乗鞍スカイラインの規制について

平湯峠から日本の道路の最高所・海抜2702メートルの畳平駐車場までの1060メートルの高低差を、総延長14.4キロメートルの間に一気に駆け上る日本屈指の山岳道路、乗鞍スカイライン。コース自体が爽快なワインディングなのは勿論のこと、北アルプスの山々の偉容を視界に留めながら雲海を突き抜け森林限界も超えてただ上へ上へと駆け上がっていく快感は実際に体験すると筆舌に尽しがたいものがあります。
それだけに訪れる人も多く、山頂の駐車場が空く順番待ちで入り口の料金所のところまで続く大渋滞がシーズン中の昼時ともなればほとんど恒例化していたのもまた事実だったのですが、ともかくそのお陰で多額の建設費も昨年めでたく回収されました。
かくして日本の有料道路行政の基本原則である「償還後は無料開放」に従い、乗鞍スカイラインも来年2003年からビーナスラインのように無料化される・・・ということには、なりませんでした。
無料化すると通行車輛が当然増えます。従って渋滞は今よりいっそうひどくなることが予想されます。となると観光客と排ガスの増加によって環境破壊が進むという事態が想定されたために、来年から乗鞍スカイラインは一般車輛が通行禁止となりバスとタクシーの専用道路となります。
県道乗鞍岳線を有する長野県側もそれに追随する形となったので、一般人が自分の車で乗鞍を走れるのは残念なことに今年が最後となってしまいました。

私も環境保護の観点から規制すべしという意見に一理があることは認めます。自然を守ることは確かにとても大事です。しかし、道路を作って無料化すると交通量が増えるから通行禁止にするというのはあまりにも利用者不在の決定。単に感情論では説得力に欠けそうなので、思いつく要因をちょっと挙げてみましょう。
まず、目的地に見るべきものが集中している上高地などとは違い、乗鞍の場合は途中にも見るべきものが多数あることが挙げられます。自由に停められないバスやタクシーではそれらをおそらく見られなくなります。もともと自転車は通行禁止でしたから逃げ道ナシ、ですね。
次に、当然ながら自分で運転ができないこと。世界有数の自動車/バイク生産国であるにもかかわらず走りを楽しむという価値観が未だに公権力によって抹殺されているお国柄ですから「運転の楽しみを奪わないでくれ」なんて声が関係者に届く可能性は期待するだけ無駄ではあるんですが(ヨーロッパだとGPレースをやる時には集まってくる走り屋ライダーが無理して怪我しないように一般道のコーナーには臨時でスポンジバリアなどを取り付け、警察は白バイで腕のいい人ならついていけるようなハイペースで飛ばしそうな道を先導してくれるんですぜ)、駐車場に到達するまでの道程の走りを楽しんでいた人にとってこれは行く意義の根幹に関わる問題です。
また、通行費用の負担増が予想されることも挙げられます。これはタクシーにするかそれともバスかといった選択肢や同行者の人数によっても変わってくるから一概には言えませんが、結構な負担金額となることが予想されます。
更に、高所での渋滞は緩和されても下界の駐車場と付近の道路は混雑が予想されること。広い駐車場を持たない長野県側では渋滞が悪化する可能性も充分に考えられます。渋滞の排ガスによる環境破壊の増加は下界ならいいのかという論議もありますが(確かに高地より低地の方が自然の自浄作用は高いのですが)、それを避けるために新たに森林を切り開いて駐車場を作ったりすればそれこそ環境破壊ですし。乗鞍の自然環境悪化とそこを走る自動車からの排ガスとの因果関係はまだ科学的に証明されてはいないことも蛇足ながら付け加えておきましょう。
まだあります。一般車輛は通行禁止とし、バスやタクシーは自然環境を保護するために低公害車輛を運行すると表明しているにも関わらず、排ガス垂れ流しのディーゼル観光バスは来年もブイブイ登っていけます。環境保護の美名の元に排ガスのクリーン化がどんどん進んでいる一般車輛さえ排除する強硬な姿勢を打ち出しながらも、一方では排ガスの有害物質の最大排出元である観光バスを野放しにしてしまうところに個人的には観光財源を確保したい助平根性大人の事情が見え隠れしているのではないかと思います。

どちらにしても、もともと車を走らせるために作った道路を一律通行禁止にするというのは如何にも杓子定規な考えで、はっきり言って横暴です。例えば予め台数枠を作っておき、事前届け出制にして許可を得た車輛には走行を認めるとか、排ガスゼロの電気自動車は無条件OKにするとか、あるいは無料化せずにむしろ多少の値上げをして通行量を減らし、収入を全額環境対策費に充てるとか、もっとましだと思われる方法は素人の私にも幾らでも考え付くんですが、現実は建前優先の一元論。乗鞍を愛するライダーの一人としては如何にも嘆かわしいことです。

ともかく、泣いても笑ってもこの道を走れるのもあと僅かの間だけ。私の地元、岐阜県が誇るこの道を今のうちに是非とも走っておかれることをお薦めします。渋滞していない早朝のうちに到着して晴れ間さえ拝めれば、満足度は保証いたしますので。

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