ある速度違反とその後

2000年9月某日に、会社の車で移動中だった私はレーダー式の速度取り締まりにひっかかりました。現場は対向車も歩行者もなく、見通しの良い広い直線道路。制限速度50キロのところを66キロで走っていての検挙です。
そのとし7月にもRSで速度オーバーで捕まった時は「これは捕まっても仕方ないな」と黙って罰金を支払った私でしたが、今回は「私の走りのどこが危険なんだ?」という疑問がまず先に湧いてきました。走りが法律に違反しているのはまあ認めるとして、適法でさえあればどんなことでも受け入れられる程には私は人間ができておりません。「これは断固抗議するしかないな」と腹を決めてから白黒ワンボックスカーの中に向かいました。

お定まりの説明を聞かされましたが、今更です。途中で遮って
「16キロオーバーは”軽微な違反”ですから、罰金納付と免許証の減点という処分ではなく警告による指導が適性ですよね」と
こちらの主張を展開することにしました。
これには立派な根拠があって、過去に以下のような通達が存在します。

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警察庁依命通達(昭42・8・1 警察庁乙交 警察庁次長)
(略)
1 交通指導取締りに関する留意事項

1)交通取締り指導のあり方

 交通指導取締りにあたっては、いわゆる点数主義に堕した検挙のための検挙あるいは取締りやすいものだけを取締る安易な取締りに陥ることを避けるとともに、危険性の少ない軽微な違反に対しては、警告による指導を積極的に行うこととし、ことさら身を隠して取締りを行ったり、予防または制止すべきにもかかわらず、これを黙認してのち検挙したりすることのないよう留意すること。

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これが果たして守られているかはともかく、いいこと言ってくれます。この時通達が出された正確な日時までは覚えていなかったのですが、これを引き合いに出して「従って今回は警告が適当でしょう」と言ったわけです。
ですが警官は「そんな通達は無い」と言い返してきたので、こちらも引くわけにはいきません。
「あなたは知らないかもしれないがそういう通達が実際にあったんですよ」と切り返します。
すると警官は「つまり、あなたは違反したことは認める、でも取り締まりに納得がいかないということだね」と聞いてきたので
私が「いかにもその通りです」と返答すると、青紙を取り出して各項目をいろいろ書き込んだ上で
「じゃあ、ここにサインして」と促してきます。後日調べたところここでの抗議の仕方はいろいろあり、
私の取った方法はかなり面倒な部類に入るようだったんですが、
この時には「切符にサインしてしまったら違反を認めたことになる」ということが念頭にあったので
「この切符は行政手続きを簡略化するために導入された制度で、拒否することもできたはずです。サインは任意でしたね」
と確認してから「じゃあ、サインしません」と言い切りました。

いや、警官の態度が一発で変わりましたよ。翌日同じ場所を通って見たらその日もしっかり取り締まりをやっていて、
レーダーの担当者は薄汚れた私服に麦わら帽子に手拭とバッチリ地元農民のスタイルでキメていて大爆笑してしまったんですが、
そんな姑息なことをするような警官なら対応もロクなものではありますまい。
「それなら調書を取ることになるよ」と言われ、私も納得して調書作成に移りました。
ですが、調書作成の途中に余計なことを言われること言われること。それに供述を中断してまでいちいち対応する律儀な私でしたが(笑)
「裁判になるよ」
「あまりやりたくないですけど、必要となればやむを得ませんね」
「前科一犯がつくよ」
「赤切符だと罰金を納付しても前科一犯ですし、その前科は確か3年で消滅しますよね。それが何か?」
(注・後日指摘されて判明しましたが、前科が消滅するまでにかかる期間は3年ではなく5年でした)
「裁判になった時の私たちの足代まで持つことになるよ」
「その時はできるだけ安く上げてください」
「免許証は取るものではなく国(正確には公安委員会)から許可されるものだよ。許可しているところの決まりには従おうよ」
「その決まりが全て正しいとは限りませんが」
「だったら、国を相手に裁判をやってみるといい。国の中で個人の力がどれくらいのものか知ってみるといい」
「実際、一度やってみたいんですけどね」

うーん。改めて文章起こすと、私ってこんなにふてぶてしい奴だったのか(^^;)
でもたびたび脱線しながらも調書作成は一応続きます。
「あなたは免許証を取る時に、違反するとどうなるかは教わったでしょ」
「ええ」
「あなたは免許証を持っておきながら、そのルールには従わないというのかね」
「こちらは申し訳ないがあなた方の取締りに納得ができないのです。この青切符にサインするとそれを全面的に認めたことになる」
どう考えても調書作成している時間よりお互いの意見のビーンボールのぶつけ合いキャッチボールの方に費やす時間が長かったように思えるのですが、しまいにはエキサイトした警官(ちなみに階級は巡査部長でした)が
「道交法は国で決められた法律なんだ。法律は憲法で決められてるんだ。日本人として憲法を守らないということは・・・」
などとちょっぴり突き抜けたことまで言い出したので、
私も「そんな本題に外れたことはいいから調書作成を進めて下さい」と言って彼らの職務に戻っていただきました。
ですが、時間は過ぎていく一方。そろそろ私も本業の方に戻らないといけません。それに一晩じっくり考えることができれば、今後どうなるにしろいろいろと有利でしょう。
そこで私は「もう後の仕事が詰まっているし、今は興奮してきちんと説明ができないかもしれない。今日はここまでにして調書作成を明日にしてもらいたい」と要求しました。
警官は「こちらは随分あなたの言うことを聞いているんだからあなたもこちらの言うことを聞いてくれないと困る」と言います。ごもっとも。
でも、逃亡や証拠隠滅の恐れなどがない場合には本人の了解無しに拘束しての取り調べは原則としてできません。結局その時点まで起こったことに対しての調書を作成して、あとはひとまず翌日ということになりました。
その後で警官が「違反は1点で反則金は12000円。もし過去二年間に無違反だった場合には3ヶ月間違反が無いと点数の減点は消滅します」と義務的に親切に説明してくれましたが、最初に書いた通り私はこれより二ヶ月前に速度違反で捕まっています。
「以前28キロオーバーで捕まっているから、残念ながらそれはないですね。その時には青切符にサインしたけど」
我ながら馬鹿正直なのか地雷を踏むのが大好きなのか呆れましたが、どうせ警察が私の免許の履歴を本気で調べれば一発でわかることです。
案の定「じゃあなんで今回はサインしないの。28キロなら良くて16キロなら駄目だなんて、そんなことは筋が通らないよ」と怒声が飛んできました。
ですが警官に筋が通ろうと何だろうと私は自分の理性と良心回路に照らして良かれと思うことをやるだけなので、
「あの時には確かに他の車をびゅんびゅん追い抜いていて、自分でも悪いと思った。だから素直にサインしたけど、今回は悪いと思えないからサインしません」と言いきっておきました。
その後外にいた警官(こちらは警部補だった)が
「20年この仕事をやっているけど、あなたみたいな人は初めてだ」と呆れたのか感心したのか、率直な感想を言ってくれます。
「明日はちゃんと来いよ」と言われたのでちょっとはましな気分になって
「ええ」と返事したのですが、すかさず中に居た下級官吏巡査部長殿が
「逃げるなよ!」と余計なことを言って下さいやがりました。
最悪でも罰金12000円を払っておしまい(裁判になったからといって刑罰が最初の罰金刑より重くなることはない)の事件から、誰が逃げるもんですか。反則金納付書と未署名の青切符を受け取り、「それでは」と言って帰ってきました。

さて翌日。あれから自宅で法的知識を一夜漬け勉強した成果が実戦で試される機会です(笑)
約束通りの時間にやってきました某警察署。交通課の中に入って用件を告げると、奥の取調室に案内されました。二畳間くらいの縦に細長い部屋で、窓には格子がはまっていて刑事ドラマそのまんまです。窓は開いていたんですが、携帯を見るとしっかり圏外になってました。ちぇっ。

さて、今回の相手は昨日車外に居た警部補です。
今度はどんなことを言ってくるかと思っていたら、まず事実関係の確認からでした。それはあっさり終わって、続いて罰金を支払わせるための説得タイムです。以下やり取りを一部抜粋。

「だから、速度違反は危険なんだよ、わかる?」
「ええ、運転者が制御できない速度、想定される突発的自体に対応できないような速度だと危険ですよね」
「それが法定速度なの」
「そうですか?道交法が制定された当時には当時の道路状況や車の性能なども考慮し、実際に速度試験を行った上で安全だと認められるほぼ上限の速度を定めていますよね。それから道路舗装の水準も自動車の性能も当時とは比較にならないくらい向上して、当時では危険だった速度も楽々出せるようになってますね。法定速度を超えたからといっていきなり危険になるとは考えられないんですけど?」
「免許を取る時に習ったでしょ。自動車はブレーキをかけて止まるのに時速1キロあたり0.6メートル、時速50キロだったら止まるまでに30メートルもかかるの。おたくみたいに66キロも出してたらそれが大体40メートルくらいになるでしょ。充分危険じゃない」
「教習所で教わる自動車の性能水準は昔のままだということをご存知ないようですね。運動エネルギーは速度の二乗に比例して増大しますから一概には言えませんけど、当時はともかく現代の車は時速1キロあたり0.3〜0.4メートルで止まれますよ。車よりブレーキ性能の劣るバイクでも、高性能なものなら1キロあたり0.4メートルちょっとで止まれます。実際にはそれに人間の反応速度平均0.2秒の空走距離が加わりますが、それを考慮しても0.6メートルはかかりすぎです。道交法の目的に「交通の円滑な運行に資する」とある以上、基準を低いまま留めておき取り締まりの根拠にすると言う考え方は全体の利益に反する考えで納得できませんね」
「スピードが出ると事故になったときに被害が大きいし、事故の確率も増えて危ないんだよ」
「高速道路で時速100キロの走行を認めているということは、事故の被害そのものに関しては法的に問題としていないか、やむを得ないとしているのと違いますか?それに事故の確率と言われましたけど、全交通事故の中で速度超過が原因となって起きている事故は全体の2%程度ですね。死亡事故に限って言えば17%だそうですが、それより事故原因の8割を占めるわき見運転などの不注意の方がよっぽど重要ですよね。それにあの見通しのよくて、歩行者もいなかった場所を16キロオーバーで走行したことが私にはどうしても危険だったとは思えないんですが、そこのところを説明してもらえますか」
「違反者を検挙するでしょ」
「ふむふむ」
「違反した人は当然として、その様子を見るドライバーも「ああ、ここでは取り締まりをやっているんだ」と思うでしょ」
「なるほど。それで?」
「そうしたら、その地域で速度違反をする人が減って安全になるんだよ」
「あなた、それ本気で言ってるんですか?」

しかし、彼は自説の正当性を信じて疑っていないようでした。今回相手した警官に限って言えば、まず法律が絶対正義としてあって、それが現状に即しているかとか国民の役に立っているかといったことは関係ないというか、最初から疑念の余地無しなんですね。思考が停止しているというか、法の守護者として正しい態度というか、とにかく1キロでもオーバーしたらその時点で悪であり、犯罪だという認識なんです。
昨日の警官よりはましかな・・・と当初淡い期待を抱いていた私でしたが、激しく甘過ぎでした。やっていたのは昨日と同じで、お互い違う的を狙ってボールを投げ合ってただけです(^^;)
とはいえ、そんなことが延々と続くと精神的に消耗してきます。向こうはプロですし、最初から裁判を覚悟しているこちらは言質を取られないよう気を付けまくって喋りますから、持久戦は(そもそも)圧倒的にこちらが不利。それでもニ時間しゃべりまくって、遂に向こうも説得を諦めました。
「わかった。じゃあ裁判やろう」
こんな奴と裁判か・・・嫌だなあと思いましたが、口には出しません。とりあえず疲れたので、ちょっと考えをまとめるからと休憩してもらいました。そうしていると、外に出ていった警官の話し声が聞こえてきます。
「随分偉そうなこと喋ってたけどな、裁判やろうって言ったら慌てた様子で「時間くれ」だとさ」それに続いて回りの笑い声が聞こえます。
疲れて正直どうでもいいやと思いかけていたんですが、こういうこと聞くとファイト湧きますねえ。改めて「断固、サインはせん!」と自分に言い聞かせてから再開です。
で、調書を全部取ったんですが、ワープロを打つのはあちら。供述書の内容がこちらの都合の悪いように書かれる場合も考えて、自分に不利だと思われるところは徹底してチェックを入れました。やっぱり、少しでも警察が有利だと思わせるような書き方になってましたからね。危ない危ない。「ここが抜けてますよ」「ここはこう言ったでしょ。ニュアンスの違いってあるじゃないですか」などと言いながら、全部直させた上で今度はしっかりサインをしました。
それからどうせならと、取り締まりについても色々と質問です。
最初は「君、過激派とかそういう思想の持ち主じゃないだろうね」と言っていた(まあ、あからさまに右寄りではあるけど(^^ゞ)警官でしたが、最後にはわりと打ち解けた様子で質問に応じてくれました。
主要な問題はやはり取り締まりについて。こちらとしては暴走族があれほど放置されているのに一般人ばかり取り締まっていては不公平感がつのるばかりだがどう思っているのかというところが聞きたかったんですが、それに対しては
「やってないわけじゃないんだよ。でも連中は抵抗するからね。こちらもそれなりの態勢や方法でないと取り締まりできないけど、今はちょっと怪我でもさせるとすぐに新聞やテレビで叩かれるでしょ。だから今のところあのくらいが精一杯だね」という、実に正直な返答でした。
「要するに、奴らは手強いから野放しだけど、それに比べて一般人は組しやすいからしっかり取り締まってるってことかいっ(^^#)」
という言葉が喉のところまで出かかりましたが、ここで言ってもストレス解消以外の役に立ちません。そんなことなら首相官邸に意見メールでも送りつけた方が余程有効ですから、「それじゃあいつまで経っても取り締まりに国民の支持は得られないと思いますよ」とだけ言って帰ってきました。
ちなみにかなり疲れたので、「カツ丼でも取ってくれや」と言う余力は残念なことに残ってませんでした(^^;)

さて、話はもう少し続くのであります。私は「気が変わった時のために」と国庫への納付書も渡されていましたが、ここで払ってしまったらこれまで何をしていたのか分からなくなります。当然納付書は使わずに置いておいたのですが、そうするとそれから約二ヶ月後、自宅に納入がまだなことを知らせる通告書と、前後して配達証明付きで納付書が再度送られてきました。今度は郵便代が加算されて12800円となっていて、金額が増えている事実がプレッシャーを煽りたてますが、やっぱりそれも無視です。


これです。800円増えてます。

そうしていると12月になってから、とうとう最終通告が送られてきました。


これです。最終回の赤字が否応無しに緊張を高めます(^^;)

さすがに相応のプレッシャーはかかりましたね。でもやっぱり無視です(^^;)
その後は、何事もありませんでした。調べるのも面倒だと思ったので確認はしませんでしたが、不起訴処分になっているはずです。正式に起訴されればほぼ確実に有罪で罰金12000円の支払いを命じる判決が下されていたと思いますが、おそらく検察庁も「こんな事件呼び出して事情を聴くまでも無い」と判断したのでしょう。つまり実質無罪で、12000円の支払い義務も消滅しました。免許の点数だけは二点引かれていて(道交法に関係した司法の処分と免許証に関係した行政の処分は別のため)これに関しても一応取り消しを請求できるのですが、拒否される可能性が高いとのことで今回は見送りました。

で、それから一年間無事故無違反で通した私は免許の点数を元に戻したのですが、それから1週間後にまた捕まってしまい(この時は納得のできる内容だったのですぐに反則金を納入しました)あえなく残存点数が3点に(T_T)
自業自得ですが、まったく涙ちょちょ切れましたね。これがきっかけになってミラーの交換計画が一気に進んだわけですが、それはまた別の所で。皆さんも安全運転で宜しくですm(_ _)m

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