高速道路行政について私見

現在、政府の肝入りで高速道路の改革についての論議が盛んに行われていることは周知の事実です。
赤字を生み続ける不採算路線の建設、日本道路公団の体質、などなど様々な事が問題点として挙げられ、
改革するためにはどうすればいいのかという方策が、不採算路線の建設計画中止を柱として策定されつつあります。

確かに算盤勘定でいけばそれはおそらく正しいのでしょうが、行政とはそれだけではないのもまた事実。
私は特定政党を支持したりしておらず(嫌いな政党はありますが)特定団体との利害関係もありませんので、
それが実現可能かどうかはさておき、こうしたらいいのではないかと思うところをちょっと述べたいと思います。

まず、都市部の道路建設を優先させる事には一定の理解ができます。
私は東京で居住歴のある地方在住者ですが、大都市の道路網が地方(というか、田舎)より随分整備されてはいても、
走行台数がそもそも違うために実質的には地方に比して相当貧弱なものになっているのは事実。
地方にはまだまだ道路の整備を必要とする地域が多々あるのは承知の上で、
全体の利益を優先して敢えて優先順位をつけるならば都市部が先となるでしょう。
道路は国家の財産ですし、その道路が機能する事は道路行政の基本中の基本。
例えば東京の環八と環七の渋滞が無くなれば、億単位の経済効果など楽勝で出てきます。
もちろん高速道路でもそれは同じ事。

従って、ETCなどは止めるべきです。ゲート一つに億単位のお金をかけて全国に配備する予算があればその分借金を減らすべきですし、
そもそも全部無料化してしまえばETCはもちろん、ゲートそのものが無用になって料金所渋滞は一気に解決します。
ETCを普及させるためにハイウェイカードの割引制度を廃止しようという愚にもつかない答申を出すよりよっぽど社会の役に立つでしょう。
まああのシステムはそもそも料金所という事故の発生し易い地域で車線ごとの速度差を作り出すという、
事故防止の観点からするとかなり根本的な問題を内包しているのですが。ナンバーが確認、管理できないために二輪は置いてけぼりですしね。
とはいえ、高速道路料金無料化が今日明日にできるものではないのが残念ながら現実です。責任の所在はおくとして、
渋滞緩和だけを考えるなら高速道路の一定区間ごとに開閉式のゲートを設け、上りと下りの車線で行き来ができるようにするだけでも
問題は多少ましになるはずです。事故が起きたりしてやむを得ず片側を閉鎖する場合には該当区間のゲートを開け、対面通行を実施。
正月やお盆はラッシュの時期に合わせて車線数を変動させて処理能力を向上させれば、
10キロ以上の料金所渋滞もかなりましになるはずです。お盆のUターンラッシュのピークなど、下り線は一車線あれば充分でしょう。

ただし、国策には国の安全保障という観念が付いて回ります。
ドイツのアウトバーンはもともと戦争状態になった時に航空機の離発着ができることを想定していますし
(ヒトラーがそのように指示しています)、お隣の韓国でも有事の際高速道路はすぐに軍用機の滑走路に早変わりできるよう
幅100メートル、長さ2000メートルの中央分離帯が存在しない直線区間が一定距離ごとに必ず設けられています。
ここまではいかなくとも、地震や津波など大きな災害の際にライフラインの確保は必須条件となるのですが、
どうも今の建設中止一辺倒の改革論議にはその辺の思考がすっぽり抜けているようで、些か心配ではあります。
こういう問題は損得を度外視して取り組まないといけないため民間では難しく、国としての明確な方針が必要となるのですが。

更に分かり易いところでは、建設する業者の選定時に外国の業者も参入可能にするべきです。
アクアラインの工事をフランスの業者に試算させたら総工費は1/3で済んだという記事をどこかで見た覚えがありますが、
外国の業者も入札に加えれば競争の原理で工費は間違い無く下げられるでしょう。日本の建設業の死活問題という意見もありますが
不況が長引く現在他の業種はとっくに外国との激しい競争にさらされていますし、死活問題というには甘いと思います。
ただし、日本で多かれ少なかれ建設業に関係する人(道具を作ったり作業服を作ったりする人など全てを含めて)は
日本の労働人口の約四割に達します。この辺が公共事業を景気対策とする根拠であり、
まったく無視することはできないんですけどね。
でも、日本の建設業界の実力はその程度で駄目になるようなものではないと思っていますよ私は。
また、ガードレールなど特定企業がほぼ独占している道路整備に必要なものを海外で作らせることも必須。
白いガードレールの価格は一メートルあたり約2万円ですが、中国あたりなら2割程度も出せば作れるでしょう。

また、経済効率を考えるなら制限速度の引き上げは行うべきでしょう。
高速道路改革が始まった頃某大臣が「東名に平行して走る140キロで走れる道路など、要らないでしょう」と発言していましたが、
「どう考えても要るじゃないか?」と私は首をひねってしまいました。
今の東名の混雑と物流のスピードアップを考えたらこれは文句無しに作るべきでしょう。
まあ元々、日本は直線も曲線も同じ速度で走らせようとしてますし
自動車の性能基準を東京オリンピックの頃の性能基準で考えていますからどうやっても現実から遊離します。
(二輪は100キロになりましたが、全体としてはまだまだ不足)
300キロで走れる車両を量産している国がその車輛が120キロで走っていると危険だと検挙する構造は
どう考えても理解に苦しむのですが、現行の道行法が現状に即していないため、それに従って作成されている
運転免許の教育制度もやっぱり現実に即しておらず、「こいつは危険だ!」と思えるような運転(別に飛ばしているとは限らず)を
する人が街中に多いのも事実です。今だったら130キロくらいまでは制限速度を引き上げても大丈夫だと個人的には思いますが、
免許制度の改革もワンセットにしないと駄目かもしれません。

そして料金制度ですが、これはもう間違い無く無料がベストです。ゲートが要らないからそこに人員を置く必要がなく、
経費もかからず料金所渋滞も起きない。文句無しです。
高速道路を無料化すると一般車が入り込んで来て流れが遅くなると心配する声もありますが、
その分一般道の流れは速くなるわけですし、遅くなったらなったで新たに道路を建設するなり(第二東名が必要だという理由の一つ)
対処策もとれるでしょう。何より、それが一番全体の利益になります。
ただし高速道路に限らず道路整備には財源が必要ですから、どこかで使用者がお金を払わないといけません。
となると考えられるのが、自動車税、重量税、揮発油税などを値上げしての財源確保です。
「高速道路は使わない人には関係ないんだから利用者だけが払えばいいじゃないか」という意見も根強くあるんですが、
実際には日本の物流システムの主役は完全に高速道路を走るトラックです(最近は経費削減のため一般道を走る事も増えましたが)。
現実問題として、高速道路の恩恵を受けていない日本人などまず居ないんですよ。
国道や県道とは管轄が違うからこれまで特別扱いされてきただけで、高速道路といえど本来はただの道路。
財源も他の道路と同じにして何故いけない?と私は思います。
ですから今出ている民間の会社が運営して永続的に料金を徴収したいという改革案は
「ちょっとわかってないんじゃないのか?」と私などは思ってしまうわけですね。

更にもう一つケチをつけておくと、「これ以上の国民負担を避けるために」借入金を長期にわたって返済していくと述べてますが、
この借入金、今時年利3.5%という高率で借り続けてます。で、それを支払うのは当然利用者である国民です。
そんなものを長期にわたって払い続けるよりは、一時的に自動車税を倍にしてその分を全額返済に注ぎこむとか荒療治をやって、
その後は完全無料にした方が結局は国民の負担は減らせるんですけどね。誰も言わない(ーー;)

なお、政府が道路公団の改革に手をつけた事それ自体に対しては私は高く評価しています。
問題は、その改革がどこまで国民にとって利益をもたらすものになるかなんですけどね。
某新聞社の調査では国民の約8割が新規建設前面凍結には反対だとの結果も出ていますし、
どれ程そこのところを分かっているかが問題ではあるのですが。

P.S:日本道路公団のホームページはこちらですが、左の方にある情報公開やJHの財務情報など、よく読んでみるととても勉強になります。

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