HP2 スポーツ HP2 メガモト R1200R(空水冷) R1200RS
R1200ST R1150RS R1100S
R1200RT(後期型) R1150RT R1100RT
R1200R(DOHC) R1200R R1150R R1150R ロックスター
R1100R R850R
R1200CL R1200C/アバンギャルド/インディペンデント
R1200GS(前期型) R1200GS(08年) R1200GSアドベンチャー(08年) R1200GS(DOHC)
R1150GS R1150GSアドベンチャー R1200GSアドベンチャー(DOHC)



R1200R (空水冷)
外観の先代モデルとの違いはやはりテレレバーの有無が最大のトピックだが、
良し悪しはさておき視覚的に間延びした印象を与えていたAアームが消滅したことで
フロント回りは凝縮感が増し、全体に前後に縮まり前傾姿勢の走りそうなイメージを
あからさまに表現したものになっている。それはそれで一応評価するが、
テレレバーがなくなったことでエンブレムを隠して真横から見ると、
外観は率直に言って妙に垢抜けていない今時のマッスルバイク以上のものではない。
クラシカルな雰囲気を大切にする守旧派のことは考えてないデザインで、そこは先代と明確に異なる。
それは好みとしても、個人的にデザインがきちんと機能に結びついていると思えるのは
軽量化が進んだと思われるホイールと上下2灯式のヘッドライトくらいで、容量を稼ぎたかったのだろうが
どうにも子供っぽく見えるサイレンサーや薄く跳ね上がって今時のデザインになった代わりに
座面が小さくなり物入れのスペースも消滅したテールカウルなど、
単に流行を追っただけのようでどうにもいただけない。
また相変わらず各部の作りはチープ・・・というより世代を重ねるたびに悪化しており、
とてもじゃないが169万もするバイクには見えない。この値段に納めるためには仕方がない、という
ディーラーさんのトークは立場として判らなくもないが、少なくとも電子装備で多少の差があるとはいえ
2気筒多く遥かに質感の高いバイクを40万円安く売っているホンダと比べて
BMWに企業努力が少々足りないのは間違いのないところだろう。
キャリアとパニアステーが標準装備になったのは、従来純正オプションを購入すると
異常に高価だっただけに嬉しい変更点だ。その分パニアステーのコストダウン・・・というより
安作りっぷりは過去を知る者としては目を覆わんばかりだが、幸か不幸か外観がしょぼくなった分
視覚的な存在感も弱まり、ケース非装着時の違和感は以前より小さくなっている。

ちなみにフロントの電子制御サスに付随する電動アクチュエーター等の調整機構は左側のみに
集約されているのだが、これが両側にないのはずばり、コストダウンのためだ。
(アクチュエーターの同調ずれが生じない副次的メリットも一応あるはずだが)
一般道で普通のライダーが乗る分にはまず違いはわからないから問題ないという見方もできるが
本気で性能を追求するなら左右のフォークに装着して減衰を左右等しくするべきであり
(性能最優先のGPマシンのフォークのアジャスターは全部左右にあるのがその証拠)
同等の性能が確保できるならダンパーは片側に集約した方が部品点数が減ってコストが下がるのだから
どのメーカーも普通のバイクでとっくにやっているはずで、しかるにコストに厳しい125ccのバイクですら
フォークのダンパーバルブをきっちり左右に装備しているのはつまり、そういうことだ。

シートは82cmのものをセットしてもらった。またがると記憶にある先代のR1200Rより
ハンドルが低い位置にあり(比べたわけではないので記憶違いがあればご容赦)
シート高の関係もあって前傾姿勢は以前より強まっている。バーハンドルの幅は
個人的にはやや広く感じたが気になるほどではなく、絞り角やレバー角もおおむね自然つまり適切。
この辺は低いシートで強い違和感を感じた先代(特にクラシック)とは大きく異なる部分だが
それにしてもこれを有償オプションにするのはいただけない。
BMWジャパンは他国のように新車時に無償選択できるようにするべきだ。
また、その状態ではステップがやや高く後退気味のため膝の曲がりは以前より強くなり、
R1150Rの頃に先祖返りした観がある。
よりスポーティーな性格に合わせたと言い訳はできるだろうがハイシートでこの状態だから、
低いシートでは膝の曲がりがかなり気になるのではないだろうか?

シートは座面の前が結構絞られており、身長176cm台の私の場合82cmのシートでも
両足が余裕でベタ付きする。その分長距離ツーリングでの快適性は?がつくが、
形状が考えられているのは認めねばなるまい。昔のBMWはバイクは停まっている時より
走っている時間の方が長いのだから、足つき性より膝が窮屈にならないことが大切だと唱えていて
個人的にはユーザーに媚びない考え方に大いに共感したものだが、良くも悪くも随分と変わったものだ。

メーターパネルは例のアナログの速度計を左に置いて右側に横長のTFT白黒液晶パネルに必要な情報を表示し、
その上には小型の警告灯がかつてのK1200RSのように横一列にずらりと並ぶものだ。
ただ、個人的に言わせてもらえばこのメーターパネルの出来は悪く、デザイナーの悪ふざけの域を出ていない。
速度計とギヤポジションの視認性に問題はないがタコメーターは表示(3通りに変えられる)を
どういじっても視認性が極めて悪く、瞬間的な情報伝達性には大いに不満がある。
だいたい表示デザインを選ばせる余裕があるなら視認性に優れたデザインを一つ作るべきであり、
これだけの高価格車なのだから液晶パネルはドカのモンスターを見習いフルカラーを奢っても罰は当るまい。
それで縦方向にディスプレイを拡大しておけば例えばオプションの純正ナビを内蔵式にして、
視認性と外観のスマートさと盗難対策を一気に解決するとか、そういった利点も出てこようというものだが。

スイッチ類については左側ウインカーでジョグダイヤルがついた近年のBMWのいつもの仕様で
クルーズコントロールが標準装備された以外に特筆すべきところはない。
ブレーキレバーのアジャスターの質感の低さは絶望的なレベルだが、操作性自体は良好である。

エンジンをかけると、水冷化されて以降のボクサーはどれも似たようなものだが
トルクリアクションがほぼ皆無のまま、DOHC時代のGSを思わせるあまり品のない排気音がする。
ヘッド回りは水冷化された恩恵で熱的な安定性が随分増したことでクリアランスを小さくでき、
更にウォータージャケットの吸音効果も期待できるはずなのだがその割にはヘッド回りは静かになっておらず、
アイドリング時からカチャカチャと結構やかましい。
電制化されてワイヤーを引っ張る必要がなくなったスロットルは以前より格段に軽くなり
たぶん長時間の疲労を軽減してくれるだろうことは明らかなメリットだ。
電制スロットルもいいことばかりではないが、メンテナンス間隔は格段に伸びているし
パワーモードなどやはりコレ無しでは存在できないわけで、トータルで考えたら
やはり装備されたことは機械として正しい進歩と判断すべきだろう。

エンジンもダイナミックESAもノーマルにセットして発進。正直言ってモードを色々試していたら
試すことが多すぎて走りながらメモでも取らない限り覚え切れないし、試乗時間も到底足りない。
R1200GS初期型はスロットルの反応が鋭敏すぎると不評を買って途中からクランクマスを増やしたわけだが、
ユーザーの反応を読み誤ったBMWの企画力の甘さはさておきピストン・コンロッド・クランクには
振動を減らすための設計上の重量比のセオリーというものがあり、おそらく初期型GSの時点で
きっちり合せてあったはずのそれらの重量バランスは、クランクの重量を増やして狂った分を
バランスシャフトのウェイトを増やして相殺するという賢いというか場当たり的というか、
評価の分かれそうな手法で対策して振動の増大を理論上抑制している。
ともかくクランクマスを増やしオルタネーターにウェイトまで仕込んだエンジンは、それでもツーリングユースには
個人的には反応が良すぎると思うが、R1200Cほどではないものの低回転から充分なトルクと粘りを見せ、
空油冷時代より格段に半クラッチが楽になったことにも助けられてそろりそろりと発進する。
実際に有効なトルクを生み出すのは1800回転くらいからだが、ファイナルが低いRの場合
平坦路なら6速1500回転でも何とかぎくしゃくせずに走ることができる。
ただ、冷静に考えてみると空油冷時代のRでもこのくらいはできたわけで、
つまり低回転域でのトルクは実際には大して違わないということになる。
スムーズに走れるのはおそらく電制スロットルと、駆動系のダイレクト感が減ったことからして
容量が増していると思われる駆動系ダンパーの恩恵だろう。
ちなみにミッションのタッチはスムーズで軽く節度感も合格点だが、高級感には乏しく状況によっては
大きな音とショックも伴うというちょっと評価に困るものだ。総合的には空油冷時代より進歩しているはずだが、
改めて考えると空油冷のミッションのタッチの劣化が意外と早いため新車が余計に良く見えた可能性はある。
なおギヤシフトアシストなのだが、自分ではどう試しても自分がクラッチを握って回転合せした方が
シフトアップ/ダウン共にスムーズだったため、同時に試乗したRS共々評価の対象外とさせていただく。
雑誌のインプレ以外でも絶賛しておられる個人ユーザーの方もおられるが、
現時点の私には「要らない装備」と言うしかない。(ただし自分のアプリリアSXVにはクイックシフターを
後付装着しており、極めて有効と認めている)

さてまっすぐ走っているだけだと、率直に言ってしまえば幾らかパワーを増したR1150Rロックスターだ。
ダイナミックESAは以前試乗したR1200GSやRTと比べても格段に洗練されており、
走行中に忙しく減衰力が変わることによる操縦していての違和感はほとんどない(注意しているとわかる)。
初期の空水冷GSの頃はコーナリングの途中でサス設定が勝手に変わるためコーナーを攻めるどころではなく
コーナーをクリアするたびに不機嫌になるような代物だったし、RTはフルロードに対応してかスプリングレートが
やたらと高く、減衰をどんどん抜いていくことでサス設定変更に対応していたため邪魔以外の何物でもなかったが、
このRに至ってようやく使い物になるところまで熟成された感じである。
乗り心地は良い・・・のだが細かく言うと初期作動がスムーズというよりダンパーの効きが甘く、
僅かにフワついた感じから奥の方でダンピングを強めて収束していくものだ。ややレートの高いスプリングを
それと感じさせずに押さえ込むセッティングで、私が10年以上前にゴムまりのようと評した
ロックスターの乗り心地とセッティングの方法論は一緒だ(従ってバウンシングは結構ある)。
また、ストロークの途中でも減衰力は変化しているはずだが、その作動感に唐突感がほぼ無いのは立派だ。
しかし、敢えて書くのだがだったら電子制御サスの意味はあるのか?ということになる。
電制サスというのはあくまで減衰力やプリロードを電気的に調整するもので
(プリロードは走行中の変更ができない)原理的にもあくまでサスの基本性能を引き出すだけで
基本性能を底上げしてくれるものではない。
だから個人的には電子制御に回すカネをサスの基本性能を上げることに使った方が、
バイク全体の性能が底上げされていいではないかと思うのだ。
以前K1200SがESAを装備した時にも書いたが、サスの調整に興味がない方にも
手広く適切なセッティングを提供するという意味では意義を認めるのだが、
だったら少なくとも体重に合せてセッティングは微調整できるようにすべきである。
体重60キロと90キロのライダーでベストな減衰力/プリロード設定が同じはずがなく
(本当はスプリングレートも同様だが、これを調整可能にしたのは
ESA2だけで現行のダイナミックESAではオミットされている)、現行の一人用と二人用に、
それぞれ荷物の有無の4通りしかないのはセッティングを詰めるのであればパターンとして乱暴に過ぎる。
本来ならばいいサスで一発バシッとセッティングが出ていればあとはタンデムなどでプリロードを変える程度で
ほとんどセッティングはいじらなくてもいいもので、それを状況に応じてセッティングを細分化するなら
そのくらいは突き詰めてやるべきだろう。現状の足はそこそこの性能のサスを万人向けのセッティングで
破綻なく走らせている、以上の評価ができない。

ともあれ、比較的硬めのスプリングに減衰が弱めのサス、それに軽量化された車体の組み合わせだから
走りは軽快で、重量感をあまり感じないのは実によろしい。しかし大型バイクを求めるユーザーの大半は
大パワーは勿論だが車格や所有感も求めてわざわざ大きくて重くて維持費も高いバイクを購入するわけで、
しかし購入後には軽くて取り回しがいい事を要求するという、考えてみたら何とも我侭なものである。
また、シートは残念ながらコストダウンが以前にも増して進んでいるようで、
レザーは薄くて荷重の分散があまりうまくいかず、ウレタンは反発力はあるが減衰が効いておらず、
総じて安っぽい座り心地だ。もう国産の出来のいいシートには追い越されたと見るべきだろう。

また、このバイクを走らせていても特別なバイクに乗っているという満足感は薄い。
そもそも特別なバイクではなくただの幾分高価な大量生産品に過ぎないという意見もあるだろうが
少なくとも値段はプレミア相当であり、フラットツインの振動はどんどん小さくなって最早メリットは
事故の時にシリンダーが空間を確保して乗り手を守るくらいで
(自分のRSの事故でこれに助けられたので、他にはない長所と断言できる)
性能はともかく乗り味はただの振動が少ない等爆ツインのビッグバイク以上のものではない。
空油冷のDOHC時代にもまだ少し残っていた昔ながらのフラットツインのエンジンの味わいも、
ほぼ消えたと評してしまっていいだろう。
まあエンジンの音や振動というのは機械工学的に考えたらガソリンの燃焼エネルギーを
クランクシャフトの回転力以外に使っているわけでエネルギーの無駄遣い以外の何物でもないのだが、
機械としての技術の進歩はさておき、そういった小賢しい効率論だけで良し悪しを判断できないのが
趣味としての内燃機関である。

そんなことを考えながら「機械として進歩はしているが、BMWである必要がどこにある?」と首をひねりつつ
信号待ちで前に出て、スロットルを大き目に開けてやったところ加速力はさすがに強力の一言で、
特に5000回転を超えたあたりからの鋭いピックアップとエンジンの吹け上がりの良さは
空油冷時代には望んでも得られなかったものだ。
HPシリーズを除けばBMWのRの直線加速を速いと思ったことはこれまでなかったのだが、
これは純粋に速いと言い切れる。
3桁の速度から迫るコーナーの手前で軽く減速すると、フロントフォークがスッと沈んで
減速を強めてもハードブレーキングしない限りはほぼその沈み具合をキープする。
「なるほど、確かにテレレバーの機能を電制サスで実現できるようになったと言うだけはあるな」
要するに普通のテレスコより減速時の圧側減衰をかなり強めることで、沈むのを防いでいるわけだ。
この沈み込み量はテレレバーよりは多いが普通のテレスコのバイクよりはずっと小さく、
BMWが従来型からの顧客の乗り換えに違和感を抱かせないよう苦心した跡が伺える。
ちなみに意地悪く路面状態が良くないところでフロントブレーキを試すと、路面状態のいい所よりは
フロントが沈むがおそらく路面状況とストローク量・速度によって圧側減衰を変化させているのか
ある程度のフロントの作動性を保つようになっていた。この手のサスは何があるかわからない公道を走るため
車体の挙動を予測してのアクティブ制御ではなく状況を判断してから最適な設定を算出して対応する
パッシブ制御にならざるを得ず、必然的にサスの設定変更がごく僅かながら常に遅れる宿命があるのだが、
最適なセッティングに変化するまでの遅れと違和感をほぼ意識せずに走れるところまで仕上げているのは
地道な改良の成果と高く評価できる部分だ。

話を戻すが、ブレーキを終えてフロントを沈め、荷重をかけたところでフロントブレーキを離して
即リーン・同時にフロントに舵角をつけて一気にターン!・・・のつもりが、うまくいかないのに少々慌てた。
先代空油冷モデルのようにステアリングダンパーが邪魔をしている可能性もあるが、
(電制サスを装備しながらコストアップ承知でダンパーを残したのには、鷹揚な安定感を演出する意図もあったはず)
軽快な車体の動きから予想されるよりもリーンスピードが遅く、その状態では舵角の入りも甘いため
見た目に反してフロントからの旋回力を引き出すためには乗り手にもある程度積極的な操作が要求される。
フロントに加重をかけているのにフロントタイヤがコーナリングフォースをあまり発生しない原因が
ステアリングダンパーを含めた車体設計か電制サスの悪ふざけかは不明だが、何とも妙な気分だった。
一般道路で強く曲げるには実は逆操舵が一番簡単ではないかと思えたが、
明らかに先代より性格をスポーツ寄りに振り、しかしサス設定は事実上車体任せという
言わば究極の乗り手を信用しない設計にもかかわらず、スポーツバイクとして速く走るためには
乗り手の操作を求めてくるという開発陣の狙いがとっちらかった設定だ。
しかし、それだけにABSをはじめとする電子制御を頼りに下りのタイトコーナーに飛び込んでいくのも
テレレバーほどではないが躊躇無く行え、その時のフロントの軽快感と安定感の同居具合はほぼ模範的。
ハンドルの切れ角は充分にありUターンもかなり楽である。

さてこのバイク、評価が実に難しい。性格的に言うなら従来の保守本流型ロードスターではなく、
かつて存在したR1150Rロックスターの現代版(K1200/1300Rの二気筒版ではない)で
ややおとなしめのストリートファイターといったところ。
良路をスポーツ走行する限り技術の進歩は明白で、振動が少なくピックアップとトルクのデリバリーに優れたエンジン、
軽快な運動性と充分に高い快適性、二輪ではほぼ現代最新水準の電子制御満載による高い走行性能と安定性など
絶対性能では数多くの点でレベルアップを果たしている。
しかし、鷹揚で精神的にリラックスできる乗り味、空油冷時代のビツグツインの鼓動感、
テレレバーの磐石の安定性と全天候走破性能、車体全体の作りのよさと高級感、
おそらくタンデムシートの快適性に落ち着いたクラシカルな雰囲気など、はっきりと失ったものが結構多いのも事実。
要するにBMWはこのバイクで、設計コンセプトとしてはっきりと守旧派の顧客を切り捨てることにして、
その分スポーツライディングを楽しむためのストリートファイター的方向に大きく舵を切ったのだろう。
全方位的に非常によく考えられており運動性能もよく作り込まれたバイクだからそれがいい、という方であれば
勧めることは躊躇わないが、その場合169万円というライバルとなるだろう内外のストリートファイター系
リッターネイキッドのカテゴリ中最高クラスの価格がどうしてもネックになる。
BMWならではという魅力が良くも悪くも薄れ思想的にも独自性が影を潜めたこのバイクにそれだけの価値があるか?
判断の分かれるところだが、私なら価格などを考慮してたぶんライバルに走るのではないかと思う。

R1200RS
基本的にRとの相違点のみ。
私が愛して止まないBMWのRSの最新型である。
近年にないほど気合を入れて細部を見ていくとベースとなる車体はR1200Rと事実上共用で、
ガソリンタンク、フロントシート、テールカウルにサイレンサーまで共通。
リヤシートはR1200Rではオプションとなるコンフォートシートが最初からついている・・・のだが、
逆に言えばR1200Rのリヤシートは快適性の劣るものが標準装備ということだ。何だかねえ・・・。
ちなみに表皮や質はR1200Rで評価した通りで、率直に言えば安物である。
スクリーンはデザイン的にも凝った形状のもので、平面部分が少ない割に視界の歪みはそれほどでもない。
RTのものを小ぶりにしたようなスクリーンのステーはボルトの雌ネジが上下2段に切ってあり、
ボルトの位置を変える事でスクリーンの高さを上下二段に調整可能(些かずるい)、更に昔のK1200RSのように
スクリーンそのものを持ち上げることで高さと角度を変更する事ができる(途中で止めることはできない)。
この方式はステーの支持剛性は高いが操作性に少々難があり、RSの場合スクリーンの端を持つと
力がかけづらく、角度の変更がやりにくい。ステーを内側からつまむようにして持つのが楽だと教えてもらったが、
どちらにしてもスクリーン調整はR1200STよりかなりやりにくくなった。また走行中の変更はほぼ無理である。
足回りでRと明らかに異なるのはフォークのボトムケースが専用品となり、アクスルシャフトが少し前に出て
トレールを減らすようになっていること(数値上はRとキャスターが同じでホイールベースが少し長くトレールが小さい)くらいだ。
昔の1100/1150RSもステアリングヘッドとなるAアーム先端のブリッジのピロボールの位置を前後させるだけで
キャスター/トレールを変更していたが(ホイールベースの公称値は全部同じ)、やっていることは似たようなものだ。
ただ、これだけのことが実際の走りでは劇的に効く。それについては後述する。

Rと共通のメーターパネルはハンドルマウントではなく、フレームのステアリングヘッドからカウルまで延びる
多分マグネシウム製の立派なステーに取り付けられてアッパーカウル内に整然と収まる。R1200GS以降の
BMWの例に漏れず目の位置からは結構な距離があるのだが、普通の視力があればまあ問題はない。
メーターパネルの表示についての文句はR1200Rと全く同じなので割愛するが、ハンドルバーは
K1200/1300Sのような防振マウントされたバーハンドルで、R1200STよりもやや高くワイドで
ポジション的にはむしろR1100RSに近く、ステップの間隔をあれよりもう少し狭めた感じだ。
スポーツ走行から長距離走行まで問題なくこなせる、よく考えられたポジションである・・・あるのだが、
問題はそのハンドルバーのマウント方法で、R1200Rのトップブリッジをそのまま流用して
バーハンドルのクランプから上の部品(トップブリッジとハンドルバー)を新規作成し、クランプに使うボルトで
全体を上から締め付けて固定しているので、横から見るとトップブリッジが二層構造のようで何とも妙な感じだ。
というよりこれほどあからさまなコストダウンはBMWでもかつて見た覚えがなく、
はっきり言えば自称プレミアムブランドのやることではない。
しかもRS専用の上のトップブリッジとRと共用の下のトップブリッジの金属調塗装の色が合っておらず
横から見ると別パーツを被せたのが質感的にも丸分かりで、昔を知る者としてはただただ噴飯ものである。

また、シートとステップが共用ということはRとRSのポジションの違いは純粋にハンドルの違いだけに拠る理屈だが、
スポーツツアラーの前傾姿勢とスポーツネイキッドのごく軽い前傾姿勢を比較した時に上半身の前傾度合いが違うのに
下半身は全く同じというのはいくらRの性格付けをスポーティに振ったと言い訳しても厳密に考えたら変だろう。
実際、Rでは気にならなかった中央のもっこりとした座面形状がRSでは幾分邪魔に感じるようになっていた。
昔のK100RSはノンカウルのK100に本当に重さ10キロのハーフカウルをアドオンしただけで
下半身の姿勢どころかフロントサスまで共通だったのだが(フォークの油面のみ異なっていた)、
30年前ならいざ知らず、もうそういう時代ではないだろう。

前述の通り外装がアッパーカウル以外ほぼ共通のためリヤセクションもRと共用なのだが、
従って幾らコンフォートシート標準装備とはいえタンデム性の低下した座面の小さなリヤシートに
物入れのない小さく薄いテールカウルといった部分もRと共通である。リヤフェンダーも最低限のため、
(GSのようなサブフェンダーは無い)雨の日のタンデマーは水しぶきの跳ね上げでかなり苦労するのではないか?
こういった細かい部分の作り込み・配慮も開発陣のツアラー作りの経験値が現れる部分だが、
R11150RS以来RSモデルを作っていないBMWはその辺りの自社のよき伝統を忘れていないか?

そんなわけで外観にかなりの失望を感じながらエンジンをかける。
RSはスマートキーが標準装備なのでK1600GTLエクスクルーシブと同じく通常イグニッションキーを
差し込む位置には鍵穴ではなくボタンがあり、鍵をポケットに入れるなどしてキーの出す電波を車体が認識すると
ボタンを押せばエンジンがかかる仕組みだ(もう一度押すとエンジン停止)。バイクの場合車と違って
車内に居る/居ないという判定ができないため設計は難しかったと思うが、鍵が車体から1メートル以内で
作動するということだし多分その辺りの技術的問題はクリアしているのだろう。
ハンドルロックもこのボタンを利用して電気的に行うのだが(システムの詳細は不明)、バッテリーがあがると
ロックができないとか、間抜けた設計にはなっていないものと信じたい。
ただし、パニアケースがオプション装備となるこのRSの場合、スマートキーにどれだけの価値があるかと考えると
率直に言って大いに疑問である。エンジンを止めても2分間は鍵を差し込む必要なしにフィラーキャップが
開けられるそうだからタンクバッグを装備して給油する時には鍵の抜き差しが不要で便利だろうが、
エレキの類を装備していないパニアケースとトップケースはスマートキー非対応でK1600GTLのような
集中ロックも付いていないから、ケースの開閉やシートの交換にはスマートキーと一体化している
折り畳み式の鍵がやはり必要になり、それではオーナーの自己満足以外たいして役に立たないのではないかと思う。

始動ボタンを押してエンジンをかけると(ドカが10年以上前から装備している、セルボタン一回押しで
ボタンを離してもエンジン始動まで自動的にセルを回し続けるタイプ)、どういうわけかトルクリアクションで
ぐらりと車体が左に揺れた。同じエンジンを積む1200Rとは随分異なった挙動で驚いたが、
再始動した時には感じなかったし原因は不明だ。
軽くて節度も悪くないが少々ショックが大きくてストロークがかなり長く、質感に些か欠けるシフトはRと同じ。
水冷化されて以降パワーアップと湿式多板化という不利な要素が重なったにも関わらず
クラッチが軽くなったことは実のある改良と高く評価したい。
また、アイドリング時に車体が細かくブルブル振動するのに対し、ハンドルバーが車体よりも
ずっとゆっくりの周期で小さく震えるのは防振マウントの効果を目で実感できる部分だ。

発進すると、Rとの乗り味は意外なほど異なっていた。
Rと比べたRSの重量は+6キロの増大だから、この6キロはほぼアッパーカウルの重量分と考えていい。
RSはその増えた前輪荷重を上手に使っている感じで、フロント周りがシャープで軽快なのに
走行中にはフロント周りにどっしりした安定感があり、ハンドルから意図的に力を極端に抜いてもその感じは変わらない。
またそこからの荷重の変化やスロットル操作に対するフロント周りの反応がRよりも良く、
車体はそれほど寝かせていないにも関わらず前輪からの旋回力を車体が積極的に引き出そうとしてくる、
R1100/1150時代に極めて近いハンドリング特性が与えられている。電制サスのセッティングは
Rとは当然異なっているだろうが、それ以外で目立つ違いは前述のフォークのボトムケースくらい。
「それだけでここまでRと走りっぷりを変えられるものか!」と正直舌を巻く思いだった。

ただし、その状態でのサスの総合力はテレレバーを装備した一世代前のR1200STとそう大差はない。
軽量でバネ下重量が軽いためかまっすぐ走っている限りフロントの作動性はSTより良く軽快感や旋回性も
STより高いのだが、ブレーキング時の安定感やサスの作動性では頑張ってはいるがやはりSTに後れを取る。
また、バンク中の安定感もSTの方が上であり、スポーツ性は新しいRSが上だがスポーツツアラーとしての
足回りの総合力ではほぼ互角というのが私の評価だ。
R同様に車体への様々な操作に対する反応が空油冷のR1200Rとそう変わらない程度に良く、
フロント周りの安定感とフロントからの旋回力がRを大きく上回っている上に
エンジン性能は空油冷時代と互角どころではないため、R1100/1150RSやR1200STに乗り慣れていれば
それらを凌ぐ速度でコーナーを駆け抜けるのは容易である。
テレレバーを廃止したことで車体のロール運動軸が上がり、オフ車に良く似た大きく弧を描くような
独特のロール感は普通になったが、これは好みの範疇だろう。
またRもそうだが4000回転より上、つまり中速コーナーからの立ち上がり加速に使用する回転域のピックアップが良く
トルクも空油冷時代より遥かに強力なため、コーナー立ち上がりの加速力も空油冷時代を隔世のものとしている
(R1200SとHP2スポーツなら勝てると思うが、メガモトではちょっと無理)。

速度を上げた時の安定感も充分で、高速ワインディングでの140キロくらいはまったくの余裕。
ただしカウルとスクリーンの防風性は外観相応で、寝かした状態では胸より上にまんべんなく風が当たるスクリーンを
立ててみてもヘルメット上部と両腕にはやはり風が当たり、速度やスクリーン位置を問わず伏せても無風にはならない。
両拳にも直接の風圧は避けられているとはいえある程度の風が当たり、総じて防風性はR1200ST以下だ。
なお水冷化されてシリンダーからの放熱が減り足元の暑さが多少ましになったのは空水冷Rの特長だが、
RSもラジエーターからの温風は上手に逃がされていてライダーはあまりその暑さを感じない。
カウルマウントされたミラーは鏡面の形状はどうもいただけないが、ブレは少なく視認性に問題はない。

さて、まとめ。R1150RSの後継車・・・というよりはR1200STの後継車だ。
運転感覚は随分シャープになってはいるが「RSとSの中間ややS寄り」を狙ったSTより寧ろRSに近いくらいで、
BMWがこの車両を開発する際に過去のRSを乗り込んで走りの方向性を定めていったことは疑いなく、
外観は単なるRのカウル付きバージョンだが、中身は決してそんな安直なものではない。
市街地とタイトワインディングで軽快さが光るR・高速巡航と中速以上のワインディングを主戦場にするRSという
R1100以来の性格的棲み分けはこの最新型でもきちんと守られている(余談だが、R100系はそこまで運動性が高くない)。
ただ、コーナーライクな性格やわかりやすいスポーツ性など運動性能が瞠目すべき向上ぶりの割に
ツアラーとしての快適性やツーリング能力はたいして向上していないため結果としてスポーツ性だけが突出して向上し、
全体のバランスはRSよりSTに近いものになった印象を受けるが、優秀なスポーツツアラーであることは確か。
ライダーが好むのはスポーツ走行であり、実際にライダーが行うのはツーリングだから
その両方を可能にするスポーツツアラーこそ実際のオートバイの用途に最も適合した形式だと公言して
スポーツツアラーを突き詰めていた頃のBMWの走りの良さは確かに発展した形で存在している。
ハンドルの切れ角が少ないためUターンなどは苦手だが、大き過ぎず重過ぎず高いツーリング能力と
スポーツ性能・快適性などを高いポイントでバランスさせた開発陣の努力は大いに買うし、
そういった意味での総合評価はR1200Rよりもずっと高い。

しかし、では何故テレレバーではないのか?という点が私にはどうしてもひっかかる。
電制サスは確かにテレレバーに近いフィーリングを獲得しているが、だったらテレレバーでいいではないか。
サス内部に余計なスペースを喰う電制サスはバルブ面積などの観点から基本性能では普通のサスより不利だし
幾らブレーキング時に車体の沈み込みを減らしたと誇ったところで所詮は圧側のダンピングを
高めているに過ぎず、80年代に流行したアンチノーズダイブフォークを自動的に作動させているだけだ。
そしてフォークを突っ張らせるということはサスの動きを悪化させて路面追従性を下げることに他ならない。
幾ら電制技術が進歩したところでテレスコが原理的に緩衝機構と操舵気候を分離できない、という
構造上の宿命を電制で解決してテレレバーのように構造的に分離できるはずがないから、要するに
「テレレバーの動きを電制によってテレスコピックフォークでも実現可能になった」というのは
ハナっからBMWの大嘘コピーなのである。
では何故性能に劣るテレスコをわざわざ採用したのか?電制サスをテレレバーと組み合わせれば
更に良いものができただろうに、何故やらなかったのか?
その辺りを考えると、理想主義的設計と決別した近年のBMWの方向性が見えてくる。
総じて不満点は色々あるが、価格を除けば万能スポーツツアラーとしての能力は申し分ない。
RSという名前の仏像は上手に彫り上がっているが、私に言わせてもらえばこの新型は
過去のRSと比べると魂の入れ方が少々足りない。それさえ気にならなければ、悪くない選択だろう。

HP2 スポーツ
事実上のベースモデルであるR1200Sと同じくらいのボリュームのある車体は、
しかしやや大き目なアッパーカウルのボリュームや
サイレンサーの容量ぎりぎりまで小型化した印象のテールカウルなど、
R1200Sとは一味違う、現代のレーサー的なイメージを強く漂わせている。
細かいことを言うとアッパーカウルはプロテクション性を考慮したのか必要以上に大きく、
空気抵抗を考えた場合前面投影面積が増えて不利ではないかと思われるがこれについては後述。
ドライカーボンの外装は部品で一式を購入する場合の価格が約300万!となり非常に高価・・・と言うか、
ドイツ本国での新車価格よりも高いという(ユーロ換算レートにもよるが)BMWジャパンなめとんのか!と
言いたくなるような価格設定がされている代物だが、
カーボンクロスの織目の揃え方にしろ裏側の始末にしろ、品質感についてはさすがに
凡百のアフターマーケット製のカーボンパーツとは一線を画する仕上がりである。
重箱の隅をつつけば一部に施された塗装が微妙な左右のずれが認められるとか(個体差の可能性は高い)、
ニーグリップする部分の塗装が車体色ではなくクリア仕上げになっており、
使用が進んで表面の樹脂が磨滅した時にクリアの補修塗装を綺麗に行うのは大変だろうとか
気になる部分もあるのだが、どちらにしろ見た目の高級感では現在のBMW中ぶっちぎりのトップである。
なお、その後40台が追加生産されたリミテッドエディションは外装のほとんどの部分がきっちりと塗装されており
カーボンの織目を見る事は困難となっている。裏側も車体色できっちり塗装されているのでカーボンの質感はわからず
普通のABS樹脂成型品より裏側の表面の荒さが却って目立つのはちょっと残念だが、
紫外線や水分に弱い炭素繊維を長期間保護するという観点からすれば正しい手法である。

また、マグラのラジアルポンプ式(しかもクイックリリース式)を採用したブレーキマスターは操作タッチはまあまあで、
ラジアル+モノブロックキャリパーという組み合わせから想像するほど上質なタッチではない。
クラッチマスターについても同じことが言えるのだが、ラジアル化の恩恵でクラッチは
R1200シリーズより一回り軽くなっており、それだけでも専用品を用意した意義はあるかもしれない。
なお、ブレーキフルードはDOT4とDOT5.1の両対応となっており、レース対応車両としての素性を伺わせる。

フレームはシートカウルが荷重を受ける構造のためシートレールを持たないことを除けば
R1200Sと事実上同じもので、従って外観の評価もSに準じる。
細かいことだがこのバイクではフレームに使用するタイラップの色がフレームに合わせたブルーとなっており、
メーカーの細かいこだわりを感じさせる部分だ・・・が、従来通りの黒色タイラップも一部目立つ場所に使うという
意味不明なことも同時に行っており、これには意図しているところが判らず首を傾げてしまった。
他にもBMWロゴ入りリヤキャリパーのアルマイト色はおなじみの金色ではなく
ブレンボの汎用モノブロックラジアルマウントキャリパーの色にわざわざ合わせてあるし、
偏心プレートで位置と高さの調整が可能なステップ/チェンジ/ブレーキペダルは
きちんとアルマイト加工された切削加工品となっており操作性もグリップ性も共に申し分ない。
(ステップバーのギザギザの山も通常のローレット加工ではなく、きちんと削り出されている)
代償としてステップは可倒式ではないが、バイクの性格から考えてまず文句は出ないだろう。
またHP2メガモトも含め他のBMWでは全てオプション設定となっている高価なアルミ鍛造ホイール
(正確な重量は不明だが、リヤが0.5インチ細いメガモト用の場合前4.5Kg/後ろ4.9Kg)も
最初から標準装着しており、この辺りの豪華パーツはさすがと唸らされる部分だ。

ただし、F800Sから拾ってきたLED式のウインカーは
BMWの悪しき伝統に則りある程度は可動するものの、決して可倒式ではない。
従ってこれが折れ曲がるような事態になれば当然ウインカーを固定するカーボン製の外装にも
相応のストレスがかかることになり、強度的にやや華奢な感がある
リヤのライセンスプレートホルダーが割れでもしたら目も当てられない。
前述の通り外装パーツは非常に高価なので、転倒させないという自信がない諸兄には
是非可倒式の社外ウインカーの装着を検討されたい。
また、同じくカーボン製のヒールガードは手で軽く押しただけで簡単にたわむほど強度が低く、
とてもじゃないが激しいライディングに耐えるとは思えない。
ほぼ設計ミスと断じてよいと思われ、ここはアルミか何かに材質を置き換えるべきだろう。
適材適所という言葉もあるが、何でもかんでもカーボンにすればよい、というものではないのだ。

またがってみると、ポジションは外見から想像されるよりずっと民主的だ。
前述の通りステップが調整式でハンドルバーも垂れ角のみ2段階に調整可能ということもあるが
R1200Sよりも前傾はむしろ緩く、F800Sのハンドルをバー一本分遠ざけて少し幅を狭めて垂れ角を強め、
シート高を4〜5センチ上げると大体このバイクの標準位置のポジションになる。
(あるいは、S1000RRのハンドルとステップを2〜3cmほど下げたような印象だ)
このバイクは近年のBMWには珍しくローシートの設定がないのだが、
その隠れた効用でこれまでのローシート採用車に散見された膝の曲がりが不必要に強かったり
ハンドルスイッチやレバーと手の位置関係が不自然だったりするような不具合がないので、
車両の性格を考えたら極めて自然でリラックスしたポジションが実現されている。
また、シートの座面は意外と前後に長い上にそこそこの前傾角がつけられており
(普段のライディングで自然にずり落ちることはない)前に座るだけでも前傾度はかなり緩和される。
一方腰をシートストッパーに当たるまで目一杯引くと明らかにR1200Sよりも前傾がきつく、
腰高な姿勢となるがこの状態でもせいぜい国産のスーパースポーツと同程度の前傾で、
前傾バイクに慣れている人であれば十分ツーリングにも耐える程度のものだと思う。
なお足つき性は83cmという数字以上に良好で、R1200Sとほぼ同程度。
車体が非常に軽く重心が低いこともあってか、支えるのは非常に楽である。

当然と言えば当然だがイモビライザーを仕込んだ内溝式のメインキーは他のBMWと何ら変わるところがなく、
それ自体はやや拍子抜けの感がしないこともない。かつてのR1200Cでは
「非日常へと乗り手を誘うバイクの鍵には日常的なものを付随させるべきではない」という
かなりデザイナーの独り善がりじみた理由でキーヘッドにキーホルダー用の穴が一切存在しない、
およそ実用性を無視したメインキーを作った前科があるBMWだが、
そういう演出はこういうモデルにこそ必要ではあるまいか。
そのキーシリンダーが付くトップブリッジはアルミ鍛造品を切削加工したもので、外見上のアピアランスは申し分ない。
鍛造+切削であれば素材としての特性もほぼ最高になるし、無駄な加工も省くことができる。
「いかに最初の鍛造で切削を減らす形に成型しておき、手間とエネルギーと金属屑の発生を減らすか」が
現代の技術の方向で、この種のバイクといえども存続のためには環境問題を避けて通れなくなっている現在
削って無駄にした金属量が多いと有難がるのはどこかの雑誌に任せておけばよろしい。
もっとも1000個もプレスすれば金型代もかなり割安につくのは勿論なのだが、
この辺りはさすがにメーカーのやることだと感心した。
その奥に鎮座するレース用メーターやデータロガーで有名な2Dシステムのメーターは、
(メーターハウジング自体もカーボン製という豪華仕様である)
普通の公道用メーターの機能に加えて油温に応じたレブリミッターの表示やラップタイム計測機能、
シフトアップタイミングの表示機能にGPSトラッキングにデータロガーなどを備えた物凄い多機能タイプとなっている。
正直なところ私も短い試乗ではほとんど使用法は判らず、レースに使用する方以外にこのメーターの
全機能を使用するオーナーもまず居ないと思われるが、これ程のバイクならこのくらいの装備もあっていいと思う。
なおハンドルスイッチはウインカースイッチが左右独立した従来と同じタイプで、個人的にはきわめて好ましく感じた。
ミラーは取り付け位置が内側に寄っているため有効視界は鏡面積の4割くらいしかないが、
(残りの部分には腕しか映らない)BMWらしからぬとはいえこの種のバイクではまあ許容範囲だろうか。

キーを回すと、例によってあっさりと始動したエンジンは粒のはっきりした独特の音でアイドリングを始めた。
軽くブリッピングをすると、さすがに普通のR1200系より一回り鋭くエンジンが反応して排気音もそれらしく変化する。
R1200Sも排気音を作り込んである印象だったが、あれより一回り音量が大きく騒音規制値ぎりぎりくらいの
ボリュームで(ということは、私の感覚では絶対的には静か)より排圧がかかり、高出力感が強調された魅力あるものだ。
一見チタン風だが実はステンレススチールのマフラーは他のR1200系よりパイプ系が明らかに太い上に
サイレンサーの手前にはヤマハから借りてきたかのようなフラップを動かすサーボモーターが取り付けられており、
ピークパワーは勿論のこと幅広い回転域で有効なトルクを発生するように腐心した様子が伺える。
(このシステムはR1200系がDOHC化されると同時に標準化された)
センターアップ型のマフラーはサイレンサー本体もテールカウルの中にデザインの一部としてビルトインされるよう
非常に凝った形状になっており、(その代わり、シートカウル内には収納スペースが皆無となっている)
この辺りの作り込みの確かさはさすがといったところだ。

軽くミートポイントの掴みやすいクラッチを操作してやると、軽量な車体はゆっくりと発進した・・・ゆっくりだ。
調べてみたところこのバイクはファイナルはR1200RやR1200Sと共通だがミッションのギヤ比が専用となっており
(たぶんGSのギヤをベースに1・2速を専用品として1次減速比を変えていると思われる)
とりわけ1速のギヤ比がかなり高いレーサーライクな設定となっていた。
いくら車体が軽量とはいえ極低速でのトルクの細さには定評があるフラットツインの、
更に高回転型に特化したスペシャルチューンのエンジンをギヤ比の高い1速と組み合わせるのは
公道走行用車両としていかがなものかと思わなくもないが、
レースでの使用も想定した設計であることを考えるとこのくらいの設定の方が
発進加速以外の場面でも1速を使える分速く走るための方法論として正解だ、と言わざるを得ない。
この辺りはやはり特殊なバイクだと改めて思わされた。

そこからじんわりとスロットルを開けていっても、3000回転以下ではそれ程のトルクは感じられない。
低回転域での線の細さに閉口したR1200Sよりはマシだが、単純にパワーが出ていない印象だ。
一方、スロットルを閉じると今時のバイクでは珍しいほどのアフターファイヤーが出たのに驚いた。
9500回転まで回る明らかな高回転型エンジンだけによほどバルブのオーバーラップが大きいのかと思ったが、
後で詳しい方に技術的な話を伺ったところ、バルブタイミングよりも燃調が他のBMW各車よりも
パワー優先で濃い目のセッティングになっていることが主な原因らしい。
しかし、それは燃料噴射のマッピングを詰めれば多少なりとも改善できるのではあるまいか?
どちらにしてもヨーロッパで販売されているということは最低でもユーロ4の排ガス規制はクリアしている訳で
一昔前の高出力エンジンよろしく低回転域で生ガスの燃え残りを盛大に放出する心配はないわけだが、
この点についてはもう少しの改善を期待したい。
もっとも、BMS−Kのプログラムはアップデート可能だから将来的にマップが更新されれば(れば、の話だが)
オーナーは誰でも改善の恩恵にあずかれるし、現状でも高圧縮型エンジンにありがちな荒々しさがない点は
さすがに作り込みがしっかりしていると高く評価できる。
また、後日追加生産されたリミテッドエディションを試乗した際にはエンジンが温まっていたためという可能性もあるが
低速トルクは多少太くなり、アフターファイアも軽減されていた(消え失せた、ではない)ことは付記しておく。

乗り心地だが、シートのウレタンはやや薄いが許容範囲で(シートレザーはあまりいいものを使っていないが)
前後オーリンズのサスペンションは初期作動性がかなり優秀なので、硬いことは硬いが総じて不快ではなく、
スポーツバイク好きならツーリングユースにも十分に使えるものだ。
ちなみに調べたところスプリングレートはR1200S(純正オーリンズ仕様)の前62Nm/後170Nmに対して
前65Nm/後ろ170Nmと僅かに強化されている。R1200Sより車重が軽く、ホイールも軽いため
本来ならばスプリングレートを落としても問題ないことを考えると実質的な強化の度合いはもう少し増すと思われるが、
データを調べていただいたサス屋さんの「R1200Sのフロントはレースで使うには柔らかすぎるんで
レースをされる方はフロントのスプリングをもっと強化される方が多いです」という言から考えると、
やはり「サーキット走行を考慮しつつ、公道走行に軸足を置いてサスをセッティングした」が正解なのだろう。
なおシートの後ろはシートカウルがそのままストッパーになっているのだが、
その部分にはウレタンが貼られておらずクリア塗装のままで、従ってその部分でのグリップは期待できない。
前に座れという意味なのかデザイン優先なのかBMWの真意は不明だが、
個人的にはメーカーにももう少し考えてもらいたかった箇所ではある。

さて目の前に迫ってきた緩いカーブに備えて減速をすると、フロントがいきなり強力に効いて体が前にもっていかれた。
雨の日の試乗だったのではっきりしたことは言えないが、制動力の立ち上がりがやや唐突な印象だ。
(極低速でのコントロールはやりやすく、初期制動はごく自然)ストッピングパワー自体はかなり強力で、
さすがはモノブロックキャリパーを採用しただけのことはある。
この時の天気は雨だったのだが、後日リミテッドエディションを試乗した際にはレバーへの微細な入力にも
ブレーキは正直に反応してコントロール性が格段に向上していた。
システムそのものに改良が加えられたとは考えづらいので、
標準装着のパッドが温度依存性の高い性質のものである可能性は高いと思われる。
一方リヤの効きはごく普通といったところだが、
テレレバー+モノブロックキャリパー+ABSの組み合わせは今更だがブレーキング時に絶対的な武器になり、
雨の日でも前輪が接地感を失わないことを頼りに躊躇のないブレーキングが可能だった。
ただし、そこまでのフルブレーキを行うと座面が前傾したシートのため上体が前に飛んでいってしまう。
いろいろな事情もあるだろうが、R1200Sではほぼフラットなシートを作ったのだから
このバイクでもそうして欲しかったというのが本音ではある。
なお、強くニーグリップをした時にはカーボン製カウルのタンク部分がある程度たわむが、
もちろん実際の強度は十分で不安感を覚えるほどのものではない。

そこから車体を倒し込むと、従来のBMWでは考えられなかったほど軽快かつ素早く車体が倒れ込む。
リーンの軽さとリーンスピードの素早さは兄弟車であるHP2メガモトを凌駕するどころか
私が経験した中では少なくともドカのSSより軽くて速く、昔の250ccレプリカに近い程のものだ。
その状態でのコントロール性も抜群で、腰の位置やハンドル入力、ステップへの荷重などの操作で
リーンの角度を自在にコントロールして旋回力を変えていける自由度の高さはメガモトとほとんど同等で、
これはもうただただ素晴らしいとしか表現のしようがない。
また、これほど軽快なバイクにもかかわらず車体にはテレレバー車特有の絶対的な安定感が常に同居しており、
結果としていつでも安心してスロットルを開けられるBMWの好ましい伝統は健在である。
もっとも試乗時は雨だったので借り物のバイクでのあまりのペースアップは自重せざるを得ず、
実際には高い旋回能力を意図的にセーブしながらの走りが大半だったため
本気で攻め込んだ時にどういう特性を示すかまではわからない。
はっきりしたのはこれまでのスポーツタイプのBMWにはない程に前輪主体の乗り方を受け付けてくれることと、
前輪は積極的に旋回力を引き出せる特性に躾けられていたこと、
着座位置の自由度がかなり高く後ろ乗りでは更に旋回力を稼げるような設定になっていたことだ。
後日リミテッドエディションに試乗した際に前乗りを試してみたが、
前輪の積極的な切れ込みと旋回力の発生は後ろ乗りした時の比ではなく、
従来のBMWでは考えられない程・・・というより、スーパースポーツの水準の鋭さで強く曲がっていく。
ドライカーボンのヘッドカバーにイン側の膝を触れながら超軽快・超安定な車体を意のままに曲げていくのは
ツインのスーパースポーツ好きには陶然の世界で、コーナリングの充足感は非の打ち所がない程に高い。

また世界初のギヤシフトアシストだが、要するにアクセルを開けたままクラッチを握らずにシフトレバーを掻き上げると、
一瞬遅れて点火がカットされエンジンの回転が落ちた処に機械的にシフトレバーを文字通り”伸ばして”
ギヤチェンジを行ってくれるというものだ。
技術的に詳しい方に伺ったところ、どうもこのシステムは試乗程度のユルい走りのペースではメリットがあまりなく、
その神髄はスロットル全開加速時に最短時間でのシフトアップと回転合わせを
ほぼ自動で行ってくれることにあるらしいのだが、今回試乗したペースではその神髄に触れるには
まだ遠かったようで、うまく決まると実に気分がいいが、ツーリングペース+α程度なら
普通にクラッチを握り回転合わせをした方がスムーズで早い、という印象だった。
ただし、右手にグイと力を入れて走る場合にはこのシステムは強力な武器となり、
一度150キロ超まで一気に加速した時には電光石火のシフトアップでほとんど途切れない加速が可能だった。
使いどころは限られるし(制御の成熟度は後発のS1000RRの方が優れていると思う)現時点で
決して完璧なものだとは思わないが、ここぞという時の速さと楽しさを上乗せしてくれるデバイスだ。

直線主体の速度の乗る区間でスロットルを大き目に開けてみたところ、低速でややトルクの細かったエンジンは
3000回転を超えたあたりから一気にパワーが盛り上がり、
(6速100キロは3300回転だった)これまでのどのボクサーよりも素早く速度を上乗せしていく。
フラットツインとしてはこれまでになく鋭い(しかし、決して鋭すぎない)レスポンスのエンジンから
自在にパワーを引き出し、前述のギヤシフトアシストを使っての無用なシフトごっこと独特の排気音を楽しみ、
視認性も悪くない多機能メーターから必要な情報を取り出して頭の中で走りを組み立てながら
緩いカーブを右に左に切り返して疾走するのはこれまでのボクサーにはなかった興奮に満ちた体験で、
「凄い、こいつは素晴らしい!」と歓喜しながらアクセルを開けていた(130キロくらいまでに抑えたが)。

なお、空力特性を考えつつもプロテクション効果を考慮しているはずの比較的大きなアッパーカウルは
それなりに高い防風性を発揮するものの(ツーリングではかなり有効だと思われる)、
スクリーン越しの視界を頼りにしていないと思われる低いスクリーンはあまり雨を防いでくれないので
ヘルメットのスクリーンで防げない雨が針のような痛みで顔面を直撃していたのだが、
それがまったく気にならないライディングハイ状態に突入していたことを告白しておく。
付け加えるならハンドルの切れ角はBMWとしてはかなり小さく(スーパースポーツとして考えたらまずまず)
小回りはあまり効かないが、車体が軽くバランスが非常にいいので取り回しはかなり楽で、
スロットル操作にさえ気をつければ極低速での走行も楽である。

さて、まとめ。サーキット走行にも対応した、BMW入魂の超スポーツバイクだ。
基本的な性格はR1200Sの走りの機能を更に高めた上位版と考えてまず間違いはなく
走りの方向性は完全にスーパースポーツのそれで、エンジンも車体も高回転高荷重の走行に
焦点を合わせているため低い速度域ではいまいち本領を発揮できない部分もあるが
(メガモトとの走行特性の違いはR1200SとR1200Rの違いとほぼ同じで、
高速ワインディングではHP2スポーツが上、中低速ワインディングではメガモトが上)
走る・曲がる・止まるの絶対性能はサーキットで走る限り文句なしにボクサー史上最高であり、
本領発揮した時の楽しさでも最高だろう。
また、他のHP2シリーズにも共通するが乗車していて機械の荒々しさをまったく感じることがなく、
高度に洗練された機械を操っているという満足感も非常に高い。
最近のBMWのスローガンである”UNSTOPPABLE”をある意味もっとも忠実に体現した
高価だが極めて内容の濃い、価値のある一台で
私も試乗でバイクに感動した経験はこのバイクの他にはメガモトとMVアグスタしかなく、
メガモトより先にこちらを試乗していれば間違いなく判子持参でディーラーに走っていたと思う。

ただし、レーサーなみの設計で実際に高いレース対応能力をもつとは言え、
所詮は”たかが133PS”の空冷ツインだからドカの1198Rとサーキットで渡り合うのはまず無理。
(はっきり言えば、公道での総合的な速さではK1300Rの方が上で、S1000RRにも加速力で劣る)
レギュレーションを考えても現実的な出番はサーキット走行会や草レースしかないと思われ、
レースを楽しめる道具ではあっても、決して「第一線で戦う本物のレーサーのレプリカ」ではない。
エンジンはこれまでで最もスポーティーになったとは言え音も回り方もドカの水冷ユニットほど官能的ではないし
(その代わり、フィーリングは良くも悪くもまぎれもないフラットツインだが)、
市街地走行も楽にこなせるだろう柔軟性を備えているとはいえ、
収納スペースは本当に皆無で工具どころか車検証すら入れるスペースがない。
(財布が入る程度の大きさの純正ポーチがタンクの上に装着可能で、ほぼ唯一の収納スペースとなる)
HP2エンデューロやメガモトは頑張れば宿泊ツーリングも可能だったが、
このバイクでは荷物を前もって宿まで送っておかないと宿泊ツーリングは無理だろう。
また、ここまでレーシーな設計の割に走行が妙に快適だったりABSが標準装備でサスがやや柔らかめだったりするなど
良く言えばBMWらしく公道走行のことを忘れていない、悪く言えば中途半端な部分も感じるのだが
「走りを楽しむバイク」としてBMWの現時点での究極であることは疑いない。
(速く走るためのバイクとしての現在の究極はS1000RRになる)
なおユーロの換算レートを考えても390万円という国内価格はかなり割高で、
従ってコストパフォーマンスも私が「悪い」と断言したメガモトより更に悪いと言うしかないのだが、
「フラットツインでレースがしたい」という人と
「フラットツインを愛し、サーキットと峠の走りを心から楽しみたい」という人にとっては現時点で最高の選択肢。
将来間違いなくBMWの歴史に名前を残す一台になると思われるので、上記条件にあてはまり
390万円を払える経済力と覚悟をお持ちの方は急いでディーラーで在庫を探されることをお勧めする。

HP2 メガモト
意外と小柄で低くうずくまったような見た目はHP2エンデューロのモタードホイール仕様と良く似ている・・・のだが、
R1200Sから拝借した(専用品という情報もあるが、未確認)前後17インチのキャストホイール、
Gシリーズから流用したヘッドライト、タンクとライトを覆うフェアリングによって印象は少なからず異なる。
近年のBMWに共通する左右非対称のヘッドライトは前を走る車がミラーで確認した時の印象付けを意図しているそうで、
個人的にそれが美しいとは思えないが工業製品としてきちんとデザインはされているし
世界最大排気量のモタードモデルとしての凄みを出すことには成功していると思う。
またHP2エンデューロ(以下、HP2と表記)もそうだが複雑に曲がった鋼管を溶接したフレームは
外見も出色の出来であり、溶接技術の水準も他のBMWと比べて一段上である。
その他にもHP2と同様よく見ると専用設計のパーツが多用されており、標準装備のDLCコーティングされた
マルゾッキ製のフルアジャスタブル倒立フォーク、オーリンズ製のリヤサスペンションにアクラポビッチのサイレンサー、
BMWのロゴが鋳込まれた専用設計のブレンボキャリパーなど装備品はかなり豪華である。
またタンクカバーとヘッドライトカバーの一部にはカーボンパーツが採用されている。
見た目の質感は高いし軽量で強度もあるのだろうが当然ながらリサイクルはほぼ不可能になる訳で、
個人的には14年前にR1100RSが登場した時にK100以来採用していたFRPのカウルを止めて
「フェアリングには採用可能な材質が採用されています」とカタログに誇らしげに謳ったメーカーの出す商品としては
14年前より環境問題の社会的意識が格段に高まっている現在において企業理念としていかがなものか、とも思うのだが
(社外品をユーザーが買い求めるのは勿論自由であるべきだが、R1100Sに標準だったカーボンのフェンダーは大嫌いだ)
この種の特殊な車両ならばそれもありかな、と思う。

またがってみると、足つきは89cmというシート高相応に悪い。数字の上ではHP2より2cm低いが
スプリングレートが高い分乗車時の沈み込みが少なく、足つき性はG650Xカントリーより多少悪いといったところ。
シートは前の方の幅が極端ではないにしろ絞られているのでそこに座れば身長177cmの私が
両足爪先立ちにはならない、という程度で、後ろの幅の広い部分(幅はG650Xカントリーの後ろと同程度)に座れば
やはり両足爪先立ちとなる。
但しこのバイクに乗ろうという方にビギナーはまず居ないだろうから、実際にはそれほど問題にはなるまい。
また、実は車高を2cmほどの範囲で3段階に変えることができるので(運動性の関係で最高位置が推奨だが)
あまり大きくは変わらないとはいえ足つきが厳しい方への最低限のフォローはある、と言えよう。

ポジションだが、性格を反映して軽い前傾で膝の曲がりは緩いものとなる。
当然といえば当然ながら、G650Xモトに極めて近いポジションになるのだがシートがG650Xカントリーと
同じくらいの幅があり中身のウレタンが遥かに高密度で反発力を感じる(要するに、モノが良い)ため
座った印象は弟分よりずっと民主的である。
シートについてはコントロール性を考えるならもっと硬い方が良いだろうしモタードとしての雰囲気を考えれば
G650Xモトと同様に幅を狭くする手もあっただろうが、それを「モタードとしては広めで柔らかめ」程度に留めたのは
BMWの見識だろう。実際、試乗した限りではシートのクッション性は極めて高くスポーツ走行への適正は勿論のこと
快適性でも見た目の印象に反してF800やK1200S/Rを凌ぐ。
ここのところBMWのシートの出来には失望させられてばかりだったが、このシートは嬉しい例外である。
唯一難点をつけるとするとタンデム用座面(純正オプションのステップを購入し構造変更申請すれば二人乗りもできる)
の途中でシート座面が前傾になっており、腰を大きく後ろに引く場合にはこれがやや鬱陶しいところだ。
なお純正オプションのハイシートは多少柔らかくなって座り心地が改善され、シート後方の座面前傾も
気にならないレベルに収まるのだが、如何せんシート高91cm(沈み込みはかなり少ない)という数字は
平均的体格の日本人にはかなりハードルが高い。(WEBカタログの調整可880mm〜910mmとあるのは、
シートベースではなくサスを調整してシート高を変えるという意味である)シート高さを上げてサスを沈めては
意味がないので、標準シートをサスを一番伸ばした状態にしてまだ自信のある方以外はおすすめできない。

なお、またがった状態からの眺めはHP2と違ってメーターがR1200GSベースなので立派なタコメーターがついており、
これ見よがしなカーボンパーツのせいもあって価格相応とは思えないがまあ貧相に見えない水準にはある。
女性のセクシーなウエストをイメージしたというタンク周辺のくびれ(デザイナーのD・ロブ氏が白馬で自ら語っていた)などは
確かに意外なほど優しい印象のラインを形成しており、視線を下に向けると嫌でも目に入ってくる
フラットツインのシリンダーのボリューム感も加わってこの辺りのデザインは他のどんなモタードバイクにも見られない独特のものだ。
ステアリングヘッドから下を覗き込むと樹脂のフェアリングの内側の処理は少々安っぽいのだが、
軽量化とのトレードオフを考えれば価格を割り引いてもまあ許容範囲だろうか。
なお、リザーブ込みで容量13リットルしかないタンク(半透明のポリエチレン製である!)を覆うフェアリングは
HP2と違い転倒を前提にしないためきちんと塗装がされているのだが、
テールライト横の白いトリムは塗装ではなくHP2と同じパーツの単なる成型色変えである。
白い梨地の樹脂がむき出しという厄介な代物で、長期に亘って見た目を美しく保つには
おそらくオーナーの根性試しが必要になるものと思われる。

エンジンをかけると、あまりに普通なことに正直言って拍子抜けした。
基本的にR1200RTと同じエンジンは軽くブリッピングすると回転上昇こそベースとなったR1200GSより速く
ピックアップが明らかに優れているものの使いにくさを感じるほどの大差ではなく、
GSよろしく至ってスムーズに回る。
アクラポビッチのサイレンサーから吐き出される排気音は音質こそ大排気量車らしい音で(R1200Sに似ている)
これ自体は悪くないものの、騒音規制に適合させるため音量が相当に絞られており、
むしろノーマルのR1200GSの方がうるさく感じるほど。
(だったのだが、自分の車両は何故か広報車より音量が大き目だった)
R1100系の純正マフラーで音量をそのままに音質だけをチューニングしていったらこうなった、というような感じで
音質は悪くないものの「アフターマーケットパーツとして出回っているアクラポビッチの音」を想像すると良くも悪くも裏切られる。
日本の法規制に適合させるためにはやむを得ないのだろうが、このバイクの性格から考えると
もっと快音を響かせてもらいたかったとは思う。

そこから、スタート。ギヤは何故かこれまでに乗ったどのR1200系よりも入りが渋かったのだが、
距離が進めはフィーリングが向上してくれることを期待したい。またエンジンもまったくの新車でまだ重く
高回転域でのパワー感にやや不満を感じたが、これは経験上慣らしが終われば大丈夫になるだろう。
クラッチミートをあまり難しくやらなくても1500回転ほどで楽に発進できたのはR1200GSに比べれば明らかな改良で、
この辺りは軽量な車体設計の賜物だろう。また、加速感の鋭さやスロットルの操作に車体が間髪入れず反応する感覚は
R1200GSより少なくとも一回りは上手で、軽量+ハイパワー車のお手本のような速さを見せる(水冷モデルには敵わないが)。
それにしても1600回転で4速の定速走行を楽々こなし6速1800回転からギクシャクせずスムーズに加速できる
フラットトルクな特性はご立派と言うしかない。
またこの低速走行で特筆すべきはサスの作動の良さで、自分の好みに合わせたわけでもない単なる標準セッティングの状態で
直接的なガツンとくる衝撃は見事に遮断しつつ路面の情報を正確に伝えてくるセッティングは出色ものだ。
サスとシートをきっちりチューニングしないとこの一体感はおそらく簡単には出るまいと思われるが、
後述する足回りの優秀性も含めてよほど優秀な開発ライダーがセッティングしたのだろう。
エンジンはR1200GSのそれを多少スポーティーに味付けしたような感じで、R100やR1100と比べると
エンジンの味わいが薄く「単なる動力供給源」と感じてしまうのもベースモデルと一緒だ。
基本的には軽快でパワーがあって極めて乗りやすく、
足つきの悪さを除けば町乗りのゲタ代わりにも充分使えるだけの懐の広さがある。

さていよいよワインディングだ。結論から言ってしまうとこれが凄まじく良い。
フラットトルク型のエンジンは高回転域まで回した所で別にたいしたドラマが待っているわけではないが、
それだけにスロットルを開ければ開けただけ必要なパワーが即座に取り出せるし
多少なりとも鋭くなったピックアップは軽量な車体にメリハリをつけて動かすために神経を尖らせ過ぎず
運動性のリズムも崩さない良いバランスポイントに設定されており、この車体あってこそという気もするが
市街地では扱いやすさと従順さが目立つエンジンはワインディングでは優れたスポーツエンジンに変貌する。
これでもう少し高回転が楽しいなど存在感のあるエンジンなら言うことはないのだが、惜しいところだ。
またアクラポビッチのサイレンサーから吐き出される排気音はワインディングでも少々寂しく、
個人的にはあまり気分をハイにする役に立ってくれない(他のR1200系純正マフラーよりは良いが)。
音量が大きければいいというつもりはないが、車両の性格を考えたらできればマフラーは交換したいと感じた。
サスの設定はほとんど文句のつけようがなく、普通にリーンウィズでもG650よりはやや重いがF650CSなみ、
つまりR1200GSやK1200Rよりも明快に軽快かつ鋭くバンクすると前後から強力な旋回力を発揮してクルリと曲がる。
この状態で荷重移動を試みてやるとバンク中でも一切関係なしにフロントが恐ろしいほどの速さで切れ込み、
バンク角や旋回力を更に高めることが容易にできる。
実はK1200Rでも同じようなことが可能なのだが実行するための難易度がK1200Rより格段に下がっており、
やたらと深いハンドリングのポテンシャルをよりローリスクに引き出し、容易くコントロールすることができる。
フロントのブレーキリリースで前輪に舵角をつける乗り方でもまともにやれば正直に結果が返ってくるタイプで、
舵角のつけ方を変えて曲がり方を変えるなどという芸当が簡単にできるのは私にも初めての経験だった。
またR1100系で特にその傾向が強かった(R1200系になって幾分薄れた)
後輪にきっちり荷重をかけてスロットルコントロールをすれば強力なトラクションで後輪から曲がっていけるという特性が
このバイクではよりシャープかつコントローラブルな特性になって復活しており、
別にハンドルの切れ込みに頼らずともある程度の腕さえあればリヤステアで曲げていくことも自在である。

ではこれならどうだろう?と前輪主体のモタード風な乗り方を試すと、これはこれで安定してよく曲がる。
更に逆操舵で曲げてやった時の車体のバンクスピードは尋常ではなく速く、(体感上250ccなみに鋭い)
そこからの旋回力も極めて高いうえにリーンウィズの時同様スロットル操作や荷重のコントロールで
更に鋭く曲げてやることも容易なのでこれらのワザを駆使すればとんでもない速度でコーナーを駆け抜けられる。
また根本的に車体が軽くてエンジンがパワーとピックアップに優れているため、バンクした車体を直立させるのにも
荷重移動や軽いブレーキはもちろんだがスロットルの一捻りでパワーで起こすという
リッターバイクならではの(そして、BMWがあまり得意でない)技もサーキットならともかく公道なら充分使える水準にある。
エンジンは2速でスロットルをワイドオープンすれば
上り坂のカーブであっても簡単にパワースライドを起こすほどのトルクがあるのだが、
その状態でも車体は安定しきっていて(程度にもよるだろうが)スライドコントロールすら容易である。

限界バンク角はもちろん試していないが、これよりエンジンの搭載位置が低いR1100Sが51度、
R1200Sなら52度のバンク角があることから、このバイクもそれらとほぼ同等くらいのバンク角は確保されていると思われる。
つまり、リーンアウトに徹してもバンク角はまず心配要らないということだ。
なおタイヤはパイロットパワーが標準装備となっているが、グリップ自体はさすがに良好で
荷重が抜けてバンク角だけで曲がるような適当な走り方をしても安心感は充分だった。
あとリーンインも試してみたのだが、ペースが低いと車両の旋回効率が(ビューエルほどではないが)良過ぎて
大げさなリーンインは却ってオーバーアクションになってしまう。
しかし速度が高まってくるとハングオフスタイルも相応の効果があり、
路面状況さえ許せばほとんど天井知らずのコーナリングが可能だった。
ブレーキはさすがにテレレバーやデュオレバーのように悪路やバンク中でも安心してかけられる特性は持っていないが、
世にあるスポーツバイクと比べてさほど見劣りしない程度の性能は確保されている。
一度低速でフロントをロックさせてみたが、マルゾッキ製倒立フォークの剛性感と作動性は充分なものだった。
一方リヤブレーキはまあそれなりといったところ。そこそこの能力はあるが基本的には姿勢制御や
速度のコントロール用といった印象で、特筆するほど効くわけではない。
また、HP2同様にABSを持たないので悪条件下での無理は禁物である。
いかな純粋な走りに特化したスペシャルモデルとはいえ、これだけは装備してほしかったと思うのだが。
(注・現在は126000円の工場オプションとして装備可能になっている)
なお、180キロを超える速度域では車体が外乱に対して明らかに弱くなり、200キロも出せば
直進にも相当に神経を遣わされることは運動性能面での数少ない欠点として付記しておく。
(純正オプションのHP鍛造ホイールだと、運動性は向上するが160キロ以上では直進に神経を遣うようになる)

さて、まとめ。物凄く用途とユーザーを限定する高性能スポーツバイクだ。
エンジンは高回転域のパワーでこそR1200Sに劣る(のだろう)が実用回転域の出力特性とピックアップの鋭さでは勝っており
スポーツエンジンとしての実戦的な能力ではおそらくこちらが上。
車体の完成度は”テレスコの特性と限界”を頭に入れておく必要はあるが思わず開発ライダーをリスペクトしたくなるほど高く、
誰が何をやっても安定して強烈に曲がってくれる。(つまり、ハンドリングの自由度がとんでもなく高い)
また乗り手の操作にきっちり反応してくれる点でも現行BMWの中ではダントツで、
以前の試乗記で「反応が抜群にいい」と書いたR1200Rがかすんでしまうほどの鋭さとコントロール性を誇る。
ひとつ間違うと単に不安定なバイクなのだが、特定条件下ならテレレバーどころかデュオレバーすら凌駕するほどの
高い安心感と乗りやすさが両立している点が凄い。
絶対的なコーナリング速度だけならパワーの差もありK1200SやRにかなわないだろうが
操って得られる面白さでは遥かに上(というより、おそらくBMW史上ナンバーワン)で、
気分は真にワインディングロード・ダンサー。
フラットツインのエンジンと対話するかのように「エンジンを操作している感」を味わいつつ優れたテレスコのサスと車体で
スポーツ走行に没頭できる、BMWとしては極めて希有な存在だ。
また特筆すべきは乗車感覚に安っぽさが一切ないところで(サスの性能に助けられている部分は大きいだろう)、
乗っていて感じる「高度な機械を操っている」という満足感は現行BMWの中でもかなり高い。

・・・と、走りを楽しむための高級なおもちゃとしては申し分ないのだが一般的に考えたら話はまったく別であって、
荷物の積載力は僅少で(HP2と共通のバッグは使えるが、テールバッグは使いにくい)
ガソリンタンクの容量も少なく(しかも燃料計がない)航続距離はリザーブまで使っても200キロちょっとだから
他のBMWと一緒にツーリングをすると一人だけ給油回数が多くなるし
町乗りに使うには平均的日本人には足つきが悪くサーキットを楽しむには110馬力ではやはりパワーが不足する。
(細かいことだが、ドイツ本国での発売当初のカタログ表記は83kW(113HP)だったが日本仕様は83kW(110HP)。
しかしドイツ本国では一時現在81kW(110HP)に下方修正されたが、現在再び83kW(113HP)に戻っている)
その上HP2と違ってダートもほぼ走れないとあってはアスファルトの上を一人で疾走して楽しむしか能がないのに
価格はK1200GTと同じくらい高価ときている。
(別の見方では、R1200Rより航続距離が短く快適性と積載性で劣りタンデムができず足つきが悪く
ASCも付けられないが価格はR1200Rのアクティブラインより100万円ほど高い)

つまりどう考えても万人に勧められるバイクではないのだが、
それだけにこのバイクの持つスポーツライクな世界がツボにはまる人にとっては極上の一台で
公道で走らせる限りにおいて現在のところ史上最良のスポーツボクサーとして文句なしの太鼓判を押す。
但し、公道での能力は未知数ながらも間違いなくより高性能なHP2 SPORTも導入間近であり
スーパーバイク参戦用のS1000RRも市販は時間の問題だから
資金に余裕がありBMWでの速さを突き詰めたいならそちらを待ってみるのも手だろう。
あくまでこちらは速く走るためのバイクではなく走りを楽しむためのバイクであって、コストパフォーマンスは悪いものの
その点に関してだけはR1200SやRとは格が違うと迷わず断言できる。

R1200R(DOHC)/クラシック
前モデルとの相違点だけ。
もともと、従来型でも何ら問題点はなかったモデルをDOHC化するために変更したモデルだから
外観上の変更点は少なく、DOHCモデルに共通の意匠のヘッドカバーを筆頭にヘッドライトのステー、
随分と一般的な形状に(いい意味で)変わったメーターハウジング、短くなったサイレンサーに
ブラックアウトされたタンデムグリップといった程度の違いしかない。
意地悪く言えば前モデルで評判が悪かった部分をリデザインしたのではないかと思えるが、
全体のまとまりは良くなったと思うので歓迎すべき変更と評さねばなるまい。
シートは(恐らくクラシックとの棲み分けのため)ローシートが標準だった前モデルとは異なり
ミドルシートが標準となっているため、膝の曲がりも無用にきつくなくスイッチ・レバーの角度も適切なものに変化し
座面のウレタンの厚みが倍近くになった分クッション性もかなり向上しているので総じてバランスは随分良くなった。
日本でのBMWは海外と異なり新車時のシート高変更が原則有料なので、
こういう変更は実に喜ばしい・・・というより、シート一つでこれだけバランスが変わってしまうのだから
顧客も闇雲にシートの低さのみを求めるのでなく、バイクの総合性能を考えて足つきを評価すべきだと思う。
80年代のBMWのような「バイクは地面に足を着いている時間より走っている時間の方が長いから
足つき性よりポジションの方が大事だ」という考えはさすがに全面賛成はできかねるが、
初心者ではなくある程度技量と経験のあるエキスパート向けのバイクと考えれば少なくとも理解はできる。
そういう観点から考えると、現在のBMWが打ち出しているステップアーチレングスという考え方は
万人に分り易い具体的な指針として妥当な着地点と考えるべきなのだろう。
なお、またがった時に目に入るほとんど唯一の変更点である新しいメーターパネルは、クラシックな基本形に
モダンなディテールを被せたようなちょっと珍しいデザインになっている。視認性も良いし車両の雰囲気にも合っていて
なかなか気に入ったのだが、それに比べると前モデルのあのメーターはいつたい何なのだ。
R1100Rの時代でも初期はタコメーターすらついていない妙にシンプルなメーターがR1150Rになった時に
一気に一体型ハウジングを備えるいい意味で普通のデザインに変更されて喜んだ覚えがあるが、
これはつまるところデザイナーが先走りすぎて、MCを機会に軌道修正したとしか思えない。
責任はデザイナーではなくそれを認可して発売を決めた経営陣に帰せられるべきだが、
10年経っても同じことを繰り返しているかと思うと「進歩しとらんなBMW・・・」と思ったのは事実だ。

エンジンについての印象はDOHCエンジンを備える兄弟車と全く一緒で、多少スロットルのツキがよくなり
低回転域でのトルクの向上が顕著で非常に走りやすくなっている。排気音はR1200RTよりはうるさく
GSよりは大幅に静かといったところで、比べると明らかにRT寄りの静かさだ(音質は変わらない)。
走り出しての乗り心地は、ミドルシートが標準になった分腰への突き上げ感や底付き感は大きく減少して
快適性が向上している。だがフロント周りへの突き上げ感は従来よりわずかに強まっていると感じた。
調べてみるとスプリングユニットそのものは変更されていないから、違いは新たに導入されたR1200Sと同じ
41ミリ径のフォークにあると考えるしかない。これについては後述するが、
いくらタイトなオイルシールを必要としないテレレバーとはいえフォークが太くなれば
それだけ抵抗は増えるという事実が正直に現れたというところか。

またハンドリングは一回り向上しており、前モデルで気になった前輪の舵角のつき方が一瞬だけ遅れる傾向がほぼ消え、
車体のバンクやブレーキ操作などにより正確に反応するようになりコントロール性が向上している。
結果として倒しこみがより素早くなり、シートの変更で着座位置と重心が高くなったこともあって
比較的ゆったりと倒しこむ走り方が似合っていた前モデルに対し、新型は(ややオーバーに書くと)
スパッと一気に倒してスロットルで力強く曲がる走り方が似合うバイクになった。ツキがよくトルクが増大した
DOHCユニットの恩恵を感じるのはこんな時で、スロットル操作一つで車体を制御できるという安心感が増した上に
これまで着座位置の自由度がほとんどなかった(特に前後方向)シートがミドルシートになったことで
着座位置の自由度も大幅に高まり荷重のコントロールがやりやすくなったことの相乗効果で
前モデルより高度な走りを同じ技量で行うことができ、結果として走りの満足感も高まっている。

さて、まとめ。前モデルより一回りスポーティな方向に舵を切った、正当なブラッシュアップモデルだ。
本文中では触れなかったが従来からの美点だったフラットツインの存在感やゆったりと流すペースでの
エンジンの穏やかな印象はしっかり残されており、限界的な運動性能はたぶん大差ないだろうが
限界域に到達するまでの領域でのコントロール性と引き出しが拡がり
走りやすさもスポーツライディングの楽しさも増している。
悪くなった点もほとんど見当たらず、お薦めできる度合いは単純に増したと言っていい。

ただ、フロントサスについては些かの疑念がある。R1200S譲りのフロントサスと謳われてはいるが、
実際に共通なのは41ミリ径というインナーチューブの寸法だけでインナーチューブは勿論、
アウターチューブもサスペンションユニットもアライメントを決めるロワーブリッジも別物だ。
つまりR1200S譲りというのはスポーティーなイメージを高めるための単なる宣伝文句に過ぎず
実際にはR1200R用に設計し直しているわけでそれを悪いとは言わないが(寧ろ歓迎すべき)、
前述した通りテレスコピックフォークは太くなって剛性が向上するほど摩擦抵抗が増える宿命にあり
テレレバーも勿論その例外ではない。R1200STはR1200RTより一回り太いフォークを採用しており
どちらも運動性能と快適性のバランスと当時説明されていたが、BMWもR1200Rの前モデルを開発する際には
当然それを考慮し実走テストを重ねた上でサイズを決定しているはずである。
しかし今回の新しいRは確かに性能は向上しているものの、41ミリという太いフォークを採用している割には
肝心のフォークを締結するトップブリッジ部分は相変わらずボールジョイントを使用したアンチチルトハンドルのままで
(R1100/1150RS、R1100S、K1200RS、R1200S、R1200ST、HP2スポーツなど走りを優先した歴代の
テレレバー採用モデルは、すべて剛性を優先してフォークはトップブリッジでしっかり固定し、ボールジョイントは
トップブリッジに設けてフロントが動くとハンドルがスイングする構造。それ以外のモデルは剛性が落ちてもハンドル角が
変わらないことを優先してフォークとトップブリッジの取り付け部分にボールジョイントを設けるアンチチルトハンドルを採用)
正直なところ本気で走りを追求しようとしたようにも見えない。また、普通に使用する限りテレレバーの剛性は
前モデルのRの36ミリフォークでまったく問題はなく、ユニット全体の動きを悪化させてまで41ミリフォークにするだけの
合理的な理由が考え付かない。そこの所にどうしても”販売戦略”という言葉が脳裏にちらついてしまうのを感じるが、
総合的に見て実力向上は明らか。余命少ない空冷ボクサーを今のうちに手元に置いておきたいと考えるなら
手を出してしまっても後悔のしない充分な実力があると思う。

なおクラシックだが、サイレンサーがクロームメッキ仕上げとなりスポークホイール+チューブタイヤを履き
(GSのようなクロススポークタイプではないローダウンされたサスペンション(テレレバーのロワーブラケットも異なるから
フロントのアライメントも異なるはず)に前モデルとは形状の異なるローシートを装着する。
違いは事実上これだけなのだが乗ってみるとその差は大きく、まずシートは標準モデルが台形に近い形状なのを
上の狭くなる部分をばっさりカットしておそらくクッション性を補うために側面を垂直に近い角度で盛り上げてある。
従って座り心地は前モデルのローシートよりはずっと良く、止まっている限りは標準シートよりもむしろ良いのだが
座面が広すぎてガニ股になりやすく、ニーグリップが標準シートよりやりにくい。
また前後方向の着座位置の自由度がかなり小さく広いシートに包み込まれるような感覚になるため
荷重のコントロールもやりにくく、前述した形状もあってシートにどっかり座ってややガニまた気味で運転する、
アメリカンを髣髴とさせるような運転感覚になる。また、振り回してみるとローシート+ローダウンサスの影響で
安定感が抜群なのはいいのだがバンクスピードが鈍い上に舵角のつき方も遅くく、きっかけを与えてやらないと
鋭い曲がりができない。また、乗り心地はやはり標準モデルより劣り普通の速度域での走行では
ゴツゴツしたそれなりの底付き感を伝えてくる。足つき性はBMWのカタログモデルで記憶を辿っても
これを上回るのはR1200C位しか思い出せない程良いので低身長の方でもとっつきやすく、気軽に乗れるという点では
やはり襟を正してから乗りたくなるような標準モデルもりも優れているが、運動性能の差が無視できないほど大きいため
標準モデルではどうしても足が届かないかスポークホイールが好きでたまらない方以外は、
足つきが許す限り標準モデルを選ばれることをお薦めする。

R1200R
全体のボリューム感は先代R1150Rとほとんど変わらないのだが、左右のオイルクーラーが前輪直後に移動したため
その分タンクの幅が狭くなっておりまたがった感じはわずかにコンパクトになったように(視覚的には)感じる。
R1200系は1150系と比べるとデザインに意図的に新しいテイストを取り入れて新規顧客層の取り込みと
若返りを図っているが、このロードスターではGS同様明らかに先代のイメージを意図的に残しており
既存のBMWユーザーの乗り換えやリターンライダーの獲得を狙っている(とBMW自身が公表している)。
要するにデザイン手法をマーケティング戦略に応じて使い分けているわけで
メーカーとしてのポリシーはどうなのだと言いたい部分もあるが、出来上がってきたデザインは
R1150Rのイメージを継承しつつ近代化させた印象で、それ自体は悪くないと思う。
少なくとも、個人的にはR1200系の中では一番目に馴染む。
また、遂にGSと共用のアップマフラーと決別しRT同様のダウンタイプのマフラーが装着されたたことで
左側もフルサイズパニアが付くようになったのは今更とも思うが嬉しい変更だ。

全体の造りは可もなく不可もなく・・・だ。例によって全体的にはややごつい造りなのだが
強度の必要ないところや実用上問題のないところはかなり徹底してコストダウンをしており
外見を良くする為に造りにお金をかけることをほとんどやっていない。
今から13年前にR1100Rが税別145万円で発売されたことを考えれば(当時の内外価格差は非常に大きかった)、
マルクが廃止されユーロが倍のレートになった現在、装備がずいぶん簡素化されたとはいえ
素のモデルが税込み150万強のR1200Rは大幅に値下げされた・・・とも言えるのだが
製造原価がこれより安いとは思えないCB1300が113万円で買える我が国では
公平に考えてやはり価格競争力には乏しいと言わざるを得まい。
こういう時に見た目を豪勢にしておくと客に高価格を納得させる有力なファクターとなり得るのだが
相変わらずBMWはそういうことはてんで下手である。

またがった感じはポジションだけならR1150RTに極めて近い。
日本仕様標準装備のローシートのためもあるだろうが前傾の度合いは1150Rよりも弱まり、
身長177cmの私の場合上体はほぼ直立。
ステップ位置が下げられたこともあって膝の曲がりはF800ST(ローシート)よりもかなり緩く、
ツーリングにも充分使えるものになっている。足付きは極めて良く、私は両足がかかとまでべったり接地した。
また、着座位置が低い分ハンドルの位置が相対的に高くなり(私にはやや高すぎると感じた)その辺もRT的だ。
ただし、ハンドルスイッチやレバーの角度がローシートに合わせていないため
操作性には問題ない水準に留まっているものの、スイッチやレバーの操作に多少の違和感は感じた。
あと細かいことだがスロットルケーブル(電子制御スロットルなので戻りのワイヤーが一本だけ)は
スロットルグリップ下からガソリンタンクと車体番号のプレートの間に最短距離で直接車体に引き回されている。
いかにも効率を優先した形だが、違和感さえ気にならなければこれはこれで悪くない。
なお、タンデムライダーの居住性はR1150Rより低下している。
後ろが現代的にスリムで跳ね上がったなデザインになったことのしわ寄せを受けてか
タンデムシートの座面が大幅に小型化されてしかも座面が前下がりになり、
従来パニアケースのステーと兼用だったグラブバーまで消滅してしまった。
その代わりこれまで近年の輸入車ではほとんど見ることがなかったタンデムベルトが
一体成型シートのメリットをフルに生かす形でシートと面一になって復活したのだが、
国産車であのベルトを利用するタンデムライダーがどれだけ居たかを考えてみれば
効果の程は推して知るべしだと思われる。

センタースタンドはかける機会がなかったが、またがって揺すってみた感じでは
R1150Rより質量感が明らかに低減されて軽くなっている。もちろんF800Sほど軽くはないが、
1200ccもあるビッグバイクとは思えないほどとっつきは良い。
エンジンをかけるとR1200系共通の音と振動が当然襲ってくるのだが、F800から流用したメーターは
カラフルなインジケーターが点灯して速度計と回転系の針が一度MAXまで振れる。
新しさを感じる一瞬だ・・・が、果たしてわざわざ変える必要があったかどうかは疑問だ。
取り付け部分は心配になるほど華奢だし(テストしているから実際には問題ないはずだが)
メーターによる防風性を考慮しているとも思えない。
何よりこのメーターがスクリーンなしではせっかくのクラシカルなデザインラインをぶち壊していることが問題で、
もうちょっとその辺のデザインの統一性にも気を使って欲しかったところだ。
なお、視認性はF800Sと同じくやや表示が小さいものの特に問題はない。

その隣には最近のBMWお得意の液晶表示の多機能ディスプレイが鎮座しており
時計とオドメーターとツイントリップメーターの機能を備えているが、
試乗車は工場オプションのオンボードコンピューターを装着しており
燃料計、油温計、ギアポジションインジケーター、外気温計に燃費計、平均速度計に
凍結表示警告までが追加されていた・・・ということは予算の許す限りは必須の装備なのだが
最近のBMWの常でひとつひとつの表示がやや小さく、特に燃料計と油温計はバーグラフが小さすぎる上に
一つ一つの表示が細かすぎて慣れないと瞬間的な情報把握がやりづらい。
その割にディスプレイの特等席に表示されるギヤポジションは異常なほど表示が大きく
(デジタル数字の縦の大きさは3センチ近くもある)それだけなら視認性は抜群なのだが、
他の表示がいまいち見にくいため「もうちょっと表示部分の配置を検討した方がいいのではないか」と
苦言を呈したくなってしまう。少なくとも、時計とギヤポジションと燃料、油温に関する限り
多機能メーターの視認性はR1150系までのR.I.Dの方がずっとよかったというのが正直な感想だ。

新型ブレーキシステムを備えるこの車輌だが、EVOブレーキのように高速点滅するインジケーターが
点滅をやめるのを待って・・・といった儀式じみたことはもはや不要(のはず)だ。
サーボの音からもほぼ完全に開放されたのはイグニッションキーをオフにしたままでも
普通にブレーキが効くようになった(戻った)ことを含めて大いなる進歩である。
それからクラッチをつないでスタート。従来のロードスターはエンジンも車体構成もGSをベースにしていたが
今回は遂にエンジンは109PS(80kw)と専用のチューンが施され・・・というと聞こえは良いが
乱暴に言えばR1200GSの低速トルクを削ってピークパワーに振り向けているわけで、
その分R1200STにも通じる極低速トルクの不足を感じることは・・・実はない。
この辺はエンジンの改良とファイナルを低めたことによるものだろうが、
実際のところ発進はR1200系の中でも一番楽で扱いやすく、好感が持てるものだった。
そこからの加速は(エンジンを労って4000回転までしか回さなかったが)R1150Rより一回り強力で
パワフルとまでは感じないがトルクで走るエンジンなのにピックアップも悪くなく、
回転(と速度)も軽やかに上昇していくR1200系特有のフィーリングでなかなか気分がよろしい。
勿論、ツーリングや街乗りも考えればシャープならいいというものではないが、
このバイクはその辺が適度にダルな味付けになっていてルーズな使い方への適合性もまず許容範囲にある。
要は電子制御スロットルとインジェクションの制御プログラムが進歩したということなのだが、
R1200GSの登場から3年の間にかなりの熟成が進んだことを窺わせる。
勿論、回して楽しいスポーツエンジンとしての素性はパワーも含めて
R1150Rより一枚以上上手なのは間違いないところだ。

またミッションにも細かい改良の手が及んでいるようで、まだ走行距離450キロの新車ながら
シフトフィーリングはこれまで乗ったR1200系の中でもトップでR1150系後期のEVOミッションも上回る。
時々妙にシフトに節度感がないこともあったが充分許容範囲で、それに比べると自分のK1200Rの
シフトフィーリングの悪さに大いに頭を抱えてしまった。
また、乗り心地は意外と硬い。新車だったことを割り引く必要はあるが
ストックのSHOWA製サスペンションの動きは渋めで高級感はなく
「あんまりいいサスを使っていないなあ」と思いながら乗っていたのだが、
前後のピッチングやバウンシングがR1150Rよりも増えている上にクッション製の低いシートが
(詳しくは後述する)更に評価を下げてくれる。この点はR1200STと比べても露骨な性能ダウンで、
価格を考えたらもうちょっと高性能なサスを奢って欲しいところだ。

そこからカーブに進入。フロントからサーボが外されたブレーキはEVCブレーキより多少力を必要とするが
効きは充分で、握力に応じて制動力がリニアに変化する反応の良さと正確さではEVOブレーキを完全に凌ぐ。
つまりコントロール性が良くなったわけで、これは嬉しい変更だ。
もっとも、新車ということを考慮してもブレーキのストロークは少々長すぎるきらいがある。
試しにブレーキレバーを2〜3回軽く握ったらストロークが縮まったから問題はピストンシールだが、
個体差なのかはともかくもう少し何とかして欲しいところだ。
また、おそらくはASCとの兼ね合いからサーボが残されているリヤブレーキは
従来のパーシャルインテグラルEVOブレーキのリヤとほぼ同等の効きをみせるが(つまり非常に強力)
コンロール性はEVOブレーキから極端な向上は感じられない。ただしリヤブレーキはストロークが少なくなっており
ある程度踏んだ後はほとんどストロークしないペダルを踏力だけでコントロールするタイプだ。
慣れは必要だが、個人的には非常に好印象だった。
ブレーキをリリースしてからの車体の倒し込みだが、R1200STよりも一回り軽快に抵抗なく倒れ込み
そのままバランスよく旋回する。K1200Rは勿論R1150Rほど前輪から旋回力を生むタイプではなく、
後輪中心で旋回してその後一瞬遅れて前輪に舵角がつく、割とオーソドックスな設定だ。
(ステアリングダンパーが前輪の遅れを助長している可能性はある)
全体的にはややバンク角優先型で前輪はK1200Rなどのように積極的に切れていこうとはしないが
かといって従輪に徹しているわけでもなく、
前後がバランスしてからの旋回性はかなり高いし小回りのタイトターンも難なくこなす。
更に見逃せない要素としてこのバイクは荷重移動に対する車体の反応の良さが抜群に優れており、
細かいステップワークや僅かに腰をずらしたりしただけでも400ccクラスのバイクなみに鋭く反応する。
(車体の安定感は犠牲になっていない)これはつまり乗り手の技量を反映させやすいということで、
腕自慢にも操り甲斐を与える嬉しい要素だ。
また、サスユニットが安物の癖にバンク中の安定感はR1150Rの比ではなく
ほとんどデュオレバーを備えるK1200S/Rなみの水準にあり、
結果としてコーナリングの怖くない度合いも大幅に高まった。
近年のBMWはバンク角のコントロール性の高さが特に向上しているがこのR1200Rでもそれは健在で、
先に述べた車体の反応の良さにも助けられてコーナリングの自在さはR1200STにほぼ匹敵する。
高速域での旋回性ではおそらくSTに及ばないだろうが中速域までは扱いやすさなどもあってこちらに分があり、
その辺の関係は正しくR1100RSとR1100Rの関係の進化形といって差し支えない。

・・・と、コーナリングに関する限りそこまでは良いこと尽くめなのだが、
どうしても難点として挙げておかなければならないのは出来の悪いローシートだ。
ただでさえシートベースの強度が低く着座するとシートがたわむのが明確にわかるほどで
事実シート後端とテールカウルの間のクリアランスが変化するのははっきりと目視できるのだが、
シートの底づきを防ぎたいが乗り心地も確保したい・・・というせめぎ合いから生まれたであろう
かなり薄いがそこそこウレタンの硬さがあるシートは量産品としての限界からやはり構造上の無理があり、
ウレタンの薄い部分と厚い部分ではクッション性にかなり差が出てしまっている。
結果として座面の傾斜がお尻の角度と合っていないためホールド性が悪く、
荷重をかけた時には座面が波を打つように沈むので(しかもベースがたわむので更に印象が悪化する)
座っていても変な感じだし腰をずらすにもやりにくい。
(ちなみに、着座位置の前後の自由度はある程度確保されている)
何より良くないのは単純なクッション性が褒められたものではないことで、
私は15分ほどの試乗でお尻に違和感を覚えて「あと15分くらい乗っていたら痛みが発生してくるだろうな」と
思えてしまうほどのものだった。
R1150GSADVのローシートも酷い出来だったが、このローシートはあれを更に下回って悪い。
足付きが問題にならない人であれば、ハイシートを強くお勧めしたい。
また、このシートを標準装備してあと二つの高さのシートを47250円の別売にした
BMWジャパンの企業姿勢には強く異を唱えておきたい。
余談だがシート横の凹みはこの部分でシートをたわませて座り心地に寄与させつつ
デザインとしても寄与させようというデザイナーのアイデアだそうで
実際に座ってみても違和感はないのだが、シートレザーとの一体成型シートでこれをやると
ウレタンにかかる力が不均等になり、またレザーと一体化しているためウレタンに力の逃げ場がなく
結果としてこのスリット部分だけ傷みが早く進むはずである。
そのくらいのことはメーカーなら当然承知しているはずで、
シートの出来が良いBMWというのはK1200LTを除き最早遠いセピア色の思い出か、
ジャーナリストの常套句的褒め言葉になったと言い切ってしまおう。実に残念だが。

なお100キロ強まで速度を上げて試してみたが高速走行での安定感はRTやSTほどではないが
車輌の性格を考えたら模範的といっていい水準だ。
防風性は膝の辺りはタンクが狭くなった分R1150Rよりやや劣るようだが、
試乗車に装着されていたスポーツウインドスクリーンはまずまずの防風性があり
ローシートの着座位置なら胸のあたりまでの風圧をある程度低減してくれる。
この辺りの速度では車体にも振動は少なく風圧も充分耐えられる範囲に収まっていて
天気が良かったこの日は気分良く風を切りながらの爽快な走りが楽しめた。
また、そこまでの加速感は前述した通りRシリーズ特有のもので、
「F800シリーズはRの弟分」と言わしめるだけの存在感のある加速をする。
その時のエンジンからのノイズはどういうわけかR100系の頃から音質があまり変わっておらず
良くも悪くも伝統を感じてしまったのだが、「この感じがいいんだ」というRファンは確実に存在しよう。

さて、まとめ。
良くも悪くも今のBMWの考え方が色濃く反映されているものの、
日本発売当時私が絶賛したR1150Rのまごうかたなき正統な後継車だ。
多少の好みはあるだろうし走りの質感は従来より低下したと思うが、
走る、曲がるの性能については絶対的な扱いやすさも含めてR1150Rから一回り以上レベルアップしている。
(止まるについては、過程は違うが絶対的制動力だけならあまり変わらない)
タンデムランについての能力は低下したと言うしかないが、積載能力は向上しているし
全体の造りは華奢になったと思うがカタログデータ上の最大許容重量も変化はなく
理論上はロングツーリングも苦もなくこなせよう。
新しいブレーキシステムはより万人向けに熟成されているし
ASCを装着すればより安全かつローリスクにライディングを楽しめよう。
(ABSと同じく後付けはできないが・・・)
また、R1200GS登場以来新しいR1200系は性能は良いがボクサーユニットの味わいが随分薄まり
車体の反応が良くも悪くも鋭くなってロングツーリングで疲れるバイクになったと感じていたのだが、
その辺りが改善されてきているのも個人的には嬉しいポイントだ。
その匙加減はおそらく開発チームが意図したものだろうが、結果としてこのR1200Rは
K1200LTを除けば乗るとほっとするようなあまり急かされないマイルドな乗車感覚や
軽快さと安定感が同居した独特の走行感覚といった少し前からのBMWの乗り味が
一番良く残っているバイクに仕上がっている。
その濃さは依然としてR1100/1150系ほどではないが、
現代のバイクとして性能と個性を上手にバランスさせたなと思う程度に程よくまとまっているというのが実感で、
無論ツーリングにもスポーツにも、現代のバイクとして充分な性能が備わっている。
強烈な魅力や突出した個性はないし内容を考えれば価格も割高で細かい欠点もいろいろと目に付くものの、
一台の大型ネイキッドバイクとして考えるとその総合力がR1150Rを優に上回って
相当に高いところにあるのは間違いない。
K1200S以降のBMWについていけないものを感じている旧来のユーザーや
高速ツーリングのプライオリティーがさほど高くないライダーには
極めてベーシックかつ完成度の高いBMWバイクとしてお勧めできる一台だ。

R1200ST
見た感じのボリューム感はR1100SとR1150RSのだいたい中間といったところ。
シルエットはSの影響が強く見えるが、実際に現車を見るとタンクの造形は明らかに旧RSというよりRTを意識しているし
フロントカウルの造形もRSからのモダナイズ。後ろを短く見せるデザインの視覚的な効果もあるだろうが、
軽量化されたとはいえ実際はサイズにしろ見た目にしろなかなか立派な体格のバイクである。
なお、旧RSでデザインの評判が良かったハーフカウルのシルエットは引き継ぎたいし、
プロテクションと足への熱気を低減するフルカウルの良さも残しておきたいし・・・という要素から生まれたであろう
ハーフカウルかフルカウルかわかりにくい形状のサイドカウルの形状は、
デザインと機能性の両立として大いに評価しておきたい。
また最新のBMWに共通する真横を向いた前輪のエアバルブは、地味だが扱いやすさを大きく高める改良だ。
アクの強いフロント回りのデザインは好みが分かれるだろうが、これは慣れるしかあるまい。
私は正直なところこのご面相が嫌いなのだが、実車は写真よりも違和感が少ないとは明言しておく。

で、細部に目を遣ると再び目に付くのが多少のコストアップ箇所を覆い隠して余りあるコストダウンの嵐である。
目に付くビスやボルトは随分と安っぽくなったし、細部の作りは大幅に簡略化されたのは勿論だが
特にとってつけたような電源ソケットのマウントの溶接などはとてもじゃないが価格相応の水準とは言いかねる。
足をかけるためのステーまで省略されて出しづらくなったサイドスタンドの造りは原付用が巨大化しただけといった程度だし、
マウント部分にしても本当にこれで強度が大丈夫か心配になる程華奢な造りだ。
無論メーカーのやることだから最低限のテストはしているだろうが、R1200C以外のBMWのサイドスタンドは
もともと一時的な停車用でマウントが開いたりスタンドが曲がったりすることはこれまでにもあったので、
それが従来より強度が弱そうに見えるとなると「おいおい大丈夫かぁ〜?」と心配したくなってしまう。
またK1200Sもそうだが最近のBMWはカウルの内側をことさらに隠そうとしていない節があり、
このSTでも特異な形状の縦二灯式ヘッドライトの裏側は簡単に見ることができる。
高級感をあまり損なわない程度のデザイン的な配慮はされているが、
個人的にはスポーツ性を優先したディテールとも思え、RSとSの中間でややS寄りという性格付けとはいえ、
このバイクが一応R1150RSの後継車だという事実を考えると納得のいかない部分だ。
但し、隠れた恩恵でタンデムランに対応するためのヘッドライトの角度切り替えレバーには
またがったまま簡単に手が届くようになった。1100/1150のRSではバイクから降りて腕を不自然な角度に曲げて
カウルの内側に突っ込まねばならず、しかもレバーがRIDの配線に干渉してしまい
中途半端な切り替えしかできなかったことを思えば長足の進歩である。
日本車の水準からすれば「今頃何をやっているのか」といった話だが、それでも改良は改良だ。
また、プラスチックの成型技術が向上したのだろうがライトレンズの造形レベルは格段に高くなったし、
カウルの継ぎ目のチリもかなり細くなりその間隔も随分と均一性が高まった。
国産車の水準に追いついたとは思わないが、さすがに先代とは明白な差をつけている。
エンジンのエアインテークは車体の右側前方に移動して、見た感じの吸入効率は随分とよくなった(ようだ)。
ただし正面から見るとインテークダクトの前には異物吸入防止用のネットも含めて何もなく、
走行風以外にも虫や雨水まで効率よく入ってきそうな設計になっている。これが実際に故障の原因になるとは思えないが、
エアクリーナーボックス内部はある程度きっちり見てやる必要があるだろう。

またがってみると、前傾のきつさは予想したほどではなかった。試乗車は高さのみ3段階に調節可能なハンドルを一番上にセットし
標準装着のローシートを低い位置にセットした一番ユーザーフレンドリーな状態だったが(試乗もこの状態で行った)、
この状態ならRSのハンドルの前後位置を真ん中やや前寄りくらいにセットしてひざの曲がりを少し強めたような感じだ。
膝の曲がりはSよりも少し緩く、ローシートなら足付きはRSやSよりも良いため軽い車重にも助けられて
跨ったままでの取り回しは前述の二台よりも楽である。なおハンドルの高さ調整幅は25ミリと結構大きい。
おそらくは純正または社外品で高い位置のハンドルマウントが発売されると思われるし、
RSのハンドルをセットバックせずとも平気な人なら前傾姿勢についてはあまり気にしなくても問題はないと思う。
Sではハンドル幅が広かったので必然的に腕が広がってしまい長距離走行では上体の疲労の原因になっていたが、
STはハンドル幅も適度に狭められ全体のまとまりも向上している。

シートは最近のBMWによくある座面が平らで比較的強めの反発力があるもので座り心地はR1150Rに似ている。
はっきり言って大してコストはかかっていないが、基本的な腰の収まりがいいのと滑りにくいこと、
そして座面の前方を絞り込み後ろの幅を充分に確保した形状によりタンクへのフィット感と足付きがなかなか良好なことと
腰をずらした走りへの適合性がSよりもずっと高い(というより、私のSのシートの評価は低い)ことは評価できる。
ただし座り心地は旧RSの方が良く、長距離走行ではお尻が痛くなりそうな気はする。
また前後で大きく段差がつけられたシートはシートストッパーも兼ねるため着座位置に前後方向の自由度は小さい。
好みから言うともう少し後ろにも自由度が欲しいところである。
またシートの高さ調整機構だが、旧RSの欠点だった左右方向の固定がきっちりできずがたが発生する点は解消されているようだが
その代わり高さ変更に必要な手間は増え、調整機構そのものも激烈にコストダウンされてしまっている。
R1150R以降BMWは自分で提唱したライダーの体格にバイクが合わせるというエルゴノミクス思想を
トーンダウンさせている傾向があるが、折角高邁な理想を掲げたのだから安易な妥協をせず理想を追いかけてもらいたい。
それでこそ、ライバルよりも高価な価格を顧客に納得させ得る有力な武器になるはずである。
リヤシートの居住性はS以上RS以下。シートの固さとデザイン的に随分洗練されたアシストグリップの位置などは悪くないが
座面がRSより大幅に狭く、シングルシートカウルのような台形断面のシートはタンデムライダーが
足を挟んでグリップする場所を失くしてしまい収まりがよろしくなく、また座り心地もRSには劣る。
トップケースを装着すれば居住性は随分改善されるだろうが、現状での評価はこんなところだ。

なお、またがった時の眺めはRSとのデザイン的な近似性を感じさせる。
見た感じの高級感があからさまに減っているのが気に入らないが、格段に軽量化されて重量を気にする必要がなくなったためか
ハンドルマウントにされた一体型のメーターパネルから入る情報量に不足はない。
ただし、軽量化のためかタコメーターと従来のR.I.Dに替えて装備されたインフォメーションフラットスクリーン
(要するに多機能表示液晶パネル)それに各種インジケーターは全て表示が大幅に小さくなっており、視認性は随分と低下した。
慣れで解決する問題だと思うが、見やすさだけで評価するならやはり改悪と言わざるを得まい。
あと以前から思っていたことだが、油温計は従来通り液晶のバーグラフで表示されるタイプだが(表示は従来より細かくなった)
これについてはバーグラフの中に適正温度の範囲を表示するとか、温度をデジタル表示する方がよいのではないか?
燃料計なら満タン時とリザーブの容量はオーナーなら知っているだろうからあれでもいいが、
油温計で下限と上限の温度が表示されないのは私には単に不親切に思える。
ミラーは長円形に変更されて視野は大幅に拡大し、高さも適切で走行中の振動によるブレも少ない。
ただし幅が広い割に位置が手前にあり鏡面を確認するための視線移動量がわりと大きいため、
人によっては見づらいと感じるかもしれないだろう。

さてエンジンをかけると、相変わらずのトルク反動が出迎えた。
スロットルを軽く煽ると車体がクランクの回転反動で右に傾くのは相変わらずだが、これまでモワワンとした感じで伝わってきたその反力は
この新しいSTでは「ドンッ!ドンッ!」と鋭くて短くボディーブローのように車体を揺さぶり、
ピックアップの良さとともに軽量化されたフライホイールマスの影響を如実に伝えてくる。
これは1200GSにもある程度共通する性格だが、圧縮比が高められたためかその反応はSTの方がよりダイレクトだ。
慣れで解決する範囲とはいえRSより少し軽くなった油圧クラッチのタイミングがいまいち掴み難いのは相変わらずだが、
GSにも共通するスムーズなタッチのミッションをローに入れてクラッチを繋ぐとR1200C並みに簡単に発進できた。
実際には結構な回転数の変動があるのだが、排気量アップが効いているのかそれでももたつく印象はない。
R1100/1150系の欠点だった発進加速時のやや神経質なところが消えはしないまでも明らかに軽減されており、
これは大いに歓迎したいところだ。
そこからだが、極低速では従来の1150系と力感に大して違いはない。
しかしR1150系後期に採用されたEVOミッション並みにスムーズなシフトを楽しみつつ速度を乗せていくと
3000回転を超えたあたりから1150RSより加速が明確に力強くなる。その辺りから振動が大きく減ってスムーズになり、
ニ気筒エンジンを回している感覚がますます希薄になってくるのも1200GSと同様の感覚だ。

マフラー/サイレンサーは従来の容量に不利なことを承知でサイレンサーを短く切って立ちごけしてもパニアを付けていれば
マフラーのダメージを最小限にとどめる設計になっていたものとは違い、明らかに性能優先でタイヤの交換は大丈夫だろうかと
心配になるほどサイレンサーが太く・大型化されておりそこに至る取り回しも量産品としてはなかなか手の込んだものになっている。
その排気音は結構排圧のかかったもので、旧RSよりも歯切れがよくSよりも低音がある。
ただし根本的に排気音を楽しむマフラーでないのも確かで、排気音としてはSの純正マフラーの音の方が好みだ。
音にこだわりたい向きはいずれ発売されるであろう社外品マフラーを物色されたい。

ブレーキで充分に速度を殺してから最初の交差点を曲がる。
このバイクはパワーがあるためか真っ直ぐ走っている時の車体の軽快感はむしろSよりもあるのだが、
リーンスピード自体はSよりも少しゆっくりしており倒し込み自体もSより少し重い。
しかし旧RSより軽いことは言うまでもなく、安定感はSとRSの中間といったところだ。
リヤタイヤが180にサイズアップしているためR1100系に180のワイドタイヤを履かせたときのような
リヤが不自然に重くなる感じを危惧していたのだが、太くなったネガを微塵も感じさせないのはさすがメーカーのやることである。
そこから新車のエンジンをいたわり、スロットルを絞りつつも加速。全開にするとどうなるかはわからなかったが、
中間加速は1150RSより上でK1200RSには劣るくらい。まったくの新車の状態でこれだから、
距離が延びてエンジンが本来の実力を発揮すればもう少し速くなることが期待できるだろう。
ポンポンとシフトアップして6速に入れると、文字盤が小さくなり見づらくなったタコメーターは120キロでちょうど4000回転を指した。
この状況でのクルージングは良くも悪くも予想を裏切らないもので、まずエンジンの騒音は従来と同程度。振動は大幅に減っており、
乗り心地はサスの動きはSTの方が良いのだがシートで負けているため結果的にはRSに劣る。
短時間ならサスの当たりが随分良くなったSTの方が高評価になるかもしれないが、
長時間走るとSTの方が前後のピッチングが大きくシートの出来で劣るため旧型に逆転を許すだろう。

また防風性はほぼ見た目通り。Sよりも優れているが、1150RSよりは劣る。詳しく書くとSにはすべてにおいて勝る。
しかしRSと比べると肩や腕に当たる風は減少しているのだが、見た目の印象通りアッパーカウルの防風性は
大してあてにならず、上半身への防風性はその大部分を横に広がり縦に縮んだスクリーンに依存している印象だ。
そのため風を遮られる部分が丁度首の辺りまでしかなく(身長177センチの私が標準のローシートを低い位置にセットした場合)
結果としてヘルメットだけが風に守られていない印象を受ける。勿論ある程度の整流効果は得られているが、
ヘルメットまできっちり風から守られていたR1150RSと比べると防風性では劣ると言わざるを得ない。
また両手にもある程度の風圧がかかり、冬の走行では手も結構冷えるのではないかと思われる。
標準装備のグリップヒーターがあると言われそうだが、走行風が来なければグリップヒーターの効きにも違いが出るのだ。
ちなみに高さを35ミリ調整できるウインドシールドだが、正直に35ミリ分プロテクション効果が変わるという以上の印象はない。
大抵のオーナーは雨の日以外は好みの位置に固定してそのままになってしまうのではないか?
なおシールドは軽量化のためか薄くなっていたが、試乗中に強度不足を感じることは一切なかった。

それから一旦停止して信号待ち。何か物足りないな・・・と思っていたら、これまでのEVOブレーキに付きものだった
サーボモーターのチュィィィィンという音が劇的に低減されており、注意しないとわからないレベルの音量になっていた。
これまでは高性能の代償として諦めざるを得なかった部分だが、静かならそれに越したことはないわけで
これは特に都市部の使用では実質的な改良として高く評価できる・・・というより、最初からやっておいて欲しかったところだ。
ともあれ、大いに歓迎しておきたい。

信号が変わったので再スタートして、ゆったりと加速を試みる。試してみたところ6速は1800回転から使用に耐え、
粘りも低速トルクも充分な水準にあった。そこからシフトダウンして曲がりくねった道を結構なペースで飛ばしたのだが、
ここはさすがに新型の面目躍如といったところ。サスペンションユニットはR1150ADVで初採用されたストローク量に応じて
減衰力が変化するというGPマシン並みのWADシステムを備える割にユニット自体は安価なツインチューブ式という
コストがかかっているのかそうでないのかよく判らないものだが、路面の不整など細かい入力に対する反応は抜群によく
従って乗り心地が良い上に車体の動きは速度を問わずかなり軽い。
意地悪な見方をすれば奥の方で減衰を効かせるWADがあるからこれをあてにすれば
初期の減衰を目一杯抜くことができるので、安価なツインチューブでも結果として作動性を上げられたのだろうと
考えられなくもないが、それでもこの性能はなかなかのものだ。
また、WADシステムの威力かある程度荷重をかけた状態でもしっかり踏ん張るので結構なペースで走っても腰砕けにならず
軽く試乗した程度のペースでは安定した走りが可能である。このサスの特性はR1150Rロックスターに似ているが、
それをもう一段階進めたものと言えるだろう。
ただし、その影響として車体の前後方向のピッチングはこれまでより増加した。
ブレーキング時にも多少のフロントが沈む(というより、リヤがリフトする)印象を受けるが、これは痛し痒しの部分だろう。
スポーティーな走りをする分には多少のピッチングなどそれほど問題にはならないだろうが、
長距離ツーリングならば徹底したフラットライドの方が断然快適である。

話を戻すと、足回りの躾けと扱いやすさはBMWのスポーツモデルとしてはこれまででベストになる。
倒し込みが軽くて自然な感じなのは先に書いた通りで、RSにあったフロント回りの質量感を感じることも少ない。
舵角は比較的早い段階からついてくれるのだがこの舵角のつき具合とリーンのバランスが絶妙で、
普通に走っている分には前後が程よくバランスしたニュートラルステアになる。
旋回力がバンク角に比例するのはBMWにだいたい共通する特性だが、バンク角のコントロールがこれほど自由で
僅かな荷重コントロールだけでリーンウィズのまま旋回力を自在に変えられる特性を持つのは
BMWの中でも他にはK1200RSしかない。無論このSTは速度を問わずK1200RSより遥かに軽快な上(安定感では負けるが)
パワーがあってトラクションが良いためR1100RS(1150RSではなく)やR1100Sで可能だった
スロットルワークでリヤステアを与え、後輪主体で曲がっていくコーナリングに瞬時に移行する事もできる(腕さえあれば、だが)。
どちらかというとRやRTよりも明らかに高速・高荷重向けのセッティングなのだが、このコーナリングのイージーさと
テクニカルな操作に対応する余力と反応のよさをここまでハイレベルで両立させたBMWはちょっと他にない。
ピックアップが良くなった新型エンジンがその完成度を高めるのに一役買っているのは言うまでもないだろう。

またその後渋滞走行も体験したが、駆動系の剛性がRSより向上している印象がありなかなか良好だったのに対し、
インジェクションの設定のためか低速でスナッチが発生しやすく初期減衰が弱いサスペンションのせいもあって
意外にギクシャクした走りになりがちだった。許容範囲ではあるが、もうちょっと調教してもらいたいところではある。

さて、まとめ。RSとSを足して2で割って、各所を改良したようなバイクと考えると判りやすい。
エンジンと足回りはスポーツ走行をする限り間違いなくBMWのボクサー史上最良で、R1100Sよりも明らかに一枚上をいく。
またRSほどではないにしろSよりは高いツーリング性能を備えており、
ツーリングも充分にこなせるスポーツバイクとしての総合性能は素晴らしく高い水準にある。
ただし、ツアラーとして考えるとピックアップが鋭い故に1100Sよりも神経を遣うエンジン、
作動性は良いがいくぶん前後のピッチングが大きなサス設定などによりRSよりは明らかに劣る。
これはR1200GSとR1150GSを比較したときにも同じことが言えるのだが、旧型の方が刹那的な快楽では劣る代わりに
乗っていて精神的にリラックスできるのだ。BMW自身このSTでは特に新規ユーザーの獲得を重視すると公言しており
事実それだけの新しい魅力を備えたバイクではあるのだが、その分従来のRSオーナーが切り捨てられている印象を
受けてしまうのもまた事実である。
またR1150RSの登場時とはユーロの換算レートが随分変わってしまったので直接比較は難しいが、
大幅に進んだコストダウンにより車輌としての割高感はむしろ強まった。それさえ気にならなければ従来のSオーナーと
Sではちょっとスポーティ過ぎると感じていた人には文句なしにお薦めの非常によくできたスポーツバイクだ。
ただし「RSでなければダメ」というBMWとしては対象にしていても商売にならないコアな層には
スポーツ性が強すぎてお薦めできかねるだろう。良くも悪くも現在のBMWのバイク作りの方向性を象徴するような一台だ。

R1150RS
 BMW Motorrad Dayで行われた試乗会で乗ってきました。
2日目スペシャルステージの終わり頃R1150RSに山村レイコさんがクリス・チアリさんを載せて
タンデムランしていたんですが、その後仕舞われていたRSはBMWジャパンスタッフの運転によって
試乗会場まで運ばれてきたのでした。
それは是非俺にやらせてくれという要望はさておき(笑)、またがってみると1100RSとは少々感じが違います。
具体的にはシートが高くなって足つきが微妙に悪くなり、ステップはそれ以上に高くなって膝の曲がり角がきつくなりました。
新型の中間位置のシート高さで、ようやく旧型の低位置と同じくらいの膝角になるかなといったところです。
ハンドルは気のせいかもしれませんが多少手前に引かれた感じがあり、許しがたいコストダウン生産性の向上が図られて
絞り角調整機能が省略されたハンドルは垂れ角がかなりきつく、ビモータもかくやというくらいです。
結果として、ポジションはR1100Sのハンドルを多少手前に引いて上に上げ、垂れ角をやたらと増やしたようなものになっている・・・と思っていましたが、どうやら垂れ角は1100RSと同じでシート高が上がった分前傾が強まり
結果として垂れ角が増えたように感じたと言うのが真相だったようです。

幾分の不安を感じながら、先導、後詰めどちらも知った顔のスタッフに前後を挟まれて発進。
油圧クラッチは従来のケーブル式に比べて多少ミートポイントがわかりにくいと思うのですが、多分慣れで解決する範囲でしょう。
R1150RTと共通のパワーユニットの進歩は明らかで、低回転からよく粘る上にそこからの加速もスムーズです。
中低速トルクは(回転数にもよりますが)基本的にやや減っているものの、低められたギアリングが
それを補って余りあるので低い速度での扱いやすさは随分と増しました。
そこから上まで回していってもそのままシャープかつスムーズに吹けあがってくれます。
R1150RTではスロットルオフの際のぎくしゃく感が指摘されたこともありましたが、改良が図られたのか
それも特に感じませんでした。ミッションは新車のハンデを考慮せねばなりませんが基本的にスムーズです。
RTと同じくトルクの増したエンジンと新しい6速ミッションの組み合わせは旧型を明らかに上回っていました。

会場周辺の道路は基本的にタイトな山坂道ばかりなので、足回りを試すには絶好です。
ギアを変えたり進入速度を変えたりといろいろ試してみましたが、基本的には最新のBMWに共通の
軽快なニュートラルステアです。どうやって設定を変更しているのかわかりませんが、従来RSでフロントに感じていた
質量感がぐっと減り、1100Rくらいの軽快感(1150Rや1100Sよりは重い)を保って
右に左にひらひらと切り返していけるようになりました。こんな時に垂れ角の大きいハンドルはちょうどいい位置にあります。
安定感は1150Rに勝りますが、前輪の舵角のつき方のクイックさでは劣ります。
つまり、Rよりもハイスピードクルーズと高速ワインディングに振った設定ということなのでしょう。
乗り心地は従来とほとんど変わらず、柔らかいけれど安定していて、リヤの初期作動が少々悪そうな印象のものです。
基本的には快適ですね。
ブレーキはEVOブレーキになっていますが、これも新しいK1200RS同様ある程度握りこまないと
サーボが効かない設定のようです(技術的に正確なことはわかりませんが)。
注意深くブレーキをかけていると途中でサーボが作動してブレーキ力が暫増するのがわかりますが、
ともかくRTやRのように初期作動からサーボが爆発的に効くことはなく扱いやすさが増しています。
絶対制動力はもちろん従来より格段に強力です。
シートは従来と同じ。ということは、ハードブレーキングでは少々滑ります。また座面に横の力を加えると
僅かに横に動いてしまいます。この構造上の欠点はRやRTでは改善されていましたから、
このRSにも踏襲して欲しかったところです。
それにしても、走り曲がる止まるにおいては従来型を大きく引き離しています。
スポーツ走行に関する限りR1150RTよりも明白なアドバンテージがあるでしょう。

しかし、そうしてコーナーを駆け抜けている時にふと思い当たりました。
「確かにいいんだよこのRS。でもこの良さって、このポジションでこんな道を走ってるからそう感じられるんじゃないか?」
よく考えてみれば、このスポーツライクなポジションだから楽にカーブをこなせている部分が確かにあります。
でもRSの良さはスポーツ性能とツーリング性能の高度なバランスポイントにあったはずで、SともRTとも違う
独自の存在だったはずなんですが、今回外見はそのままに方向性を幾分S寄りにシフトしてまった気がします。
「ツーリングからワインディングまで、適応範囲を考えたらポジションは絶対R1100RSの方がいいな」と思いました。
快適性は同じくらいですから、機構的洗練を差し引いてもツーリングだけなら旧型のほうがいいということになります。
一方、機械としての基本性能は明らかに新型が上。
個人的には、1100RSとSを比べてSを選んだけれどやっぱりツーリングがもっと快適な方がいいと思う人や
1100RSのスポーツ性にやや不満があるような人には絶対のお勧めだと思いますが、
どちらかというとツーリング主体の私にはR1100RSの方が合っていると感じました。

R1200RT(後期型)
一見した外見の印象はOHVエンジンの従来型とそれほど変わるところが無いのだが、
細かいところまでよく比べてみるとフロント周辺の外装パーツはほとんどが新設計となっており、
全体のシルエットはほとんど同じだが効果的に新しい印象を演出している。
RTが新型になってからもう6年、その間のデザインの流行を取り入れて効果的にアップデートを図り
同時にウインドプロテクションの向上も実現した・・・と書くと聞こえはいいしデザインの変更は
メーカーがいいと思ったら商品力向上のため好きにやればいいと思うが、
ウインドプロテクションについては以前から思っていたが誰も書かないのでいい加減私が書く。
ウインド(含・ウェザー)プロテクションというのは要するに空力とデザイン、実用性のバランスだが
空気力学の理論などはとっくの昔に出来上がっていて、最新の理論に基づいたアップデートをしているわけではない。
何が言いたいかと言うと、より高いウインドプロテクションを実現する余地があったなら、RTが新型になった時点で
最初からやっておけ、と言いたいのだ。BMWは私の記憶している限りでもR1100RS、R1100RT、
K1200RS/GT、R1200RTとモデルを改良するたびにスクリーンやアッパーカウルを大きくして
防風性を上げたことをさも誇らしげに吹聴しているが、17年も同じパターンを続けていれば
自社の製品にユーザーが求めているプロテクション性能がどれ程のものか、いい加減判りそうなものではないか?
出してみたら「防風性の改善を」というユーザーの要望に応えて変更したのであれば
初期段階でのマーケティングリサーチが足りないし、
今や商品力向上のためのルーチンワーク的モデルチェンジとも言える将来的なモデルチェンジのために
最初から改善の余地を残しておいたのであればユーザーを舐めていると言うしかない。
高価な買い物だけに、こういった機能面については最初から「ビシッ!」とした物を出して来いや!と思うのだ。

さてまたがってみると、相変わらずのRTテイストだ。重心のバランスが良く、フロントには
かなりの荷重がかかっているはずなのにまたがっているだけならそれをあまり感じさせない
1200RTの好ましい長所はこの後期型でも健在である。実際、R1200系にモデルチェンジした際に
軽量化の恩恵をもっとも受けたのはGSではなくRTだと個人的には考えているのだが
新型になっても乾燥重量229Kg(R1100RSより13Kg重く、R1150RSとほぼ同じ)という数字は
車体のボリュームを考えたらお見事と言うしかない。ハンドル〜メーター回りのデザインも改良され、
遂にK1200RS由来のマスター一体型デザインと決別して随分としょぼくなったハンドルユニットの辺りは
いかがなものかとも思うし必要がなかったのにわざわざ変えたように思える部分も散見されるのだが、
総じて質感は向上しているしブレーキ/クラッチレバーも調整しにくいが調整幅は細かい1200系統の部品に変わったり
シフトペダルがようやく調整式になったり(前の車体奥に隠されたような調整ロッドは・・・(-_-;))といった細かい改良も多い。
メーターバイザーが追加されたのは今更とも思うが、無いよりあった方がいい装備には違いない。
これまで手の届きにくい場所に追いやられていたヘッドライトの光軸調整ダイヤルがメーター付近に復活したことも
(ESAによる電動プリロード調整機構の存在で必要性が1150時代より低下してはいるが)歓迎すべきだろう。

左側にまとめられたウインカーについてはこれまでにも散々書いたので省略するが、
あれだけスイッチが増えて煩雑になると(慣れないうちは直感での操作は困難だろう)
ウインカースイッチ一つでも減らしたかったのだろうなとも思った。
なお、ポジションについては従来型とほぼ選ぶところがない。ハンドルは妙に凝った形状の
ブレーキ/クラッチマスターを装着するための逃げが設けられた新型だが、
ハンドル高などは変化していないように思われた。しかし新型のマスターはMVアグスタ並に複雑な形状をした
リザーバータンクがついており、従来の1200系に採用されていた円形のリザーバーから
わざわざ形状変更した意味がさっぱり見えない。
(プラスチック成型時の残留応力の関係で、寸法精度を高めて漏れを防止するためには
リザーバータンクの形状は応力を均等にできる円形(たる型)が断然有利)
製造原価はおそらく旧型の方が高いだろうし、デザイン的にも旧型の方が車両の性格に合っていたと思う。
これは正直言って理解に苦しむところだ。ただし、リザーバーがやや車体中心に移動したために
ミラーの視界を邪魔しにくくなったのは評価できる。
なおポジジョンについては車格の割に極めてコンパクトにまとまったRT特有のもので、
大柄な車体をこじんまりとした姿勢で操る感覚には前期型から変わったところはない。
シートの出来についてはちょい乗り程度では欠点は発見できなかった(つまり、なかなか優秀)。
相変わらず回し蹴りの的になりそうな高い位置のパニアについては全く変更が無いので割愛する。

エンジンをかけると、所謂1200系の音がする。GSはアイドリングの音が過大と思えるほどに大きくなっていたが
こちらは車両の落ち着いた性格を反映してか、音量・音質ともに多少元気になったかな・・・という程度で、
大きな違和感を感じたりすることはない。
GS用のものがそのまま転用された改良型のミッションは何となくシフトタッチが安っぽい感じはあるものの、
スムーズな操作性と節度感は申し分ない。クラッチの重さにも変更は感じられず、試乗車なのでエンストを警戒して
少し高めの回転からクラッチをつないでやると、これまでのRシリーズでは経験できなかったほどの力強い加速感がある。
ローのギア比が変わったのかと思ったが後で調べてみたらローの最終減速比はごくわずかに早められていたので
これは明らかにエンジンの出力向上によるもので、私の中で「もっとも発進に気を遣わないボクサー」の称号を
この時点ではメガモトから見事に奪取した(DOHCのGSはこれより楽である)。
そこから右手の力加減を変えてやると、軽快感すら伴うほどの加速を得られたのに少々驚いた。
スロットルのツキがわずかに向上している感覚もあるが、3000回転くらいまでのトルクの厚さは従来モデルより
明らかに一枚上手で、同排気量ながらも体感上ではR1100系がR1150系になった時くらいの違いはある。
「これは、いいなあ・・・」と新エンジンに感心しながら信号待ちのためブレーキをかけた時の感覚は
従来のパーシャルインテグラルABSと変わらない。つまり制動力自体は充分だが必要な握力がやや強め
(今回、リヤブレーキは妙によく効いた)な印象があり、ダイレクトなフィーリングにはやや乏しい。
スペースを食うため難しいとは思うが、これだけの高価格車であれば折角ハンドル周りを新設計したのだから
ブレーキくらいは1100系の頃のようにラジアルマスターを奢ってもよかったのではないか?
また、遂にCDプレーヤーを捨ててiPod対応となった新型オーディオシステムだが、対応を謳うだけあって
メーター中央の液晶ディスプレイには曲名やボリューム数値が表示されるなど(二輪用としては)なかなか
芸が細かいところを見せている。話題になった左側のオーディオコントローラーだが、これについては
現時点では高い評価は下せない。要するにダイヤルの回転で音量調節・左右に多少傾けて選曲を行うものだが
このダイヤルの直径が大きすぎるために、意識していないとウインカー操作の時にウインカーよりこちらのダイヤルに
指が先に当たってしまう。左右分割式ウインカーならこんなことはといった恨み言はひとまず置くとしても、
ウインカーを自然に操作できるようにするためには左手はハンドルスイッチから近すぎず遠すぎずの位置を握り、
親指を最小限の動きではなくある程度はっきりと動かしてやる必要がある。
誰がなんと言おうと左の親指が自然に触れるのはオーディオではなくウインカーのスイッチであるべきなので、
アイデアとオーディオに限っての操作性の良さは認めるが、現時点では更なる改良を期待したいところだ。
(RTの予想製品寿命を考えると、たぶん無理だが)

乗り心地は従来のRTとほぼ同等で、上屋の重さを利用して比較的レートの高いスプリングを上手にいなしていく感じの
極めて良好なものだ。ESAの調整範囲はあまり大きくはなく、SPORTからCONFORTにしても極端な変化はないので
よく言えば実践的、悪く言えば装着し甲斐が小さいとも言える。変化の幅はどの辺りが適当かは個人の好みもあるだろうが
(まったくワインディングを走らない人であれば、納車から手放す瞬間までCONFORT一本槍でも別に問題はない)
個人的にはBMWの設定は現実的でなかなか好ましく感じた。

さて、市街地を抜けてワインディングに向かう。スロットル開度を上げてやるとササキのマフラーを一回り半ほど
大人しくしたような感じで排気音が盛り上がり、音量は騒音規制のためかなり控え目だがなかなか気分がよろしい。
ハーフスロットルでトルクに任せている限りの加速感は今はなきR1200STに近いほどのものがあり、
従来型の1200RTからの進歩はここでも明らかだ。防風性に関して従来型と大差は認められなかったが、
100キロ強の速度域で背中への風邪の巻き込みが減少しているのは体感することができた。
またヘルメット周辺の気流も整流されているようで、高くなったスクリーンの効果かヘルメットにかかる風圧も
多少低減されているし、100キロオーバーでのバイザーフルオープンも楽にこなす。
前のところでプロテクション効果の向上についていろいろ書いたが、その改善の効果は大きくはないが確かなものだ。
ただし、スクリーンが高くなったことでスクリーン越しに前方を見る機会が以前より増えたことは注記しておく。
そこから軽く減速をして荷重移動してやると、予想外の鋭さでハンドルが切れ込んでシャープに曲がっていく。
(ESAはSPORTS状態)実際の重量バランスは従来型とほとんど変わっていないはずだが振り回してみると
確かにフロント周りの質量感が減っている感覚があり(セッティングの妙だと思うが、体感的にはK100RSなみに減った)、
フロント荷重による高いグリップ感と安心感を感じながら、巨体を躊躇無くコーナーに放り込んでいける。
従来ではフロントの質量感が強くハンドルの舵角の付き方にやや癖がある上にペースを上げたり
きっちり荷重をかける走りをするとESAをSPORTに設定してもフロントの安定感が崩れて腰砕けになってしまっていたが
新型ではそんなことはなく、リーンウィズのまま自信をもって相当なペースを維持することが可能だ。
このワインディングでの安定感は驚くべきことにCONFORTでも従来型のSPORTを凌ぐほどで、
これだけでも新型になった価値はある。また腰を内側にずらしてやれば旋回力は更に向上を見せたのだが
車両の性格から考えてもそういうバイクでもないだろう。ただ、RTで私を初めて「ソノ気」にさせたことと
そういう走りを充分に受け付ける余地はあるという点には高い評価を与えたい。

さて、まとめ。非常によくできた、完成度の高いツアラーだ。ウインカーとオーディオスイッチなど
どうしても気に食わない部分もあるにはあるが、エンジンは出力特性が格段に良くなっておりパワートレーン全体としての
洗練度が大幅に向上。足回りもサスの設定変更程度のはずだがそのスポーツ性能はもはやR1150RSに
ほとんど匹敵するほどの水準にあり(STにはさすがに及ばない)、試乗して「この足回り、悪い意味で旦那仕様でつまんねえ」
と試乗記を書くのをやめてしまった従来型とは格段の開きがある。それ以外にも細部に至るまで改良と熟成が進んでおり、
これまで「(RS乗りとして)まだ、RTのポジションには行けない」と考えてバイクとしての出来はともかく
個人的な好みではRTにまったく触手が動かなかった私が「将来欲しいバイクの地平の先にRTの光が見えた」と
初めて感じたほど、乗ってみて大いに気に入った。値段もかなり立派になってしまったのは問題だが、
たぶんあと数年ないと思われる販売期間をライバルと戦っていけるだけのバイクとしての魅力と能力を充分に備えている。
久しぶりに文句なしにお勧めできるBMWだ。

R1100RT
センタースタンドは妙に軽く、400cc並の軽さで下ろせる。このバランスの良さはセンタースタンドの
重心バランス点をパニアケースをつけた状態で合わせてあるのではないだろうか?
正確には試してないので分からないが、私のRSはパニアをつけると車体の重心位置は狂って
センタースタンドがけは明らかに重くなる。ナックルガードを兼ねる形状のミラーの視認性はとてもいい。
RSの丸いミラーの視野がしょぼいだけに余計そう感じるのかもしれない。

エンジンは悪くない。RSよりファイナルが低められている効果は明らかで、車重が43キロほど軽い私のRSの
二人乗りより発進加速は良い。総じてエンジンは好調だ。以前乗ったRSの試乗車もそうだったが、
97年式以降のエンジンの改良は著しい。
ただし、エンジンブレーキは強力にかかる。40キロ以上からのスロットルオフの時には燃料節約のため
燃料をカットするようインジェクションがプログラムされているからだが、少々唐突な印象がある。
私の95年生産のRSも基本的に同じ設定のはずなのだが、何故かこちらはエンジンブレーキは異常に効かなかった。

最初の信号待ちで改めてポジションを確認する。車格のわりに小ぶりなポジションで、国産400ネイキッドの
着座位置を上げてひざの曲がりを緩くしたような感じだ。
K1200LTもそうだったが、どうもBMWは大柄なポジションが好きではないらしい。
停車時のハンドルは妙に軽く切れる。250ccクラスの手応えで、そこらの400ccクラスよりも軽い。
どういう設計になっているのか不思議だが、大したものだ。
足つきは私のRSより少し悪い。しかし標準位置ならRSの高いポジションよりは楽で、私には総じて問題無いレベルだ。
しかし、シートのフィット感は私には完璧ではない。更に言えば、F650GSもそうだが座面がやや
前下がり気味なのも気に入らない。猫背を防ぐ効果はあるかもしれないが私はずり落ち気味になるほうが嫌だ。

適当に流れに乗って走りながら電動シールドの角度をいろいろと試す。1番高い位置にすると効果絶大だが
視界の邪魔になるので中間より少し高い位置にセットする。
カウルの形状は実に良くできていて、防風性能はK100LTのでかいカウルをも上回る。ただしそよ風は来るし、
K1200LTのようなほぼ完全な無風空間にはならない。動研やタイラレーシングがワイドスクリーンを開発したのも
分かるような気がする。勿論、その状態で上体を低めればほぼ無風に近い状態になる。
バイク雑誌がBMWのカウルを無風だ平和だと騒ぐのは、テスターたちの身長が低いためではないだろうか?
それにしても、こういうスクリーンは何故RSに付かないのだろう。速度に応じてリアルタイムで変化する
スクリーン位置のベストポジションを姿勢を変えず探すことができる電動スクリーンは、
手動式など怠慢としか思えなくなるほどに有効なのだった。

最初のカーブを左折。私のRSより軽く倒れこみ、より軽快に旋回するではないか。
RSオーナーとしては心中穏やかではない。しかし、昨日乗ったK1200RSほどきれいに曲がるわけではない。
そのまま緩い上り坂を加速。K1200RSのような無振動状態ではなくツインの振動を伴ったまま軽快に加速する。
とはいっても私のRSより加速は穏やかだ。うむ、こうでなくては。スピード感が全然無いのは特筆に価する。
私のRSとほぼ同等で、そこいらの車よりよほどスピード感は無い。
しかし高度な機械が作動しているという実感や高級感はK1200系に劣る。K1200LTはカタログに書いてある通り
乗っていると無意味な高級感のオーラにたじろいでしまうことはあったが、これにはそんなオーラはない。
R1100RSを普通に乗りこなせればRTもただのバイクとして気がね無く扱えるだろう。ついでに書いておくと、
乗り心地は私のRSより少し良い。ということは相当快適だが、K1200RS/LTほどではないということだ。

信号が赤になったので停車。ブレーキの効きは私のRSより多少劣る。システムはRSと共通だから
車重の分だけ損をしているのだろうが、絶対的には充分以上だ。するするとすり抜けをして1番前に出たところで
パニアがつきっぱなしだったのに気がついた。危ない危ない。しかし運動性にも多少は影響する
パニアの存在を忘れていられるのは凄いことだ。

信号が変わったので発進、そのまま左折する。体重を少しかけるとすっと倒れこんでスムーズに曲がってくれる。
さらに昨日同様緩いコークスクリュー状のところを加速し、右に左にオーバーアクションで切り返す。
何と私のRSより軌跡がタイヤ1本分位外を通るではないか。ふっふっふ、限界見たり!
実用上どうでもいいことなのだが、何だか鬼の首を取ったように嬉しい私であった。
それでもこのでかいバイクがナナハンより軽快に振り回せて殿様乗りポジションのままぐんぐん曲がっていけるのだから
やはり大したものなのだ。LTはもともと軽快ではないグランドツアラーがそこそこの運動性を身につけたという感じだったが、
RTは元来運動性能に優れたバイクが着膨れして豪華な装備を身につけたような感じがする。
同じロングツアラーでも、両車は運転感覚が根本的なところで違うのだ。

んで、まとめ。簡単に言ってしまうと、快適性を増して運動性を少しだけ落としたR1100RS。そのまんまですね。
快適性に関する項目は全ての点でRSを少しずつもしくは結構上回ってますが、
ポジションとウインド/レインプロテクション以外ではその差はそれほど圧倒的なものではないです。
だが運動性は大差ではないにしろ明らかにRS。絶対性能もさることながら、ライダーの積極的な入力を
より必要とするハンドリングが攻め甲斐があって楽しめます。
万人に薦められるのは間違い無くRTの方ですが、道が曲がり始めるとペースが上がりだすような人種には
RSの方が良いでしょう。私個人は試乗して「自分がRSにしておいたのは正解だった」と思いました。

R1150RT
1100RTとの相違点だけ。
ディーラーの人から「ブレーキは良く効くので気をつけてください」と言われるので、
またがっている間に一度試してみると、リヤを軽く踏んだだけなのに「ぬおっ!」と思わず声が出たほどの
強烈な制動力が瞬時に発生して前につんのめってしまいました。
確かに敏感で慣れは必要ですが、使いこなせればこんな頼りになるブレーキも無いだろうと思われます。
気を取り直して発進。
エンジンは中低速が明らかに力強くなって加速感が軽快になってます。
これはR1100RSをやや上回るくらいではないでしょうか(体感上)。
でも乗り心地は多少悪化した感じで、路面のごつごつを以前より拾うように思います。
シートは同じでバネ下重量は軽くなってますからこれは多分サスのせい。
あと、シート座面の前傾が強まったのは改悪だと思います。RTのところでも書いたけど前傾した座面が
もともと好きではない私には、強力なブレーキとあいまって走っていると体が前にいってしまいがちですね。
信号が赤になったので停車。試しにリヤブレーキだけ踏んでみると、最初からそこいらのバイクで
前だけかけているくらいに効くんですが、すぐに制動力が増してきてRSで前後ブレーキをかけた時に近いほどの
強力な減速ができるようになります。
多分これがEVOブレーキ御自慢の走行パターンを常時モニターして前後のブレーキ配分を
リアルタイムで最適化させる機能の威力なんでしょう。
普通に走っているだけだったらブレーキはほとんど右足だけで用が足りてしまいます。これは凄い。脱帽です。
で、信号を左折してから加速。カーブひとつ曲がるにも進歩は明らかで、1100RTにあった
ハンドルが切れ込む時フロントカウルの質量を意識させながらグラリと倒れこむ感覚がかなり弱まり、
RS並みに軽快に倒れこんでくれます。これだけで随分印象ポイントアップです。
走行360キロのエンジンを労わらず6000まで回してみると(汗)、そこまでの吹けあがりも一回りスムーズになってました。
ギヤリングも適切ですし、走行中のシフトは前よりスムーズになってます。
実際には従来の5速ミッションでも高速道路の巡航以外で不自由を感じることはまずないんですが
(5速は燃費対策にギア比がもっと離れていてもいい)、6速のギアリングはドンピシャといった感じでした。
羨ましいなあ。ただし、停止してローに入れると国産車のようにガコンとショックが来たのはいただけません。
音もショックも無く一速に入るあの感覚が高級感があって好きだったのに。
またRTでも走ったコークスクリュー状のところでは、やはり以前より軽快に倒しこめる上に
倒しこんだ時の旋回力も増しているのが確認できました。以前よりイン側のラインを通るのが容易になっていて、
そこそこのペースで振り回した限りでは安定感も向上。足回りは雰囲気も性能もよりスポーティーになり、
1100RSに対して運動性で劣る点はほぼ無くなっています。しかもブレーキはこちらが上。
フルインテグラルブレーキはコーナーを右に左に駆け抜ける際などにやや邪魔になる場合もありますが、
1100RTと比べて断然上回る絶対制動力で充分お釣りが来るでしょう。もちろん快適性では勝負になりません。
となると”雰囲気”とか”味”といった不明確なもの以外にはRSの優位性が事実上無くなってしまうわけで、
1100RS乗りとしては心中穏やかではありません。新しい1150RSに大いに期待したいところであります。

これだけ良くなって価格が4万アップは、1100RTよりどう考えてもお値打ちだと思いました。
ブレーキ以外は各部の熟成を進めただけですが、個人的には20万以上の価値の違いはあると思います。
1100RTと比べると細部でコストダウンが進められたのが気に入らないくらいですかね。

R1100R
これには何度か乗っているのである程度総合して書きます。
ポジションは国産のリッターネイキッドのような感じです。ただしRSより少し低い位置にあるシートのためか、
私の場合背中を丸めてうずくまってしまいがちになります。でもハンドル、シート、ペダルの位置関係は概ね良好
で、あとは慣れとシートの調整で解決できる範囲でしょう。
スタートはRSより明らかに楽です(国産リッターマルチほど簡単ではありませんが)。RSより10馬力落として
低速トルクを太らせたのは伊達ではなく、低いギア比に軽量な車体とあいまって、中低速ではかなり敏捷です。
市街地走行では他のBMWを寄せ付けないでしょう。
曲がりくねった道を左右に切り返すと、何となく縦に置いた丸太を左右に転がしているような気分になってきました。
カウルがなくシート高が低いためか普段乗っているRSより明らかに低重心で
(ただし、数字上RSとの重量差はあまりありませんが)軽快でそこそこシャープさもあり、徹頭徹尾安定しきってます。
ワインディングを走っている限りほとんどの人はRSよりRの方が速く走れるんじゃないでしょうか。
ただ、個人的に言わせてもらうとRの扱いやすくて積極的にスロットルを開けていける特性は結構なんですが、
RTではなくわざわざRSを選んだ身からすると乗り手のすることがあまり多くないのが少々欲求不満気味ではあります。
誰が乗ってもイージーに速く安定して走れるというのは技術の方向性として素晴らしく正しいと思うんですが、
私はわがままですから(笑)。
ちなみに、このバイク基本的にはRSよりパワフルです。RSと比べて負けるかなと思うのは
6000回転を過ぎた辺りからで、そこまでは全域で上回っている印象ですね。
つまり、公道上で使う限り10馬力のハンディは事実上無いも同然です。
ブレーキに関しては他のBMWと同様、まず文句をつけるところがありません。
乗り心地は良いといってもRTはもちろんRSよりも硬く、国産の同クラス車よりももしかすると硬めなくらい。
別に不快ではありませんが、個人的にはもっと柔らかくしてほしいところです。
ちなみに初期型のとってつけたようなタコメーター(本国ではオプションだった)は振動でかなり見にくかったんですが、
マイナーチェンジ以降一体型になってからは随分と見やすくなりました。

で、乗った印象でいうと、ツーリングもできる贅沢な下駄バイクです(^^;)
市街地の走行性能に優れ、加減速が楽しく曲がった道でも楽しめ、誰が乗っても速いです。
BMWはみんなそういう部分がありますが、でっかいスクーターみたいなバイクですね。
でもカウルはないから風はきますし、ツーリングの快適性ではRSやRTに劣るでしょう。
でもその分コストパフォーマンスがいいわけですし、そこから先は好みということになるのでしょうね。

ちなみに動研カフェ仕様にも乗ったことがありますが、こいつの印象はノーマルとは随分異なります。
低く構えたクリップオンハンドルはわりときつめの前傾姿勢を強要し、スタイリッシュなロケットカウルは
その実コーナリングでは常にその質量を意識させます。低く落とされたシートは見た目はかっこいいけど
クッション性は劣悪で、ショックをビシバシと伝えてきます。多分一時間も乗ったら
お尻が随分痛くなるのではないかと思います。でも、空いた道をそこそこのペースで流すと気分はカフェレーサー。
見た目よりかなり荒っぽい印象のバイクですが、車両の雰囲気からしてまるきり変わりますし
これが好きな人にはいいのではないかと。

R850R
私が試乗したのは2000年に輸入されたフロント18/リヤ17インチのスポークホイールを履いた仕様です。
ですから以前輸入されていた850Rとは多分ハンドリングが違うと思いますが御了承下さい。

雨のつま恋を先導車に続いて発進する。低速トルクは排気量差の分正直に細くなっているはずだが、
低められたギアのせいで別段とろい印象は無い。もともと850ccもある立派なビッグバイクだし
当然と言えば当然のことなのだが。

それにしても、このハンドリングは素晴らしい。
Sと比べても同等以上に軽快で、安定性ではそれを上回りRSに匹敵する。しかも1100Rより格段にシャープだ。
普通試乗車といえば最初はどうしても不安感があってなかなか開けて走れないものだが、
これに限っては恐れるに足りない。初めて乗ったバイクで二つ目のカーブを曲がる時には
既にご機嫌で雨の中深々とバンクさせ、そこから積極的に開けていくことができたのだ。
空いた区間に入っても好印象は変わらなかった。絶対的には1100Rより遅いのだが
前述した通り低められたギアに助けられ、それほど遜色はない。
むしろピックアップや吹け上がりは明らかに1100よりも鋭く、トルクに物を言わせた豪快な加速の1100に比べると
上まで回して回転馬力で走る性格で楽しい。
あとは1100Rと同じ。ただし後付け可能なパニアステーはともかく、ABSが省かれたのには納得がいかない。
その点を除けば実に気に入ったバイクで、個人的には1100Rよりもこちらがいいと思う。

R1150R
またがってみると、バーハンドルになったためポジションは1100Rよりも明らかに前傾するようになった。
ステップもSと同じものになり、小さいし振動は伝わるしで実はあまり気に入らないのだがこれは許容範囲だ。
シートは中央が盛り上がっていて、1100Rよりはスポーツライクな形だ。
しかし高さの調節機構を省略したのはどう考えても手抜きとしか思えない。
K1200RSでエモーショナルという言葉を使い出してからのBMWのデザイン優先の姿勢はどうも気に入らない。
もう少し開発費をかけて高くなってもいいから
(基本構造をあれだけ共通化すれば、一車種あたりの開発費は相当安く上がるはず)
機能とデザインを高次元でバランスさせてもらいたい。

ついでに書いておくが金属加工業に従事する友人に言わせると
「最近のBMWは重要でない部分にはどんどん安物のボルトを使うようになってきている」そうだが、
高級感とは各部のオーバークォリティの積み重ねで得られるもの。プレミアムブランドを標榜する以上、
安易なコストダウンは勘弁して欲しいものだ。
本題に戻って、エンジンをかけてスタート。試しにブレーキを軽くかけてみると、まあ効くこと効くこと。
自動車のブレーキ並みだ。
非常に敏感なので軽く制動をかけるのに最初は戸惑ったが、注意深く扱ってみるとブレーキをかけてから
サーボモーターが作動して液圧が立ちあがるまでに一瞬のタイムラグがある。
その間はただのやや反応の鈍いブレーキなので、その一瞬を利用すればブレーキを軽く当てることも充分できた。
そうすると、このシステムの有用性が分かってくる。BMWBIKES編集長の永山育生氏の言を借りれば
「ただブレーキをかけるだけで誰でも国際A級ライダー並みのブレーキングができるシステム」だ。
しかも軽い力で強力なブレーキがかけられるから、体に余計な力が入って固くなることもなく
リラックスしたままコーナーに進入できる。これは速く走るにも安全に走るにも強力な武器になる。
ちなみに、EVOブレーキにはその後セッティングの変更が施されて初期の制動力の立ち上がりが
随分スムーズになったことは忘れずに書いておきたい。
試乗コースには山道も含まれていた。エンジン回転は4000までと制限されていたのでほとんど引っ張ることはできず、
高いギアで加速の遅さを速度で補う走りになったが、それでも新しいRは想像以上の性能だった。
エンジンに関しては、1100Rより吹け上がりがシャープになったというのが第一印象。
ピックアップが良くなって軽やかに回り、いい意味でスポーツ性が増したと思う。トルクも分厚くなっていて
市街地を遅い流れに乗って走るのも楽だったし、山道で高いギアを使ってもエンジンが充分についてきてくれる。

更に、ハンドリングが素晴らしいの一言だった。R850Rから多少安定性を犠牲にして軽快感を格段に増した感じで、
400ccクラスのネイキッドと変わらず、下手な250ccよりも軽快なほどだ。
BMWはどれも初期旋回性能が良いのだがこれはその中でも群を抜いていて、あまりバンク角に頼らなくても
荷重移動とスロットルワークでぐんぐん曲がっていける。しかもそれに例のEVOブレーキの組み合わせだ。
強力な制動力とそれに耐えるテレレバーに物を言わせて通常のバイクよりブレーキポイントを随分遅らせ、
短い区間で確実に減速してからスパッと向きを変え、厚い中速域のトルクを利して加速しながら
コーナーを立ち上がるという一連の流れが実に簡単にできてしまう。
ハンドリングだけならR850Rも相当なものだが、エンジンやミッション、ブレーキまで含めた
パワートレーン全体の完成度では断然1150Rが上回るだろう。
これほどワインディングが楽しいBMWは初めてだった。個人的には後で書いているSよりも楽しめた。

で、まとめ。でっかいスクーターではなく、ツーリングもできるネイキッドスタイルのスーパースポーツという印象だった。
何しろRSはもちろん1100Rよりもトルクがあって、(Sより重いが)RSより軽量で、6速ミッションで
(しかしカタログを見ると最終減速比は他のRシリーズに比べて異常に高く、例えばSの一速10.615に対して
1150Rは5.7669しかないのだが、本当だろうか?)、Sよりも軽快でRSに近い安定性があって、
最高のブレーキがついているのだ。速くて当然というべきだろう。
正直言ってこれまでどのBMWに乗っても「うん、良く出来てる。でもRSはRSだから」と思っていたのだが、
これには参った。「俺のRSは旧式なバイクになってしまった!」と初めて思った。素直に脱帽です。

R1150R ロックスター
違いをはっきりと理解するため直前にR1150Rにも乗ってみました。そうしたら・・・。

Sから拝借したスライダーとフェンダーにメーター、GSから持って来て色を塗ったヘッドライト、
もともとRに純正オプション設定されていたキャリアなど、既存のパーツを極力使い回して新しく見せた手法は
現代の工業デザインの勝利と一応敬意を表しておきたい。理想を言うならトライアンフを横目で見ながら
デザインしたようなメーターバイザー以外にも新規で外装パーツの型を起こせと言いたいところだが、
要は一台のバイクになった時にデザインがまとまっていればいいのだから、こういうのもありだろう。

さてその外装だが、確かにノーマルのRより手が込んではいる。細かいことを言えばフレームの塗装を
R1200Cアバンギャルドのようにほとんどつや消しのメタリックにしたのは質感的にどうかと思うし、
タンクのストロボラインのような塗り分けは表面がざらざらのマットブラックの上にメタリックを塗っているため
すぐ下のエアクリーナーカバーの部分と艶の出方が大きく違っているといった気になる点もあるが、
非常にきれいな仕上がりのパール塗装のホイールを筆頭に見栄えのよさに関してはノーマルより高価なバイク!
という説得力はあると思う。ただし、いつも思うことだがハーネスのケーブル類をハンドルバーに
黒のタイラップで無造作に止めてあるのはいただけない。
確かに実用上なんの問題もないのだが、150万強の高級バイクの仕上げとしてはやはり何とかしてほしい部分だ。
余談だがこのバイクのメーターバイザーは工具なしで簡単に外すことができる(上に引き抜くだけで外れる)。
メーターの整備性は抜群だろうしコスト削減の観点からいっても理解はできるが、
盗難やいたずらされる危険性を考えるともう少ししっかりとした固定方法を望みたいところだ。

またがってみると、やはり低くなったハンドルバーによる強まった前傾姿勢がまず印象的だ。
もともと1150Rは幅広のバーハンドルだがそれを幅を45ミリ広げた上で低く遠くしてあり、
上体は感覚的に言うとオフロードバイクで伏せているような感じになる(モンスターのような感じだとも言える)。
前傾の度合いはR1150RSよりも弱く、人にもよるだろうが長距離が苦になるほどのものではない。
シート高は795ミリとノーマルより15ミリ高いのだがこれはサスの設定変更によるもので、
実際のシートそのものはノーマルと同じだからまたがっても膝の曲がりが緩くなった印象はない。
一方足付き性は数字の分だけ正直に悪化している。モンスターやラプトールなどの他社製ストリートファイターを
かなり意識したポジションだと感じたが、まとまりの良さはさすがにその比ではない。
ただしハンドルバーが低くかつ遠くされたため、ハングオフの姿勢を取った場合に外側のハンドルグリップは
かなり遠い位置にくる。試乗では試さなかったがシートから腰を半分以上ずらして深くバンクさせた状態で
このバイクを問題なく扱うにはおそらく180センチ以上の身長か手長猿のような体型が必要になるはずで、
この辺は綿密な設計をするBMWらしからぬ部分と感じたところだ。
ストリート向きのバイクにハングオフなど不要と割り切っているのかとも思ったが、よく考えてみたらこのバイクは
ライダーがハングオフスタイルでコーナリングしている写真をカタログで使っているから、やはり少々不満だ。

Sから流用したメーターだがSとは文字盤のデザインが変更されており、スピードメーターは黒地のまま
書体が変わり、タコメーターは文字盤が白地になっている。視認性でいうとノーマルやSの方がいいと思うが、
これでも別に見づらくはないし問題はないだろう。
なおメーターの変更に伴って時計もSと同じくデジタルになったのだが、これはノーマルの小さなアナログ時計より
遥かに見やすくなっている。更に付け加えるならスピードメーターがSと共用となり電気式となっているのだが、
実用上気にする人はいないだろう。

センタースタンドを降ろすと、ノーマルよりも明らかに車体が素早く沈み込む。スプリングが柔らかいのではなく
ダンパーの減衰が弱められている沈み方で、もっとゆったりした動きをするノーマルとは明確に異なる。
しかしまたがってみたときの沈み込みはノーマルよりもやや少なく、総じてスプリングレートを高めて
減衰を弱めるセッティングになっているのだろう。

しかし、走りだすと意外にノーマルとの差が少ないのに驚くことになった。
ツインスパークになったRシリーズに乗ったのはこれが初めてだったのだが、別にパワーが従来より上がったり
低速から力強い爆発感が得られるようになったという感覚はなく、体感上の差は事実上皆無だと思う。
またこの直前に乗ったノーマルの1150Rはマフラーが交換してあり
このロックスターとはフィーリングが別物になっていたため、エンジンについての論評は差し控えたい。
新しいタイプになったミッションはCL同様タッチが従来型より格段に良くなっていて、
K100系のフィーリングにあと一歩半というところまで来ている。
EVOブレーキは直前に乗ったノーマル(02年式)より更に熟成が進んでいて、モーター音が少々耳障りなのは
相変わらずだが初期型よりは静かになっているしサーボアシストの効き方も自然なものになっていた。
まあ、この辺の変更点はノーマルの1150Rも同じはずだ。
さて肝心のハンドリングだが、基本的にノーマルより若干スポーティーな性格だ。
恐らくサスの設定よりもハンドル形状の変更に依存しているところが大きいと思われるのだが
ハンドルへの入力に対する車体の反応がノーマルよりずっと鋭くなっており、
ハンドルをこじるような乗り方をした場合にはノーマルより明らかに鋭くかつ軽快な走りができる。
しかしその代償としてハンドルへの入力に対する車体の反応が幾分過敏に過ぎるきらいがあり、
腕を開いたポジションのせいもあるが片手運転はかなりやりづらい。
ではハンドルをフリーにしてスロットルワークと荷重移動で曲がる場合どうかというと、実はノーマルと大きな違いはない。
乗り比べてみると確かにロックスターの方が多少倒し込みも軽くフロントの切れ込みも鋭い。
しかし180になったリヤタイヤのためか軽快になったフロントに比してリヤからの旋回力がやや鈍い印象があり、
総じてそういう乗り方だとどっちも似たようなものというのが正直な印象だ。
ちなみにスポーツ走行向きにハードなセッティングを施したと謳う前後のサスペンションだが、
ある程度飛ばすと減衰が弱いのは明白に分かる。車体が安定感を失わないぎりぎりの程度のところまで
減衰を弱めてある印象で、そのため大してコストがかかっているとも思えないサスにもかかわらず
作動性は非常に良く、結果として乗り心地も実はノーマルより良い。
ただしここまで減衰を弱めると長距離走行ではノーマルより体が上下に揺すぶられて疲れるかもしれないが、
そこまでは試していないので未確認だ。なお大きな衝撃に対してはスプリングがしっかりと受け止めている感覚があり、
結構ハードな走りをしても足回りが根を上げないことといい強化されたはずのスプリングの面目躍如といったところ。
この辺の設定の匙加減はさすがはBMWと感心した。
好みはあるだろうが、個人的にはサスの設定はノーマルよりこちらの方が好感がもてる。
なお、飛ばした場合の防風性能はノーマルに劣る。メーター周りの高さが低くなったため
上体への風の当たり方が変わっただけなのだがこれが見た目以上に違い、
100キロ+の速度ではノーマルとの違いは明白に感じられた。

まとめ。見ての通りのR1150Rの派生モデルだ。よりスポーツ走行向きの仕上がりではあるが
その差はそれほど大きなものではなく、ノーマルに乗っておられる方も別にこれを恐れることはない。
とはいえ、スポーツ走行が主体ならやはりこちらの方が合っている。
一方ツアラーとしての資質もノーマルとそう違いはないだろうから好みでどちらを選んでも間違いはないと思われる。
個人的にはあの御面相もカラーグラフィックも実は好きではないため足回りを多少我慢しても
価格が9万円安いノーマルの方がいいが、あのスタイルが気に入った方ならこれを選んでもまったく後悔はしないだろう。
はっきり言うがこのバイクのノーマルとの最大の相違点は見た目であって、その点価格差分の違いは確かにある。

R1100S
これには一般道とサーキットの両方で乗ったけど、一般道の試乗を中心に。EVOブレーキ装着前のモデルです。
エンジンは呆気なくかかった。Cもそうだが同じMA2.4モトロニックでもKと違ってこちらにはチョークレバーがついている。
やはり温度変化が大きい空冷エンジンにはオートチョークは技術的にまだ難しいのだろうか。
それはともかく、排気音はこれまでのBMWとは明らかに音質の異なるものだ。
「でっかいカブのような」とか「農耕用エンジンのような」といった、どうも好意的な例えを聞かない
R1100系エンジンの中ではもっとも乾いた音で、ノーマルマフラーのドゥカティにも似た
一発一発の爆発が良く分かる音がする。静かなマフラーが好きな私はR1100系の音もなかなか好きなのだが、
走るのが好きな人には少なくとも兄弟車よりその気にさせてくれる音だ。
ポジションは予想以上に前傾がきつめで、この点も他のBMWとは異なっている。
といっても前期型のK1200RSよりは楽だと思うし、またがった経験しかないがK1よりもよっぽど楽。
そう大きな問題になるほどではないと思う。しかしこのSはハンドルやシートの調整機構が省略されている。
軽量化のためかそれとも単なるコストダウンかはわからないが、私の評価を下げるポイントではある。
ハンドル幅はわりと広めで、押さえは効いて取りまわしはいいがコーナリングでは腕に力が入ってしまいそうだ。
ちなみに足つきは意外といい。左右にぐっと絞り込まれたシート形状が効いているのだろう。
しかし、そのステップの高さとライダーの前傾ぶりはタンデムランは基本的にご遠慮したいようなバイクに思える。
発進すると、幾分低速トルクが細いのが気になった。BMWに慣れている人ならどうということはないだろうが、
国産リッターマルチから乗り換えたらその低速トルクの細さと発進の難しさに戸惑うに違いない。
パワーやピックアップは大した事がない代わりフラットトルクで扱いやすいというBMWエンジンの
基本特性は変わっていないから時間が解決してくれるだろうが。
しかし、スピードを上げていくと印象はどんどん好転した。吹け上がりがRSよりも明らかに鋭くパワーも出ているようで、
4000回転も回っていれば車重を感じさせない軽々としたダッシュが可能だ。
新型の6速ミッションは従来のものとは多少タッチが異なるが、基本的にシフトはスムーズで扱いやすい。
また新しくなったブレーキもRSよりも一回り強力で、10キロ軽い車重の恩恵もあってかRSより確実に
ブレーキのタイミングを遅らせてコーナーに安心して飛び込める。
ただし、強めにブレーキをかける度に腰が前にずれてしまう前下がりのシート形状はいただけない。

カーブを倒しこむと、思ったより安定感が無いのに驚いた。とはいっても大抵のバイクよりは安定しているのだが、
他のテレレバーBMWには負ける。ただしそれを補って余りあるほど倒しこみは軽快でリーンスピードも速い。
曲がる時にライダーの明確な動作が必要なRSとは異なり、こちらはこれといって何もしなくてもクルクル回ってくれる。
飛ばして曲げて止まって楽しいかと言われれば、間違い無くRSよりも上だろう。
代償として乗り心地は結構ごつごつして、あまり快適とは思えないのだが。
ただし、高速で荒れた道を突破するとカウルからみしみし音がするのが気になった。
私のRSではどんな悪路だろうとカウルはまず音一つ立てないのにいつも感心していたのだが、
こちらは明白にカウルが揺れるのが分かる。さらに信号待ちで止まっていると、フロントカウルがゆさゆさ揺れ出した。
驚いてバイクを止めて良く見てみると、カウルステーがアルミでできている。確かにこれは軽いだろう。
コストがかかっているのも認めよう。だが些か軽量化のやり過ぎではないか?
いくらスポーツモデルとはいえBMWだ。個人的には乗っていて得られる高級感を損なうような設計は
あまり歓迎できない。速く走りたいだけならBMWよりもっと安くて速いモデルが他社にいろいろあるからだ。

で、まとめ。RSとは似て非なるスポーツモデルだ。ただし徹底して走りの絶対性能を突き詰めたモデルではなく、
良い意味での妥協が感じられる。外見のわりにタンデムも何とかこなし、荷物を積んでのツーリングにも充分耐える。
スポーツ性の高さと走りの性能では文句無しにRシリーズ中最高だ。しかし小さなカウルと大したことのない
ウインドプロテクション、それに足つきはいいがホールド性のいまいちなシート等により、
快適性とツーリング性能は明白にRSに劣っている。
あと、他のBMWより全体的に作りの安っぽさを感じてしまうのも気になるところだ。
性能自体はさすがなものがあり、これまでのBMWよりも明白にスポーティーで速く走ることができる。
ただ、それは一台で何でもこなしてしまうRSの方向性とは一見同じようでも実は違うベクトルを向いているようで、
今のところRSの万能性に惚れ込んでいる私はSの総合性能の高さに感心はしたが、
実は一台のバイクとしてはあまり好きになれなかった。

R1200C/アバンギャルド/インディペンデント
基本はCということで、モデルの違いはその都度。
ヘッド部分がアルミになったキーを受け取る。ちょっとしたことだが、「ただのRシリーズとは違うのだ」ということを
実感できるし、ずっしりとした重量感ともども高級感があって良い。
シートとハンドルグリップは防水加工した本革で雰囲気はあるのだが、外見はともかくシートは表皮はパンパンで
グリップは濡れたら滑りそうと個人的にはあんまり誉められたものではない。
(09年現在の中古車を見る限り、残念ながら耐久性もよろしくない)

アバンギャルドの場合シートはビニールレザー、グリップはラバーとなっていて性能では優れるのだろうが、
やっぱり外見のアピールではただのCが上回る。インディペンデントだとシートはレザーでグリップのみがラバーとなる。
これが一番良い妥協点かもしれない。
エンジンの排気音は基本的にマイルドな印象ながら他のRシリーズより重低音と一発一発の爆発音が
強調されたもので、クルーザーらしい雰囲気が多少出ていると思う。ただ、ハーレーの音と他のRシリーズの音と
どちらに近い音かと聞かれたら、間違いなく他のRシリーズにより近い音だと答えるしかない。
まあ、これは良い悪いといった問題ではないのだけれど。

ポジションはこれまた独特だ。一見アメリカンな外見だがハンドルが案外高く手前に引いてあり、ステップも案外近い。
こちらはシリンダーが邪魔をしてそれ以上前進させられないのだと分かるが、クルーザーと言っても
わりと普通のバイクに近い感覚がある。共通のバーハンドルを持つアバンギャルドとインディペンデントは
ハンドルがより低くて遠くて幅広く、多少前傾が強まったポジションになる。個人的にはこちらの方が好みだが、
幅広ハンドルのためハンドルをいっぱいに切るには上体を前に出さないといけないのが多少の難点ではある。
気分はちょっとだけバスの運転手。なおステップ位置がシリンダーのすぐ近くにあるので、
長時間のツーリングでは足先は相当熱くなるだろうと推測される。
メーター類の視認性はあまりいいとは思えない。白と黒の文字盤に白い数字と黒い指針を組み合わせたメーターは
高級感があるいいデザインだしアルミパネルの中に整然と並べられた警告灯もデザインはとてもいいが、
どちらも基調色が白と銀色のため、明るい日差しの下では反射が強くて見辛かった。
クルーザーの例にならってこのバイクにもタコメーターの備えは無いが、確かにR259系のエンジンとは思えないほど
低回転域でのトルクがあるのでそう問題はない。ただし、ハーレーほど下のトルクが図太いかというとそうでもなく、
乾燥単板クラッチは適当な回転でつないでばかりいるとすぐに減ってしまうだろうから、
総合的に考えるとやはりタコメーターはあった方がよかったとは思う。

走り出しても、外見の印象をいろいろと裏切らない。基本的にはアメリカンテイストな乗り味で、
他のRシリーズより明白にあるエンジンの鼓動感を感じながらどことなく希薄な接地感(充分安定はしている)を
伴いつつ路面を滑っていくようなものだ・・・路面状態が良ければ。
路面状態が悪くなった時の凹凸を正直に拾ってゴツゴツ跳ねる乗り心地も、困ったことにアメリカンな印象を裏切らない。
スイングアームの下をマフラーが通る車体設計のレイアウト上リバウンドストロークをほとんど取れないから
やむなしという気もするがそれにしても快適とは言い難く、乗り心地は間違いなく現行BMWの中でワースト1に君臨する。
ただし、絶対的にはハーレーのスポーツスター系より乗り心地は良く、ソフテイル系と同じ位ではないかと思う。
また、後に乗ったアバンギャルドとインディペンデントではセッティングが大幅に見直されており、
別物の快適さを見せてくれたことは忘れずに書いておこう。なお私が試乗したCは最初期型のクラシックだったが、
多分現在のクラシックはインディペンデントと同じセッティングに改められているだろう。
なお立てるとバックレストになるピリオンシートは、個人的には立てた場合の角度が立ち過ぎていて姿勢が決まらず
使いにくかった。立てる/寝かすの二段階だけではなく、微妙な角度調整ができるとよかったのだが。
またデザインとの兼ね合いで座面がかなり小さいためにタンデム性は最悪で、
タンデムされる方は純正の大型ピリオンシートがないと話にならないだろう。
パワーとピックアップは大した事はないけれどフラットトルクで扱い易いR259系エンジンは1200ccになって
その特性にますます磨きをかけたようで、回してみるとやっぱりBMWのボクサーだと実感できる。
基本的にはR1100系のエンジンが中〜低速トルクが格段に厚くなり、マイルドな振動が以前より
楽しめるようになった代わりに回転上昇も鈍くなり、あまり上まで回りたがらなくなったものと考えると分かり易い。
R259系の全ユニット中ではR100系にもっとも近いフィーリングを持ち、
ボクサーのフィーリングが好きであまり飛ばさない人だったら間違いなく気に入るはずのエンジンだ。
ピークパワーは61馬力と数字上のパワーでは劣るもののトルクが充分以上なので、
普通に走っている限りパワーで他のRシリーズに引け目を感じることはまずない。

ただし、試乗したCはスロットルオフでエンジンブレーキが唐突にかかってギクシャクするのが非常に気になった。
しかも発進時には少ないとはいえパラレバーを持たないリアサスが明確に持ち上がるから、
乗っていると腰が浮いた沈んだと落ち着かないことおびただしい。ただし、アバンギャルドとインディペンデントでは
これまたそれらの問題点がすべて解消されてまったく気にならなくなっていたから現在のクラシックなら大丈夫だろう。
余談ながらミッションのタッチは国産自動車のウインカースイッチの節度感を増してスムーズにしたような
素晴らしいもので、BMWに限らずこれまで乗った全てのバイクの中でも文句なしに最高だったのだが、
その後乗ったアバンギャルドとインディペンデントでは他のRシリーズとそれほど変わることがなかった。
どうも個体差だったようだ。残念。
防風性に関しては期待してはいけない。外見の印象通りスピードを上げると風との戦いが始まるので、
高速連続走行を続ける気にはならなかった(乗ったのは市街地だったけど)。
だからエンジンパワーも基本的には加速を楽しむのと走行中の余裕を増すためのものとして機能している印象だ。
まともに高速クルージングをやるならオプションのシールドなどが必須だろうが、
そういう人はそもそも別のモデルを選んだ方がいいと思う。
ハンドリングに関しては限界性能を云々できるほど走ってはいないが、幾分フロントが切れこむ癖が気になった
(これもアバンギャルドとインディペンデントでは気にならなかった)。それを除けば普通のバイクと同等と言える位の
運動性能は確保されている。ブレーキも後輪主体ではなく、フロントがメインできちんと効いてくれる。
コーナリングにも特別なことはない。操縦性には総じてクルーザーな感覚が薄く、
バンク角が少なそうなことを除けば至って現代的な普通のバイクの感覚に近いものだった。
まとめ。ハーレーのBMW的解釈と言うと分かり易いかも。低速走行が一番楽しい(悪く言えば快適な速度域が低い)
BMWであることは疑いなく、エンジンフィールも一番楽しめる。
BMWだけあって基本性能はしっかりしているので、アバンギャルドでちょっと曲げて見た感じからして
多分峠道でも結構なペースを保てるだろう。溶接の出来には言いたいところもあるが、
バフがけしてクリアーを吹いてあるフォークスライダーやテレレバーアームなど、磨き甲斐があることでも一番だ。
ただし乗った感じは凄く個性的・・・とは言ってもあくまでもBMWとしての話であって、
ハーレーほどの強烈な個性だとまでは思えない。アバンギャルドもインディペンデントも外見が違うくらいで
基本的には一緒。その雰囲気と乗り味は個人的には結構気に入りました。ただし初期型のCだけはちょっとね。
ディーラーからの帰り道自分のRSに乗った時「なんていいバイクだ!」と思いましたもの。

R1200CL
ぱっと見た感じでは、R1150RTが小柄に見えるほどの巨体だ。しかしよくよく見てみるとエンジン、ガソリンタンク、
フロントのサブフレームといったところはベースとなったCと共通で基本骨格の寸法はそれほど変わらない。
ハーレーで言ったらロードキングとウルトラクラシックの関係が近いだろうか。
実際の寸法で比較すると全長で75ミリ、全幅で205ミリ大きくなっているのだがこれは後ろに張り出したトップケースと
左右に張り出したミラーの分だ。K1200LT同様車体に造りつけのパニアの幅はどちらかというとやや狭く、
後ろの幅はサドルケースを装着した兄弟とほとんど変わらない。
しかしボリュームを増した外装の重量は取り回しの容易性に正直に反映されており、
またがって車体をまっすぐに起こすと、この時点でノーマルのCよりも明らかに重量感がある。
また、押しても引いても結構な重さがあり、K1200LTほどではないもののK1200RSやR1150RTよりは明白に力が要る。
シート高は745ミリとノーマルのCより若干高いのだが形状がまるっきり違うため実際の足付きははるかに良くなっており
そのおかげでまたがって押すことが比較的やりやすいのが救いだが、非力な女性が取り扱う場合は
細心の注意と熟練を要するだろう。技術的、コスト的に実現できなかっただろうことは理解できるが、
このモデルに関しては電動バックギアをオプション設定してもよかったのではないだろうか?
なおハンドルマウントされたカウルは外見の印象通り相応の重量があるようで、押し歩きと10キロ以下の速度では
下手にハンドルを切るとカウルの質量がのしかかるようにしてハンドルが内側に切れ込むのでこれには慣れておく必要がある。
ベテランならこれを利用してタイトターンに利用できるかも知れないが、このバイクにそういった走りが必要になる場面は
ほとんどあるまい。結論としてはある程度の力を入れてハンドルを押さえるのが妥当ということになるのだろう。

他のCと共通のキーホルダー用の穴を持たない(使いにくい)キーを回すとこれまた他のクルーザーとまったく同じの
静粛なアイドリングが始まった。この車両にはEVOブレーキが備わっているが、警告灯の点滅タイミングなどは
他のBMWと同じで別段注意することはない。
またがっての眺めは、当然ながら他のCとは全く様相を異にする。メーターパネルにはようやくタコメーターが備わり、
アナログ時計と各種警告灯が整然と並ぶ。しかしメーターパネルは他のモデルよりライダーから遠くにあり、
結果的に視認性がそれほどいいとは言い難い。標準装備のCDプレーヤー/ラジオのコントローラーは
ハンドルのクランプ上にマウントされているのだが、メーターより先にこちらに目がいってしまうのはちょっとなんだかなあと思う。
余談ながらこのコントローラーの液晶パネルはキーをひねるとまず”BMW”の文字が表示されるようになっている。
そんな演出が必要かどうかはさておき、この辺の芸が細かいところはさすが純正品だ。

幅が広くて高い位置にあるハンドルをストレートアームに近い状態で握り、例によっていまいち節度感のない油圧クラッチを
静かに繋ぐとこの巨体はするすると走り出した。発進加速はもう少し緩慢かと予想していたのだが、
考えてみればベースのCに対して乾燥重量で+50キロちょっとということはCで女性とタンデムするのと同じようなもの。
動力性能にそれほどの影響はないのだろう。
エンジンフィールはCと同じで、今更取り立てて書くことはない。ひたすら中低速重視の設定で回して楽しい性格ではないが、
このバイクにはその性格がよく合っている。ちなみにタコメーターを見ていると、私の乗り方では発進直後クラッチを完全に繋ぐと
エンジン回転は一瞬700回転ほどまで落ちるのだが次の瞬間には分厚いトルクでスムーズに回転が上昇する。
他のR259系ユニットが1000回転以下では使い物にならないことを考えると、クルーザーの性格に合わせたBMWの
エンジンマナーの躾はほぼ完璧と言って差し支えないと改めて実感した。
取り回しでは多少重くてもある程度スピードが乗ると途端に車体の動きが軽快になるのはBMW各車に共通する美点だが、
このCLもその例に漏れない。20キロも出ていればハンドル周りの重さもまったく気にならなくなり、
極めて快適な走行が楽しめる。アメリカのライバルから借りてきたようなサイドボードステップは安楽なことおびたたしく、
前述した通り腕がやや伸び気味なことを除けば体のどこにも力が入ることは皆無だ。長いシフトレバーは
シーソー式になっていてステップボードの前をしゃくり上げても後ろを踏んでもシフトアップができるが、
この種のシフトに慣れていない私には普通のバイク同様前だけを上下させているほうが操作しやすかった。
なお新型6速ミッションのタッチは確かに従来より良くなってはいるが、それほど大きな違いがあるとも思えなかった。
これに関してはK100系ミッションとの隔たりは未だ大きいと言っておきたい。ちなみに6速2000回転で70キロであり、
全域でギアノイズが少ないことは充分賞賛に値する。
ただし、試乗車はシフトチェンジの後クラッチを繋いだ時に駆動系にショックが出るのが気になった。
クラッチの繋ぎ方やスロットルワークをいろいろ変えてみたがショックは消えなかったし、
いずれにしてもこれまでのCでは見られなかった現象だ。原因はわからないが走っていて少々不満ではあった。
乗り心地は従来のCとはまったくの別物だ。マフラーのレイアウト上リバウンドストロークの確保が難しいあの車体構成で
あれだけ良好な乗り心地を確保しているとは、さすがはメーカーのやることだと素直に頭を下げたい。
注意して乗ってみるとフロントがたっぷりストロークする割にリヤはあまりストロークしていないのだが、
これは重箱の隅をつつくレベルでの話だろう。車重とホイールベースのためかピッチングの押さえも効いており、
総じてR1150RTよりも乗り心地は快適でこれより乗り心地の良い二輪車はそう多くはないというほどの水準にある。
ブレーキには当然サーボアシストが付いているのだが、このCLではそれは良い意味でほとんど気にならない。
従来のEVOブレーキでは猛烈な効きの代償としてサーボモーターがチュィィィィンと回転する音が特に停車時には
耳障りだったのだが、このCLではサーボモーターの駆動音自体が大幅に低減されている上に停車時には
ブレーキをかけた最初の一瞬のみサーボが作動しているようで、停車したままブレーキをかけ直しても一瞬チュン!と
音がするだけであとはほぼ無音だ。人工的な味付けが更に薄まった作動フィーリングも含めて、
EVOブレーキも登場以来地道な改良が随分と進んだものである。絶対的な制動力はもちろん申し分ない。

少し走ってからの信号待ちで渋滞していたのですり抜けを試みようかと考えたが、やめた。
というのはこのバイク、前述の通り極低速では重いハンドルの切れ込みを押さえるのに力とコツが要る上に
カウルマウントのミラー(そのカウル自体はハンドルマウントだが)の幅が1メートルを越すこともあって
かなりの幅が空いていないとすり抜けを試みる気になれない。そのことの是非はともかく、
K1200LTと並んで乗り手には良好な運転マナーを要求される車両ではある。
再び発進して、車の流れに乗ってゆっくりと流してみる。ステレオの音質はなかなか良く、個人的には
R1150RTよりもいいと思う。フロントカウル内蔵の2スピーカーなので、さすがにK1200LTにはかなわないが。
なお、CDがチェンジャータイプではなく一枚がけなのはLTに対する意味のない差別化としか思えない。
早急な改善をお願いしたい部分だ。
ミラーは外側が下に広がった、左側でいうと『のような形をした独特な形状だが、実際には内側の天地に狭い部分は
自分の腕しか映らず使い物にならない。従って外側の部分で見ることになるが、それでも実用上充分な視界はある。
ただしBMWの悪しき伝統通り斜め後方の視野が少々狭いので、その点は気をつけねばなるまい。

交差点が近づいてきたので充分に減速して左折する。テレレバーだから例によってノーズダイブはほとんどないが、
こういう重量車で重心の上下移動が少ないというのは運転していて余計な神経を使わず済むため実にありがたい。
ハードコーナリングは試せなかったが、これといって癖があるわけでもなく普通のペースで走っている限り
素直で前後がバランスした、まったくもって安定したコーナリングだ。しかも必要とあればスロットル一つで
トルクにものを言わせた車体のコントロールもできるのだから、多分誰からも足回りの不満は出ないだろう。
交差点を曲がってそのまま軽く引っ張ってみるが、速度感はおよそ低い。徹頭徹尾平和で安定しているのが
大きな理由だろうが、遅いと思ってメーターを見てみると実際には結構なスピードが出ていて驚くことが何度かあった。
80〜100キロほどでのこのバイクの快適性はまた格別だ。80キロを過ぎた辺りでステレオの音は
自動的にボリュームが上昇して聞き取りにくくなるのを効果的に防いでいるし、大きなスクリーンの防風性は
肩に当たる風に関してはR1150RT以上のものがある。ただしナックルガードを兼ねるミラーの防風性は完璧ではなく、
鏡面下に設けられたスリットから風が指に当たるために試乗している間はグリップヒーターを強にしていたにもかかわらず
結局指がかじかんできてしまった(試乗当日は小雨だった)。
なお特徴的な中央が窪んだスクリーンは視界確保と防風性を両立させる巧妙なアイデアだと思うが
その分ヘルメットにある程度の風が当たることは避けられず、身長176センチの私の場合80キロを超えた辺りで
それまで跳ね上げていたシステムWヘルメットのシールドが風圧でバチャンと閉まってしまったことは忘れずに書いておきたい。
一方、それに比べて下半身のプロテクションは少々見劣りする。タンク脇のサイドカウルは実は幅がそれほどでもなく
膝に当たる風も皆無ではないし、サイドカウルとエンジンの隙間から風が吹き込んでくるのは
きっちり対策しておいてもらいたかったところだ。フルカウルにすればおそらく一発解決するだけに惜しまれる。
なおこの日はかなり強烈な横風が吹いていたのだが、R1100RSではかなり風に振られたのに同じ場所を
このCLはそれほどの影響もなく走れてしまった。これだけ横断面積の大きなバイクにしてこれは素晴らしいことだと言えよう。

さて、まとめ。従来のBMWとは明らかに違った方向を向いているツアラーだ。
これまでのBMWのような「荷物を積んで安全かつハイスピードで高速道路をノンストップで突っ走る」といったことは
大して考えられておらず、それよりも日常的な速度+αの領域でとにかくリラックスしてゆったりとツーリングを楽しむことを
主眼に置いた造りになっている。ゆったりとクルージングしている限り快適性はRTよりも上かもしれないと思えるほど高いが、
速く走るための基本性能では明白にRTに遅れを取っている。
またタンデムランを前提とした豪華ツアラーであるにもかかわらず、左右パニアにはフルフェイスヘルメットが収まらず、
トップケースに1個入るだけといった詰めの甘さも指摘しておきたい。工具類がパニアの中に移動してきたのも減点対象だ。
ただしハーレーのような使い方をするならこれほど快適なバイクも珍しいだろうし、北海道ツーリングでは極上の一台だろう。
価格に関しては他のCと比べるとむしろ割安で、これについては問題ない。現在のところ自分で欲しいとは思わないが、
ハーレーのFLH系が好きな方なら存分に楽しめるのではないだろうか。間口は決して広くないものの、
自分がバイクに求めていたものはこれだと思ったのなら、どうぞ。

R1150GS
仮にも世界最大級のオフロードバイクだ。近くで見ると「こんなの振り回せるのか?」という気になってくる。
でも、またがってみると足つきは見た目の印象ほどに悪いわけでは無いし、
国産のエンデューローレーサーレプリカにはもっと足つきの悪いバイクがいっぱいある。
とはいっても、他のBMWをハイシート状態でそこそこ扱えるくらいの足の長さは必要だが。
ポジションに関して言えばハンドルはツーリングにはこの位が楽でいいだろうが、
オフロードバイクとしては少々遠い気がする。但しどちらにしてもそう気になるほどではない。
ハンドル、シート、ステップの位置関係はRTに似ていないこともなく、全体に良くまとまった印象だ。
エンジンは中低速でのトルクアップが図られているはずなのだが、極低速のトルクはどうもいまいちな感じがする。
R1100RSに乗り慣れている私は発進時に見事にエンストして倒れそうになってしまい、ちょっと恥ずかしかった。
この時試乗したのは最初期型車両だったが、後日別のディーラーで2000年モデルを試乗した時にも
アイドリング回転付近のトルクは同じようなものだったからこういうものと判断するしかない。
ただし同じエンジンのR1150Rはこれより明らかに下のトルクがあったし、2002年モデルでは
6速60キロが実用になり、50キロでもまあ使用に耐える。5速なら1500回転でも充分いけた。
1150のエンジンも地道な改良が進んだものだと素直に感心だ。
さて走り出してしまうと、今度は加速がなかなかいいのに気がついた。多少振動が多めな気もするが、
2000回転を超えた辺りからは私のRS(当時吸排気系はノーマルでノロジーのみ装着)より明らかに力強い印象で、
249キロもある車重がウソのように軽々と加速する。そこからの減速はテレレバー特有の
前輪が壁にぶつかっているかのような剛性感を感じさせるもので、例によって抜群の安心感に包まれたまま
かなり強力な制動がかけられる。一応オフロードバイクの例に漏れず車体のバランスも良く、
速度を問わずふらつきを感じることはほとんどない。特に極低速での安定性はK1200RS並に優れていて、
これだけの大きさで重心も比較的高いバイクにもかかわらずすり抜けが極めて容易なのは見事だと言うしかない。
道が空いたところでシフトアップして速度を上げてみる。6速のミッションタッチは、まあまあだ。
R1100系の5速ミッションとそう変わらず絶対的には良い部類だと思うが、
昔のKと比べるとどうしても引っかかり感や渋さがあり(走行距離の差を考慮する必要はあるが)、
幾分高級感に欠ける印象を受ける。
それはさておきRIDにはギアポジションがEと表示される6速(高年式モデルでは単に6と表示されるようになった)に
入れてみると、それまで2500回転ほどを指していたタコメーターの針がいきなり2000回転を若干下回るかと
いうところまでドロップしてエンジンが少々喘ぎ気味になりはじめた。これは完全な高速クルージング用だ。
ただし最新の2002モデルではそんなことはないのは前述の通りだ。
Eポジションという名称といいこの割り切った考え方といい、私はギア比が4速1.00の5速0.65だった
80年代前半のVWを思い出してしまった。
とはいえ、計算上私のRSより1割ほど高い最終減速比をもつこの6速、ロングツーリングには極めて有効だろう。
単純計算で高速道路の燃費が一割伸びるわけだし、エンジンの回転数をそれだけ抑えられれば
振動も騒音も減って疲れ方も違ってくるはずだ。この時私は「う〜ん、このミッションだけでも私のRSに欲しいなあ」と
考えてしまったのだが、その後このミッションはR1150RSにもそのまま流用された(ファイナルもたぶん共通)。
うんうん。
ウインドプロテクションに関しては、それなりだ。メーター前のスクリーンは見た目より効いていると思うが、
やはりあの直立ポジションにあの大きさのスクリーンでは多くを期待するのは無理がある。
見た目の印象通り、RSやRTと同列に語れる水準にはない。
一方、感心したのがそのハンドリングだった。もともとR1100系はロール軸が低く相対的にシート位置が高い構成上
リーンは普通のバイクと比べると大きく弧を描くような感覚があり、バンク中の安定感、速度を問わない軽快感と
フロントのシャープな舵角の付き方ともあいまってオフロードバイクを思わせるような運転感覚だと
常々思っていたのだが、これは軽快感を増しつつも全体としてより旋回性に振ったような印象だ。
重心が高くてちょっと重いSと言うのが一番適当かもしれない。旋回中にはSに通じるような硬質な手応えがあり、
1100RTや1100Rの角の取れた印象とは違ったスポーティーな印象だ。初期旋回の鋭さといい
リーンスピードの速さやバンク角の深さといい、コーナリングバイクとしての資質は
むしろR1100RSよりも上ではないだろうか?というのが私の正直な感想だった。
これでダートは確実にRSよりも速いのだから、もう技術の進歩と言うしかない。私は心中唸っていた。
ちなみにボクサートロフィーに参戦している知り合いに言わせると、
「GSはトルクがあるから立ち上がり加速が早い上にハンドル幅が広くて図体もデカいから、コーナーで
追い越しをかけるのは本当に大変なんだよ」ということらしい。お疲れ様であります(^^;)
また車体全体の身のこなしが軽やかなことも特筆すべきで、Sや1150Rよりは重いが1150RSや1100Rと
同じくらいといった感覚で運転できる。動いている限り車体の大きさを意識することは少なく、極めて楽ちんだ。
中速域でトルクの厚いエンジン特性とあいまって、都会の雑踏の中でもかなり速く走ることができる。
ちなみに乗り心地もかなり良い。

まとめると、Rシリーズ最強のオールラウンダーだ。乗車感覚は「異様に安定性の高い大きなオフロードバイク」
なのだが、それでも速度を問わず軽快で、街中、ワインディング、高速道路におそらくダートと、
どんなシチュエーションでも大量の荷物を積んでリラックスした態勢のまま、
最速でこそないが大抵のバイクよりも速く駆け抜けることができるだろう。
特にワインディングでの性能は車格を考えたら反則的とも思えるほど優れている。
乗り味は基本的にオンロードバイクではなくあくまでオフローダーのそれだが、ツーリングの道具として
使い倒したい向きには絶対のお薦め。RTとどちらがいいかは当人の好みと使い方によると思う。
なお、私は1100GSには乗ったことがない(当時)ので直接の比較はできないのだが、
R1150R発表当時に業界人の某氏に聞いてみたところ「1100Rから1150Rへの進化は物凄く大きいけれど、
絶対的な進化の度合いの大きさだけでいえばGSが1150になった時ほどではないと思う」と
話してくれたことを書き添えておきます。

R1150GSアドベンチャー
高い位置にあるシートによっこらしょとまたがるGSというか、オフロードバイクに共通する乗車のし方は相変わらずだ。
しかしまたがってみると足つきはノーマルGSのシートを高い位置に合わせた状態よりちょっとだけいいくらいで、
別段どうということはない。雑誌でもアドベンチャーはノーマルのGSより更に巨大で云々と書かれているが
実際に大きいのはガソリンタンクだけであとは一緒。ガソリンタンクにしても結局エンジン幅より狭いのだから
外見の印象はともかく実際の取り回しは多少の重量増を除けばノーマルGSと同じ理屈で、
いたずらに大きさを強調するかのような書き方には賛同しかねる。
さてまたがってみると、膝の曲がり角がきついのが気になった。既に指摘されていることだが
日本仕様のローシートではサスを伸ばして車高を上げたのに伴うシート高の上昇分を帳消しにするべく
シートを薄くして着座位置を下げてシート高の辻褄を合わせているため、
当然ステップとの位置関係が変化しているのだ。体感的にはR1100RSと同じくらいに感じたが、
GSの性格を考えるとこれは単純に減点対象だろう。ローシートの採用はまあ仕方がないとしても、
それなら低い位置のステップも同時開発してセットにして欲しいものだ。それ以外の点はノーマルのGSと同じで、
別段気になるところはない。装備品はそれほど気になるところも無かったが、
フェンダーに電源ソケットが増設されたのは実質的な改良として喜びたいところだ。
あの位置なら左ステップ付近にあるより遥かに使い勝手がいい。
エンジンをかけて発進すると、これまでに乗ったGSより明らかに低回転域が力強くなっていた。
その後で比較のため改めて乗ったノーマルのGSもそうだったからいつの間にか改良が施されたのだろうが、
発進加速時にクラッチにもスロットルにもあまり神経を使わなくて済むのは大いに歓迎だ。
で、ノーマルとの違いは走り始めるとすぐに明らかになった。乗り心地が良いのだ。
シートがノーマルより柔らかいこともあるが、プログレッシブレートのスプリングを採用したという
前後サスの当たりが非常にソフトで、ただゆっくりまっすぐ走っている時の乗り心地だけなら
社外品の高性能サスにも匹敵するほどだ。しかし、良いことばかりではない。車体の倒し込みが重いのだ。
あれっと思って左右に蛇行してみると、別に安定感が増したわけでもないのにノーマルのGSには無かった
フロントからのねっとりとした重さを感じる。ノーマルのGSならちょっと乗り込んで要領がわかってくると
私などはガンガン開けて走りたくなるのだが、こちらはそんな気分になれない。
少なくともスポーツラン向けのセッティングではなく、体感的にはR1100RTとR1100S以上の違いに感じた。
恐らくはフロントのスプリングレートに対して減衰が効き過ぎているのではないかと思うのだが、
このハンドリングは1100時代のRシリーズに戻ったような感じで普通の走りでは問題ないレベルとは言え、
総合的にハンドリングは退化したと言わざるを得ないだろう(オフロードでどうなるかはわからない)。
ある程度のペースを保ってコーナーへ進入する場合にもやはりノーマルGSより不安感があり、
舗装路を本気で飛ばすノーマルGSについて行くのはある程度の腕の差がないと難しいと思われる。
ただし、路面の不整の影響はノーマルGSより少なかったようで、これは柔らかいサスの面目躍如といったところか。

ブレーキはノーマルと同じ・・・ではなくステンメッシュホースが奢られているが、
その割にタッチが良くなったとは感じなかった。確かに直接比べると多少の違いはあるのだが、
どちらもBMW特有の割とふにゃっとした感覚が残っていて、それが大きいか少ないかという違いだ。
なおサーボと前後連動システムこそ付かないもののそれ以外はディスクのローター径が大型化されるなど
EVOブレーキと同等の構成になったブレーキは「GSのブレーキってこんなに強力だったっけ?」と思うほど
制動力が強化されていて(メッシュホースも多少効いている可能性はある)、
正直これならサーボは無くても充分だと思ってしまった。
また、やや6速が低められたミッションは6速100kmの巡航をメーター読み3200回転で可能にする。
確かに6速はノーマルGSより使い易いのだが、本来GSアドベンチャーの狙いは大容量タンクにものを言わせた
長距離巡航のはず。6速が使い辛ければ5速を使えばいいだけの話なので、ノーマルGSに標準採用の
100km巡航を2800回転でこなせるハイギアードな6速を選択しなかったのはどう考えても設計ミスだと思う。
この6速だとやはりノーマルよりも騒音も増えるし音もうるさくなるし燃費にも響く。
試乗程度では無視できる小さな差だが、実際に使い倒すとなるとこれは無視出来ないポイントだと思う。

シートについては高い評価をすることはできない。柔らかく当たりはいいのだがウレタンに腰が無さ過ぎて
大きく沈み込んでしまい、ハンモックのように前後から引っ張られているような座り心地だ。
当然着座位置の自由度は小さいし座面も決して広くはない(外見上はノーマルと大差ないが沈み込みと
変形が大きい分実質的に有効に使える座面は小さい)。しかもお尻に常時引っ張られているような感覚があっては
はっきり言って駄目だろう。このシートでは車体の上下動などに対して自分の体で支えなければならず、
シートに体重を預けっ放しにすることができない。多分長距離を走ると疲れるだろうと思われる。タンデムシートの部分はノーマルより小型化されていて座り心地も劣りそうだが、これは試していないのでわからなかった。
また、大型化されたスクリーンとナックルガードによってウインドプロテクションはノーマルよりも格段に高まっている。
タンクも多少は足に当たる風を遮っているようで、これは大いに歓迎すべき点だ。
ただしスクリーンの材質(アクリル)は厚みも含めてどうやらノーマルと同じらしく、ノーマルGSでは
さほど気にならなかったアイドリング時にスクリーンがワサワサ揺れるのは、スクリーンが大型化され
相対的に変形量も増えたこのアドベンチャーでは目障りなレベルにまで増大している。
勿論テストしているだろうからスクリーンの強度や耐久性に問題はないだろうが、個人的には少々気になった。

さて、まとめ。ノーマルのGSとは似て非なるキャラクターのバイクだ。止まるはともかくとして、それ以外の
走り、曲がるという絶対性能では明らかにノーマルより劣っている。
これに乗って峠道でYZF−R1やCBR954RRを追い掛け回そうとは考えない方が無難だろう。
ただしその代償として良くも悪くもよりツアラー然とした大らかな乗り味と良好な乗り心地を得ており、
スポーツ性を要求しない向きにはそれほどハンディになるとは思えない。
シートを除けばあとはサスの設定と装備品の違いだけなのだが、長距離ツアラーとしての資質は
ノーマルより向上していると思うので結局はよりそれっぽくなったスタイルを含めて好みの問題になると思う。
私個人がもし新車を買うとしたら、時にはスポーツ走行も楽しみたいのでこれ一台しか持てないのなら
ノーマルのGS、もう一台スポーツバイクをキープできるならアドベンチャーにすると思う。
ただし、もっと潤沢な資金があればノーマルGSをベースにアドベンチャーのタンクとスクリーンを付け、
サスを社外品に交換するのが理想かなというのが本音ではある。

R1200GS(前期型)
見た目の印象は従来の1150より一回りコンパクトになり、、R1150GSとF650GSの中間くらいかな・・・といった感じだ。
実際の寸法では決してそんなことはなくむしろR1150GSより僅かに大きいのだが、これは高さも幅も随分小さくなった
ガソリンタンクによる視覚的印象の部分が大きいだろう。1150GSアドベンチャーが出た時に印象強烈な大型タンクのためか
「巨大な車体」と方々で言われたのと逆の現象だが、実際には見た目ほどには違わないのである。

外見を細かく見てみると、かなり徹底した軽量化の跡が目に付いた。大型のキャリアは事実上すべて強化プラスチックだし、
様々なところで構造が簡略化され艤装が省略されている。有り体に言ってしまえばかなりスカスカな印象だ。
実際のところチタンやドライカーボンetcといった高価で軽量な素材を使わずに軽量化するとなると、
方法としては必然的に設計の合理化と艤装の簡略化に行き着くしかない。
つまり部品を小型化したり省略したり形状変更して軽くて強いようにしたり2個の部品を一個にまとめたりするわけだが、
これらのことは見た目の貧弱化にも直結するのである。従って外見から受ける高級感は前モデルより明らかに劣っており、
F650GSに毛が生えた程度。各所で進んだコストダウンとも相まって見た目は正直なところ随分と貧相になった。
ただし、アルミ鍛造のテレレバーAアームや全面ヘアライン処理がされたアウターチューブなど要所には相応のコストをかけてある印象だ。
余談ながらパイプハンドルは中央部が太くテーパー状になっているが、これはどうやら振動対策らしい。
しかしあれほど軽量化に取り組んだバイクなのに材質はアルミではなく鉄製であり、
コストダウンと加工性などに対するメーカーの考え方が出ているなと個人的にはなかなか興味深かった。
また、タンク左右のアルミのカバーは工具不要で取り外せるのはいいが防犯性を考えると我が国ではやや不安である。
手で引っ張ればスポッと抜けるR1150Rロックスターのメーターバイザーもそうだったが、
どうも最近のBMWにはこの辺の注意深さが少々足りないのではないだろうか?できれば改善してほしい部分だ。
あと細かいことだが電装系のシステムが一新されてヒューズも消えたため、電源ソケット以外に電源を引っ張る確実な方法が
2004年4月現在まだ確立されておらず、無線やナビへの装着適合性は現時点では?のようだ。
勿論バッテリーから直接引っ張れば大丈夫だろうし(本国には純正ナビもある)将来的には必ず問題なく着くと思われるが。

またがってみると、おやっと思うほど威圧感というか、大きなバイクにまたがったという感じがない。
股の辺りがスリムになってシート高さは一緒でも実際の足付きが多少良くなっていたり、軽量化が着実に効果を上げているのか
またがった状態で足にかかる負担が確実に減っているところも心理的な印象に影響しているのだろうが、
F650GSを一回り大きくした(或いは、R1150GSを一回り小さくした)というくらいの印象である。
少し考えてみたところ、タンクのボリュームが減っているのが顕著にわかることとステアリングヘッドの位置が
(テレレバーの理論上のステアリングヘッド位置はAアーム先端のボールジョイントになるが、便宜上こう書く)
随分と下に下げられており、前方の視野に車体が占める割合が随分小さくなったことが影響しているのではないだろうか。
そんなわけで低い車体の先に小さなカウルが突き出しその先の方にメーターが置かれるという構図になっており、
第一印象は「F650CSが巨大化したみたいだな」と思ってしまった。
なお新デザインになったメーターは格好はいいが、免許の条件に眼鏡等と書いてある方が無理してメガネを外して乗るには
ちょっと見るのがきついかも知れないと思うほどマウント位置が遠い。
またメーターの視認性は問題こそないが1150系には劣る上に微妙な位置関係の変更のため
走行中に無意識にメーターに目をやるとスピードメーターではなくタコメーターが先に視界に入ってくる(従来は逆だった)。
これは細かいことだが個人的にはデザインコンシャスの弊害で、先代の方が優れていたと思える部分だ。
RIDに代わって採用された液晶の多機能ディスプレイはデザイン的には随分洗練されたが
視認性ではRIDに劣る。ただし実用上は問題ないし、我慢しているうちに慣れる範疇だと思う。
あと、シフトレバーが幾分遠くなったような気がしたのだがこれは調整で解決する部分だと思われる。

さてエンジンをかけると、完全新設計のエンジンは何の問題もなく1000回転ちょっとで粛々とアイドリングした。
この状態でのエンジン音は従来とあまり変化がなく、容量が増やされたと思しきサイレンサーから出る排気音もどうということはない。
ただしこの状態でも振動は明らかに減っており、スロットルを開けてみても車体がトルク反動で右に傾く癖は
以前にも増して低減されている上にピックアップも鋭い。
スロットルのツキが良く、エンジン回転は上昇も下降も変化が速くなっている。
これまでのことからフライホイールマスの低減を想像していたのだが、実際に発進しようとするとスタート時からトルク感が
明白に増していて、発進が随分と楽になっている。新型になった油圧クラッチはプラスチックのリザーバータンクが露出して
外見的には安っぽい印象だが、搭載位置の変更によってレバー比が変わった恩恵を得ているのか
従来よりつながる感じが自然で半クラッチのコントロールがしやすい。
なおエンジンのピックアップが良くなったため体に染み付いた
「R1100/1150系を1500回転くらいで発進させるにはこのくらいのアクセル開度」で手首をひねると
タコメーターの指針1500回転を軽く超えて2000回転まで上がってしまう。
慣れで解決するところだが、新型ということを意識させられる部分だ。

走り出すと、スタート直後から変化は如実にわかる。エンジンのピックアップが鋭くなったのは前述した通りだが、
実際のトルクが増している上に車体が軽くなった効果がはっきりと現れている印象で、とにかく右手の操作に対して
車体の反応がいいのである。加速が良くなったと書くと身も蓋もないが、アクセルを開けてから実際の加速に移行するまでが
過去に乗ったいかなるボクサーよりも素早く、右手と車体のダイレクト感が格段に高まったような感じを受ける。
車体全体からの軽快感はR1150GSはおろかSを凌ぐほどのもので、ほとんどF650GS並み。
それがK1200系に近いほどの加速感を手に入れているのだからこいつは痛快だ。
ただし、短い試乗ではなんとも判断しかねるが過去のBMWのエンジンは長距離ツーリングで神経を余計に消耗しないよう
意図的にピックアップをダルに設定してビッグバイクの割には比較的アバウトなスロットル操作を許すよう躾けられていたのだが、
それをこういう設定に変えてしまったため、エンジン自体の面白さが格段に増したことは疑いもないが
果たしてロングツーリングでも疲れないのだろうか?という不安は正直言って、ある。これについては今後の評価を待ちたい。

シフトタッチは以前から採用されていた改良型のミッションを搭載したR1150系とあまり変わるところはない。
シフト時のタッチは良く、ストロークも丁度いい感じだ。
ただし停車時のシフトで相変わらずガチャガチャ安っぽい音がするのはいただけないが。

交差点が近づいてきたので、シフトダウンしてブレーキをかける。
このバイク実はエンジンブレーキがあまり効かずますますもってフライホイールがどうなったのか訳がわからないのだが
(実際には径が拡大されているし、マスは増えていると思うが)、結果的に減速をブレーキに頼る比率は以前より増えている。
そのブレーキをかけた時の印象もEVOブレーキを採用した既存のGSとそう変わるところはない。
例によってごく軽い制動力で抜群の効きを示すので実際の性能は勿論心理的な安定感も大きいが、
停車時にサーボモーターの音が(以前より静かになったとはいえ、R1200CLより喧しい)するのは相変わらずだ。
なお、停車時にブレーキ操作の力を変えてやるとモーターが一生懸命回転数を変化させてそれに追随しようとしているのが判る。
この辺の制御は以前より細かくなっているようだが、試しても別に意味はないだろう。
リヤのブレーキローターは多少小型化されているのだが、それに伴う印象の変化というものは特になかった。

ハンドルユニットのハウジングは新設計だが、それに装着されているスイッチ類は以前と共通。
従って実際の操作感は以前と変わらないウインカーを操作してから車体を倒しこむと、これがまた従来型とは別物である。
R1100Sもかくやと思えるほどリーンが軽快で、リーンスピードも速い。R1150も車体の大きさを考えたら驚異的と思えるほどに
軽快な乗り味だったが、これはその比ではない。ただし、その方向性にはやや疑問なしともしなかったのが正直なところだ。
具体的に書くと、従来型に比べて前輪から曲がっていく度合いが強まり、後輪主体で前輪は従輪という印象が比較的あった
1150GSとは違い前後輪できれいに旋回力をバランスさせてオンザレール感覚で曲がっていく。
その時のコーナリングはK1200RSもかくやと思わせるほど見事なのだが(安定感はそこまでではない)、
前輪から積極的に寝ていこうという感じがやや強すぎるきらいがあり、前輪の旋回力発生をハンドルの舵角ではなく
バンク角に依存している印象が強い。またハンドルの舵角をつけようと試してみたがそういう乗り方をするとハンドルに
ねっとりとした抵抗感があって操作がしづらく、舵角の付き方もそれほどではない。
(一方、逆操舵で車体を倒しこむ場合の反応は非常によい)
パラレバーBMWの例に漏れずトラクションはかなり良いのだが、旋回中にスロットルを開けることによる旋回性の変化は
可もなく不可もなくだ。プッシュアンダーが出にくくきっちりとバイクを前へ前へと進めていくのはさすがだが、
あくまで前後輪のバランスした印象を徹頭徹尾崩さないためスロットルで曲がるという印象もあまりない。
しかもこの状態でハンドルに力を入れたりすると途端に旋回力が落ちてしまう。
また前後でかなりの段差がつけられたシートは座面に前後の自由度が小さく、着座位置によるハンドリングの変化も
あまり期待はできない。
つまりライダーは余計なことをしなくても一切合財バイク任せにしてくれればきっちり曲がりますよというハンドリングで
それはR1150RやRT、GSなどアンチチルトハンドルを装備するモデルに特に共通する基本性格なのだが
それをやや推し進め過ぎた印象があり、自分流のライディングスタイルをあまり許容してくれない。
オンオフ兼用車のハンドリングをここまでオンロードライクに振った設定といいその辺のまとめ方にはやや疑問が残るところだ。
誰が乗っても早く走れることは疑いないが個人的にはオフローダーならもう少しバンク角への依存性を減らした方が
様々な状態への対応幅が広まるだろうし(オフ車乗りではないのであくまで推測だが)、
腕自慢がオンロードで曲げて楽しむならやはりSなどの方が操り甲斐がある。
とはいいながら、実際のコーナリングスピードはかなりのもの。方向性にやや疑問もあるが、
総じてハンドリングがR1150GSより随分進歩していることは疑いない。

コーナーを曲がった後の直線でやや大きめにアクセルを開けると、加速感はやはりこれまで乗ったどのボクサーをも上回る。
100キロ少々までしか試さなかったが角っぽい形状のスクリーンは実にうまく風を遮り、身長176cmの私がシートを低い位置で
乗った場合にはヘルメットのバイザーの上限ぎりぎりまでは直接的な風を止めており(巻き込みはある)、
100キロくらいまでなら何とかシステムWのスクリーンを上げたままで走行可能である。
また肩口、上半身も巧妙にプロテクトされており防風性能は従来型より格段に向上している。
試しに左手を色々動かしてみると、本当に体に直接的な風圧を与えないようなぎりぎりの位置を風が流れていく。
この辺は単にデザイナーの感覚だけではなく、綿密に風洞実験を重ねて形状が決定されていると窺い知れる部分だ。
なお、タンクに装着されたアルミのカバーのためかタンクがスリムになったにも関わらず足に当たる風は意外なほど小さく、
標準装備のナックルガードも手をしっかりガードするので実際に風がまともに当たるのは肘を中心に上下20センチといったところ。
車輌の性格を考えたらウインドプロテクションは望外に優秀だと言うべきだろう。
なおエンジンは4000回転程度でも振動が極めて少なく、試しに6000回転まで回しても特筆すべきバイブレーションはない。
もちろんボクサーとしては、という但し書きがつく水準であり調子の悪いKユニットくらいの振動はあるのだが
総じて「全域で大幅に振動が減った」と書けるレベルであり、やはりバランスシャフトの効果は目覚ましいと言うべきだろう。
体感上はトルクの谷もなくどのギアでもきっちり加速する上にピックアップも優秀。後で試したところ6速1500回転から
それほどのストレスなくスムーズに加速できるほどのトルクと粘りがあり(いい加減なスロットル操作を行わないのが前提だが)
このエンジンだけでも新型になった価値はある。
ただし、R100系から世代を重ねるごとにスポーツ寄りに特性が変わってきたのはいいが
それと同時にますますパワーユニットとして無機質になり味わい深さが減ってきたのも確か。
「これだったら、車体構成が許しさえすればKのエンジンを載せても良かったんじゃないか?」と思えるほどエンジンは優等生で、
そのメリットを生かすような作り方をしているのは重々承知しているつもりだが
「何故、このバイクにわざわざ空油冷フラットツインを載せねばならんのだろう?」という疑念がふと頭をよぎったことは書いておきたい。

また足回りだが、フロントは作動性もR1150GSADVを凌ぐ良さで直接的な衝撃をほとんど伝えないのに比べ
リヤはADV同様のストローク量によって減衰力を変化させるという一昔前のワークスマシンのようなシステムが
搭載されている割には案外だらしなくポンポン跳ねる。絶対的な乗り心地として判断すれば「良い」という水準には入るだろうが
パニアの装着を想定して設定荷重を合わせてでもあるのか、やや期待はずれな印象だった。
乗り心地に関しては車重で押さえつける感じのあった従来型の方が優れているだろう。
(注・ただし、サスは標準状態のまま特に調整は行っていないので調整次第で印象が変わる可能性は充分ある)
シートの座面が前後にあまり余裕がないことは前述した通りだが、左右も多少幅が狭められており結果的に座面は小さくなり
従来のように広いシートにどっかと座る感覚は薄らいでいる。スポーツ性を高めたのかとも思ったが、
このバイクはあまり腰をずらす必要がないからおそらくは足付き性の改善策だろう。
もっとも狭くて困ったり不快感を覚えるレベルではないのでおそらく問題はないと思うが。
長距離を走るなら従来型のシートの方がいいのではないかと思うが、
個人的に酷評しているアドベンチャーのシートに比べたらそれでも雲泥の差である。

帰り道は渋滞に巻き込まれたのだが、そこでは軽くて足付きが良くなり極低速でのトルクが増してクラッチのつながりが
判りやすくなりとほとんどいいことづくめだったので従来型よりも格段に楽ができた。都会で使うのにこの特性は大いに
利便性を増したと言えるだろう。ついでにグリップヒーターも試してみたが、2002年モデル以来の細いグリップに
初めてニクロム線が組み込まれた新型グリップヒーターは消費電力は多分従来と同じだろうが従来型のような凹凸リブがなく
手との接触面積が増えたためか体感上暖まるまでの時間が前より短縮された印象だ(正確なところは不明だが)。
ただし、操作性や握り心地はK1以来の外側が太くなった樽型グリップの方が良かっただけに多少残念ではある。

最後にバイクを返却してからだが、エンジンを切った状態でのレストブレーキの効きの悪さは従来とあまり変わらない。
しかし車重が軽くなったことで押し引きが随分と軽くなっており、その点でもかなり扱いやすくなったと言える。

さて、まとめ。乗車感覚について率直なところを言えば、やたらとパワーがあってちょっと重くて安定のいいF650GSである。
それほどに乗った感じの変化は著しく、サイズの大きさを感じさせない軽快感に溢れている。
エンジンは好みは別として機械的な面ではR100系からR1100系に変わった時に近いほどの進歩を遂げており、
足回りもレベルアップ。快適性も同等の水準にあり、格段に増した扱いやすさも加わって一台の路上走行機械として機構的に見たら
私が文句なしの現役名車として認めていたR1150GSがかすんでしまうほどの出来栄えを誇る。
ただし、軽量化は振り回す道具としての大幅な改良をもたらしたが高級感の演出にはマイナスに働いており、
些か安っぽくなった外見と共に乗車感覚からも高級感は薄れた。
自分の制御下で高度な機械が働いているということを意識させつつ過度に主張させすぎず、
機械の存在感を忘れさせないという匙加減が従来型は実に上手だったのだが、
この点では幾分機械が自己主張を強めた感がありしっとりした感覚が希薄になっている。
まあ、それでもR100系ほど機械が存在感を示しているわけでもなく、何よりそれとトレードオフして得たものの方が遥かに大きいので
「高級感」を追求される向き以外はそれほど気にしなくてもいいのではないかと思う。
前モデルの方がよかったと感じる部分もあることは否定しないが。
確実に低減されているに違いない生産コストの割に変わっていない値段をはじめ細部に関して文句がないわけでもないが、
それでもバイクを実用か趣味の道具として使い倒す向きにはR1150GSの後継車として申し分のない力作。
今後のシリーズ展開を期待させるに充分なだけの内容を備えていると思う。

R1200GS(08年)
見た目の変更点はガソリンタンク前に取り付けられたステンレス製の化粧パネルが目立つぐらいで
GSオーナーと興味のある方以外にはどこが変わったのかを説明されないとわからないくらいだが、
資料やカタログから引っ張ってくるとRTと同じ仕様になったエンジンに完全新設計のミッション/ファイナル
(今のところGS専用だが、いずれ他の車種にも採用されるだろう)、トップブリッジにシートにブレーキキャリパーなど、
変更点は想像以上に多岐に亘っている。
うがった見方をすればBMWは売れない車両(ありていに言えばR1200ST)は早々に見切りをつける一方で、
ドル箱であるGSには潤沢に開発予算を投入して商品力の向上を図ってきたわけだ。
結論から言ってしまうと、その目論見は十分に達せられている。

またがった感じはシートの変更が第一に感じられる。
前期型に比べて全体的に硬めになり、座面が広がったうえに前傾が緩くなってより自然なポジションを得られるようになっている。
要するに、座面が狭く柔らかくて沈み込むのでお尻が痛くなりやすく、座面の前傾が強くて疲労しやすかった
前期型のシートのネガな点がことごとく解消されているのだ(完璧だとは言わないが、かなり良くなった)。
単純な形状変更+で済む内容の変更だけに今更改善しなくても最初からこの形で出しておけとも思うが、
改良されたこと自体はやはり素直に喜ばねばなるまい。
なお数字上のシート高は前期型より1cmだけ高くなり足つきも微妙に悪化しているのだが、
ほとんどの人には問題ないレベルだと思われる。
ニーグリップは前期型の方が車体形状の関係でやりやすかったのだが、これは我慢するしかあるまい。

エンジン音は直前に乗り比べた前期型よりわずかに静かになっている・・・のだが、
排気系は同じだから個体差と見るべきだろう。一方、シリンダーヘッド周辺からのメカニカルノイズは明らかに静かになっていたが
これも調整次第の部分があるので断定は出来かねることをご了承願いたい。
またがって走りだすと新型の改良点は明らかで、クラッチが多少軽くなっているうえにシフトは軽くて正確で、
これまで乗ったいかなるR1200系よりもフィーリングが良くなっている。
おそらくベアリングの容量増大以外にも細かい部分に改良を重ねているのだろうが、
このミッションの出来は普段メガモトに乗っている私も正直なところ羨ましく感じた。
また、実用域での加速力も向上は明らかで、従来3000回転前後にあったトルクの谷がうまく消されており、
スロットルを大きく開けてももたついたり咳きこんだり排気音が割れたりはせずそのままスムーズに速度が乗るうえに
そこから急にスロットルを戻しても従来型のようにエンジンと車体がぎくしゃくすることはなく、自然に速度が落ちていく。
再度注意深くスロットルを操作してみるとエンジン回転数の変化は上昇も下降も前期型よりゆっくりになっており、
R1100系のようなスロットルに対していい意味でのダルな神経を尖らせないフィーリングをほぼ取り戻している。
R1200GSが出た時にさんざん言われた
「乗っていて疲れないエンジンという点では1150の方が良かった、長距離を走るなら1200より1150」という点が
遂に解決したのはR1100/1150系のフィーリングを知る向きには歓迎すべき大きなトピックに違いない。

乗り心地とハンドリングなのだが、試乗車に付いていたエンデューロESAをいろいろと試してみると
これの変化が実に劇的でわかりやすい。
減衰力をコンフォート/ノーマル/スポーツの3段階でいつでも切り替えられるのは従来通りだが
プリロードの方が一人乗り/タンデム/タンデム+積載/フラットダート/ハードダートの5段階となっており、
こちらの変更は相変わらず停車した状態で行わなくてはならず変更にも多少の時間がかかるので
変更する内容によっては信号待ちのちょっとの間では切り替えが間に合わないこともある。
その辺は簡便な操作性とスピーディな切り替えとの落とし所の問題だろうが、それはともかくとして
今回はプリロードを変えると車高まで目に見えて変わる上に乗り心地やハンドリングもかなり大幅に変わってしまう。
例えば、一人乗りでハードダート+コンフォートにしても別に乗れないことはなく
(足つきの悪ささえどうにかできれば足の長いオフロード車然とした足回りになる)
重心位置やスイングアームの角度などが変わるためかこれはこれでなかなかに面白いハンドリングになるのだ。
15パターンのセッティングをいちいち説明するのは不可能だしそこまで乗り込んでもいないので割愛するが、
一人乗りの標準状態では前期型よりも多少ダンピングが効いたオンロード寄りの乗り心地とハンドリングだ。
また、前期型より旋回時の後輪への依存度が高まっており、結果として旋回の自由度も増している。
これが不満ならコンフォートにすれば倒しこみはゆっくりだが全体に軽くなるし、スポーツにすれば相応にクイックで
前輪への依存度が多少強まったハンドリングになる。これでも不満ならスイッチひとつでプリロードを変えれば
前後のサスのバランスを簡単に変更してまた違ったハンドリング特性を得られるという具合で、
総じて新しいエンデューロESAの印象はこれまでに乗ったどのESA搭載車両よりもよかった。

まとめ。外見は地味なモデルチェンジだが、実際の改良箇所の多さとその度合は以前R1100系がR1150系になった時に
ほとんど匹敵するほどの力が入った大改良だ。エンジンはパワーが上がったうえに実用域での扱いやすさが大きく向上しており、
特に市街地での乗りやすさが格段に増した。
もちろんエンジンのマネジメントだけではなくギヤ比まで専用設計になったミッションに助けられている部分も大きいのだろうが
この違いだけでR1100系が1150系になった時に近いほどの体感トルクの差を生んでいる。
しかもR1200系になって失われたと感じていたR1100/1150系の緩いエンジンフィールが戻ってきたとあっては
R1150GSがR1200GSに機構的に勝るところはほとんどなくなってしまった、と言わねばなるまい。
エンデューロESAは相変わらずOH時の問題を残すものの、作動感もなかなか良好でこれまで
「自分で買うなら、ESAはつけずにそのお金を社外サスの資金に回す」と公言していた私も初めて
「これだけの使い勝手があるシステムならエクストラを払ってもいいかもしれない」と思った。
それ以外にもシートが改良されて乗り心地が向上していたり長距離走行でも疲れにくくなったりハンドリングも向上したりと
細かい部分まで改良の跡は夥しい。前期型の新車は現在ではほぼ購入不可能だから直接の比較は無意味だが、
あえて仮定の話として新車同士での比較をするなら「価格差が20万円までなら新型を買え!」というくらいに良くなっている。
どのくらい良くなったかというとこれまで1100GS/1150GS/1200GSと試乗していいバイクであることは充分に認めつつも
「GSのオフロード性能は自分には要らないから、GSは買わない」とこれまで公言していた私が
初めて「オフロード性能は要らないが、GS欲しいかも・・・」と思ってしまったほどだ。
現在のところ世界一売れているビッグバイクとして、文句のない実力を備えていると明言する。

R1200GSアドベンチャー(08年)
R1200GSをベースに大型のタンクとスクリーン、幅の広い専用パニアケースに頑丈そうな鋼管製のガードを装備した車体は
R100GS以来ここまで同じ手法を続けられると個人的には食傷気味に思えないこともないが、
少なくとも特別なGSという感覚は満点だ。ノーマルのGSよりゴツくて大きくてワイルドに見える・・・というのは
デザインは要するにハマーと同じような発想で考えられているわけで、言いたいことは後述する。
随所に加えられたSUV的装備品を格好いいと受け取るかそうでないかでこのバイクの評価は分かれるだろうが、
好きな人にはたまらないだろうし気に入らなければ普通のGSにすればいいだけだ。

試乗車はどうやら前期型R1200GS用の標準シートが装着されていたのか、妙に足つきがよくて
シート表皮も2トーンではなく黒一色のものだった。そのため正確な評価はできないのだが、
その状態での足つき性は数字上シート高が同じはずのメガモトよりもずっとよく、
R1200GSよりも多少悪いか・・・という程度にとどまっている。(絶対的には良くないが、見た目の印象よりは良い)
もっともフラットツインの常でまたがった時の車体の重量バランスは極めていいのでそれほど不安感はなく、
車体を左右に揺らすとGSより明らかに重いのがわかるのだが成人男性の標準的な脚力があれば問題はないだろう。
なお、現実的にものを言う足の長さについてはコメントを控えさせていただく。
ちなみにポジションはシートの差を除けばR1200GSとほぼ同等。
装着されていたシートのせいかややハンドルが高い気はしたが、
例によってシート・ハンドル・ペダルの位置関係が程良く適切でリラックスできるポジションだ。
ステップはHP2から拝借したステンレス鋳造のオフロード車然としたものがついている。
それ自体はいいのだが、オフロードブーツ/それ以外のブーツに合わせてブレーキペダルの高さを
2段階に切り替えられる機構がこの試乗車ではどういうわけか省略されてしまっているのは実に残念だった。
(現在手元に資料がないのできっちりと確認を取っていない。この点については後日加筆します)

なお、またがった状態での眺めもノーマルのGSとは実質スクリーンとタンクが違うだけとはいえやはり相応に異なり、
ほとんどエンジンの幅に近い大きなタンクには威圧感すら覚える。これよりタンクの視覚的インパクトが強いバイクは
個人的にはボスホスとB−KINGくらいしか思いつかないほどで、少なくともノーマルのGSとは比較にならない。
スクリーンは例によってそこそこ歪みがあるのだがRTより高さは抑えられているので、
十分な身長があれば視線は自然とスクリーンの上から前方を見ることになるから問題はないと思われる。

エンジンをかけた時の印象は排気音も含めてノーマルのGSとまったく同じなので省略。
そこからクラッチをつなぐと巨体は簡単にしずしずと発進した・・・のだが、よく考えてみるとBMWのボクサーが
(排気量を考慮した場合)世のバイクの平均より発進に神経を遣うのはR1200系になっても基本的に変わらない。
それがこう無造作にスタートできたということは、アドベンチャー専用にローギアのみ1割ほど低くされた
新型ミッションの影響が大きいと思われる。これは不整地路面での走行を想定したアドベンチャーには
確かに有効な装備だと思われる・・・が、前述したRシリーズ特有の極低速でのトルクの細さを考えたら
他の車種のローギアも最初からこのくらいのギア比でいいのではないだろうか?
なお、シフトタッチは新型GS同様にスムーズかつ節度感を増したもので非常に好ましいものだった。

雑誌によってはエンジンの味付けもGSとアドベンチャーでは異なっていたという記述もあるが
自分で体感した限りでは半年前に試乗したGSとフィーリング的な違いは感じられず、
単純にやや重くなったGSといったところ。専用ローギアの恩恵にあずかれない2速から上の加速感は
カタログ上26キロある重量差を反映してやはりノーマルのGSよりもわずかに緩慢なのだが、
多少スロットルを余計に開ければ解決する程度の違いだしそもそもR1150GSより一回りは速い。
少なくとも箱根での試乗で一般的なペースで走った限り、パワー不足による痛痒は一切感じなかった。

さてその重量車のハンドリングだが、個人的にはここが今回のアドベンチャーの評価を決める大事なポイントだ。
1150GS時代のアドベンチャーは(前期型の1200GSADVは試乗していないので不明)日常的な運動性能を
ある程度犠牲にしてもフラットダートでの接地性とツーリングでの快適性を優先したソフトな足回りに躾けられていたが、
これは「ノーマルGSと比べた場合、舗装路での運動性で確実に劣る」という代償を要求するもので
現実的にこのバイクで荷物を満載してフラットダートを走り続ける人の比率の低さを考えると
「少なくともRTと同じ使い方をするなら、足回りはノーマルGSの方がいい」と言うしかなかったのだが、
それがこの新しいアドベンチャーではESAを使うことで、
「フラットダートではソフトな足回り」「街乗りでは僅かに足つきを良好に」「峠では引き締まった足回り」と
スイッチの操作だけで必要に応じてセッティングを変更できるため、
1150時代に私が指摘していた運動性能上の欠点が大幅に解消されているのである。
これだけセッティングの幅が広いと1200GS同様、短時間ですべてのセッティングを試して文章化するのは不可能だが
基本的なセッティングに絞って書くと1200GSよりは多少柔らかめだが意外とダンピングが効いていて、
乗り心地はノーマルのGSより車重で路面を押さえつけている感覚が強い。
単純に言えば「多少重くなって動きがゆったりしたGS」ということになるのだが、リーンスピードはGSよりゆっくりなうえに
絶対的な車重があるのでバンク中の車体の安定感は先代をはるかに上回ってノーマル1200GSよりも一枚上手で、
コーナーではあの巨体を不安感なく倒しこんでいくことができるのは意外な驚きだった。
旋回特性は基本的にはGSと同じで、前後輪がバランスしてバンク角主体で曲がっていくタイプ。
ということは前後の荷重バランスが重要な理屈で、大型タンクやガード類等で前輪荷重が増えたアドベンチャーは
ノーマルGSの持っていた好ましいバランス感覚が失われた・・・ということも実はなく、
幅の広い専用パニアを装着していれば前後の荷重重量バランスはおおむね適正に保たれるのか
フロントが重すぎる、リヤが重すぎるといった運動性のネガはほとんど感じることはなかった。
(試乗車にはパニアが付いていた)この辺の設計の妙はさすがというしかない。
ちなみに、センタースタンドの位置はきっちりバランスされていて車重を考えたらかなり軽く上げられる。
この辺は好ましき伝統であると同時に、もともとの重量があるだけにその恩恵も大きいはずだ。

なお、このバイクはもともとハンドルの切れ角よりもバンク角に旋回性を依存するタイプの上に
絶対的な車体の質量が大きく、車両全体でライダーの占める重量比が相対的に小さいためか
リーンアウト・リーンインといった動作はあまり大きな効果を期待できない。
いろいろな乗り方を試してみたが、結局のところシートにどっかりと腰をおろして荷重をかけたリーンウィズで
ダラ〜っと力を抜いて淡々と走り続けるのがこのバイクには合っているように感じた。
なお、必要によっては逆操舵でハンドルをこじってやれば意外なほど機敏な旋回性を引き出すことも可能で
慣れてくると僅かなハンドル入力だけでこの図体をひらひらと操るのはちょっとした快感だ。

また防風性だが、外見から受ける予想通り足元への防風性はほぼ完璧。
ガソリンタンクの上に取り付けられた衝立はかなりの効果があるようで上半身に当たる風を大幅に低減しており、
スクリーンの効果と相俟って走行中には肩とヘルメットの上以外にはほとんど風が当たらない。
それだけに肩口の部分の風圧が気になってしまうのも事実なのだが、
総合的に考えてデュアルパーパスモデルとして防風性世界一バイクなのはたぶん間違いないだろう。
なお、1150時代のアドベンチャーとは違いスクリーンの剛性が大幅に向上しているのでアイドリング時に
スクリーン自体が振動でわさわさ揺れるようなこともなくなっている。これも着実な進歩が伺える部分だ。

さて、まとめ。まごうかたなきR1150GSアドベンチャーの正常進化版バイクであり、
全方位的に極めて高い総合力を備えたグランドツアラーだ。
長距離ツアラーとしての能力は確実にR1200GSより進歩しており、
タフな旅のツールとしての能力はおそらく相当なものだろう。
先代モデルと比べたら質感はともかく機能的には長足の進歩を遂げており、
特にESAでダート走行の走破性と長距離ツーリングの快適性・一般道での運動性を
一台のバイクで矛盾なくまとめ上げ、とりわけ生涯のほとんどを過ごすと思われるアスファルト上での運動性能を
ノーマルGSにかなり迫るところまで引き上げたのはユーザーに確実にメリットのある実質的な改良として高く評価したい。
(ESAを装着しなければまた評価も変わる可能性はあるが)
また、非常に幅の広いパニアケースも走り出せば重量バランスを気にすることなく、
すり抜け時(ほとんどできないが)以外はその存在を忘れていられるのはさすがだ。
総じて殆どの部分が先代よりレベルアップしており、ダートの走破能力を備えた大型ツアラーとして
文句なしの出来栄えと言っていい。
(アドベンチャー用の標準シートについては試していないので不明だが)

ただし、現実的にこれだけの装備と重量が一般的なライダーにとって本当に必要なのかという疑問は残る。
BMWは「買ったその日から世界一周旅行に出発できる」と公言したが、
現実にそんな使い方をするユーザーがほとんど居ないのは判り切っていることで
大抵のオーナーにはノーマルのGSの能力で充分、
普通のバイクとして舗装路をツーリングしている分にはそれで不満を覚えることはほとんどあるまい。
つまり、アドベンチャーが持つノーマルGSに性能的に秀でた部分で日常的に味わえるのは
極論すれば航続距離の長さと防風性に集約されるわけで、価格差や取り回しなどのネガを含めて総合的に考えると
一般的な使い方にはやはりノーマルGSを勧める・・・というのはこれまでと変わらない。
このバイクは四輪で言えばランクルよりむしろハマーのような存在で、
いくら一旦動き出せば云々・・・と言ったところで本質的に大きくて重いバイクだという事実は覆しようがなく、
世界的に環境保護への意識がかつてないほど高まっている現在、大きくて重いSUVが社会的に悪者にされ
CO2排出量の高い車両が白眼視される・・・という時代は、まず確実にバイクにもやってくるだろうし
そうなった時にこのアドベンチャーはおそらく真っ先に槍玉に挙げられるバイクの筆頭格なのも事実。

だが、そこまで分かった上で「このバイクが持つ雰囲気が好き」「ただのGSとは所有欲の満たし方が違う」
「自分の使い方にはアドベンチャーでなくては」と言える向きには、お勧めすることをまったく躊躇わない。
幸い、まだ二輪を取り巻く国内の環境はこうした過剰を楽しむ行為が許容される状態にあるし
前述した通り一台のバイクとしての出来は非常によく、乗りこなせる膂力があれば買って後悔はまずしないと思われるので
この手のバイクが好きな人には現在新車で買える”極めつけの一台”としてお勧めする。

R1200GS(DOHC)
外見はデザインが新しくなったヘッドカバーくらいしか目立った変化はなく、門外漢にはどこが変わったのか
説明されないとわからないだろうほど変化は小さいのだが、よく見ていくとスクリーンのノブがようやく手で回せる大きさに大型化されたり、
ウインカーとテールライトがLED化されたりブレーキ/クラッチマスターのリザーバータンクやメーターの文字盤に
ブレーキラインのナットの色など、堅実な改良から意味があるのか理解に苦しむ変更まで細かい変更点は意外と多い。
当然ながら最大のトピックは新しいDOHCヘッドであり、HP2スポーツに続いて採用された
排気圧調整のフラップとそれを動かすシステムだ。また、メーターパネルの文字盤のデザイン変更は正直どうでもいいが
タコメーターのレッドゾーンが8500回転からと従来より500回転上昇しているのはさすがはDOHCといったところか。
ただし、誤解を恐れずに書いてしまえばバルブ駆動損失のロスさえ気にしなければこの程度のことは
従来のHCコントロールという名前のOHVでも充分に可能で、だからどうしたといった程度のものなのだ。
(DOHCのGSは110HP/7250rpmに対してR1200Sは122HP/8250rpm)
バルブ周辺の慣性質量が減った分だけバルブスプリングを柔かいものにできることとラジアルバルブ化による
燃焼室形状変更による多少の熱効率向上は期待できるが、もともとの形状も充分に煮詰められていたわけだし
充填効率はほぼ同じはずだからそれによる出力向上はどんなに甘く見積もっても数馬力程度までだろう。
また、従来のシングルカム4バルブに対する低速域でのDOHCの優位性はほとんど考えられない。
(パワーアップの大部分はマッピング変更と排気系の刷新によるはずだ)
というより、R1200系エンジンの設計段階でDOHC化のアイデアがBMWになかったはずはなく、
空冷エンジンのため冷却が厳しい排気ポートを必ず車体正面に置かなくてはいけないとか、
クランク縦置きでそれをやるとDOHCはカムシャフトの回転方向の関係でレイアウトが非常に面倒だとか
性能とコストのバランスとか、そもそもそこまで高回転まで回す必要があるのかとか、
メリットとデメリットをいろいろ考慮した上で従来のHCコントロールを選んでいたはずなのだ。
そうはいってもHP2スポーツでDOHCヘッドを載せた時点で、たかだか1000台ちょっとの生産数で
億単位の費用がかかる開発費を償却できるはずがないからその技術が量産モデルにも降りてくることは
確信できていたのだが(そこでわざわざツインプラグ化してきたのには驚いたけれど)、
はっきり書いてしまえばDOHC化の意義は開発費の償却と商品力の向上の二つだろう。
(排ガス規制への対応もあるにはあるが、ユーロ6への対応はいずれ登場する次世代ボクサーの役割だ)
従来のHCコントロールのままでも充分可能だった回転数をわざわざDOHC化して行うことで
あれだけ国内のBMWユーザーの中でDOHC待望論などがホットな話題となったことを考えれば、
販売戦略を考えたBMWの中の人はしてやったりと感じたのではないかと思う。

ライディングポジションについては従来型とまったく同じなので省略する。R1100GS以来の前後に狭いステップは
個人的にはどうも踏みづらくて好きではないのだが、アドベンチャー用と共通化しないのは防振対策のためか
それとも差別化を図るためだろうか?
さてエンジンをかけると、S1000RRよりは静かだが最近のハーレーやビューエルよりはうるさいぞ、という程の
大きな音でのアイドリングに少々驚いた。ディーラーメカに聞いてみたところマフラーは内部構造がかなり変わっており
かなりストレートに近い構造に変わったとのことなのだが、それなら納得だ。
これに排圧調整バルブを組み合わせて使えば出力特性はかなりパワーを稼いだものにできるだろう。
しかし、パワーが向上するのは結構なのだがこの音量は幾らなんでも少々大きすぎないだろうか。
極めて短いサイクルでGSを刷新したBMWの本心としてはモトグッツィのステルビオや当時FMCや発表を控えていた
新型のムルティストラーダやスーパーテネレといったライバルに対する優位性を維持したいという理由もあったはずで
排気音についてもその辺りのことを踏まえながらマーケティングリサーチを行った結果なのではと思うが
率直に言ってこの音量では深夜の帰宅と早朝の発進に気を遣うし長距離走行での疲労も増えると思われる。
国内法規には合致しているのだから大多数の潜在顧客がそれを望んでいるというのであれば
私がどうこう言う筋ではないが、このご時勢にこの音量設定はバイクの性格を考えても少々疑問に思えた。
なお、音質そのものは決して下品ではなく、まあ快音に感じられる種類の音だと思う。

さて、発進。率直に言ってしまえば発進はとんでもなく楽である。08年型からGSにのみ先んじて採用されていた
改良型のミッションには1速が低いギヤ比を含めて変更はないのだが(同じミッションを使うDOHCのRTよりも
ファイナルは1割ほど低い)低速トルクの増強には目を見張るものがあり、ほとんどKシリーズなみの鷹揚さで
ずぼらなクラッチワークでも楽々と発進できるのには脱帽だ。そこからの加速感の力強さも従来型より一枚上手で、
その気にならなくても5速1300回転が常用で使えるほどトルクが太くなった上に
ピックアップも良くなっているのでスロットルを開ける楽しさは確実に増している。
ただし、やや振動が増えた印象があり(同じエンジンを積むRTではそれは感じなかったから個体差の可能性はある)
はっきりと増大した排気音もあってどうもエンジンが多少ガサツになった感じを受けた。
しかし、停車中に2010年モデルからBMW全般に変更が適用されたという新しいディスプレイは
全体に文字が小さくて見づらくなっている上に平均時速や積算計、トリップメーターなどを切り替えて表示できるのはいいが
その切り替え表示の中に時刻までが含まれてしまいトリップメーターなどと表示を切り替えないと時計が表示されない。
はっきり言えばこれはあからさまな改悪であり、ツアラーとしての適性を低下させたと断じざるを得ない。
情報量が増えた中でできるだけ多くの情報を表示しようと努力したのは理解できるが、
やはり優先して表示すべき順位が厳然として存在するはずで、これについてはBMWの見識を疑いたくなった。

乗り心地は、これまた従来型とほとんど選ぶところがない。ESAをCONFORTにしておけば
ややダンピング不足気味だが極めて快適で、SPORTにすればツーリングにも充分使える快適さを保ちながら
適度に引き締まって運動性もクイックになるところまでほぼ共通だ。
しかし、ハンドリングは従来型とは明らかに異なっていて、まずフロントの舵の入りが良くない。
バイクが鼻先から積極的に寝ていく・・・と書くと一見良さそうなのだが、どうも四六時中ハンドルをこじって
カウンターを当てながらハンドルの舵角ではなくバンク角だけで曲がっているような感覚があってこれが何とも不自然だ。
もしかしたらと思ってリーンアウトでのオフ車乗りを試みると途端にバイクが従来型以上に軽快に倒れこんで
コーナリングも決まるようになったのだが、私の感じるところでは(イメージも含め)今のGSはあくまで「オフもまあ走れる」
オンロード主体のデュアルパーパスバイクなので、ここまでオフに振ったというか、オフロード風のハンドリングが
正解だとはちょっと考えづらい。少なくともハンドリングの自然さでは08モデルの方がずっと上である。
絶対的なコーナリング能力は従来型とそう変わらないだろうし新しいカタログ(価格を考えたら驚くほどしょぼくなった)には
”これまで実現されえなかった、遊び感覚あふれるハンドリング”と書かれているから完全に意図的に躾けられたものだが、
それを言うなら現時点でのGS系ハンドリングの頂点がHP2メガモトであることに異論はあるまい。
メガモトはある意味露骨な反則バイクなのであれと比べるのは酷とも思うが、オンロードでの楽しさを追求した結果としての
結果がこの新しいGSのハンドリングだと言うのであれば、いかにもわざとらしくて違和感を感じるというのが正直なところだ。
少なくとも、私が絶賛のあまり購入までしてしまったメガモトとはハンドリングの方向性が全く異なる。

さて、まとめ。私が以前絶賛した08年GSの、軌道修正した改良版だ。
エンジンは振動が増したとか音が大きすぎるとか言いたいことはいろいろあれど実用域でのトルクが大幅に向上しており
(緩い上り坂で5速1300回転からスムーズに加速ができる!)扱いやすさと速さを増したことは疑いないところ。
エンジンのピックアップは許容範囲で鋭くなり、乗り方を間違えなければ軽快感を増したハンドリングとともに
従来型よりもスポーティーさで一枚上手の走りが楽しめる。DOHCになってメンテナンスコストはある程度増したようだが
それ自体はまあ許容範囲だろう。
機能的に退化した部分はほとんどないので、単純に飛ばして走りたい向きにはこれでいいと思う。
ただし、もしGSを買うことになったとしたら個人的にはこのDOHCモデルよりも従来型の中古を探す。
理由は大きくなった排気音がどうにも気に食わないことと、時計が常時表示されないディスプレイはツーリングで
かなりの減点対象となること、振動や音、ピックアップの鋭さなどでおそらく長距離走行では従来型の方が
疲労が少ないと思われることに加えて、ハンドリングは従来型の方が自然で素直なことと08年型のGSで
せっかくレギュラー対応になったエンジンがまたハイオク指定に戻ってしまったことが挙げられる。
いろいろと機構的に改良が進んだのは認めるが、どうも今回のMCはライバル車を横目で見ながら
潜在顧客を横取りするためにエンジン特性にしろハンドリングにしろわかりやすいスポーツ性に振ったように思えるので、
そこのところが個人的には如何にもマーケティングに迎合した志の低さに感じてしまう。
極めてよくできた万能バイクなのは間違いなく欲しい人に勧めるのも躊躇わないが、従来型の低速トルクの細さに
どうしても我慢ができないか、GSの格好のままワインディングでの戦闘力を高めたいという方以外には
わざわざ買い替えをお勧めする気にはならないというのが正直な感想だ。

R1200GSアドベンチャー(DOHC)
従来型との相違点のみ。
GS同様外見の変化は極めて小さく、BMWに詳しくない人には新旧の相違点を挙げさせるのは間違い探しをするようなものだ。
新味がないと言えば言えるが、もともとGSアドベンチャーのスタイルには定評があるから
無理して変更する必要もなかったということなのだろう。従って外観の機能面での変化もスクリーンのノブや
私が改悪されたと断言しているディスプレイなどGSに準じるので、これについてはひとつ上のGSの項目を参照されたい。
ESAについても基本的に変更はないのだが、あの大柄な車体をもう少しとっつきやすくする方法として
ESAを応用できないものかとは思う。
ローシート仕様は不明だが、BMWの車体は確か身長185cmを標準身長として想定していたはずで
(その割には近年妙に小柄なポジションのモデルが多いのは事実だが)国内メーカーが設計標準身長を
165cmにしか想定しない小柄な平均的体型の日本人にとっては重量も含めてかなり大柄な車体なことは間違いない。
私は「バイクは力でなく、バランス感覚と技術で操るもの」と考えているので自分では足つき性などは
ほとんど気にしないのだが、現実にそれができる人がそれほど多くはないのも事実。
立ち転けのリスクを避けるためにも、ESAのプリロード調整を車高を伸ばすばかりでなく車高を落として
足つき性を向上させるモードを追加するなどしたら日本では大ヒット間違いなしだろう。
もし実現したら愚にも付かない出来の悪いローシートより余程有効ではないかと思うが、
現状では無い物ねだりでしかないのは残念なところだ。

さてエンジンをかけた時の些か元気が良すぎる、良く言えばワイルドで野生的、悪く言えばうるさくて品がない排気音は
当然ながらGSと共通。ただし車重がGSより30キロ重いこのアドベンチャーの場合、従来型では発進と低速走行時に
ややトルクの細さを感じることがあっただけに、低速トルク増強の恩恵はより顕著である。
実際のところ発進の力強さはDOHCが一人乗り状態とすれば従来型は二人乗り状態くらいの違いがあり、
クラッチやスロットル操作に神経を遣わなくて済む分精神的にも楽になっている。
低速トルクが太った分高いギヤの使い方はかなり融通が利くようになり、
一般道のとろい流れを5速に入れっぱなしでクルーズするような走り方も(速度にもよるが)難なくこなす。
RT並みと云われる防風性についてはカウルとスクリーン形状が変わったDOHCのRTにはさすがに負けると思うが、
120キロ程度で走っている時にスクリーンで整流された風がヘルメットの直上を舐めるように通過していくのには
「さすがに素晴らしいエアマネジメント・・・」と正直唸った。乗り心地はESAの状態を問わず全体にかなり優秀で
重い車体がゆったり動く感じが好印象・・・なのだが、リヤの伸び側減衰が全体に強めな感があり、
リバウンド時に後輪が全体にバタつき気味だった。試乗車はパニア非装着状態だったので
GSアドベンチャーオーナーの半分以上が装着するであろうアルミの専用パニアケースを装着して後輪荷重が増えた場合に
このリヤサスがどういう挙動を示すかは不明なのだが。(重量バランスが改善し、挙動が好転する可能性はある)

一方ハンドリングについては、率直に言ってしまえばDOHCのGSの劣化版ということになる。
もともとアドベンチャーは重量があるためGSに比べて挙動が良くも悪くもおっとりしており、
それが絶対性能はともかく神経を尖らせないツアラー然とした大らかな乗り味につながっていて今回もその流れに変更はない。
かくして、ハンドルは軽いが車体の動きに妙な質量感があってバンキングが自然ではないDOHCのGSのハンドリングを
全体に緩く鈍く重くしていくとこうなる、というハンドリングになってしまっている。
DOHCのGSではリーンアウトで乗ってハンドルをこじってやれば車体はすっと軽快にバンクしたのだが
フロント周りの重量が増えたアドベンチャーではさすがに同じようにはいかず、結果としてハンドルをこじってやれば
車体は一瞬遅れて強くはないが相応の重さを感じさせながらゆったりとバンクしていく、という感じだ。
従来は一連の動きは重いが重量車として自然なものだったのが、
今回は重さはそのままねっとりとした不自然さを伴っているのが個人的には評価を下げるポイントになった。
ただし、ESAをスポーツモードにすることで車体の緩慢な動きはある程度補正できるしエンジンのパワーアップの恩恵で
スロットルコントロールによる車体の姿勢制御もやりやすくなっているので、好みを別とすればそう実害があるわけではない。
全体として評価するならばエンジンのパワーアップによりあらゆる状況下で扱いやすくなり細部の熟成も進んだが
ハンドリングは(好みはあれど)悪化し、ガソリンがハイオク指定に戻ったりディスプレイ表示の改悪に排気音の増大など
気に食わない部分も散見されるといったところ。
個人的には従来型の方が好みではあるものの、パワーアップによって扱いやすさと振り回しやすさが増したことにより
機械としての総合的な完成度が向上し、より広範囲に楽しめるようになったのは事実。
ハイオク指定にどうしても我慢できない向き以外にはやはり総合力に勝る新型を勧めたい。

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