ディーラー雑感
(写真と本文は一切関係ありません)

BMW正規ディーラー。
全国各地に展開するBMWの新車や中古車、純正パーツ、用品を販売する店舗であり、経験豊富なノウハウに裏付けされた高度な技術で整備や修理を行い、各種イベントの窓口であり、旅先で往生したBMWライダーを暖かく出迎えてくれる場所です。スタッフは豊富な知識で客の相談や質問にも適切な助言や回答をしてくれて、BMWのことなら安心して全てを任せておける、べきところです。

ですが、いろいろなディーラーを訪れてみたところ残念なことに必ずしもそうとばかりは言えない店も幾つか体験しました。
客を客とも思わないような店、明らかな手抜き整備を行った店、単純作業に法外な整備工賃を要求する店など、不愉快なことも幾度か体験しています。
某ディーラーで「これはうちの店で販売した車両じゃないから整備はお断りします」とオイル交換を断られたのがきっかけでBMWに嫌気が差してF650を手放してしまったライダーを私は知っていますが、私もそれと近い体験をしたことはあります。
これなど個人的には論外とも言うべき話です。

たとえば東京トヨタで新車を買った人が、どこか地方にドライブに行った際に運悪く旅先で故障に見舞われ、地元のトヨタ店に駆け込んだとします。そこのディーラーメカニックの人が故障した車を持ち込んだ客に向かって
「おたく、東京トヨタさんで買われてますね。うちは他店で買われた車両の整備は受け付けてないので東京トヨタさんまで持っていって修理していただけますか」と言ったと考えてください。或いはオートバックスでタイヤを交換した人がディーラーに点検を出すついでにタイヤに窒素ガス充填を頼んだとします。その時にディーラーメカニックの人が
「タイヤを他所の店で交換されましたね。窒素ガス充填はうちで交換した車両しか受け付けていないんですよ」
と言って断ったと想像してみましょう。
そのお客がトヨタ本社に怒鳴り込んだら、話はいろいろな部署を経由してその店に伝わり、多分その店のディーラーフロントはほどなく更迭されてしまうことでしょう。
これに類する話はBMWのディーラーでも実際にあるのですが、その店のスタッフが代わったという話は聞きません。BMWだとどうしてそうならないのか、店舗規模が違うということは別にして思うところを書いてみましょう。

まず、二輪車販売業界が四輪と比べて相当に未成熟だということです。訪問販売を繰り返し、欲しくもない客をあの手この手で買う気にさせることで大きくなってきた国産四輪業界(輸入車業界はそうとも言えませんが)と、基本的に買う気充分で来店する客を相手にしてきた二輪業界(二輪の輸入車業界は特にそう)とでは、買い手市場と売り手市場という根本的な違いがあります。どこでもそうですが、主導権を持った方が強い立場に出られます。

私はトヨタ店で営業をやっていた時に販売手法にしろクレーム時の対応にしろ「何故ここまで客に対して下手に出ないといけない?」と思うことが多々ありましたが、一歩引いて周囲を見渡せば他社も同じことをやっていたんですね。過剰なサービスでもそれに客が慣れきって普通になってしまっていましたから、他社との厳しい競争に勝つためにはサービスで他社より上を行かなくてはいけなかったんです。「車本来に魅力があればそんな必要は〜」といった類の話は脇に置くとして、トヨタでの販売手法として要求されたのは徹底したお客様至上主義でした。

これは私が実際にやった(やらされた)ことですが、二輪のディーラーが顧客の家族の誕生日と年齢を全部把握して誕生祝や進学祝をその都度持っていったりしますか?
時間指定で夜の11時に店舗から遠い客の自宅まで商談に呼びつけられ、ほぼ話がまとまったところで客から
「じゃあ、今日は日取りが悪いから契約書は大安の日にな。また同じ時間に家まで来て」
と言われた時に同行したセールスマネージャーともども一切文句なしでお礼だけ言ってその場を辞しますか?
個人的にそれは客を甘やかし過ぎだと思いますが、しかし私が居たのはそこまでしないと競争に勝てない世界でした。

こんな環境で生き残り競争をしていれば、自然と客への応対は丁寧になります。
逆に言えば、二輪の業界(BMWに限らず)は同業者との競争が緩くて口やかましい客にあまり鍛えられてないから店の態度が平均してデカイんです。
四輪と比べて顧客の平均年齢も低めで固定顧客の囲い込みも少ない(勿論無いとは言いません)二輪業界はそれで通用してしまうんですね。客も総じてあまり厳しい要求をしませんし。
ですが国産四輪でエンジンオイル交換を薦めたら
「そんな大事なもんを交換せんといかんような車作るな!交換してもそんな金なんか払わんぞ!」
と言って本気で怒り出す客は、決して笑い話の中だけの存在じゃないんです。
トヨタ時代に当時の私の上司が会社の昼休みにショールームの隣にあったDUO店を見ながら「VWやアウディ売ってる連中みたいに「オイルは減る物です」なんて台詞を一度でいいから客に言ってみたいなあ」としみじみと話してくれたことがありましたが、
「1000キロ毎に1リットルまでのオイル消費は正常です」が通用してしまうBMWの顧客がいかに寛容であることか。

更に。
正規ディーラーのいい所は全国どこに行ってもある程度均質のサービスが保証されていることですが、同時にそれは「ディーラー一軒一軒がメーカーの顔だ」ということでもあります。私はトヨタ時代に「客のところに行ったら、お前がトヨタそのものだ」と教え込まれましたが、この場合各地のディーラー一軒一軒が客にとってのBMWであるわけです。
つまり一般顧客がディーラーにまず要求するものは「この店はBMWのディーラー」ということなんです。
BMWのオーナーだったら自分はBMWの商品を買ったのだからBMWの客で、ディーラーがBMWそのもの。
だから、BMWのオーナーはBMWの客なんだから全国どこのBMWのディーラーでもお客さんとして暖かく出迎えてくれて当然、となるわけです。
ただ、そうは簡単にいかないのが難しいところ。
いくら均質化を目指しているといっても結局は人と人との付き合いですし、日本のディーラーはメーカー経営ではなく互いに独立した個人経営の販社です。
従って付き合いはあっても他店はあくまで他店で、決してわが社じゃありません(グループ経営したり支店を出している店は勿論除きます)。店にしてみれば自分の所で車両を買ってくれた人は自分を儲けさせてくれた人ですからそれなりに嬉しかったり恩を感じていたりもするわけで、そういう客と他店からの飛び込みの客との対応にある程度の差が出てしまうのはまあ仕方ない面もあると思います。

今も昔も自動車屋/バイク屋の最大の収入源は新車の販売です。次が中古車の販売。店によっても異なりますが次は大抵用品の販売です。整備なんて設備投資や人件費などの経費がかかるばかりで工賃をしっかりもらわないと大して稼ぎになりません。
だから、整備だけの客なんて大して店を儲けさせてくれる訳じゃないし、面倒なだけで客じゃない。自分から車を買ってくれた客だけは責任持って面倒を見るけれども、そうでなければ整備なんてやらない・・・というのは以前個人経営の某自動車販売店で他店購入車両の整備をしない理由を聞いた時に言われた話ですが、確かに一国一城の主として独立してやっている店ならそれは他人が文句を言う筋合いじゃありません。
でも前述したように正規ディーラーの看板を揚げている以上、それは客にとっては身勝手な論理でしかありません。
客商売がどういうことか分かっていない店が町のバイク屋としてそれまで自分の好きなように店を営んでいても、一度BMWの看板を掲げた以上は自分流ばかりではやっていけないことがあるはずなんです。
メーカーとディーラー契約を締結するということはメーカーからの様々な援助を受けられる代わりにメーカーの考え方も受け入れてそれに従うことだと個人的には思うのですが、それが必ずしも徹底されているわけではないのが現状なのでしょう。
実際BMWジャパンがディーラーをより良くしていこうと様々な努力をしているという話は私も聞いているんですが、一般顧客に目に見える形で出ていなければダメです。ユーザーにとって身近にあるディーラーこそがBMWそのものですから。

もちろん、冒頭に書いたような条件を満たしているいいディーラーも数多くあります。でも全てのディーラーがそうだとは言えないことをBMWの一オーナーとしてとても残念に思いますし、どこもいいディーラーであって欲しいと願います。
私は、いいディーラーさんといいディーラーであろうとするディーラーさんを応援しています。

戻る