首都高二人乗り問題

1965年に禁止されて以来40年の長きに亘って日本の道路行政の汚点の一つとして輝き続けていた高速道路二人乗り禁止問題。
紆余曲折の末ようやく今年になって解禁されるわけですが、
東名 中央道 東北道 常磐道 京葉道 東関東道 館山道 外環道 東京湾アクアライン 
保土ヶ谷バイパス 第三京浜 横浜新道 横横道と直接接続し、関越道、上信越道などとも間接的に接続している
日本の高速道路網における最重要ポイント・首都高速道路だけはその主要区間のほとんどを占める
全体の35%が二人乗り禁止を継続するという非常に本末転倒な結果に終わりました。
高速道路二人乗りがそもそも是か非かということに紙幅を費やす余裕はないので「絶対に是である!」とだけ断言して本筋に。

首都高の二人乗り禁止の発端は参議院において自民党の某代議士が
「しかし、現在自動二輪車が禁止されている高速道路や自動車専用道路の中には、構造上、車線ですとか
路肩が狭かったりカーブが多くあって、そうしたことで適していないところもあるんじゃないかなというふうに思うわけでございます。
特に首都高なんかそうだろうと思います」
と発言したことのようですが(この発言があったから禁止されたと出張しているのではありません)、
端的に考えてこの発言で不思議なのは以下の点。

●車線が狭いと危険なのか?
●通常走行してはいけない路肩が狭いということは危険なのか?
●カーブが多い道路は危険なのか?
●それが危険だと言うなら条件は四輪車も同じではないのか??
●それで、それが二輪車の二人乗りとどう結びつくのか???

高速道路を走れる排気量126cc以上の二輪車全般と乗用車から大型トラック、バス、ダンプカー等まで含めた四輪車とを比較した場合
道路の幅、カーブの曲率などで二輪が走れて四輪が走れない道はあっても、その逆はまずない (悪路は除く)というのは
二輪にまともに乗っておられる方なら大体理解してもらえるかと思いますが、それから考えると上のような珍説は
「二輪は四輪より運動性の劣る乗り物であって、事故が起こったときには路肩に緊急避難しなくてはならない。また、
二人乗りをするとカーブを曲がれなくなったり車線の幅のなかでレーンキープすることも困難になるほど運動性が低下する」
という意識が脳内で確立していないと根本的に出てこないと思います。

間接民主政治で代表に選ばれた人が二輪に乗らずして二輪の安全性を語り、その内容がマスメディアを通して
あたかも事実に即した内容であるかのように広められるということに大きな疑念も感じてしまいますが、
(調べたところバイクに乗っているという情報がなかったので決め付けて書かせていただきました。間違いであれば訂正します)
政治の世界でこの程度の論理がまかり通り、業界団体もそれに反対し覆せるほどの影響力を持ち得なかったということは
今日に至るまで二輪の社会的地位が低いままであった結果として、二輪についてのまともな知識と認識が
国民の間に醸成されてこなかったのだということになるのでしょう。二輪に関しては暴走族と事故の話題ばかりで
質の低い報道を連発していたマスメディアも大いに批判されてしかるべきだと思いますが。

で、昨年12月10日の東京都公安委員会の決定に至るわけです。
警視庁の発表した規制区間はこちらですが、高速道路網の基幹部としての機能をものの見事に停止させる最悪なもの。
当然、この件に関する限り無能と断定して差し支えない公安委員会の方々と警察の思惑通りに
この区間は高速道路の二人乗り事故は発生しようがなくなり、
彼らは首都高の安全は守られたと喜ぶことでしょうが無論問題はそんな低次元の話ではなく、
首都高速という日本の高速道路網における最重要路線で規制が設けられたことでさまざまな問題が発生することにこそあります。

まず最大の問題は、この規制によって首都高より危険な一般道をかなりの距離にわたって走行しなくてはならないこと。
高速道路と一般道の安全性の違いはこの辺が判りやすいですが
カーブがきついから首都高が危険であるというのであれば四輪にとっても条件はまったく同じであって、
東京都公安委員会と警視庁の方々の二輪に対する認識は上で挙げた代議士氏の脳内認識と同程度だということです。
首都高の事故発生率のデータと二輪/四輪別の事故発生率、二輪対四輪の事故の場合に第1当事者はどちらかという比率が
無償公開されていないのがこの文章を書いている上で実に歯痒いのですが、
(交通安全白書平成15年度版によると道路全体では原付を除く自動二輪車での死者725人に対して自動二輪が第1当事者となった
 事故は442件。タンデム事故の比率が不明ですが、四輪にぶつけられて死ぬ場合もかなりの率にのぼることが判ります)
首都高の利用車輌中自動二輪車の比率は0.5%でしかない現在において
「首都高速はオートバイ事故が多く、2人乗りの全面解禁は危険」とした東京都公安委員会は
何を根拠に勝手なことを言っているのか、ということですね。
ちなみにこの時に警視庁が公表したとしてマスコミに載った記事にはこんなのがあります。
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一九九四年から昨年までの十年間に首都高速で発生した二輪車の人身事故百九件のうち規制が実施される範囲内で
約六割の六十五件が起きていたことも重視。「カーブがきつい地点などで事故発生が予想される」と判断し(以下略)

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警視庁交通部によると、都内の首都高速では自動二輪が第1当事者となる人身事故で死亡率が高い。
03年までの5年間では、人身事故全体の約30%で死者が出た。全国の高速道路では約8%で4倍近い。

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ハテ・・・・????

少ないデータからやや乱暴に類推すると、仮に事故率や死亡率が毎年同じだと仮定したら首都高では
一年間に11件の事故が発生している計算。うち規制区間の総延長61.6キロの中だと年間6.5件。
そのうち30%が死亡するとして、東京都公安委員会と警視庁が「危険なので二人乗り走行を禁止する」と宣言したエリアでの
年間死亡事故は・・・1.95人。

少ないです。
ちなみに東京都の平成16年度の交通事故による死亡者数は303人です。
平成15年のデータでは交通事故による全国の死亡者7702人のうち自動二輪車(原付は除く)の占める割合は9.4%ですから
東京都に限れば二輪の推定死亡者数は年間30人弱の計算。
あくまで警視庁がコメントしたとマスメディアが報じたデータから私が類推したものなので正確なデータだとはとても言えませんが、
言いたいことはだいたい伝わるかと。

また路肩がないため事故に巻き込まれたときに逃げ場がないから危険というのは、

●そもそも路肩はそういうことを想定して作られてはいない
●二輪は事故に巻き込まれた時点でほぼおしまいで、路肩は関係ない
(フルブレーキでも衝突するような事態の中、路肩に寄せて難を逃れるのは神技に近い超高等技術)
●では首都高で事故に巻き込まれた四輪車の乗員は外に出ても危険ではないのか?

と、私が1分ほど考えただけでもこのくらいの反論がでてきます。つまり理由としては問題外で、お話にもなりません。

そして恐らくもっと問題になるのが、首都高の手前で降りて複雑かつ難解で馬鹿馬鹿しく渋滞している東京の道路で
右往左往する地方出身のライダーが増加すること。
東京の道路を走り慣れた方なら地方ナンバーの四輪車に注意するのはいつものことだと思いますが、
(私は東京在住時にはタクシーと地方ナンバー車には細心の注意を払って運転してました)
カーナビがこれだけメジャーになった現在でもまだこの状態なのですから
東京の土地勘を知らない方がカーナビとはまだまだ縁遠い二輪車で道を探しながら走ることの危険性は
(どうしても注意力が散漫になり、慣れた道より危険度が増します)
充分に想像できるかと思います。

まあ正直なところ、私も首都高の環状線周辺は危険な欠陥道路だと思います。
それでも大抵の人は制限速度を守れば最低限事故を起こさない程度に安全な走行ができるわけで、
(常日頃速度制限は低すぎると主張している私ですが、必要なところで減速せずスピードオーバーで
 カーブを曲がりきれずに事故を起こすような人は制限速度の遵守に関係なく最初から問題外です)
その状態でも安全性において東京の一般道よりは遥かにましです
その現実が存在する中で、首都高速の利用者一日112万人のうち僅か0.5%に過ぎないバイクの二人乗りを禁止するというのは
無意味であるばかりかライダーの危険と時間的、経済的な負担を無駄に増大させる行為であると断じざるを得ないわけで
そのことにまったく気づいていないか、意図的に無視している東京都公安委員会もまた無能であると言わざるを得ないわけです。
今回の決定によって死亡事故が発生するたびに、東京都公安委員会の方々には遺族のところに出向いていって
地面に頭がめり込むくらいに土下座して謝る義務があるのではないかと個人的には思っていますが、
残念ながら現実にそんなことは起こりそうにもないので我々ライダーの取り得る現実的な対応策は
関係各方面に規制撤廃を呼びかけることと次回の公安委員の人選について任命権をもつ方々に正当な方法で主張することでしょうか。
(ちなみに、東京都公安委員は都議会の同意を得て都知事が任命しています)
本来は専門知識をもったライダーの代表が国会で発言するなり(議員の中にも会があるようですが、印象としてまだまだ弱い)
影響力を発揮できるだけの団体があればいいんですが、その点我が国はまだまだ未熟。
その辺も今回の愚行を許してしまった原因のひとつかも知れません。

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