道交法

年間900万人の検挙者を出している日本で一番守られていない法律、道交法。
今回はそれについてちょっと考えてみます。
道交法の目的はその第一条において

この法律は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、及び道路の交通に起因する障害の防止に資することを目的とする。

と明言されています。法律の存在意義として完璧に正しい説明です。
危険防止と交通安全に関しても言いたい事が山ほどありますが、長くなりすぎるので今回は割愛です。
さて、交通の円滑を図るということは、普通に考えると安全が確保されている範囲内において車を極力高速度で通行させるよう考えるという意味にとれます。
安全を確保する方法は運転者の技術向上、自動車/バイクの性能向上、道路行政の改善などいろいろ考えられますが、現実的なところとして自動車/バイクの性能が上がってより高いスピードでも同等の安全性と社会性が確保できるようになれば、現状に即して法定制限速度を引き上げてやることは道交法の精神に則ったものだと言えるでしょう。
我田引水と言うなかれ。平均速度を上げられれば全体として交通の流れは円滑になるのです。
ここで問題になるのが、肝心の道路規格に応じた速度制限の基準が、小型自動車と普通自動車において基本的に一度も改正されていないことです。
そしてその道交法が制定されたのは、驚くなかれ昭和二十二年です(施行は二十三年から)。原文は以下の通りです。

 道路交通取締令一八条
   定員八人以下の乗用車は昼間六〇キロメートル、夜間五〇キロメートル
   その他の自動車は昼間五〇キロメートル、夜間四五キロメートル
   それ以外の諸車についてそれ以下の低速度

この当時の車はそもそも60キロをまともに出すことができず、また舗装状況も劣悪でしたから、この数字は将来の機能向上を見越してのものだと考えられます。ですからここで言います。道交法に携わった人、その後の機能向上の認識度と円滑の図り方が足りないです。

私は日本高速道路準備会が昭和28年に作成した東海道高速道路の交通量並びに道路使用料収入予想という資料を個人的に所有しているんですが、この中でも速度は交通量の獲得上基本的要素であるとし、乗用車の想定走破速度を最高120キロ、最低50キロの平均80キロとしています。
また、注釈をつけて「高速道路上の速度は日本の車両の現状から見ると幾分高めの感があるが、機能は年々向上してゐる」と説明しています。
要するに、将来の技術の進歩を見越して速度には余裕を持たせておくこと、高速道路の速度は高くないとわざわざ乗り入れてもらえないと言っているんです。うんうん、よくわかっていらっしゃいます(^o^)
そして現在、渋滞していない道路が大体制限速度を上回るスピードで流れている現実が示す通り、法の上限を超える速度で安全性を確保しながら走ることが楽々可能になりました。
であれば、上に述べたような理由から法は改善すべきです。守れない法は国民の利益となりませんし、生活権の侵害でもあるからです。
個人的にはゆっくり走りたい人の意思を否定はしませんが(後ろに艦隊を編成して交通の円滑な流れを阻害する場合はその限りではありませんが)、
同様に速く走り続ける意思と技量を持つ人の自由も(基本的に)否定してほしくありません。
混合交通において相対速度の差が危険発生の原因となるのは事実でしょうが、電車ですら存在する速度差を自動車/バイクでなくすのはまず無理。追い越す側の人がオーバーペースを自己責任でできるようになればいいんですが、日本の法律は基本的に自己責任を認めません(自由主義社会として、未だ未成熟なのでしょう)から厄介なところです。やっぱり改正するしか。
少なくとも遵守していたら現実の道路をまともに走ることができず、現実に年間900万人の国民が検挙されている法律というのはどう考えても異常ですよ。日本は国民総犯罪者国家じゃないんですから。

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<追記>
ここからは暇な人のみどうぞ。

さて私、半年ほど前に道交法改正案が警察によって提案されたとき(三権分立の原則はどこいった?)、一念発起して長ったらしい文章を作成して警察庁や各政党にメールで送りつけました。以下に原文をほぼそのまま掲載します。
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突然このような長文のメールを差し上げる失礼をお許しください。

当方は岐阜県在住の免許取得者です。
先日警察庁より発表された道路交通法改正試案に対して、賛同できる部分と共に非常に納得しかねる部分がありました。
これに対して国会で論議していただきたく、長文ではありますが自分なりの意見を述べさせていただきます。

まず、運転免許証の更新を受ける者の負担の軽減、運転者対策の推進に関しては概ね問題無いと認識しています。

悪質、危険運転者対策等の強化については異存ありません。

ここでは酒酔い運転を例に挙げて論じますが、血中アルコール濃度が上昇してもほとんど運転に支障を来さない体質の人もいます。
しかし全体として危険な行為である事に疑念の余地はなく、抑制のために厳罰化をもって望む事に反対はしません。
ただし、日本の社会は宴会等の付き合いが必須に近く、仕事の付き合い上(生活がかかっているため)勧められると断り辛いという雰囲気は現実に存在します。
厳罰化のみならず、社会環境に対しても一石を投じ、飲酒運転を強要しかねない社会的風習に対しても抑制力となるような規定が設けてられると「やむなく飲まざるを得ない」立場の人にとっては単に罰せられるよりも有り難いことだと考えます。違反者を検挙して罰を与えることよりも、違反行為がそもそも起きないよう未然に抑制することの方がより大事ですから。

無免許運転、轢き逃げなどに関しても大意は同じです。

さて、改正案について反論したいのが今回悪質な違反とは認識されなかった一般的な交通違反に対する罰則規定の強化についてです。
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一般的な(略)道路交通法違反の罰金の上限を見直すことを検討しています。
 罰金を引き上げる場合は、重かるべきものは重くとの観点を旨として、現行のおおむね2倍以内にすることを検討しています。
例えば、駐車違反は、(以下略)
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この、一般的な道交法違反の罰金も凡そ二倍に引き上げると謳っているところが最大の問題だと考えます。

警察庁のHPにアップされていた試案には道交法違反の取締まり件数も約900万件と極めて高水準で推移しており、交通違反の発生が常態化し、交通事故発生件数を押し上げる大きな要因となっている(一部文意を損なわない範囲で書き換えました)とありましたが、年間900万件という膨大な違反者数が、実際には氷山の一角でしかないのは実際に自分で道路を運転されている方ならすぐにわかることだと思います。

では、900万人の違反者が、みな自分のしていることが危険行為と認識し、悪意をもち違反をしているのでしょうか?
殆どの人は悪意があるから違反をするのではなく、道交法を守っていると実際の走行においてかえって危険或いは迷惑と考えているからこそやむを得ず検挙される危険性を承知で、法律に違反した”安全な”運転をしているのではないですか?

自動車は、法律や紙とペンの上を走っているのではありません。
道路において最優先されるべきが危険を避ける事である以上、危険回避のために有効ならば法律に違反してもより安全な走行をするというのは大多数の国民の考えであると思います。しかし、それを実行していると警察に検挙されてしまうのが現在の道交法であります。

極めて善良であると信じたい日本国民が、年間900万件も検挙されるような法律はそもそも現実に即していないのではないでしょうか?

まず速度規定について論じますが、現在の速度規定は1960年代の自動車の性能を基準としてでき上がっています。
(注・これ、上に挙げた通り事実誤認でした)
当時の技術力ではこれが精一杯の水準であり、速度規定はその範囲において極めて適したものであったと考えますが、
現代の自動車が当時とは加速力、減速力、旋回性能限界、衝突安全性などいずれをとっても当時とは比較にならないほど向上しているのは周知の事実であります。

事実、近年の交通事故死者数は9000人程で推移しており(これが少ないというつもりはありませんが)
年間死亡者数が4000人代であった頃と比べると五倍以上の自動車保有台数に格段に増大した交通事故発生件数を考慮すれば状況は寧ろ好転しているという見方もできると考えます。
(救急車の現場到着までの時間が延びている現在、医学の向上と共に自動車の衝突回避性能および衝突安全性能の向上の証拠でもあります)

統計的に言うと、速度違反を主たる原因とする事故は全体の2%ほどに過ぎません。死亡事故に限って言えば17%に上昇しますが、速度違反を原因とするような死亡事故は違反性の極めて高い大幅な速度超過によるもの(これは検挙されて当然です)であることが多く、速度超過の検挙の大多数を占めている軽微な速度超過まで一緒にして一律危険であるとする警察庁の考え方には無理があります。

実際の主たる事故原因において圧倒的に多いのは速度超過ではなく脇見運転+漫然運転であり、
(統計では別に集計されていますが、注意力散漫という点で同じことだと考えます)
死亡事故においても25%と第一位を占めています。
今回の改正案ではこのことについて全く触れられてはいませんが、これに対応する事こそ道交法改正の急務ではないでしょうか。
(具体的には自動車学校で教える授業カリキュラムに現実の運転で通用するマナーやモラルを盛り込む、自動車という物の極限的な運動的特性をサーキットなど安全に実行可能な場所で実体験させるなどいろいろと考えられます。また、携帯電話の禁止令に対してはそれに対する対策の一環として評価しております)

また、駐車違反に関しても同様のことが言えます。自動車はもともと、目的地に到着してそこで止まるために走っています。
走り出したら必ず止まらなければなりません。
しかし、現実に駐車場は慢性的に不足しています。
したがって、多くの運転者はやむなく違法駐車を行うことになります。
これは本来都市計画の策定において駐車場に対する配慮が不足していた行政の責任でもありますが、運転者としては現実にやむなく違法駐車をしないと(好きでやる人はいません)やっていられないという事情があり、違法駐車が迷惑であり対応の必要がある現実は認めますが単に罰則を強化してもそれはいたちごっこにしかならず、違法駐車に対する抜本的対策とはなり得ないと考えます。

行政に対する提言が必要ではないでしょうか。

また、今回の改正案によって駐車違反の罰金は倍額となれば24000円になるわけですが、パーキングメーターはどうでしょうか。
日本で恐らく唯一の”金銭を前払いする事によって犯罪を免除してもらう”という免罪符的性質(これが法の精神に照らして適当かどうかは今回さておき)をもつ機械であるパーキングメーターは、通常100円を払う事によって駐車違反を免除されます。払わなければ検挙され、罰金が待っています。
この僅か100円で見逃してもらえる程度の軽微な”犯罪”に対しての罰金としてその240倍もの高額の罰金を課すというのは明らかに理不尽だと考えます。
違法駐車の罰金を上げると警察庁が主張するのであれば、国会においてその正当性を追及していただきたいと思います。

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最近の交通情勢にかんがみ、運転免許証の更新を受ける者の負担軽減、運転者対策の推進その他交通の安全と円滑を図るために、道路交通法を改正することを検討しております。
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と警察庁のHPにも記載されていましたが、交通の円滑を図るためには現実的に可能な範囲のできるだけ速い速度で交通を流してやる必要があります。
(速度の上昇が必ずしも危険性の増大と直結しないのは、高速道路が最も事故率の低い道路であるという統計的事実でも明らかです)

道交法の目的が交通の安全と円滑に資するものである以上、やるべきことは罰則の強化ではなく、現実の道路で普通かつ安全に走っていても(先に述べた通り、現代の車両は法定速度を多少超えた程度の速度では充分に安全に走れる性能があります)違法行為となり合法的に検挙されてしまうという現在の道交法を現在の交通の実情に適したものに改めることではないでしょうか。
それを考えず、警察庁の改正案の通り現状の法規が全て正しいという前提に立ち、それを守らせるためにやみくもに罰則を強化しても国民は(今でさえ守れていないのですから)法律を守ることができず、警察への反感をつのらせ、順法精神の欠如を招くだけではないでしょうか。

以上、意見いたします。乱筆乱文失礼致しました。

岐阜県岐阜市以下内緒

大谷 円秋 E-mail:enshu@mb.neweb.ne.jp
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今にして思うと暇だったのか、やる気充分だったのか・・・。
結局のところ反応があったのは民主党、公明党、共産党、無所属の会で、自民党と保守党は反応無し、党のHPにメール送信機能がなく議員個人に送った自由党と社民党からも反応はありませんでした。でも、返事があったところは概ね丁寧でしたね。以下に一つ転載します。
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大谷 円秋  様

メールでのご提言、大変にありがとうございました。

いただきましたメールは、誠に勝手ながら、貴重なご意見として
党国土交通部会関係の議員に転送させていただきます。
ご了承ください。
これからの議論の参考にさせていただきます。

今後とも、ご意見、ご要望などをよろしくお願いいたします。

       ☆★ 公明党情報通信委員会 ★☆
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イレギュラーな方法のようにも思えますが、はっきり言って一人一票の選挙権を行使するよりよっぽど有効だったように感じるのは気のせいでしょうか?本来こういうことは政治家の手腕に期待するのが筋だとは思うんですけどね。

また、道交法の問題点の説明に関しては、由利弁護士の部屋というサイトが一読に値します。
リンク張らせてもらってないので検索して行ってみてくださいm(_ _)m