激な加速感は、
やはりRでは味わえないKならではのものだ。ただ従来型とは多少違った印象があり、
これまでは車重をあまり感じさせずに豪快なダッシュをしていたのが今回はスロットルを開けてから
一呼吸遅れてスムーズな加速をする印象を受けた。またカウルが大きくなっているせいか風切り音が減り、
至って静かで平和な環境のまま怖いくらいの加速感が味わえる。これは外的要因の方が大きいとは思うが、
個人的には新型の加速感の方が好みではある。
カウルの防風性の向上は明らかで、上体はもちろん従来はほぼ皆無だった腕へのプロテクションも
今度は多少の期待ができる。これで上体のプロテクションもR1100/1150RSに追いついた。
新型のとってつけたようなアッパーカウルのデザインは個人的に好きではないが、変えた価値はあったと思う。
またカーブを曲がる時にもいろいろ試してみたが、総じて従来より軽快感が増していて、余計な入力をしなくても
バイク任せにしているだけでより簡単にコーナリングできるようになっていた。R1150Rのところでも
同じようなことを書いたが、普通のバイクより二呼吸ほどブレーキングを遅らせてコーナーに侵入し、
テレレバーの安定感とEVOブレーキにものを言わせて短い区間で急減速し、かなりクイックな初期旋回を武器に
リーンウィズのままクルリと向きを変えて分厚いトルクで加速しながら脱出するという一連の流れを
整備重量290キロという相当な重量級の車体にもかかわらず洗練された動きを保ったまま楽々こなしてしまえる
パワートレーンと足回りの優秀性にこのバイクの実力の根源があると思う。
また速度にほとんど関係無くリーンは軽快だ。
ただし、乗り心地は従来より悪化した。スポーティーな乗り心地になったと言えば聞こえはよく
事実絶対的には乗り心地のいい部類に入ると思うが、従来型より明らかに硬くなって突き上げがきつくなっている。
なんとなく、初期作動が多少安っぽくなったホワイトパワーのような感じだ。運動性能のレベルアップの代償だろうが、
全体に快適性寄りに振った中でこれだけは逆の方向を向いている気がして多少の違和感はあった。
また、段差を斜めに乗り越えた場合などにハンドルが取られることも従来型より増えたようだ。
ハンドルから力を抜いてフリーでバランスさせておけば勝手に収束してくれるから大した問題にはならないが。
それにしても、この完成度の高さには感心する他ない。Rシリーズよりバイクとしての総合性能では
明らかに一枚上手で、あとは空冷ボクサーエンジンに魅力を感じるかどうかだろう。
私は感じてしまうのでKに転ぶ気にはならないのだが、そうでなければR1150RSよりこちらを推す。
急加速〜急減速〜ハイスピードコーナリング〜高速レーンチェンジ〜減速〜すり抜けといった乗り方を
すべて一切の破綻なく高いレベルでこなしてしまうこのバイクに乗っているうちに頭に浮かんできたのは、
「うん、確かに全体的にレベルアップしてる。可愛げがないくらい完璧に作りこんであるな」という感想と、
「それにしても、憎たらしいくらいに隙がない・・・まるで昔の北の湖みたいなバイクだ」というものだった。

K1200GT(初代)
これに乗る直前に、まずK1200RSに改めて乗ってみました。そこからの比較が中心です。
外見は、どこからどう見ても純正オプションとして既にラインナップされているサイドプロテクターや
ハイスクリーンなどを装備したK1200RSだ。事実K1200RSに幾つかの純正オプションを追加購入して
ミラーを旧型に交換すれば外見をGTとほとんど同じ仕様にすることは容易にできる。
高速ツアラーとしての快適性を確保するための方法としては間違っていないが、
200万強の高級バイクとして考えると個人的には不満だ。これについては後述する。

またがってみたところ、まず大型化されたスクリーンが嫌でも目に入ってくる。背の低い人なら
目の位置とスクリーンの上端部の高さが同じくらいになるかもしれない!と思えるほどスクリーンは高くされているが、
曲率がそれほどきつくないためか射出成型のスクリーンにありがちな残留応力による視界の歪みは
あまり気にならない。
アッパーカウルも追加パーツによって幅が広がっており、その取り付け部分が見えるのが少々興ざめではあるが
視覚的にはK1200RSより大型のカウルに囲まれているような印象を受ける。
ただし、このGTにはクルーズコントロールが標準装備されているがそのケーブルがちょうど
時計とギアポジションインジケーターを遮る位置を通っており、これがかなり見辛くて鬱陶しい。
これは明白な欠点であり、早急な改善を要求したい部分だ。
シートは座面がやや幅広くされており、腰の座りはよくなっている。ただし代償として腰をずらしたライディングは
僅かとはいえやりにくくなっているし、実際に座ってみると座面が微妙に後ろ上がりになっているように感じることと
シートベースの強度がやや弱く、ニーグリップをすると少しタンク手前の部分がたわむのはあまり気に入らない。
昔のK100RSのように腕と背筋を伸ばしてカウルによって発生する(ほぼ)無風空間にちょうど入り込めるような
前傾で走るというなら話は別だが、これはそういう種類のバイクでもないだろう。
ハンドルが高くされているため、ポジションはRSよりも多少前傾は緩くなっている。
ただしRTのように上体がほぼ正立するわけではなく、R1150RSよりも緩いとはいえあくまで軽い前傾姿勢だ。
実際に走ると多分疲れが少ないだろうポジションであることは理解できるが、日本仕様に標準のローシートを
低い位置にセットした試乗車の場合それでも膝の曲がりはツアラーとして許容範囲といったところで
(これもR1150RSよりは楽だが)幅広ハンドルと幅の広いステップに合わせて手足を広げながら
前傾するような感じがあって個人的にはどうも落ち着かない。
エンジンに関してはK1200RSとまったく同じなので省略。走行距離が200キロちょっとのまったくの新車だったので
回転フィールはまだ重くパワーも吹け上がりの鋭さも直前に乗ったRSより劣っていたが、
既に3000キロ近くを走行しており02年には平忠彦氏が先導車として鈴鹿サーキットを走らせた車両と
下ろしたての新車だったこの試乗車を同じにしてはいけない。今後距離が伸びれば本来の実力を発揮するはずだ。

走り出して歩道との段差を乗り越えると、RSよりもハンドルが取られなかった。ステアリングダンパーの特性が
変更されたせいもあるのだろうが前傾が緩いこともあってRSよりハンドルに押さえが効くため、
段差を乗り越えた場合の不安感はRSよりも少ない。RSは軽快だが段差では意外とハンドルを取られるのだ。
それではと思って軽くスラローム気味に走ってみると、今度は微妙なハンドルの動きが
ハンドルの舵角を付けるのではなく車体を細かく揺らす方向に働いてしまった。
ハンドルの位置がステアリングピボットから多少遠くなったこととおそらく減衰が強化されたであろう
ステアリングダンパーの特性のためだと思われる。ただしRSから直接乗り換えたからそう感じたというレベルの話で、
ものの数分で慣れて気にならなくなったことは付け加えておく。
信号が赤になったので路側帯をすり抜けして先頭に出る。かなりの重量級にもかかわらず
極低速でも車体の安定感が抜群に高いため安心してすり抜けができる美点はRS譲りだが、
新たに付け加えられたカウルによって車幅が多少広がっているこのGTの場合RSよりはすり抜けに気を使う
(試乗車はパニアケースを取り外してあった)。特にアッパーカウルの幅が随分広くなったのには要注意だ。
信号待ちの時のEVOブレーキの作動音だが、以前よりは格段に静かになっている。
注意して聞いているとレバーを握っていれば停車時でもしっかりモーターは回っているのだが、
普段の走行時にはまず気にならないだろうという水準にまで静粛化が進んでいる。
サーボの効き具合や絶対的な制動力自体はこれまでのRSのEVOブレーキとほとんど同じだ。

信号が変わったので発進して左折する。タウンスピードでの旋回性はRSとは多少異なっており、
フロントからの手応えがやや軽くて接地感が多少希薄になっている。その分フロントから積極的に
旋回力を発生させる感が小さくなり、より後輪主体で旋回している感じだ。ただし、接地感が減ったと言っても
フロント回りの質量感はRSより増している。重量感はあるのに実際の手応えはより軽快という感覚は
BMWのセッティング技術の妙を感じさせる部分だが、経験のある方は
R1100RTとR1100RSのハンドリングの違いをイメージしてもらえると判りやすいだろう
(ただし、あれほど大きな違いはない。また、R1150RTとRSのハンドリングの違いとは感覚的に異なる)。
そして、前が空いたところを見計らって一気に加速。140まで出してみたがこの速度での安定感はまさに模範的で、
防風性も見た目以上に向上していて上体はR1100/1150RTをも凌ぎK1に匹敵するのではないかと思えるほどの
ほぼ完全な無風空間となる。ただし肩口と上腕部のあたりは無風とはいかず、もろに風圧にさらされることになる。
体感上この部分に限っての防風性はベースとなったRS以下で、他の部分が素晴らしいだけに余計に気になった。
なお足のプロテクションはほぼ完璧。RSでも非常に良かったが、さらにそれを上回っている。
夏はたぶん暑いだろうが、冬には存分にその恩恵にあずかれるだろう。
電動スクリーンも試してみたが、かなりの風圧がかかっているにもかかわらずこの速度でも作動速度が
上昇と下降でそれほど変わらないのはさすがだ。もともとRSのステーを流用しているため調整幅は小さく
上端の位置にして数センチ上下する程度だが、それでもその数センチ分はしっかりと風の当たり方が変わるのが
感じ取れる。ただし、これだったら低い位置にセットしておくことに意味があるかどうかは疑問だ。
スクリーンを上げても風の巻き込みが増えたり背中から風が巻き込んで煽られたりすることは特になく
(RTやLTではこれがある)風切り音がうるさくもならず、単純に防風性が向上するだけなので
最高速チャレンジでもしない限りは普段から最高位置に固定で問題ないだろう。
乗り心地自体はRSとそれほど変わらない。シートヒーターは試さなかったが、シート幅が広がったといっても
クッションの厚みはほぼ同じなので実際の座り心地にもあまり差はない。フロントはサスの設定変更と
多少増えた装備品によってフロント荷重が増している感覚があり、その分RSよりフラット感が多少向上している
印象を受けたがどちらにしても大きな差ではない。

さて、まとめ。より一般的にリファインされたK1200RSというのが正直な印象。決してK1200RTではなく、
あくまで快適性を増したRSだ。走る、曲がる、止まるといった動的な基本性能はRSとほぼ同等で、
ハンドリングは絶対旋回性能と高速コーナーではRSに一歩譲るだろうがその差はきわめて小さく、
中低速コーナーの連続する日本の山道ではむしろGTの方が扱いやすいかも知れない。
追加装備は快適性に正直に効いていて、ツーリング時はRSより確実に楽ができるだろう。
逆に考えると、RSがGTに対して優位性を持てるのは峠とサーキットくらいではないだろうか。
そういう意味では文句なしの現役名車であるK1200RSの完成形と言えなくもなく、
私もどちらかを選べと言われたらRSよりGTを選ぶ。
ただし、コンセプト自体は正直言って好きになれない。K1200RSはもともとK1とK1100RS両方のユーザーを
吸収するという使命を持ちつつもZZ−R1100やCBR1100XXを横目で見ながら開発されているわけだが、
その結果が芳しくなくマイナーチェンジでよりコンフォート方向に軌道修正したのは承知の通り。
それを更に一歩推し進めたのがこのGTになるわけだが、だったら最初からこの形で出せば良かったではないかと
思ってしまうのだ。理由は間違いなく開発費低減のためだろうが、少なくとも元々あったオプションの外装を取り付けて
装備品を追加し多少の改良を加えた程度で新型車を名乗るというのは、
BMWのすることとしてはお手軽過ぎて個人的には納得しかねる。
やはりカウルの型を新規に起こして専用のダウンマフラーとフルサイズパニアを与えるくらいはやって欲しかったところだ。それで初期型のK1200RSと併売すれば両車並び立つと思うのだが、今のままでは単にRSがかすんでしまうだけだろう。
ただし、個人的な好き嫌いはともかく高速スポーツツアラーとしての総合性能は間違いなく現行BMW中ナンバーワン。
K1200RS発表以来6年目にして、K1100RSもようやく真の後継車を得たといったところか。

K1200LT(前期型)
「乗ってもし良ければ・・・買うか!」と並々ならぬ覚悟でディーラーに赴き、試乗の申し込みをする。
静かにアイドリングする実物を間近に見ると、改めてそのボリュームに圧倒されるものがある。
こんなもの本当に運転できるのかさえと思える。要は慣れだと思うけど。
万が一立ちごけでもしたらシャレにならないのでシートを低い位置にセットしてもらってまたがる。
足つきは正直言って良くなく、K1200RSのハイポジションよりも悪い。バランスさえ取れていれば
バイクを支えるのにそんなに力は要らないからバイクに足つき性はそう重要じゃないというのが私の持論だが、
それでも不測の事態にはどれだけ足に力を込められるかがものをいう時もある。そんな時にこのバイクだと
不測の事態は相当に大変そうだ。軽く足に力を入れた時にバイクから伝わる重量感が想像通り並ではない。

ポジションはRTよりも明らかに快適志向のもので、ステップはかなり前に出ている。
自分のRSのつもりで右足を下ろしたらそこには何も無く、探ったつま先に当ったのが右のペダルだった。
他の位置関係に気になるところはない。改めて座りなおすとシートはふかふかで(近年のBMWでは珍しい、
内側にフォームラバーを使用した2層構造プログレッシブレートのもの)、スポーティーな走行には向かないだろうが
座り心地は申し分ない。大型スクーターのようにピリオンシートとの段差を利用して
腰もホールドする設計になっているのだが、ここまできたら自動車並みのバックレストも欲しい気がする。
好き嫌いはともかく、快適性が増すこと疑いなしだ。
一応の操作説明を受けた後わりと軽いクラッチをゆっくりつなぐと、装備重量378キロという巨体は
案外するすると走り出した。このディーラーの駐車場と道路にはそこそこの段差があるのだが、
そこを乗り越えた時の衝撃吸収は見事の一言だ。もちろん重い車重でバネ下の動きを
効果的に押さえ込めているからだろうが、バイクとは思えないふんわりした乗り心地で
そこらの車をまるで問題にしない程。初期作動性、スプリングレート、ダンピングにシートのクッション性と
どれをとっても申し分無しである。四輪と比べるとホイールベースが短いから前後のピッチングだけは
どうしても多めになってしまう(それでも、バイクとして考えれば脅威的に少ない)が、
それさえ除けばJZS15系のクラウンよりも良いと言える。伝え聞くところによると最近BMWの開発陣は
「この車重があるからBMWのバイクはあの乗り味が出せている」と些か開き直ったような発言をしたそうだが、
心情的に賛同できるかはともかく確かに現実としてその言い分を納得させるだけの乗り味ではある。
ちなみに路面の不整や段差にもあまり影響されることはなく、この点はK1200RS以上だった。
テレレバーの恩恵だろうが、それにしても見事だ。
エンジンはかなり静かで低振動。K1200RSと比べるとピークパワーを削ってその分実用域のトルクを太らせ、
さらにギアをローギアード化しているはずなのだが実際には増えた車重がそれを相殺して余りあるのか、
パフォーマンス的にそう見るべきものはない。R1100RTよりも多少低速トルクがあって
2バルブ系のKと同等くらいに低回転でも随分よく粘るが、回してもRTほどの加速感は得られず、
2バルブ系K100に毛が生えた程度の加速力だ。ただし、K100系がそうだったように実用上一切不満は無く
遅いと感じることもなかった。また振動に関しては停車中の振動が減った以外
K1200RSとそれほど違う印象は受けなかった。ということは、基本的にものすごく低振動なのだ。
ミッションタッチはK1200RSと似たようなもので、回転合わせさえうまくいけば非常にスムーズなシフトができる。
うまくいかないとタッチはいまいち。
防風性の高さは驚くべきものがあり、やたらとデカイ電動スクリーンの角度さえ適切に合わせてやれば
時速100キロでシステムヘルメットのバイザーを全開にしても顔に当る風は事実上、無い。
ただしそこまでやると多少の巻き込みがあるようで、背中を後ろから風に押されて多少煽られる感じが伴う。
顔面にも風が当るようシールドを下げると随分巻き込みは軽減されたが、これはどちらを取るか痛し痒しだろう。
個人的には背後で多少煽られても前方の無風状態を優先したいが。
ミラーの上下に付く透明なデフレクターも動かすと防風性にそれなりの変化があった。
とにかく、ただまっすぐ走っている限りにおいては笑っちゃうくらいに快適なバイクである。
更にこれに関しても触れておかねばなるまい。ステレオ。
ディーラーで初めてK1200LTを見た時そこの店長が話しかけてきた言葉が
「円秋さん、どうです新しいLTは。今度のはステレオの音も随分良くなりましたしね、いいですよ」だったのだ。
「ステレオの音が良くなりました」なんてことをバイクのセールストークで聞く日が来るとは
およそ想像だにしていなかったのだが、走行中に聞いているとこれがなかなかいい音がする。
確かにセールストークに偽りはなく、R1100RTやK100LT(K1100LTは未体験)とは比較にならないくらい
音質が良くなっているようだ。ゴールドウイングに乗った経験はないのであちらとの比較はできないが、
前後左右の4スピーカーから流れる音楽を聴きながらのライディングはRTとはまったく違う、
LTならではのゴージャスなものだった。
またブレーキ性能はかなりのもので、車重がある分ブレーキには厳しいはずだが
実際には他のBMWと何ら変わるところがない。試しにちょっと路面状態の悪いところで急ブレーキをかけてみたが、
サスは忙しく動いているはずなのだが車体は徹頭徹尾安定しきったままで急激に速度を殺してくれた。
この巨体にしてブレーキにまったく不安を感じないのも実に頼もしい。
またハンドリングは基本的に軽快なもので車格を考えれば相当扱い易い(と思う)。
普通に走っている限り旋回性能に不満を覚えることもほとんどない水準に到達している。
タイトターンや切り返し等でどうしても慣性質量の大きさを感じてしまうが、これは仕方ないだろう。

しかし、いいことばかりではない。まず気になったのが大きく手前に引かれたハンドル形状ゆえに
多少大きくハンドルを切った時には外側の手がかなり伸びてしまうことだった。
というより、身長176cmの私の体格では上体を前に傾けないと手の長さが追いつかない。
ハンドリングも車格を考えればよくぞここまで高水準にまとめあげたと感心するのだが、
絶対性能ではやはりK1200RSやR1100RTと同列で語るのは無理がある。
限界性能を試すような走りはできなかったが、腕が同じなら峠道でR1100RTに遅れをとることはまず間違いない。
また幅の広いシートのため足つき性がよくない・・・のは仕方がないとして、その幅広シート故に停車時には
太股の内側にシートの端、車体の角が当ってしまい短時間の試乗だったが随分と太股が痛くなってしまった。
またミラーや車体下のバンパーなどで幅も広く長さもあるため街中での取りまわしはいいとは言えず、
幹線道路の渋滞に巻き込まれていた時には正直言って乗っているのが苦痛だったことも告白しておかねばなるまい。

まとめて言うと、外見の印象通り北海道か高速道路の長距離移動に特化した豪華クルーザーだ。
とにかく快適で、空いた道を適度な速度で巡航している限りたとえR1100RTだろうと敵ではない。
個人的にはエアコンや屋根もオプションに加えてもらいたいと思うほどだ。
その代わり街中ではやはり巨体を持て余してしまい、使い易いとは言いかねる。
足回りは基本的に快適志向ながら運動性能もかなりのところまで確保されており極めてハイレベルな仕上がりだが、
絶対的な運動性では他のBMWに比べるとどうしても劣ってしまう。
少なくとも今の日本で使う限りは、このLTよりR1100RTの方が断然国情に合っている。
こういう世界が好きな人にはたまらないバイクだろうが、タンデムランすら滅多にしない私には
もう少し運動性がシャープで機械が存在感を主張してくれるバイクの方が走らせて楽しめる。
いいバイクだとは認めるし北海道にでも住んでいたら話は別だっただろうが、試乗して私は購入を諦めた。

F800R
デザインのイメージになっているのは誰がどう見てもK1300Rで、細かい部分の処理を見ていくと
Fシリーズならではの独自性も考慮したデザインになっているのだが、
ホンダのCBのような大排気量モデルの縮小版を同一方向のデザインで展開するやり方は
大学生でまだ大型二輪免許を持っていなかった頃、街中で1100刀を見かけるたびに
ある種のコンプレックスを感じていた元400刀乗りとしては心情的には賛成しかねるものがある。
それに、K1300Rと比べるとどうしても安っぽく見えてしまう上にベースとなったF800S/STと比べると、
張りのある曲面と直線を組み合わせたベースデザインに
とってつけたようなカクカクのライト/サイドカバーのデザインがどうにもミスマッチに見えてしまうのも気に入らない点だ。
外装の質感は他のFシリーズとあまり変わらず、ということはつまり大したことはないのだが、
振動対策にテーパー形状のハンドルバーを採用したり(素直にベルトにしておけとも思うが)
F800GS用とも異なる専用形状のスイングアームを用意してチェーンドライブ化したり、メーターを新造、
(文字盤とオンボードコンピューターの表示が異なる)シートレールも専用設計といったように、
目立たない所にきっちりコストをかけている点は評価できる。
ただし、F650GS同様に新車の状態から中間位置程度まで引いているチェーンのアジャスター設定はやや疑問ではある。
また、S/STと異なり(GSとは共通)キャタライザーをマフラー側に仕込むことでスリップオンサイレンサーを
簡単に交換できるようにしている設計はなかなか良心的と考えたい。
アクラポビッチ等の純正オプションマフラーを売りやすくする為という意地悪な見方もできなくはないが、
社外品のキャタライザーより確実に効果が期待できる純正品を最初から仕込んでおくこと、
サイレンサー交換時の余計な出費と資源の浪費を抑えることは現代社会においては間違いなく正義である。

ポジションはF800STに似ているが、ハンドル幅が広くやや低いので、前傾の度合いは多少強まっている。
試乗車はミドルシートだったこともあり、相変わらず下半身のまとまりはややコンパクトに過ぎる感があるものの
膝がきついと感じることもなく、ローシート装着車両によくあったハンドルスイッチの角度が不自然になる弊害もなく
ストリートファイター系のスポーツネイキッドとしては概ね良好なポジションと言っていいと思う。
シートはどちらかというとコンフォート性を優先したもので、形状はまずまず良好だが幾分軟らかすぎで、
スポーツ走行時のコントロール性はやや不満だ。量産シートで様々な用途への対応を考えたら
このくらいのバランスになるという考え方なのだろうが、あと一歩コストをかけていいものにして欲しいと思った。
(なお、シート自体はF800S/STと共通部品である)
また、ステップはスポーツイメージを強調するためかラバーを持たないK1300Rと同タイプが採用されており
経験上このステップは特に濡れた際に滑りやすくてスポーツ走行にはまったく不向きだと言わざるを得ない。
この点だけは何とかしてほしかったと思う。

ハンドルスイッチはK1300系と同じウインカーが左側にまとめられたタイプで、これについて言いたいことは
K1300GTの項で書いたが、あれからボクサージャーナル誌に新しく記事が載ったのでもう少し補足する。
BMWのコメントでは「国際基準に揃えることで誰でも簡単に操作できることを目指した」だそうだが、
BMWがとうに左側集中式ウインカーが国際標準となっていた25年前に人間工学に基づいた左右別体式ウインカーを
K100で世に問い、改良を重ねてきた歴史からすれば、この一見して耳当たりのいいコメントは
BMWが掲げてきた理想主義の営業至上主義に対する大いなる敗北である。
それでスイッチユニットの不良問題が出ているのだから心情的にはお話にならないと言いたいところだが、
(おそらくはコストダウンのやり過ぎと推測されるが、確証はない)感情論は別としてスイッチの問題を客観的に言うなら
「2009年末の現時点では壊れてもまず無償で治るのだから、あまり目くじらを立てなくてもいいのでは」だ。
勿論壊れない方がいいのは当然だが、バイクを「楽しむ」ためには機構的なトラブルに関する感覚をある程度
鈍くしておくことも必要な時があると考える。それでバイクが楽しめなったらそれこそつまらないではないか。
好き嫌いはともかく、スイッチボックスの出来はバイク全体の価値を決定する一要素であってもそれ以上ではあるまい。

さて、発進。湿式クラッチの恩恵でRシリーズより発進が楽なのはFシリーズ共通の美点だが、
このRもその例に漏れず発進加速は非常にスムーズで、そこからややラフにスロットルを開けても
エンジンはギクシャクすることなくスムーズに速度を乗せていく。パワーが上がったと言っても単純に下を犠牲にして
高回転に振ったのではなくて低速域からきっちりとトルクが出ている印象があり、
この辺りはF800Sの発表から4年が経ち、随分と改良が進んだことを伺わせる。
またシフトタッチは高級感こそ薄いが抜群にスムーズで、ストロークこそやや長いが軽いタッチで正確にシフトが決まる。
2000〜3000回転辺りで高いギヤを保って意図的にスロットルを開け閉めしてみても以前の初期型F800Sと比べて
駆動系からのショックが格段に減っているのを体感でき、BMWの横置きパワーユニットの洗練の度合いには
初期型と比べると正に隔世の感を感じた。
なお試乗のペースでは刺激的と思われる回転数までエンジンを回せなかったためにはっきりとは判らないが、
4〜6速がローギアード化され、クロスレシオとされたミッションはおそらく高速コーナーでの
車体のコントロール性を高めているのではないかと想像される。
なおサスペンションは有効ストロークを縮めた分多少固められているはずだが、ミドルシートの恩恵もあってか
乗り心地については他のFシリーズと比べて特に気になる点はなかった。タンデム性は試していないが、
シートが同じでステップが異なる分S/STには幾分劣るのではないかと思われる。
あと、タンデムをする際にほぼ必須となるリヤサスのプリロード調整だが、
Fシリーズに共通する欠点してこのバイクも車載工具でのプリロード調整が非常にやりにくい。
Fシリーズが出て4年も経つのだから、そろそろ改良してもいい頃だと思うのだが。

なお排気音は意図的にRシリーズに似せた音にチューニングされていたF800S/STとは多少異なり、
F800GSに似たもう少し抜けの良さを感じさせる現代の高性能バイクらしい音質になっている。
どういう音をもっていい音と判断するかは個人の趣向もあるが、個人的にはまずまず好ましい音に感じた。
そこから車体を倒し込んでいくと、想像していたより車体が重い・・・というより、ハンドルの立ちが
やや強い印象がある。いろいろ試してみたところR1200Rと同じくステアリングダンパーがやや効きすぎて
車体の軽快さをやや殺いでいると判断したのだが、バンクに対してステアリングのレスポンスが遅れる度合いは
R1200Rほど大きくはなく、意図的にハンドルをこじってやるか腰への荷重をやや強めにしてやることで
まず補正できる範囲に留まっている。必要がなければメーカーがわざわざ付けることはない部品だから、
おそらくはコーナリングと高速走行での安定感を出し、とっつきやすさを高めたかったのだろうと思われた。

さてメーカー自ら絶叫マシンと自称するハンドリングだが、簡単に言ってしまえば自由度の極めて高い、
前乗りから後ろ乗り、リーンアウトからリーンインまでどういう乗り方をしても人並み以上のスピードで
曲がっていってしまう、軽快さと安定感のあるハンドリングだ。(一番楽なのは徹底したリーンウィズだが)
ややキャスターを立て、トレールを縮めた恩恵かリーンのスピードはF800Sより明らかに速いのだが
ロングホイールベース化の威力かどんな状況でも車体は安定しきっており、車体とグリップに不安を抱くことなく
安心して車体を寝かせ、気分良くスロットルを開けていくことができる。低い回転数からでもスロットルのツキが
良くなっているのが実際の走りでも大きな武器になり、Fシリーズ共通の美点としてトラクションがよく
その反応もわかりやすいので、旋回中のスロットルによる車体の制御が極めてやりやすい。
6速だと60キロ巡航は2500回転といったところだが、そこからでもスロットルを開ければすぐさま加速できるほど
中速トルクがありレスポンスがいいので、せわしないシフトをしなくても結構なペースで走れてしまう。
この自由度の高さは私が隠れ名車と認めていたF650CSを上回るほどのもので、
(ただし絶対的なパワーが違うので、CSほど車体がパワーに勝っていて安全な印象はない)
誰が乗っても速いという点では、「10人中9人は、私がこの試乗会場まで乗ってきたビモータよりこいつに乗った方が
この試乗コースを速く走らせられるんじゃないだろうか?」と思ったほどのものだった。
なおブレーキ性能についてはF800Sと同等で、必要にして十分な能力が確保されている。

さて、まとめ。性格と立ち位置を考えれると一応F650CSの実質的後継車になるのだろうが、
実質は抜群に間口の広い、ユーザーフレンドリーなストリートファイターだ。
Fシリーズの中でもっとも加速力に優れ、もっとも軽快でコーナリング能力も公道では間違いなくシリーズNO.1。
その分兄弟車と比べると多少やんちゃな性格で高速ツーリングではカウルがない点やギヤ比の問題などで
SやSTに遅れをとるだろうが、ストリートでの軽快さとコーナリングは単にS/STのノンカウル版というレベルではなく
ミドルクラスのベーシックスポーツとして文句なしの一級品で、その水準の高さはさすがはBMWがトライアンフの
ストリートトリプルとドゥカティのモンスターを仮想ライバルとして開発したと公言しただけのことはある。
また誰が乗っても過剰を感じずに扱いきれる楽しさをもち(絶対的にはかなり速い)、
燃費以外の総合性能では実質的な前モデルのF650CSがかすんで見えるほどの進歩を遂げている。
(なおパニアやトップケースの備えもあるからツーリングにもそれなりに対応できる)
現行量産BMW中No.1とまで評価できるわかりやすいスポーツ性能の高さと扱いやすさのバランスは
秀逸と言うしかなく、文句なしの良いバイク。やや高価だが、格好さえ心境的な折り合いがつけば
極めてバランスのとれたミドルクラスのスポーツネイキッドとして、文句なしにお勧めできる。

・・・ただし、ここまで誉めておいてこういうことを書くのも何だが、「では自分で買うか?」と聞かれた場合の
答えはノーである。理由は完成度は文句なしだがBMWの常として良くも悪くも突出した面白さにはやや欠ける点が一つ、
また”現行量産BMW中”と断った通り、このハンドリングの性格は実は私が所有しているHP2メガモトとほぼ同じで、
F800Rのハンドリング性能は非常に優秀なのだが軽さ、パワー、コントロール性などほぼすべての点で
メガモトにはやはり及ばない(価格差を考えたらコストパフォーマンスでは圧倒的に勝っている)。
そもそも値段が違いすぎるから同列の比較はアンフェアだしこの両車を比較検討される方もまずいないと思うが、
「メガモトのハンドリングを半分以下の値段でここまで再現して量産化したか!」と驚きつつ感心しながらも、
「つまるところ、スポーツ性に関する限りこのバイクはプチ・メガモト。実にいいバイクだが、自分ではわざわざ
乗り換える必要はないな」と思いながら乗っていた、というのがいちメガモトオーナーとしての正直な感想なのだ。

F650GS(新型)
寸法の上では名前に偽りなしの650cc単気筒だった旧型より一回り大きくなっているのだが、
実車を見てみるとそれほど大きくなったという印象は受けない。F800SやSTと同じく、800ccの二気筒エンジンを積みつつも
車体はできるだけコンパクトにまとめるよう留意して設計された様子で、外観上のとっつきの良さが維持されているのは嬉しいポイントだ。

デザインについては好みが分かれるところだと思うが、兄弟車のF800GSとどうしても似てしまう中でできるだけワイルドなイメージを抑え
先代モデルから乗り換える人の違和感を少なくし、なおかつ近年のBMWのデザインラインを守って
しかもR1200GSやF800GSなどの兄貴分より高級に見えても困る・・・といった、
実に様々な販売戦略上の要求のもとでデザインされたような感じを受ける。
デザインチームの苦労たるや想像に難くないが、旧型と並べてみると明らかに新しく見えるデザインになっているから
その点では成功していると思う。ただし、(写真より実車の方が良く見えるが)一見してF800GSのコストダウン版に見えてしまうのは
どう考えてもいただけない。せっかく外装パーツの多くを専用設計にしたのだから、800とは方向性の違いを明確にするべく
もっと都会的な要素を盛り込んでもよかったのではないかと思う。
ちなみに細部の作りだが、これは正直に言って価格相応。ユーロ高が進行する昨今、シングルからツインにエンジンを載せ替えても
価格をほとんど変えなかったBMWジャパンの企業努力は大いに買いたいが、丸パイプをプレスで曲げただけの細すぎるグラブバーや
同じく見た目にしょぼいセンタースタンドなど、全体の作りには相当なコストダウンの跡が伺える。
しかしGシリーズとよく似た形状のアルミ製スイングアーム(スライダーはなぜか新車時から既に調整幅の半分くらい引かれている)や
S/STとは違う専用設計のパイプフレーム(これも細部の作りにはいろいろとケチをつけたい所もあるが・・・)など、
相変わらず必要なところにはきっちりお金をかけている印象だ。
なお、ハンドルスイッチのユニットは基本的にR1200GSと共用なのだが、キルスイッチはどういうわけかR1200GS用ではなく
ブッシュ等を走行する時にスイッチが引っかかって誤作動しにくいHP2と同じものが採用されている。
車両の性格を考えるとGSと同じもので十分だろうし、部品の共用化でHP2の生産コストを下げたかったのだろうか???
真相は不明だが、操作性に影響はないので問題になることはないと思われる。
(注・後にキルスイッチはR1200GS等と共通のものに変更された)

またがってみると、足つきはかなり良好だ。日本仕様は例によってローシートが標準装備だが形状はそれなりに考えられており、
かつてのように数字の上でのシート高は低いがまたがってみると実際には大して違わない、といったことはない
(標準シートを試したわけではないが、ローシートの出来や近年のBMWの標準シートから考えて、そう言い切っていいと思う)。
ハンドルは旧型より明らかに低くされているがこれでローシートを装着すると相対的にハンドルが高くなる欠点がかなり緩和されており
座った感じはむしろ旧型よりも自然な印象。膝の曲がり角も多少緩くなっており、ポジジョンについては総じて改良の跡が明らかだ。
ただし、ローシートの座り心地自体は相変わらずいただけない(細いグラブバーを除けばタンデムシートの居住性は良さそうである)。
足つき優先でR1200Rなみにかなり頑張って座面を下げた代償としてクッションがかなり薄くかつ硬くされており、
シートベースの形状の違和感も感じるしシートの前端部の車体のフィット感もよくない。
また、パイプを組んだフレームは(透明なウレタンを張ってニーグリップで傷がつかないよう配慮されているが)
ニーグリップする部分に縦方向のパイプがあるためグリップ中の違和感がどうしても拭えない(勿論、気にならない人も居るだろう)。
F800Sと共通のメーターは搭載位置が下がっており(R1150GSからR1200GSへの変化を考えるとわかりやすい)、
旧型より低下したとはいえ視認性は十分だが、たぶんR1200Rとほぼ同じオンボードコンピューターは
相変わらずギアポジションは異様に見やすいが水温計や燃料計のバーグラフが細かくて判りづらい。
経験上、水温計なら”どこから上は危険数値”で燃料計なら”(例えば)真ん中まで減ったらあと残り何リットル”と
いうのがすぐにわからないと、一見さんのユーザーでなくても困ると思うのだが・・・。この辺りは単純に不親切だと思う。
なお、細かいことだがエンジンが二気筒になって震動が低減した影響かハンドルのバランサーウェイトは大幅に小型化されており、
結果的にハンドル幅が狭くなってすり抜けは楽になっていると思われる。

さてエンジンだが、音はF800Sとよく似た(つまりRともよく似た)もの。ただし聴き比べてみるといろいろと違いはあり、
R1200GSの排気音がこのF650GSでもそのまま再現されている、というわけではない
(そこまで1200GSにコンプレックスを抱く必要もないと思うが)。当たり前だが、旧型とはこの点まるで別物である。
F800Sとほぼ同等なアイドリング時の振動はさすがに旧型より大幅に減っており、明らかに力強くなった低回転域のトルクもあって
多少油圧クラッチの節度感が乏しいことを割り引いても発進は旧型よりずっと楽で、そこからの加速力も1枚半くらいは上手である。
まだあたりのついていないミッションは多少引っ掛かりを感じることもあったが基本的にシフトタッチは良好で、
例によって軽くて標準より長いストロークのミッションを適当に操作してやればスムーズなシフトが可能である。
小さなスクリーン(例によって極めて高価)の防風性は見た目の印象よりはるかに優れており、無論R1200GSと比べてはいけないが
100キロ程度なら上体は十分な防風効果を感じ取ることができる。エラの張った形状のラジエーターカバーのため
下半身のプロテクションもそこそこの水準にあり、長距離ツアラーとしての能力は相当に向上したと感じた。

ただし、この状態での乗り心地はまあまあとしか表現のしようがない。
調整機能のないフロントフォークは減衰がそこそこ強めに設定されており、硬過ぎとは言わないまでも良く言えば
「路面の状況を正確に伝えてくる、接地感のある足回り」で(ハンドリングのバランスを考慮しての設定であることは理解できる)
リヤサスもほぼそれに見合ったものだ。ザックス製のショックユニットは油圧プリロードアジャスターこそ標準装備されているものの
性能はさすがにコストダウンのしわ寄せを被っているとしか表現のしようがなく、作動感はあまりよろしくないうえに
硬めで座面形状が少々おかしいローシートがそのバタバタとした印象を助長してしまう。
シートを作り直すかサスをオーリンズにでも変えれば激変すると容易に想像できるだけに、惜しいところだ。
また変則5角形のような形状をしたミラーの視認性は残念ながらさほどでもない。車体の振動低減もあってか
ミラーが振動でぶれることは大幅に減っているのだが、外見優先でいろんな部分をカットした鏡面形状は
正直に後方視界に悪影響をもたらしてしまっている。
それでも旧型の丸型ミラーに比べれば間違いなく向上してはいるのだが、もう少し実用性優先で頑張って欲しかったと思う。
なお、F800Sにあった駆動系の遊びが大きくてハーフスロットルでの巡航時にガチャガチャ言う悪癖は
このF650GSではほとんどなりを潜めている。振動吸収にはベルトより不利なチェーンを採用してこの具合にはかなり驚いたが、
恐らくはF800Sの時からミッションの組み立て精度の改良を重ねているのだろう(単純に言って、きつめに組めばガタは減る)。
パワーの伝達効率でいえば落ちている可能性はあるが、F800Sではこれがかなり不快だっただけに
実質的かつ有用な改良だと喜んでおきたい。

ハンドリングだが、試乗コースの関係であまりハードな領域までは試せていない。普通に走っている分にはひたすら素直なのだが、
振り回すとフロントにやや重さを感じる傾向がありハンドルの切れ角ではなくバンク角で旋回性を稼ぐ感じが旧型より強い。
バンク時の安定感自体は旧型の比ではなく、誰が乗ってもすぐにある程度のペースで走れてしまう設定は
「相変わらず、BMWは乗り手の腕を(いい意味で)信用していないな」という印象を受けた。
個人的にこの特性は自由度がやや低くてあまり好きではないのだが、誰が乗っても安心して速く走れるという能力では
まず間違いなく新型の方が上だろう。ただし、リヤブレーキの効きは十分だったが新車でパッドの当たりが付いていなかったためか
フロントブレーキの効きはハードに走るには不足気味だった。

さて、まとめ。間違いなく旧型F650GSを正当進化させたしごく真っ当な後継車だ。
車体もエンジンも全面改良どころかスペック的にはまるで別物というくらいに変わっているのだが
乗った感じの印象やバイクの性格はまぎれもなくF650GSのそれ。
燃費は不明だがパワーが大幅に上がって震動が減り、低速ではよく粘り高速ではスムーズに伸びるようになったというのは
機械としての完成度で考えれば良くなったとしか表現のしようがないし、
車重や取り回しもほとんど同等で街中では扱いやすく峠でも旧型より速く荷物の積載力もタンデムランでも旧型とそう変わらず
価格もほとんど上がっていない・・・と、そこまで考えていくとバイク全体としては嫌みなほど隙がない。

ただし、個人的には「面白いバイクというより、いいバイク」というのが旧型のF650GSに対する私の率直な評価なのだが
新型に対する印象も基本的にその範疇にある。”これ一台で何でもこなせるオールマイティバイク”として
機能面でレーダーチャートをつけていけば新型F650GSはBMWの全ラインナップの中でもおそらくR1200GSを凌ぎ
R1200Rと並んで1.2を争える実力派だと思うが、乗って得られる面白さや趣味性の高さでは残念ながらそれほど高い順位でもない。
BMWの例にもれず決してつまらないバイクではなく従来型のF650GSに乗っておられた向きの
8割くらいには自信を持ってお勧めできる極めてよくできたバイクなのは間違いないのだが、
これでマニアを唸らせるあと一捻りがあればほとんど言うことはないと言ったら
(細かい部分が未完成だったり安っぽかったりするのはおいといて)、いささか酷に過ぎるだろうか・・・。

F800S
横置きのK1200系に比べると一回りコンパクトな車体は低くて細く、意外に前後に長い
おそらくシート下のガソリンタンクの容量を確保する必然性からもテールカウルはF650GSほどの幅があり、
この点だけをとれば結構立派な体格である。総じてKやRより小柄ではあるが、
カワサキのER−6よりは明らかに大柄だ。デザインについては好みがあるだろうが、
限られたコストの制約の中で専用部品を多用するなどしてよく頑張ったとは思う。
K1200S/Rではドライサンプのオイルタンクをリヤフェンダーと兼用することで
容量を確保しつつコスト低減や放熱対策を行っているが、
このF800Sではガソリンタンクがリヤフェンダーを兼ねている。
ただし雨が降るとすぐに汚れそうなスイングアームのピボットや
(リヤサスも構造上雨の日には泥水などを浴びやすい場所にあるがインナーフェンダー等は無い。
純正のリヤサスはシリンダーをカバーで覆って異物の侵入を防いでいるが、
社外品に交換した場合には何らかの対策か頻繁な掃除が必要だと思われる)
シールがいかれたら一発で水が浸入しそう(に見える)クラッチレリーズ等
日本人の感覚ではコストについての割り切りが良すぎると思える部分も散見される。
総じて日本車並みの価格相応の高級感が有るかと聞かれたら「無い」と答えるしかないのだが、
最近のBMWと比べたら値段の割りに立派に見える度合いは高い方だろう。
少なくとも、K1200Sの半分の値段のバイクに見えないことは事実である。
ただし一言苦言を呈しておくと、ドイツ本国よりむしろ安いくらいまで車輌価格を下げたのは大歓迎だし(日本国内に導入当初の話)
そのためにBMWジャパンが企業努力したのも大いに認めるが、やや装備を簡素化しすぎたようにも思う。
ヘルメットホルダー(のワイヤ)は標準装備ではなく税込み735円のオプションだが、
価格100万円のバイクでその設定はいくらなんでもあんまりではないか?
あと、車輌価格は確かに頑張ったがオプション品は相変わらずのBMW価格なので
フル装備にすると結構な額になってしまうことは覚えておいて損はない。

またがってみると、下半身の収まりはR1100Sに近い。比較的ステップが高くロングツーリングにも耐える
ぎりぎりくらいに屈曲した膝(ローシートの場合)の位置関係も良く似ていて、車体がスリムな分こちらの方が
股をあまり開かなくて済むこと以外はそっくりと言ってもいい。
一方上体の姿勢だが、これもR1100Sに近い。しかしR1100Sよりハンドルが手元に近く、
開き角も垂れ角も小さくなっているため(ハンドル幅はいい勝負)実際の腕や肩にかかる負担は随分減少している。
基本的にスポーツ用だが、ツーリングにも使える収まりのいいポジションだ。
ただし、デザインの弊害かシートは前方の幅が意外と広く、足が広がってしまうので
シート高が790ミリしかない割に足付きはよくない。
膝の屈曲がきつめなのも気になるところで、このバイクなら性格上許容されるだろうが
兄弟車のF800STならこの膝の曲がりのきつさではロングツーリングにはNGである。
ハイシートはBMWのカタログによると「身長170センチ以上のライダーにとって理想的なシート」だそうだが、
しかし日本人の成人男性の平均身長が170センチを超えている現在、過半数の顧客に理想的でないシートを
標準装着して販売するとはBMWジャパンは一体何を考えているのか?
ローシートを標準装着するのであれば、少なくともアメリカのようにハイシートを選択式の無償オプションにすべきである。
(アメリカではハイシートが標準でローシートは追加費用なしの無償オプション)
ちなみにこのローシートだが、前後方向に座面の余裕がほとんどなく腰は一箇所に収まったような感じになり
座面自体が比較的左右に狭いためツーリングにもスポーツランにも中途半端である。
(ただし、前下がりの形状の割にハードブレーキングでもあまり前に滑らないことは評価できる)
足付きにしても座面を下げただけでフレーム等は当然そのままだから改善幅も小さく、
小柄な方以外にはお勧めしかねる。この辺の欠点はK100系のローシートの頃から変わっておらず、
悪しき伝統は健在だな・・・と思ってしまった。

なお、またがった時のメーター周りの眺めはR1100SやR1200STに似ている。
無論この2車よりは価格なりに簡素な眺めなのだが、
カウルの一部を内側まで回りこませてフラットに仕上げたデザイン手法は
個人的にはK75Sとの相似を感じてちょっと嬉しくなってしまった。
ハンドルスイッチがRやKと共通で、ウインカースイッチが左右別体式なのは好き嫌いはあるだろうが
「BMWはこれでないと!」とお考えの層からは歓迎されるだろう。
私は国産車に一般的な方式よりこちらの方が操作しやすいので、単純に賛成だ。

キーを差し込んでひねると多分システムのセルフチェックのため、一度メーターの警告灯が全て点灯し
スピード/タコメーターもいっぱいに右側に振れる。ライダーにとって実用上のメリットはないのだが、
(隼も同じことをやっていたが)走り出す前の演出として考えればこれはなかなか良いのではないだろうか?
エンジン音は意図的にチューニングしたとメーカー自身がコメントしている通り、R1200シリーズに極めて良く似ている。
実際のところ日本のメーカーの技術力をもってすればバイクの排気音でドレミファソラシドを出せるそうだから
(人づてで聞いた関係者の話)別に感心するほどのことではないのだが、さすがに排圧のかかり方や
低音の音が多少細いか・・・と思う事以外はほぼ同じ音と考えて差し支えない。
もっともR1200系になって減ったとはいえ、もともとRシリーズは排気音に大排気量車らしい迫力がないとは
R259系になってから散々言われていたわけだから、その音がこのバイクで再現されたことは
(かなり人工的にではあるが、そう感じさせないのは技術の勝利)別段ありがたがるようなことでは無いと思うのだが?
おそらくは販売政策上の理由で、F650系をKやRより格下に見ていた層に対して
「Rとそっくりな音を出すこの新型はリアルBMWなんですよ」とアピールしたかったのだろうと思うが、
Rと同じ音だと単純に礼賛するバイク雑誌の論調には異を唱えておきたい。
ちなみにR1100系の音が実は結構気に入っていた私個人としては(多数派の考えではないが)、
迫力はないがツインらしくて悪くない排気音だと思う。

さて、発進。湿式多版のクラッチはかなり軽く、この点だけでもRより格段にフレンドリーである。
エンジンはフライホイールマスが軽いのだろうがK1200Sほどではないもののピックアップがなかなか鋭く、
この点ではRシリーズなど問題でない。しかしその分2000回転以下ではトルクがやや不足する印象で、
ちょっといい加減にクラッチをつなぐと回転は簡単に1000回転以下にドロップしてしまう。
2000回転程度で半クラッチのまま発進、加速しながら徐々にクラッチを戻すような使い方をすれば勿論どうとでもなるが、
クラッチを労ってスタート直後50cmくらいでクラッチを完全につないでしまう私の場合は
気兼ねなくクラッチミートできるのは1500回転以上といったところで
それ以下の回転数ではクラッチミートに神経を遣う必要があった。
(まったくの未経験バイクで、慣らしもまだだったことを割り引く必要はあると思う)
どちらにしても、クラッチを労るつもりなら発進についてはRより神経を遣うバイクである。
走り出してしまえばスロットルは軽く、エンジンのピックアップも前述の通り良いのだが
2000回転以下ではトルク自体がそう大したことはないこともあり多少いい加減なスロットル操作をしても
低速域では結局のところ大した問題にはならない。
この辺の良くも悪くも扱いやすい特性はインジェクションのマッピングと電子制御スロットルの賜物だろうが
これが街中での適合性の高さに大いに貢献していることは疑いない。
もう少しギヤを落とすか、低速でのトルクを太らせてアップライトなポジションと組み合わせれば
かなりのシティラナバウトになり得ると思うので、これは今後の派生車種に期待したいと思う。

ミッションについては一長一短がある。特にセカンドからローに入れる時に顕著だったが
ほとんど抵抗らしい抵抗感を感じさせずにシフトできる時と、入りにくいとまでは言わないまでも
明らかなひっかかりを感じる時があってその変化がタッチも含めて極端なのだ。
ストロークの長さはまあ普通で、素早いシフトもある程度許容してくれる。
ただし、たぶんコストダウンのせいでインフォメーションフラットスクリーンからはギヤポジションの
インジケーターが消滅しており、これまでギヤポジションが表示されるバイクで楽をしてきた人間には
面倒でたまらないだろう。
ミラーは振動で多少ぶれるし鏡面も広いとは言えないが、
幅があって車体の前の方についているため実際の視野は充分なものだった。

なおこの速度域での乗り心地はまあ許容範囲。フロントサスの作動感は高級というほどではないが、
柔らかめの設定で接地感も十分あり、まず文句はない。リヤは(新車だったことを考慮する必要はあるが)
作動感がやや渋くてスプリングも硬めで、多少の突き上げを伴うものだった。
シートは薄くて硬めなのだがこれがリヤサスの硬さにちょうど合っており、不自然な感じはなかった。
ただしやや前後のピッチングが大きい印象があり、ホイールベースが1470ミリと結構長い割には
フラットライドな感覚がないのが評価を下げてしまっている。ただし、私が所有しているK1200Rも
納車直後と100キロ、300キロ、800キロ走行時ではリヤの作動感と乗り心地が明らかに変わっていたから
今後の変化については良い方に変わることをあてにしておいてもいいと思う。
ブレーキはサーボを持たずEVOブレーキほどの制動力はないが、まず不満はないレベルのもの。
パッドを替えればまた話も変わるだろうがレバーを引く力と制動力がだいたい比例する感じで
極めて扱いやすいものだった。

前が空いたのを見計らって軽くスロットルを開けてやると、デジャビュを感じるほどRに似た排気音と振動を伴って
車体は軽快に加速していく・・・のだが、さすがに排気量5割増のR1200系ほどの加速力はない。
しかし等間隔爆発ということはフラットツインとまったく同じ爆発間隔なわけで、音の効果もあって
その時の加速感覚もRと極めてよく似ている。しかしこれは良くも悪くも・・・の部分があると思うので後述する。

そこから道が曲がり始める区間に入ったのだが、そこではこのバイクのほぼ最良の面が発揮された。
カーブの手前で軽くブレーキングを終えてから車体を倒しこんでやると、スリムな車体は高い位置からリーンする
典型的な2気筒の感覚を保ったまま見た目の印象よりゆっくりとリーンする。
もちろんRよりは素早いのだが、荷重状態をいろいろ変えて試してみてもその変化は小さく、
リーンについては総じて車格の割に重々しいとさえ表現できるものだ。
また車体を倒しこんでからはそのままのバンク角を保とうとする力が強く、意図的に変な操作をしなければ
車体は安定しきっている代わりにそこからスロットルを開けても車体はあまり起き上がってこない。
大排気量車のようにバンクした状態からパワーで車体を直立させるという芸当は
このバイクは排気量を考えてもやや苦手で、連続したS字の切り返しなどを素早くこなすには荷重移動や
軽くフロントブレーキをを当てるといった技術で補ってやる必要があった。
旋回性そのものはなかなか高く、バンク角依存型というよりも後輪の存在感を常に感じつつ
フロントから積極的に曲がっていくタイプだ。
そこからスロットルを開ければある程度旋回力は変化するが、その変化はそれほど大きくない。
町乗りでは硬く感じたリヤサスはある程度ハイペースでの走りにセッティングを合わせているようで、
コーナリング中に荷重をかけても簡単に腰砕けになったりはせず
少々作動感が安っぽいもののかなりのところまでしっかりと仕事をする。
また、F650CSもそうだったがベルトドライブが急激なトルク変動を吸収してくれるので
コーナリング中にスロットルを神経質にならず景気良く開けて旋回性能を引き出せるのは
(F650CSほどイージーには開けられないし旋回力の変化もCSより小さいが)このバイクの美点である。

あと、コーナリングで特筆すべきはブレーキをきっちり終わらせてから前ブレーキのリリースと同時に倒しこもうが
ハングオフで曲がろうが、ノーブレーキのままリーンアウトで逆操舵してコーナーに放り込もうが
同じような体勢とペースでコーナーを曲がっていけることで、コーナリング時に「こう曲がりなさい」と
バイクが要求してくることがほとんどない。またそこからのいろいろな操作(含む・操作ミス)に対しても
極めて鷹揚な性格で、誰がどんな乗り方をしても簡単に結構なペースで走れてしまう。
逆に言えば、積極的に車体の姿勢変化を利用したり大胆なハングオフを試みてもこのバイクは反応がどうも鈍い。
K1200Rにもいくぶんその傾向があるがこのバイクはその比ではなく、
そういう意味での乗りこなし甲斐はやや希薄な印象だ。
ローシートの着座位置に自由度が小さいのもその傾向を助長していると思う。

また車体から受ける安心感はテレレバーやデュオレバーには劣るがそれでもかなりのもので、
怖くないから安心してスロットルを開けられるので結果として速いというBMWの伝統は
このバイクでも進化した形で健在である。総じて最新スポーツバイクの流行とは違うのだが、
良い意味でオーソドックスかつスポーツライクな極めて優れたハンドリングを誰でも気軽に味わえる。

防風性についても試してみたところ、上半身への防風性はそれなり。
掌と上体はある程度防護されているが、肩や上腕部、ヘルメットには正直に風が当たる。
下半身は大きく抉ったサイドカウルの形状が効いて膝から上の防風はなかなか優秀だが、
所詮はハーフカウルなので脛から下はまともに風が当たることを覚悟する必要がある。
当然ながらR1100Sのようなシリンダーによる防風効果などは一切存在しないので、
冬にはある程度の寒さを覚悟せねばならないだろう。なおグリップヒーターの効きはKやRと同等だった。

一方、明らかな難点として挙げておかねばならないのは駆動系の過大なガタである。
パワーの伝達効率を高めるためにミッションを緩めに組んだのかこれがかなり大き目に取ってあり、
特に6速60キロといったように高いギヤを低い速度で使ったりラフなスロットル操作を行うと
スロットルのオンオフでガチャガチャと音やショックが出て実に鬱陶しい。
(K1200S/Rでもあったが、新しいモデルでは初期型より明らかな改善が見られている)
これが走りの質感を大幅に損なっているため、早急に何とかして欲しいところだ。

さて、まとめ。BMWが市場拡大のために放った戦略的スポーツバイク、というのが正直な印象。
造りはまあそれなりでそれ故の難点や質感への不満もあるのだが、走る、曲がる、止まるといった
基本的な性能の高さとまとまりの良さは価格を考慮に入れなくても極めて優れており、
乗りやすさと取っ付きのよさでも現行BMWの中ではF650シリーズに次ぐ高いポイントがつく。
乗り味は典型的なツインのそれで、軽快なRといった感じだ(横置きのK1200系に似ている部分もある)。
そういう意味でBMWに乗ったことのない人にも気軽に勧められるし、BMWの味わいというものも
R1200系よりは薄いがしっかり残っている。(R100系と比較してはいけないが)
Rに近い満足度と乗り味を1/2〜2/3くらいの投資で得られる極めてコストパフォーマンスの高いバイクで
現行BMWラインナップ中のお買い得度はぶっちぎりに高く、それで満足できる向きには諸手を上げて賛成する。

ただし、機械としての出来不出来ではなく個人的な好き嫌いで言うなら私はどうも気に食わない。
このバイクが狙った世界は「ビギナー向けお手頃価格の小さなボクサー」だと思うが、
エンジン音にしろ足回りにしろ基本的な方向性が「如何にしてRの世界を再現するか」に向いている印象で
「KでもRでもない、これはF!」といった潔さが感じられないし、
Rを凌駕する、もしくはR以上のクラスレスな価値観を提示するまでには正直なところ至っていない。
誰が乗っても速く走れる足回りは確かに秀逸な設定だかそれはあくまでビギナー向けの話であって、
ベテランを満足させるだけのマニアックな要素があるかというと実はこれがあまりない。
K1200SやR、R1200STといったところはもっととっつきにくいし神経も遣うが
操って得られる満足感はこのバイクより高いのだ。(コーナーの速さだけならたぶんRよりも上だが)
従ってRやKを遍歴したBMWのベテランに私がこのバイクを勧める理由は「小さくて軽く、乗りやすい」くらいで
「Fは面白さでもRやK以上だから、乗り換えても後悔しませんよ」とは今のところ言えない。
せっかく完全新設計の力の入ったバイクで事実それに恥じない総合性能を誇るだけに、
ビギナーだけではなくベテランにも積極的に選ばせるだけのあと一歩踏み込んだ内容を提示してほしかった。
ベテランはより高価な大排気量車に乗ってほしいという企業戦略もあるのだろうが
大艦巨砲主義だけがバイクの正義ではないのはベテランなら誰でも知っていることで、
そういうバイクを作らせたら文句なしの実績を持つBMWが意図的にこういう形で出してきたというのが
個人的には何とも残念なのである。

F800ST
F800Sとの相違点だけ。乗ったのは2011年モデルだが、初期型F800Sとの違いはそれほど大きくない。
スポーツツアラーという設定ではあるもののサスペンションの設定は前後ともスポーツモデルであるF800Sとまったく同一で、
両車の違いは事実上スクリーンとハンドルの高さとサイドカウルの形状だけだ。
一台でツアラーとスポーツバイクの能力をどちらも兼ね備えるのは昔からBMWの得意技ではあるものの、
しかし上記3点の違いだけで片方はツアラー、片方はスポーツバイクを名乗るのはいくら何でも安易過ぎると思うのは私だけだろうか?
F800Sが消えてSTに一本化されたのはそうした市場の声という名前の販売実績を踏まえてのことだと思うが、
だったら最初からスポーツ路線に色気を出さずにいればいいとか、スポーツ性能をもっと高める方向でSを作りこんでおけば
Sは今でも存続していたのではないかなどと考えると、つくづくBMWの戦略には疑問を抱かざるを得ない。
ポジションについては現在は以前私が酷評したローシートではなくミドルシートが標準になっているのだが、実のところ
ポジションについてはあまり大差がないというのが正直なところだ。確かにシートは高くなっているがステップが結構高いために
膝の屈曲はローシートよりましとはいえ依然として強めで、窮屈感は拭いがたい。ただしクッション性は厚みが増した分
正直に向上しているし、着座位置も前後に自由度が増しているから快適性は格段に向上している。
それでも足つき性に問題がなければ、極力ハイシートを選ぶべきだという従来からの考えに変化はないが。
また、上体はハンドル位置相応にアップライトな姿勢となり、K1300Rより多少起き気味なくらいだ。車両の性格から考えたら
概ね適切な前傾度合いではないかと思う。
動力性能だが、エンジンが同じなのでSと変化はない。6速60キロ1800回転が何とか実用になるフラットトルクなエンジンは
極低速こそややトルクが細い印象があるが、基本的に開けたら開けただけパワーが出てくる特性で面白みにはやや欠けるが
スポーツツアラーのパワーユニットとしてかなり優秀である。また以前どうにも気になった駆動系のガタが随分低減されており、
スロットルを操作するたびに発生していたカチャカチャ音は消えてはいないもののあまり気にならなくなったのは
絶対対策するに違いないと思っていたが、やはり喜ばしい改良だ。
なお2011年モデルでは、以前試乗した車両よりエンジン音が抑制され、ボクサーエンジンに酷似していたエンジン音は
その似ている度合いが以前より弱まり、F800Rに近い音になっていた(いつからそのようになったかは不明だが、
2009年に乗った時とは音が違っていると思う)。騒音規制に合わせるのは時代の要請として止むを得ないだろうし、
従来のボクサーコンプレックスの塊のような音は聞いていて複雑な気分にさせられたのでこれはこれと肯定的に評価したい。
防風性についてはSと比べて体感上はほとんど変化がない。これはよく考えるとかなり微妙な話で、つまりハンドルが起きて
姿勢がアップライトになった分をスクリーンの変更でカバーしている、ということになる。(サイドカウルの変更もある程度効いている筈だが
下半身へのプロテクションは記憶にあるSのそれとあまり違いがなかった)向上した防風性が姿勢変更で相殺されたと
考えるべきか悩ましいところだが、まあ大きな不満にはならないだろう。また、サイドカウルの変更は防風性はともかく
雨天走行時の脚とブーツの濡れをSより低減してくれるだろうことは期待してもいいと思われる。
ただし、本格的なツアラーとして考えたら絶対的な防風性能はやや不満だというのが正直なところだ。
ハンドリングについてはSとまったく同様。ますますSの存在意義が疑われるが、パニアをつけた車両に試乗してみたところ
パニア無しの車両に比べてリーンが一回り鈍くなっているのが確認できた。この辺りはやはり上級モデルより小柄なだけに、
重量物を積載した影響も大きくなるということだろうか。

より風を防げる範囲が上方向に数センチ拡がって、上部に限り左右にも数センチ拡がったような印象だ。
これはよく考えるとかなり微妙な数字で、つまり、Sでは伏せないとヘルメットへの防風効果はいまいちだったのが、が完全ではないもののはっきりとした防風効果を得られるようになったと考えると判りやすい。



F650GS/ダカール(旧型)
これも何度も乗ったなあ。GSは4回ほど乗ってますが、鈴鹿のMFFの時をメインに。
マイナーチェンジされた新型はその都度。
MFFも二日目。あとは現行モデルを試乗するばかりということで、私が選んだのは新型になったF650GSです。
何といっても先代のF650よりぐっと格好良くなって外見もオフロード寄りになり、なかなか良さそうではありませんか。
最新型は更にシャープな印象に化粧直しされ、キャリア周辺も改良の手が及んでます。
先代に乗れなかったのでどのくらい良くなったかの比較はできませんが、まあこれは仕方ありません。
試乗の順番が来たのでまたがって、操作方法のレクチャーを受けます。
先代同様に国産車と同形式のウインカーを採用していたり、その質感や樹脂の成形に幾分不満があったりと
価格の割にコストダウンが進み過ぎのような気もしますが、まあよしとしましょう。
Fシリーズの立場を考えればそれもやむなしですし、使い易ければいいのです。
ただ、エンジンを始動する時には必ずスロットルを全閉にしてくださいと言われたのにはちょっと面食らいました。
電子制御スロットルのためエンジン始動時にスロットル全閉位置のポジションを記憶させるためと説明されましたが、
これって単に面倒くさいだけなのでは?と思えます。
シートの形は足つき性と快適性をよく考えたもので、オフ車としては座面が広めです。
本気でオフを走るには物足りないでしょうが、普通のライダーにはこの方が快適でしょうし
そういうユーザーにはダカールがあるのでしょう。私が両足を楽々べた着きできる足つき性は極めて良好で、
それ以外はかなり楽な部類のオフ車のポジションです。
ただし、またがった感じとして100キロちょっとの重量しかない国産軽量オフ車のような軽快感はやっぱり希薄です。
もうちょっとバイクの存在感があり、質量感もやっぱり意識することになります。
ちなみにこれはダカールでも基本的には同じなんですが、多少腰高な分体感上GSより幾分重めに感じました。
とはいっても軽量なことにかけてはKやRシリーズなど比ではなく、BMWの中だけで見たらF650CSの次に
軽快感に溢れていることもまた確かです。う〜ん、慣れって恐ろしい。
なお、ハイシート仕様ですとシートのお尻の部分のえぐりがほとんど無くなり、
その分クッションの厚みが増してずっと快適になります。私の感覚ではローシートはウレタンが柔らかすぎて
クッション性にやや難ありのレベル。176cmの私の身長だと足つきは楽勝ですし、
取り回しに問題がなければ迷わずハイシートの方をお勧めします。

クラッチの重さはまあそれなりなんですが、ちょい乗り程度の私の場合このバイクでクラッチミートする回転数は
だいたい1800回転くらいでした。ちなみにR1100系だと1400〜1500回転、K1200系だと1200回転前後と
いうのが私の普通の使い方です。650ccのシングルの極低速トルクとしてはこんなところではないでしょうか。
もっともパワーやピックアップはたいしたことがないけれど、レスポンスが穏やかでフラットなトルク特性で
扱いやすいのが特徴のBMWエンジン。その性格はこのFにもしっかり反映されているようで、
走り出してしまえばパワフルとはいかないまでも国産の400マルチより速くなかろうかというくらいの加速をします。
意地悪く高いギアで上り坂を走ってみましたが、緩い上り坂を5速60キロ程度でトコトコ登るほどの柔軟性もあり、
全体的にスムーズなこともあってエンジンに関してはオンロードからオフロードまで幅広くこなせる
扱いやすくていいエンジンだというのが感想ですね。色艶にはちょっと欠けますが。
ホンダがGB250やXLRに使っていたRFVCエンジンをちょっと思い出してしまいました。
なお最新型は低回転での発進が多少楽になり、実用中速域ではスムーズさが増し、
4500〜5500辺りではCSのようなパンチ力を得た印象。大差があるわけではありませんが、
地道ながらもいいことづくめの改良がされてました。

さて、乗り出してみると車体全体がかなり軽快です。走行重量は193キロもあって650ccのオフ車としては
かなり重いのですが、国産の400ccネイキッドより軽やかです。どうなっているのでしょう?
カーブを曲がる時にもリーンアウトからリーンインまでいろいろ試してみましたが、
結局リーンウィズでダラ〜っと行くのが一番自然かつスムーズに走れるようで、走っていて車体が妙に低重心で
バランスしているR1100Rにも似た独特の感覚も含めてこの辺の特性もやっぱりBMWです。
リーンも鋭過ぎずゆったりもし過ぎない、長距離乗っていてちょうどいいバランスになっていました。
サスペンションは前後ともよく動いてくれ、コーナリング時の安定感もテレレバーには及ばないもののなかなか良好。
乗り心地もサスのストロークがやや足りないような気はしたものの、まずまずでした。
高速道路を走った印象では、快適な速度は120くらいまでです。
やはり高速だとシングルと排気量の限界が如実に出てしまうようですね。なお個体差だと思いますが、
私が乗った車両では110くらいで多少路面変化に影響され易かったものがありました。
何度かF−GSに乗った中でもその一台だけなんですけどね。
ちなみにサスのストロークが伸びシートが高くされたダカールだとその印象は薄れ、もう少し重心の高い、
よりオフ車然とした乗り味になります。サスもより柔らかくなっているようで、
個人的にダカールの足回りは乗り心地やコーナリングも含めてGSより好印象でした。
足つきは悪化しますが、国産の250レーサー系のオフ車と比べたらどうということはありません。
なおノーマルGSにハイシートだと、F650GSのサスの感じはそのままに、多少クイックかつ軽快な倒し込みになります。
ブレーキは前後シングルディスクですが、絶対的な効きは充分。ただし、EVOブレーキを知ってしまった現在だと
見劣りする感は否めません。サーボ付きブレーキを採用しているのは今のところBMWだけですが、
あと10年くらいしたら世界のバイクの標準になっていると思いますねえ。
ただし、少々気に入らなかったのがシートの形状。座り心地はいいのですが、
R1100RTもそうでしたが多少座面が前下がり気味で、運転していると背筋をぴんと伸ばして走っていなくては
いけないような気分になってきます。これは疲れの少ない姿勢として人間工学的にも正しいはずですから
まあ慣れが解決するとしても、走っているとだんだん腰が前にずれてくるのはいただけません。
ハードブレーキの度に腰が前に飛んでいってしまわないよう余計な気を使うのも減点対象ですね。
ちなみにシートのウレタンもあたりは柔らかいのですがちょっと腰の強さに欠ける印象があり、
自分のR1100RSでウレタンの材質とシートの設計がそれほどのものではないことを知っているだけに
(RSのシートを分解した時の写真が無いのが悔やまれます。ひどい構造でした(^^;))
耐久性など少々気になるところではあります。ちなみにダカールのハイシートは座面の角度はまず問題無かったのですが、
幾分幅が狭められたのか割と早期にお尻が痛くなってきました。他が非常に良いだけにこの辺は気になりましたね。
ちなみにGSのハイシート仕様だと(シートはダカールと同じ)何故か痛みはまるきり感じられませんでした。

さて。感想を簡単に言ってしまうと「でっかいセロー」です(笑)。動力性能も足回りも車体構成も
すべてがオンオフ兼用車としてそつなくまとまっていて、(オフでの走行は試していませんが)
オンロードを走っている限り破綻を見せることも不足を感じることもありません。
極めて乗り易く、誰が乗ってもその性能を簡単に引き出せます(これ、凄く大事なことです)。
街中でコンビニに弁当を買いに行くのにも使えるし、大量の荷物を積み込んでのロングツーリングも(たぶん)楽々。
これ一台でホントに何でもできると思います。
ただ、ひねくれ者の私にはバイク自体が発する個性というか、強烈な魅力がいまいち足りないように思えました。
すごくいいバイクであることに疑念の余地はないんですが、XJRよりモトグッチが面白いと思える私には
ちょっとまとまりが良過ぎるように思えるんですよね。そういう意味で、個人的にはダカールの方が好みです。
オフロードに振ってある分走りがより個性的ですもの。

F650CS Scarver
またがってみると、この手のオンロードモデルとしてはおっと思うほどハンドル幅が広く、
しかも見た目より垂れ角がついている。まるでアメリカンのようだと言えなくもないが、
BMW乗りとしてはまるでK1のハンドル幅を広げたような感じだと評しておきたい。
なお、ハンドルは身長176cmの私でちょうどいい位置にあったから、
BMWとしてCSの販売ターゲットの一つと捉えている女性ライダーにはやや遠いと感じられるだろう。
足つき性は非常に良く、標準シートでシート高780ミリという数字はにわかには信じがたいほどだ。
ちなみにシートの幅はやや細め。R1100RやK1200RSのように座面をえぐった形状になっていて、
腰がすっぽりとはまりこむような感覚がある。自由度が低いとも言えるが、車体とのフィット感が高いので
個人的にはこれでいいと思う。膝の曲がり角はステップが低い割には強いが、ツーリングに支障が出るほどではない。
総じて、他のBMW各車よりライダーの想定体型を小柄にしたと思われるコンパクトながらまとまったポジションだと思う。
前傾の程度はF650GSよりは強くR1100Rと同じくらいで、ほとんど直立に近い緩やかな前傾といったところだ。
試乗車は標準装備のタンクバッグを外した状態だった。正面を見ている限りタンクは見えないからどうということはないが、
下を見ると普通ガソリンタンクがある部分は(Fシリーズにはもともと無いが)金魚鉢のようにえぐれ、
黒いプラスチックが剥き出しになっていて違和感があることおびただしい。
もしお買い求めになられた暁には是非ともタンクバッグを常時装着されることをお薦めしたい。
ちなみにタンクバッグの重量制限は5キロとまずまずの数字が確保されている。
操作系はF650GSとほぼ同じなのであまり文句はないのだが、スピードメーターとタコメーターの見づらさだけは
いただけない。要するにF650GSのメーターの文字盤をCS専用品に換えてあるだけなのだが、
この文字版が普通のメーターと違って白い数字が水平に並んでおらず、白い数字がメーターの中心から
放射状に並んでいる。従って数字の並びが縦や横や斜めになったりと煩雑な上に、
50.100といった数字は色が黄色になって他の数字よりもメーターの中心近くに配されている。
実用性に対するデザイナーの想像力と遊び心の勝利と言うべきなのか、これまでにないデザインではあるものの
見づらくては意味がない。慣れの問題かもしれないが、個人的にはやり過ぎと思えた。
(なお、マイナーチェンジ後に文字盤は一般的なデザインのものに変更された)
エンジンをかけると、Fシリーズ共通のまずまず歯切れがよく、消音の効いた音がした。
音量自体はF650GSより静かだと思えるが、音質自体も多少破裂音が押さえられたようで疲れにくい感じだ。
Fシリーズ共通の成形の甘いスイッチを操作してから軽いクラッチをつなぐと、CSはあっさりと発進した。
乗り心地は基本的に良好だ。太いフロントフォークはやや柔らかめの設定だが剛性感も充分で作動性も合格点、
リヤは多少ダンピング不足を感じるが悪くはない。ただしフラット性には幾分欠けるきらいがあり、
段差を乗り越えた時の前後方向のピッチングはやや大きめだった。シートは柔らかいがコシも無いGSのそれとは
恐らくウレタンの材質が異なるようで、適度な硬さとクッション性が両立していていい感じだ。
ただし実際の座面をえぐっているため着座位置に自由度が小さく、座面それ自体が前後に短いことは幾分気になった。
あとハングオフスタイルのライディングにも不向きな形状だが、これは無いものねだりと言うべきだろう。
エンジンのトルクは低回転域でこそGSに多少負けそうな感じだが、回してみると充分なトルクが出ている。
GSに比べると中速域以上でのパワーの差は明らかで、体感的にはR1100RSとSぐらいの差に感じた。
GSは回すとパルシブな振動がやや多くなるきらいがあったが、こちらはストレスなく高回転までヒュンヒュン廻ってくれる。
好みはあるだろうがこのバイクの性格には合っていて、GSよりも明確にパワフルで速い。
「Fのエンジンってこんなに良かったっけ?」と思わず首を傾げてしまった。
ミッションのタッチもなかなかいい。ベルトドライブは確実に効果を発揮しているようで
駆動系に常にテンションがかかっていて遊びがないためかチェーンのようなガチャガチャ言う音とは無縁だし、
発進加速も減速もスムーズに行える。ダンピングにも優れるのかギアチェンジをしても駆動系へのショックは
かなり少ない。この辺の体感上の洗練性はGSよりも明らかに一枚も二枚も上手で、
ある意味シャフトドライブよりいいかもしれないと思われた。
車体はいかにも低重心という感じを全体から伝えてくるものだが同時に非常に軽快で、
この軽さはF650GSを含めて他のBMWと比べても断然優位に立っている。体感上は250ccクラスに近いほどだ。
で、コーナーでの倒し込みは軽く、しかもフロントから積極的に倒れ込んでくれる。
「おっ、BMWには珍しく前輪重視のコーナリングなのか?」と思ってフロントに気分よく荷重をかけてやると、
案外曲がってくれない。素早く倒れはするのだがその割にハンドルの舵角がつかず、
結果としてバンク角依存型のコーナリングになってしまう。
では、とばかりに次のコーナーでは反対に後ろに荷重をかけてやると、結構なワイドタイヤにもかかわらず
明白に旋回力を強めてグリグリグリッと旋回してくれる。
「何じゃこりゃ?思ったより癖のあるハンドリングだな」というのが第一印象。
しかしその時でもフロントの舵角はあまり付いてくれず、攻める走りをするにはやや不満ではある。
しかしその分安定感はかなりのもので、大抵の状況下で安心してスロットルを積極的に開けていける。
マニアックなハンドリングという観点から考えたら言いたいことはあるが、
誰が乗ってもイージーかつそこそこ速く走れるという点ではこのセッティングは正解だろう。
しかし前輪から素早く倒れ込むくせに前輪の切れ込みは弱く、実は後輪荷重のりアステアで曲がるハンドリングというのは
何となく前輪主体のレプリカのようなハンドリングを無理やり調教し直したような印象を受けてしまい、
あくまで個人的な趣味の対象としては全面的な肯定はできかねる。個人的にはフロントの特性を変更したら
いきなりビモータ・スーパーモノ以来のビッグシングルスーパースポーツに早変わりできる可能性を秘めていると思うのだが。
ただし、どちらにしても最もコーナーが速くて楽しいFシリーズなのは疑いない。
なお、いくら安定しているとはいってもやはりテレスコ。一度調子に乗ってバンクして定常円旋回
(このバイクのコーナリングはこのパターンが多い)でアクセルオンのまま路面の縦溝を乗り越えると
前輪が横っ飛びして怖い思いをした。
路面の不整などまず無頓着でいられるテレレバーのようには走れないことは覚えておかねばなるまい。

また大きなメーターバイザーの防風性は想像以上に優秀で、システムWヘルメットを使用している私の場合
時速90キロでも何の問題も無くバイザーを全開にしておくことができた。
そういった速度でも車体は徹頭徹尾安定しきっていて、エンジンからの振動も少ない。
シティーバイクとはいえやはりBMW。ツーリングにも充分使えるだけの快適性は備わっている。
ブレーキの評価はGSと同じで、実用上まったく不満のない性能が確保されている。
なお街中では低重心と切れ角の大きなハンドル、軽量な車体などがあいまってすこぶる扱いやすい。
Uターンのしやすさなども含めて、間違い無く現行BMWの街乗り王だろう(C1は除く)。

まとめ。F650STの後継車にあたるバイクだが、その本気度は前作の比ではない(と思う)。
エンジンは兄弟車よりもパワフルで、実用上はほとんど全域でパワーアップしているように感じられる。
加えて街中でも扱いやすく、長距離巡航もおそらくは十分にこなせてワインディングでは間違い無くFシリーズ中最速。
明確にオフロード走行を切り捨ててある代償として、オフロード以外の面での総合性能は
Fシリーズ中文句無しに最高だ。シングルとしては少々高価だが、
形さえ納得できれば完成度の高いコミューター/シングルスポーツ/ツアラーとして、文字通り誰にでも薦められる。
難点はパニアがつかない(ソフトケースのトップは付くが)ことで、これだけはツアラーとして大減点だから
何とかしてほしかったところだ。

S1000RR
スペック上はGSX−Rなどの国産ライバル車とほとんど同じ寸法の車体は、マスの集中化が図られた設計のためか
はたまた或いはデザインの妙なのか、実際の寸法よりも小ぶりで引き締まって見える。
スーパーバイクのベース車両ということは要するに市販段階で基本設計を詰めておくことが
サーキット上での戦闘力ではものを言うわけだが、車体のマスの中心がかなり前よりに設定されていて
相対的に後ろがスカスカなことと、ライバル車と比べるとやや細いフレームが目に付く。
(サスやブレーキなど、個々のパーツはレース用は別物なのでそれ自体の市販状態のグレードはあまり問題ではない)
この辺は後発だけにいろいろとBMWがライバル車両を研究した部分だろうし、興味深いところだ。
また単体で60キロを下回るエンジン重量は水冷の1000cc4気筒としては驚異的に軽いと言ってよく、
この辺はやたらショートストロークだが193HPという最大出力といい、エンジン屋の面目躍如といったところか。
理屈では本国仕様は直線加速だけならGSX−R1000にも圧勝できる(はず)で、それには素直に感心する。
また細かいところまで目を遣ると、アンダーカウルを一部兼ねるデザインのサブチャンバー一体型のマフラー、
国産のどのライバルにも似ていない左右非対称のカウルデザインなど、それなりにデザインにも気を遣っている様子が伺える。
従来のBMWデザインとはかなり方向性が異なっているが、この種のバイクは基本的にまず内部設計による戦闘力ありきで
デザインのために機能や性能を犠牲にすることはほとんどしないはずだから、
現時点でサーキットを一番速く走るためのメカニズムをできるだけコンパクトにレイアウトし、
それを覆う外装を空力的要素を考慮しながらまとめていくと全体のシルエットが
どうしても同じレイアウトを採るライバルと似てしまうのはある程度仕方のないことで、
そういう制約の中ではデザイン部門は後述する一点を別にすればなかなか頑張ったのではないかと思う。
また、ザックス製の倒立フォーク/リヤサスペンションを専用設計として調整を10段階と比較的割り切った設計にしたうえで
調整に数字を付けて現在のセッティング状態が一目瞭然でわかる仕様としたことは、
誤解を恐れず書けば一部のマニアではなく、顧客層としてよりマジョリティを占めるであろうサスセッティングに
平均程度の知識と経験しかもたない普通のスポーツバイク好きのライダーに対して
サスセッティングの門戸を広げるものとしてそれなりに高く評価したい。
うがった見方をすれば、このサス選択の考え方にBMWのこのバイクに対する狙いが端的に表されており
それは功罪両面があるとも思えるのだがそれについては後述する。
またタンデムシートはまさに隠し芸かエマージェンシー用程度のものだが、マフラーステーも兼ねたタンデムステップのステーは
なぜか異様に立派なものが付いている上に軽くバフがけされた(車体色による)必要以上に頑丈そうなアルミのスイングアームには
タンデムライダーのブーツが触れそうな部分に傷付き防止のウレタンが貼ってあったり、妙なところに手が込んでいる。
厳しい騒音規制をパスするために国内仕様では標準装備とされるアクラポビッチのカーボン巻きサイレンサーは
本国での純正オプション品そのものらしいが内部構造は何とストレートになっており、
(本国仕様のメガホンタイプの純正マフラーもストレート構造なのは同じ)156HPしか出ない日本仕様でも灯火類を取り外して
エンジンのモード切替をサーキット専用のSLICKモードにした時には本国仕様と同じ193HPを発揮することでもわかるように、
このマフラーは本国純正より「パワーを落として静粛性をその分高めたマフラー」では、実はない。
聞く所によると本国純正の短いマフラーではエンジン本体のノイズも拾ってしまうために日本の騒音規制が通らず、
純正より多少長い分測定位置がエンジンから離れて測定に有利だったアクラポビッチのマフラーを
日本国内標準としたそうなのだが、裏が取れていないのでこれについては断定は控える。
その純正マフラーマウント用の穴が残されていて目立つのはまあご愛嬌としても、ニッシンの鋳造ラジアルマスター、
ブレンボのラジアル2ピースキャリパーなど全体のパーツは比較的お金をかけずに安いけれど性能のしっかりした部品を
集めてきて組み上げたといった印象があり、それについては可もなく不可もなく・・・というのが個人的な感想。
国産のライバルと近い価格で販売するためには当然製造原価も国産のライバルと同じくらいに抑える必要がある訳で、
BMWのブランド料も考えると更に原価は下げざるを得ないうえにこの手のバイクに経験がないBMWは
新規開発の部分が必然的に多くなるため開発コストでも不利なはず。総じて価格相応の高級感があるとは思えないが、
その辺の台所事情も考慮すれば価格に比した外観のコストのかけ方はまあ合格なのではないかと思う。
また、お金にこだわらずとにかく外見をグレードアップさせたい向きには、高価だが品質はさすがによく考えられた
BMW純正のHPカーボンパーツがかなり豊富に用意されている。
ただし全部揃えると部品代だけで100万円を多少超えてしまいMVアグスタの価格帯に重なってしまうので、
純正品利用の外装カスタムはこのバイクによほど思い入れのある方以外はほどほどに留めておくのが無難だろう。

またがってみると、国産スーパースポーツと比較しても前傾の度合いはやや強めに感じる。
(GSX−R1000よりはきつく、YZF−R1と同程度かややきついくらい)膝の曲がりはそれほどきつくはないが、
ハンドルがやや幅広で垂れ角が付いているため相対的に腕に負担がかかる感じだ。
ただし、根本的にツーリングバイクではないので、快適性よりスポーツ性を優先した設定と考えたら充分理解はできるし、
この手の前傾バイクに慣れている方ならツーリングも充分できるだろう。
シートの座面はやや硬めだがグリップは悪くなく、座面の前傾も緩めで前方がかなり細身に作られているので
体格にもよるが足つき性も決して悪くはない。ただし、新造形のステップはK1200S以来の悪しき伝統でローレット加工が少々甘く、
雨の日にハイペースで走るとたぶんブーツが滑りやすいと思われる。
ミラーの視認性は鏡面の6割ほどが実用視界で、絶対的にはそこそこだが充分許容範囲だろう。

さて、他のBMWと事実上同じ内溝のイグニッションキーを捻ると、セルフチェックのためかタコメーターが
一瞬MAXまで振れ、非常に多機能な液晶のメーターが一瞬全表示される。
従来のBMWではあり得ない光景だが国産のライバルでは別にそれほど珍しい光景でないので、
この光景を見たときの反応はこの手のバイクの経験値があるかないかでかなり差が出るだろう。
それからおもむろにスターターを押すと、日本の騒音規制をパスしているとはおよそ信じられないほどの
轟音でアイドリングを開始する。私も予備知識がなければ「これは騒音規制に通るはずがない」と
たぶん断言していただろうほどのボリュームで、間違っても深夜の住宅街での暖気は避けた方がよろしい。
前述したとおり日本では標準装着のアクラポビッチは国内の騒音規制には通るものの車両全体から発生する音量を
減らす役にはおそらく立っていないと思われるので(国内の規制を通ったのはROMをいじって高回転まで
回らないようにすることで最高出力が発生する回転数(と、ピークパワー)を下げ、その半分の回転数で測定する
近接排気騒音を減らしたことと、その測定方法によるものだ)、
国内メーカーが用意しているやたらと静かな日本仕様車とはその迫力において良くも悪くも雲泥の差がある。
エンジンのパワーを考えたら比較的軽いケーブル式のクラッチを緩め、やや重いスロットルを操作してやると
低速トルクがやや細い感じながらもバイクは前に飛び出した。
そこからの加速感だが、3000回転以下では全体にトルクが細く、回転馬力で速さを稼いでいる印象があって
正直なところそれほどパワー感があるわけではない。(後日サーキットで試乗した時にはもう少しトルクが厚い印象だったが)
また、エンジンの制御モードを通常走行モードのSPORTからRAINに切り替えると
電子制御スロットルのレスポンスが大差ではないものの確実にある程度鈍くなり、
加速感は削がれるが鷹揚なスロットル操作も受け付けてくれるようになる。
後述するが絶対的な速さはRAINでも充分以上なので、街中での走行であればRAINが万人にお勧めかと思った。
SPORTやRACEだと確かにピックアップは多少鋭くなるが(それでも、YZF−R1のAモードほど鋭くはない)
公道を100キロをちょっと超える程度の速度で走っている限りそれほどの大差はないし
(と言うより、市街地走行程度の回転数ではRACEもSPORTもやや鈍い印象があった)パワーは同等なのだが、
それでも乗っていて神経を遣う度合いがある程度増えるのは避けられない。
街中から撃墜マークを点滅させたいのでなければ、開けて遊ぶためのモードは混雑した街中を抜けて
峠かサーキットに到着するまで取っておいた方がトータルの疲労も少ないし、
走りたい時にも集中できて結果として帰り道も楽ができるのではあるまいか。
遊ぶと割り切るならRACEの方が楽しく実は私も途中からはRACE一本で乗っていたのだが、
街中でこればかり使っているとたぶんそのうち免許がなくなる。

アクセルを適当に開けながらシフトアップしていくと、ギヤシフトがやや重いのに気が付いた。
新車だから重いということも当然あるだろうが、スムーズなシフトアップを考えると個人的にはもう少し軽くして
ストロークも短くしてもらいたいと思う。このバイクでお勧めのグレードはギヤシフトアシストの付くプレミアムラインの方だが、
ギヤシフトアシストに頼らずとも充分にシフトチェンジがスムーズかつ快適にできるよう作っておくのがあるべき姿だ。
またそのギアシフトアシストだが、これまで同じシステムを搭載した車両に試乗した時にも感じていた通り
どうもうまくシフトできる時とできない時の差が大きかったので後日BMWジャパンの方に話を伺ってみたところ、
スロットルを開けっ放しの加速状態でのみ作動するシステムのため
スロットルを開けたり閉めたりして速度調整をしながら適度に加速するような場面では作動しないことがあるらしい。
つまり、スロットル開度は固定かある程度開けながらの時しか作動しないということだが、
このことさえわかっていればこのシステムはやはり強力な武器になる。後日雨のサーキットで乗った時でも、
コーナーでバンクしながら左足だけでシフトアップして加速できるという事実は
後述する様々な理由でかなりのアドバンテージを得られると感じた。

ハンドリングは試乗車が標準よりかなり減衰を抜いたセッティングだったため一概には言えないが、
非常に車体の動きが軽快で、フロントの入りも良いがやや軽すぎて安定感に欠ける印象だった。
また、いい位置に車体の重心がある・・・というより、車体のマスが集中しているのが非常にわかりやすく、
コーナーでは車体の後ろが軽いのがはっきりとわかるほどだった。リッターバイクでこの感覚は初めての体験だ。
ただし、この時はフロントフォークは明らかに減衰不足なのが認められたため、このハンドリングが全てとは考えられない。
後日サーキットで試乗した際(セッティングはたぶんメーカー推奨状態)には軽快感はこの時より多少抑えられていたが、
車体の動きは格段に安定感を増していた。また、このバイクはフレーム剛性があまり高くない感覚があり、
注意して乗っていると比較的低めの速度域からでも車体がしなる感じが(K1300系よりも明らかに強く)伝わってくる。
BMWは昔から車体のしなりを積極的に生かした設計が好きなメーカーだが、今回はまた随分と・・・と思った。
不安感はないし、現代のレースで戦うためにはこのくらいの剛性バランスがちょうどいいという考えなのだろう。
一方フロントブレーキについては少々不満があり、絶対的な制動力は文句なく高いのだが初期作動が敏感というより
やや制動力の立ち上がりがやや唐突過ぎる印象があり、微妙なコントロールが意外とやりづらい。
HP2スポーツもこれと似た効き方だったが、ニッシンのラジアルマスター+ブレンボの鋳造ラジアルキャリパーなら
本来もっとコントロール性が高いはずで、おそらくはパッドの問題ではないかと思われる。
本来想定された高速走行からの制動力を考えたらこれはこれでありだろうと思うが、
大多数の乗り手は一般公道がメインステージなのだから(そもそも、レースに出るならブレーキはいじるわけだし)
BMWにももうちょっと一考してもらいたかったと思う。まあ、気になるならパッドを換えればフィーリングの問題は
たぶんほぼ解決するだろう。フロントはブレンボの汎用キャリパーだから、パッドは選び放題だ。
また、クラス最高のショートストロークエンジンだけあってエンジンは低回転でのトルクがやや細めなので、
低速コーナーからの脱出の際には加速にやや物足りなさを感じることがあった。もちろん回せば充分以上に速いのだが、
リッタークラスのスーパースポーツにしてコーナー出口でスロットルをガバッと開けることを求められるというのは
いかにもBMWらしいと好意的に言うべきなのだろうか?純粋に機械としての完成度で判断すればペケだと思うが。
なお前後ザックス製のサスペンションユニットの性能に不満はないが、きちんとセッティングを出したオーリンズや
ペンスキーほど作動感が良いわけではない。セッティングを楽しんでもらおうとBMWが努力したのは認めるが
「上には上がある」のがこの世界なので、オーリンズが以前から開発しているリモコンでの減衰力調整
(要するにESAのオーリンズ版だ)をセットにしてプレミアムラインに装備するという手法もあったのではなかろうか。
今はなきR1200Sのプレミアムラインという前例もあるが、性能追求の客向けに上級グレードには前後オーリンズを
ライン装着することはBMWには(価格の問題を別にすれば)可能だったはず。
専用設計のフロントフォークをできるだけ使用して量産効果でコストを下げたかったのだろうといううがった見方もできるが、
ワークスレーサーは前後オーリンズを採用していることから考えるとやはりあと一息!と思う。
というより、日本国内での極めて戦略的な価格にしてもそうだが(ドイツ本国での価格は15500ユーロで、
13000ユーロのR1200GSや13900ユーロのK1300Rより実は高く、15950ユーロのK1300Sに近い)
このバイクをBMW自身手の届く価格のスポーツバイクとして幅広い客層に向けて台数を売ろうとしている節が多々あり、
HP2スポーツのようなマニア限定のスペシャルモデルとは異なりコストと性能を秤にかけた割り切りが感じられる。
その分価格的にもハードルは比較的低めでとっつきやすいが、コストを抑えた量産型の限界を感じてしまうのもまた事実だ。
なお乗り心地は予想通り硬めだが、前後サスの作動性が比較的良い上にシートの反発力が高いこともあって、
ツーリングにもまあ使える程度の快適性は確保されている。
また、このバイクの水温計はバーグラフ表示ではなく温度が摂氏でデジタル表示されるタイプだが、それを信用する限り
(表示にディレイをかけているかは不明)水温の変化はなかなか速く、信号待ちなどでは結構な速度で水温が上昇する。
実用上まったく問題はないのだろうが、5月上旬に名古屋の市街地を軽く走っていただけで水温が100度を超えて
信号待ちでファンが回り始めたのには少々驚いた。フレームへの熱の伝わり方などは短い試乗ではわからなかったが、
この種のバイクの例に漏れず都会で夏場に乗る時には多分ある程度の覚悟が必要になるだろうと思っていたところを
後日盛夏の時期に試乗した友人に聞いたところ、やはり暑い時期の連続走行では
フレームはまともにニーグリップできないほど熱くなったそうである。

また、後日雨のサーキットで試乗する機会があったのでその時の事を簡単に書いておくと、
ありていに言えばまさに「水を得た魚状態」で、モードをRAINにして深いバンクを避けるように走ってさえいれば、
一周目から「サーキットならメガモトなど敵ではない!」と断言できるようなペースでの走りが可能だった。
日本仕様のRAINモードは本国仕様のRAINとはデータを比較する限りピークパワーは同じ156HPでも内情は少々違いがあり、
本国仕様のRAINはトルクそのものを他のモードより多少細らせてあり(それ以外のモードはSLICKも含めパワーカーブは全部同じ)
13000回転まで回してようやく156HPを発生するのだが、日本仕様のRAINのパワーカーブは他のモードと共通で、
10000回転まで回した時点でピークの156HPを発生している、ということは
RAINモードに限って言えば実用域のパワーでは本国仕様よりも日本仕様の方が上だということになる。
RAINモードの本来の存在意義を考えると「本当にそれでいいのか?」とも思えるが、ともかくパワーは充分以上で
路面が一部川になった状態でもこれほど安定、安心してスロットルを開けられるスーパースポーツというのは
それだけも驚嘆に値する。幸か不幸かABS/DTCを作動させる機会はなかったが
(インストラクター氏の言によれば「DTCがあっても滑るときはやっぱり滑るけど、あるとないでは違う」そうだ)
いざという時に電子制御が助けてくれるという安心感はBMWに乗っていると共通して感じる大きなメリットだ。
また、前述した「速くコーナーを立ち上がるためにはスロットルを大きく開けなくてはならない」という乗り方と、
必要以上のトルクを制御してくれるDTCは理屈だけで考えても非常に相性がいいはずだ。
つまるところ転倒を一回防げればこれらの装備は元が取れるので、オートシフターが装備されることも考えると
このバイクのお勧めグレードはどう考えてもプレミアムラインということになる。
(一応HPギアシフトアシストは純正オプション扱いで後付け可能なようだが、調査不足のため詳細は不明)
また、オートシフターの有難味を実感したのが実はこの悪条件下で、シフトアップ時のクラッチ操作、スロットル操作に
まったく神経を遣わなくていい分、注意力をそれ以外の操作に向けられるので精神的にも負担が軽減され、安全である。
本来快適装備ではないのだが、グリップヒーターと同じで「乗り手への負担を減らすことは結局速さと安全につながるな」と
目から鱗な気分だった。それだけにこのバイクにグリップヒーターの設定がないのは何とも片手落ちで、残念というしかない。
ハンドリングに関しては乗り方次第で何とでもなる・・・と書くと身も蓋もないが、前輪荷重でフロントを沈めてやれば
フロントからスッと入っていき軽快だが充分に安定して曲がっていく典型的なテレスコのスポーツバイクのハンドリングで、
車体設計的にもそれ以外の乗り方は基本的に考えていない節がある。
バイクの性格を考えたら本質的に前乗り以外はあり得ない種類のバイクなので、これは方向性として正解だろう。
リーンスピードは遅くはないが極端に鋭いわけでもなく、軽くて安定しているが鋭さにはやや欠けるという
ある意味実にBMWらしいものだ。また、速度が上がっても車体の慣性質量を意識することが少ないのも特筆できる。
リーンしてからのコントロール性はまずまずで、メガモトほど自由自在でもデュオレバーほど絶対的な安心感があるわけでもないが、
荷重やスロットルのコントロールでバンク中でも旋回力を上げたりラインを変える事は難しくなく、コーナリングはなかなか楽しい。
(基準となるハードルが以前より上がっているが、日に日にレベルアップする現行車種同士で比較すると
どうしてもこういう書き方になることはご容赦願いたい)。
またサーキットペースで腰をずらしながら走ってみて気が付いたのだが、国産のライバル車と比べて
前後方向に長いサイドカウルは見た目がよく空力と放熱効果にも優れているのだろうが
形状的に少々ライダーに近い位置まで延びすぎており、
大きく腰をずらしていくと比較的早期に膝がカウルに当たってしまい邪魔になることおびただしい。
膝を外に開けば回避できるのだがこれをやると荷重が抜けやすくなるし空気抵抗も増えるので、
次期モデル(あればだが)では是非改善してもらいたい部分だ・・・というより、デザイン部門は何をやっていたのだろうか?

なお、サーキットでは相当な威力を発揮したモード切替だが、現在選択しているモードは小さな液晶ディスプレイに
表示されるだけなので、一般道ならともかくサーキットでは現在選択中のモードなど忙しくて見ていられない。
そこまで気合を入れて走るための装備ではない、と言ってしまえばそれまでだが、現在のようなボタンを押すたびに
モードが切り替わるシステムではなく、スペースとコスト的に許されればディマースイッチのように上下や左右で
切り替える方が素早く操作でき、直感的にも分りやすいだろうと思った。

さて、まとめだが、このバイクは正直言って非常に評価が難しい。絶対評価で考えれば「このジャンルに切り込んだ第一作として
かなりの性能とまとまりを見せており、ポジションさえ耐えられれば非常に間口が広くてとっつきやすく、
ツーリングはこのクラスではたぶん破格に楽で、足回りもなかなか優秀、オプションではしっかりしたバッグも用意されており
性能も外見も第一級のスーパースポーツだが、根底に流れる乗り手に優しい設計思想はまぎれもなくBMWそのものだ」
ということになる。突出した魅力にはやや欠けるがABSとエンジンのモード切替とトラクションコントロールとオートシフターを
全部備えたリッタークラスのSSは世界的にもこのバイクしかなく、そういう意味での優れたスポーツバイクとして考えれば
評価はかなり高いものになる。
しかし、スーパーバイクのベース車両として考えれば(今年になって成績は上向いているが)ノウハウの蓄積も何もない状態から
いきなり国産4メーカーと対等に渡り合えるバイクを作れというのがそもそも無茶な話であって、事実レースでの成績はさほどでもない。
また、基本的に予算が国内メーカーより少ないはずなので
「国産のライバルのように、頻繁にFMCをしてレースでの競争力を維持することができるのか?」と考えると
かなり疑問符をつけざるを得ないし、そうなったら今の国産車が次世代型にFMCした時には
公道でもレースでもたぶん戦力的に歯が立たなくなっているだろう。
2010年現時点ではまだいいが、その時にこのバイクを選ぶ意味が果たしてあるのか?と考えると
これはBMWに期待するしかない訳だが、公平に考えたらあまり未来のなさそうなバイクだと言わざるを得ない。
また、遊びの道具として考えた場合には様々な電子デバイスの優位性はあるがそれ以外で国産のライバル車に
別にアドバンテージがあるとは今のところ思えないので、価格が近いとは言え明らかに高いはずの部品代や整備代などの
維持費も含めて考えると、正規販売や逆輸入などよりどりみどりの国産車と比べた時に
「敢えてBMWを選ばねばならない」理由には正直なところ乏しいというのが本音ではある。
雨の日にでも安心してスポーツ走行ができるのは確かに凄い技術力でBMWの設計思想も含めて高く評価したいが、
そもそもそんな日に好き好んでスーパースポーツを走らせたいか?と言われたら私はノーと答えるしかない。
よくできた高性能バイクなのは間違いなく、BMWに経験豊富でスーパースポーツが欲しい方か
その辺のことを含めた上で「このバイクがいい!」という人にはお勧めするのをまず躊躇わないが、
形に惚れただけとかBMWのプロペラマークに憧れてという向きには
「国産もいいですから、両方試乗されてから決めたらどうですか」と一言言っておきたくなる。
BMW未体験の方向けに要約すると、完成度はなかなか高く、性能は充分で極めて安全でパーツの供給体制も抜群。
しかし突出した魅力には欠け、車両本体はともかく維持費は割高、そんなバイクだ。


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