マフラーについて思うこと

4−2−1集合手曲げチタンフルエキゾースト、いい響きです。
ある層のライダーにはマフラーというパーツはある種特別な意味があるようにも思えますが、
多少なりとも社外品マフラーの交換経験がある者としてマフラーについてちょっと考えてみましょうか。

リヤサスペンションと並んでアフターマーケットパーツの花形であるマフラーですが、
何故替えるのかという問いについて明白な答えを出すことは困難かもしれません。
パワーアップという点では純正マフラーの研究開発が非常に進歩している現在、
社外品マフラーが全域において純正品に大幅なアドバンテージを持つことは困難です
(多少音を大きくしてエネルギー損失をパワーに振り向けることと、ストレート構造にして
 その分高回転域を効率よくすることは可能ですが)
ごく稀にそうでないマフラーもありますが、これは本当に僅かです。
そもそもパワー感をより味わいたいだけなら、その分の費用を上乗せして
最初からもっとハイパワーなバイクを買った方が投資効果が高いでしょう。

軽量化という点では確かにメリットがあるものの、大抵はサスを調整してやれば似たような効果が得られますし、
軽量に仕上げるため薄くした素材はその分強度も低下し(素材としてのチタンの強度は鉄とほぼ同程度)、
ストレート構造のサイレンサーともども耐久性は大抵の場合純正に劣ります。
純正マフラーが手間がかかり高回転域でのパワーを稼ぐのに不利を承知で
多段膨張型サイレンサーを採用しているのは伊達ではないですからね。
また、大抵の場合社外品マフラーは製造原価から考えても非常に高価ですし(特に四輪用と比べると一目瞭然)、
タイヤやオイルフィルターを交換するのにいちいちマフラーを外さないといけないものがあるなど、
ものにもよりますが整備性が悪化することも多々あります。
やはり、メーカー純正品はその辺のことはよく考えて作ってありますからね。
生産コストを低く押さえつつ十分な耐久性を確保し厳しい騒音規制を余裕をもって対応する静粛性と
下から上まで十分なパワーを発揮する。今の技術の大本を支えるのは天才の頭脳よりも資本力とマンパワーですが、
純正マフラーは正しくそれを生かした結果になってます。
そこに15万なり20万なりかけて得られる多少のパワーアップや運動性や排気音質の向上が、
客観的に見て果たして投資に見合うかと考えるとそれはかなりの疑問でしょう。

レースをするのでない限り、高価なパーツを組んで車両の軽量化を図るよりは同じ分だけ
自分の軽量化を図った方がよほど有益だというのは私の持論ですが、
正直言って私もマフラー買うお金があったらそのお金を別のことに回したら
随分生活は豊かになるんじゃないかと思います。

なお、素材に関して言うなら個人的にはカーボンやチタンはほとんど必要ないと思っています。
使えば確かに軽量に仕上がりますが、それよりも価格が大幅に上がってしまうのが問題。
特にカーボンは樹脂を使う関係上、耐久性や耐候性でどうしても金属に劣りますしね。
私は手曲げのアールの付き方と精度を出す職人の技術よりも同等以上の性能と精度を安価に量産できる
機械曲げの方を完成品としては尊ぶタイプですから、
外観と重量以外にほとんどメリットのない高価な素材ばかりがアフターマーケットで全盛になってしまった現在、
(コストパフォーマンスを考えたら果たしてここまで走る宇宙開発事業団にする必要があるのだろうか?)と
かなりの疑問と敷居の高さを感じてしまうわけです。
まあ結局、その辺は「所有欲を満たせるかどうか」という、商品性の根本のひとつにかかわってくる部分が大きいのでしょうが。
見た目にも効く大物パーツですから、視覚的な影響も大きいですしね。

ただ、大抵の人にとってバイクは趣味のものですからね。
基本的にサーキットのラップタイムを1/100秒縮めるためではなく公道を楽しむために走っているわけですから、
交換することで前よりも楽しく走れるのならそれは充分な選択理由になるでしょう。
楽しむための方法論は理屈や銭勘定だけで割り切れるものではないですしね。
ですから、それこそ下がスカスカで上だけ狂ったように吹け上がるマフラーでも購入した当人が
「このパワーが立ち上がる感じがいい」と思えれば本人それでいいわけですし、たとえパワーが全然出ていなくても
「この音さえ出ていれば俺は躊躇なくライディングハイな領域に踏み込める」などというのもありでしょう。
要するに、楽しんだもの勝ち。
ですから4000回転でのトルクが0,5キロ増したとか車重が4キロ軽くなって運動性が増したとか、
スロットル全開の時の音や集合部の溶接ビードの仕上げぶりに痺れるとか、
チタンの焼き色や手曲げパイプのアールに美を感じるとかマフラーを磨くのが楽しくて堪らないとか、
モーターサイクルエンスージァストなどといった言葉とは生涯無縁であろう
世間一般の方々の常識からしたらほとんど紙一重に思われそうなことでも、
当人がそういったことで得られる満足感に投資額に見合うだけの価値を見いだすことができれば全然オッケーです。

もっとも、騒音規制も排ガス規制も今後緩和されることは恐らくないでしょうから、
今後アフターマーケットのマフラーをとりまく環境はますます厳しくなっていくはずです。
特にフルエキゾーストは触媒付きでないと話にならないという時代が間違いなく来るでしょうから
今のような百花繚乱時代もそう長くは続かないかもしれませんが、
メーカーさんにはアフターマーケットパーツの雄ともいうべきこのパーツを末永く存続させるべく、
是非とも頑張っていただきたいところです。

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